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【閑話】ユキナと贈り物

 ハヤトは、朝の静けさの中でうっすらと感じた気配に目を覚ました。

 まだ夢うつつではあるものの、体は軽く、しっかりと睡眠が取れたことを実感する。


 すぐそばの気配に、ハヤトは「いつもの時間か」とぼんやり思った。

 肩にそっと触れられたと思うと、その手が体をゆっくりと揺さぶり始めた。


 ――ゆらりゆらり。


 心地よい揺れがしばらく続き、しだいに揺さぶりが強くなったところで、ハヤトはようやく目を開けた。

 目の前には、ユキナの整った顔立ち。

 いつものきっちりとまとめられた髪と整った身だしなみが、部屋の灯りに映えている。


「おはようございます。ハヤト様」


 ユキナの落ち着いた声が耳に届く。その穏やかな声に、ハヤトは自然と笑みを浮かべた。


「おはよう、ユキナ」


 軽く伸びをしながら挨拶を返すと、今日もいつもの日常が始まるのだと感じた。

 しかし、ふと気づくと、ユキナがじっとこちらを見つめたまま、部屋に残っている。

 いつもはすぐに部屋を出ていくのに、今日は珍しいことだ。

 

「どうしたの?」


 首を傾げるハヤトに、ユキナは淡々とした声で問いかけた。


「エルルに贈り物をしたと聞きました」


 ハヤトは思わず「え?」と声を漏らしたが、すぐに納得する。

 エルルが話したのだろう。あのペンダントのことだ。


「うん」


 エルルが喜んでくれたことを思い出し、ハヤトは少し嬉しくなる。

 だが、ユキナの次の言葉がその気分を引き締めた。


「その前には、メルヴィア様にも贈られたと聞いています」


「あ……ああ、そうだね」


 ユキナの言葉には淡々とした響きがあるが、その口調にはどこか含みがあるように感じた。

 もしかして、少し拗ねている……?


 普段冷静なユキナが感情を見せるのが珍しく、ハヤトは少し慌てた。

 

「贈り物をするのもよろしいですが、モノには順序というものがございます」


 その言葉に、ハヤトは思わず笑ってしまいそうになる。


(これって、もしかして嫉妬してるのか? 普段冷静なユキナが、こんなふうに感情を見せるなんて――かわいいじゃないか)


 だが、彼女の言うことももっともだ。

 ユキナにはこうして毎朝起こしてもらっているし、いろいろと世話になっているのに、それを当然のように思っていた自分を少し反省する。


「ごめん。そうだね」


 ハヤトは少し照れたように、けれど真剣な口調で続けた。


「今度ちゃんと用意するから」


 また遠征に出る日は必ず来るだろう。そのときに、何かいいものを見つけてこようと心に誓う。

 ユキナはその言葉を聞くと、小さくうなずき、淡々とした声で答えた。


「わかっていただけたのなら、それで結構です」


 ユキナは一瞬だけ表情を緩めたように見えたが、すぐにいつもの落ち着いた顔に戻った。

 その姿に、ハヤトは「楽しみにしてるんだな」と心の中で微笑む。


 ハヤトは腕を組みながら考え込んだ。

 何を贈れば喜んでくれるだろうか。


 メルヴィアには銀の髪飾り、エルルには青のペンダントを送った。

 では、ユキナには?

 

 ハヤトはこういうのを考えるのが苦手だった。

 髪飾りは偶然見つけたものだし、ペンダントは狩りの合間にリノに相談して決めたものだった。

 

 いっそ直接聞いてしまえばいいか――そう思い、ユキナに顔を向ける。


「何がいいかな?」


 ユキナは少し首を傾げ、いつもの落ち着いた声で答える。


「何であれ、送り手の気持ちが込められていれば、よろしいかと思います」


 それはその通りだが、具体的に「これが欲しい」と言ってもらえるほうが楽だと思う。

 困ったな、と視線を彷徨わせると、目に入ったのはユキナの艶やかな黒髪だった。


(……やっぱり髪飾りがいいかな)


 ハヤトは自然とそう考えた。彼女の整った髪には、きっと上品な色合いが映えるだろう。

 ハヤトは閃きに満足しながらも、さらに確認することにした。


「少しアドバイスが欲しいな。黒に似合うのは、何色かな?」


 ユキナは肩にかかった髪を指先で触ると、静かに答えた。


「紫や金などは、上品な印象を与えます。ですが、白や銀も清楚な感じでよろしいかと」


「ありがとう。参考にするよ」


 ユキナのアドバイスに感謝しながら、ハヤトは贈り物の具体的なイメージを膨らませていった。

 ユキナの髪に似合う髪飾りを贈ろう――その決意が胸の中で固まっていく。


「それでは、失礼いたします」


 ユキナの声に思考が止められる。


「ああ、うん。またね」


 ユキナは一礼をすると、踵を返して部屋を出ていこうとする。

 ハヤトがその後ろ姿を見送っていると、彼女は入り口で足を止めて振り返った。

 そして、真剣な眼差しでこう言った。


「何度も言うようですが、くれぐれもシア様(・・・)への贈り物をお忘れなきようお願いします」


 頭を深々と下げるユキナに、ハヤトもうなずいた。

 

「ああ、わかってるよ――」


 ん? シア?


 ハヤトは一瞬呆然とし、それからユキナが部屋を出ていったあとでようやく気づく。


「シアのことかーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 部屋の中に、ハヤトの絶叫がこだました。

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