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課外授業はダージリンの香り

作者: 沙月Q
掲載日:2025/04/08

「また赤点とったのかよ……」


 隣の席でリンが顔をしかめた。

 彼女の名前はリン・カンバータ。

 黒髪に褐色の肌。

 額には赤い星のようなビンディ。

 メガネの奥で光る瞳は少し青みがかっている。

 うちの高校では数学の成績No.1の秀才だ。

 そして俺は剣道部の部活にかまけて、数学では赤点以外取ったことのない凡才だ……


「うるせーな、ダージリンはよ……」

「ダージリンて呼ぶな!」

 小さな拳がコツンと俺の頭を叩く。

 日系インド人のリンは、出身地と本名を掛け合わせたあだ名で呼ばれている。

 頭をかく手から落ちた俺の中間テストの答案を、リンはひったくった。

「だいたい、なんだよこれ。二項定理とか全然わかってないんじゃね?」

「にこ……なんだっけ?それ」

「あーもー、呆れてものも言えない! 今日の放課後から特訓な!」

「特訓!? 数学の? なんでお前に教わんなきゃなんないんだよ!」

「数学の伊野先生に頼まれたんだよ。お前の面倒見てくれってさ」


 かくして俺はリンの課外授業の生徒になった。


 先生が信任するだけあって、リンの教え方は上手だった。

 俺はジリジリとではあったが少しずつ理解を深め、期末テストではなんとか赤点を脱した。

 俺はリンに、素直に謝意を示した。

「恐れ入りました。さすが数学の民、ダージリン。インド人の血を引いてるだけのことはあるな」

「バカ!」

 リンは本気で怒っていた。

「そんなのは俗説だ! インド人だから数学に強いんじゃない! お前は日本人だから剣道やってるのか! あたしだって最初は苦手だったんだ! だから一生懸命勉強したんだよ!」

 見るとリンの瞳には涙がにじんでいた。

 それを見た俺は、彼女の努力がどれだけ苦く大きいものだったか悟った。

「……ごめん」

 

 リンのおかげで俺は補習を受けることなく、剣道の稽古に集中できた。

 一つの疑念を抱きながら。

 

 俺は、リンが数学でしたほどの努力をしているだろうか?


 対抗試合のある夏休みの直前、俺は意外な事実を知った。

 伊野先生はリンに俺の個人授業など頼んでいなかったのだ。

 彼女は自主的に講師を引き受けていた……なぜ……


 俺はファミレスのドリンクバーでダージリンのティーバッグをむきながら考えた。

 こんなものを飲んでわかるはずもないのに……

 しかし、ちょっとでもリンの気持ちに近づけるかもという思いで、俺はダージリンに口をつけた。

 苦いようでさわやかな香りが俺の鼻孔をくすぐる。

 もしかしたら……

 

 モヤモヤした思いを抱えながら、対抗試合に臨んだ俺は、先鋒として初戦に臨んだ。

 竹刀を構えて立ちあがろうとしたその時、俺は正面の観覧席にリンがいることに気づいた。

 こっちを向いて何か叫んでいる。

 俺はモヤモヤを吹っ切って決めた。

 とにかく一本取る!

 そして彼女に聞くのだ。

 なぜ俺に課外授業をしてくれたのか。


 もし、俺の思った通りなら……


 審判の声が響いた。


「はじめ!」



 完

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