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第54話 昼食休憩

 集合場所に戻ると、すでに兵士たちは食事を始めていた。

 

 その兵士たちを取り囲むように、騎士たちも一定間隔で円状に広がって食事を取っている。

 その中でゴルドーは、大量の弁当を地面に広げ、両手に食べ物を持ったままハヤトたちの帰還を出迎えた。


「あ……もぐもぐ……おかえりなさい」


「……口に物を詰めてしゃべらないようにな」


 ラダンがため息交じりに突っ込む。


「もぐもぐ……はーい」


 ゴルドーの手には蒸した芋と干し肉が握られている。

 どちらも、この地での標準的な携帯食料だ。

 蒸した芋は、野生の群生地が見つかったとかで、最近はベースキャンプの食卓にもよく並んでいる。


「1時間後にまた集合だ」


 ラダンが皆を振り返り、きっぱりと指示を出す。


「アレン、その肉は兵士たちに解体させておけ」


「はい。わかりました」


 アレンは、ハヤトが狩った動物をひとりで背負っていた。

 

 その重さは百キログラム以上にもなると思われるが、アレンは顔色ひとつ変えず、ここまで運んできた。

 前回の遠征でも騎士たちの身体能力の高さを目の当たりにしていたが、改めてその圧倒的な力に驚かされる。



 

 

 

 昼食は、リノがほかの兵士たちと一緒に食べると言って去っていったため、ハヤトはラグラスとふたりでとることになった。

 エルルが用意してくれた弁当を開けると、中には蒸かし芋や干し肉が入っており、さらにさまざまな根菜が彩りを添えていた。


「おや。なんだか私のよりも量が多くないですかね」


 ラグラスが自分の弁当と見比べながら、羨ましそうな表情を浮かべる。


「俺、メイドの子たちとは仲がいいしね」


「そういえば、ハヤト殿はメイドの仕事もしてましたな」


 ラグラスは干し肉をひとつつまみ、口に頬張る。

 そして、実においしそうな顔をして飲み込んだ。


「しかし、いつまでも下働きをすることもないでしょう。そろそろ辞めたらどうです?」


「そうだな……」


 ハヤトの仕事は、朝夕の食堂での給仕の手伝いと、メルヴィアの部屋の掃除だ。

 この世界に呼ばれた当初は何もすることがなかったため、暇つぶしとしてやることがあるのは悪くなかった。

 しかしいまでは、外出する機会も増え、毎晩の銃の訓練もあって忙しくなっている。

 たしかに、そろそろメイドの仕事を辞めてもいい頃合いかもしれない。


 だが――とハヤトは考える。

 

 メルヴィアの仕事を辞めれば、その分、ユキナの仕事量が増えるのではないだろうか。

 あの可憐な少女はいまでも過労気味だ。これ以上負担を増やすようなことはしたくなかった。

 そもそも、メルヴィアが簡単に辞めさせてくれるとも思えない。


 一方で、食堂の手伝いについては、事情を話せばメイド長も了承してくれるかもしれない。

 だが、いまやシア付きの侍女となったエルルとは、給仕後の遅い食事のときぐらいにしか会えなくなっていた。

 休憩室でたまに一緒になることもあるが、確実に会えるのは食事のときだけだ。

 あの、すべてを癒やしてくれる柔らかい笑顔が見られなくなるのは、どうしても避けたかった。


 だから、ハヤトの答えは決まっていた。

 

「俺はいまのままで悪くないと思ってる。ずっとやってきたわけだしさ。それに、辞めたら時間を持て余しそうだし」


「そういうものですか」


 その後、昼食を取りながら午後の予定について話していると、熊に乗ったクレアが弁当を手にやってきた。


「私も、一緒にいい?」


 クレアは熊から降り、弁当を胸に抱えながらハヤトに尋ねる。


「もちろんだよ。ほら、ここに座れよ」

 

 ハヤトが隣の地面をポンポンと叩いて示すと、クレアは銀髪のショートカットを揺らしながら、その場所に腰を下ろした。

 彼女は膝の上のバッグからシルバーのメガネを取り出すと、手早く装着する。

 その姿はまるで、物語の一節を読み解く文学少女のようだった。

 

 クレアは続けて弁当を広げ、肉のほとんどを熊の前に並べると、自分は蒸かし芋をかじり始める。

 無表情で芋をかじるその仕草が妙に小動物のようで、ハヤトは思わずかわいいと感じた。


「……射撃練習の成果はあったみたいだね」


 クレアが食べる手を止めて、話しかけてきた。


「あ、そうか。クレアは鳥の目を通して見てたんだっけ。危険生物を見つけてくれてありがとな」


「うん」


「すごく便利な魔法じゃないか」


「そんなことないよ」


 クレアは謙遜しながらも、どこか嬉しそうだ。


「いや、すごく役立ってるよ。俺の周りだけじゃなく、ほかの連中の周りも見てたんだろ? クレアのおかげでみんな安心して自分の任務に集中できるよ。ラグラスなんか、俺の後ろについてきただけで何もしてないからな」


「なんですと!?」

 

 横でラグラスが不満そうに声を上げたが、ハヤトは気にせず話を続けた。


「クレアは動物が好きなのか?」


「うん」


「そうだよな。動物を操る魔法を使うくらいなんだからな。俺も動物好きだから、そういう魔法を使ってみたいよ」


 ハヤトは、夢中で肉を頬張る熊に目を向ける。

 その姿は愛らしかったが、同時に獣の本能に従ってひたすら食べ続ける様子に、ハヤトは一瞬息を飲んだ。


「あのクマに触っても大丈夫か?」


「うん。大丈夫」


「よし」


 ハヤトは立ち上がると熊に近づいた。


 熊はハヤトを気にする様子もなく、食事を続けている。

 ハヤトが熊の頭に手を伸ばして撫でてやると、熊は気持ちよさそうに目を細めた。

 しばらく撫で回して満足したハヤトは、再びクレアの横に戻って座る。


「やっぱり動物はいいなあ」


「うん。……動物といると心が落ち着く」


 そう言ったクレアの顔は、普段は見せないような安らぎに満ちていた。

 ミリアたちと一緒のときにも見せない表情だ。

 

 ラグラスによれば、クレアはミリアたちやハヤト以外とはほとんど言葉を交わさないという。

 でも、本当は誰にも心を許していないのかもしれない。




 



 食後、ラグラスが「ちょっと失礼」と席を外した。

 おそらく用を足しに行ったのだろう。

 その隙に、ハヤトは思い切ってクレアに尋ねてみることにした。


「クレアはさ、人間嫌いなのか?」


 クレアはハヤトの顔をじっと見返したが、しばらくして黙ったまま首を横に振った。


「じゃあ、なんで俺やミリアたち以外の人と話をしないんだ? ラグラスが話しかけても無視してるだろ?」


 クレアは視線を落とし、唇を噛んでいた。しかし、やがて静かに口を開く。

 

「私は他人と馴れ合うつもりはないの」


 少し間を置いて、さらに続けた。


「仲良くなった相手が死ねば辛い思いをする。それなら、初めから仲良くならなければいい」


「その割には、俺に話しかけてくるよな」


 もしクレアが最初に話しかけてこなければ、ここまで親しくなることはなかっただろう。

 ハヤトのほうから魔術師たちに話しかけることは考えにくい。


「ハヤトは死なないから。少なくとも私より先には」

 

 クレアはほんの一瞬だけハヤトを見つめるように目を動かしたが、すぐに視線をそらした。

 そして無言のまま短い銀髪を耳にかける。その仕草は、何かを言おうとして飲み込んだようにも見える。


「なんでそう思うんだ? 前の遠征では結構危なかったぞ」


 ハヤトの問いに、クレアは再び黙り込む。

 やがて、ぽつりと呟くように答えた。


「そんな気がするだけ。気にしなくていい」


 そのまま会話は途切れた。

 風が木々の間を抜ける音だけが響き、ハヤトはどう言葉を継げばいいのか迷っていた。

 クレアもまた何かを考えているようで、重い静けさが場を包む。


 ハヤトはクレアの横顔をそっと観察した。

 物憂げに目を伏せるその表情からは、彼女が何を考えているのか、まったく読み取れなかった。


 ハヤトは重い沈黙に耐えきれず、意を決して口を開いた。


「なんていうか、俺たちの状況を考えるとさ、協力し合わないといけないと思うんだ」


 騎士たちは、勇者であるハヤトのことを快く思っていないにもかかわらず、最低限のコミュニケーションを取り、便宜も図ってくれていた。

 それなのに、同じ魔術師同士でさえ会話をしないというのは、何らかの問題をもたらしそうだと思えた。


「大丈夫。必要なときは話すから」


「そうなのか? ラグラスは、ほとんど口を聞いたことがないって言ってたけど」


「それは必要がなかったから。必要なときはちゃんと話してる。今日だって、ラダン隊長と事前に打ち合わせはしてあるから」

 

 ラグラスと話さないのは、単に必要がないからだったようだ。

 そう思うと、なんだかラグラスがかわいそうに思えてきた。


(ラグラス、あんたとは話す必要がないってさ……)


 ハヤトは周囲を見渡し、ラグラスを探してみたが、遠くまで行ったのか姿が見えなかった。

 まだ戻ってくるまで時間がかかりそうだと考え、別の話題を振ることにした。


「クレアはさ、勇者学ってのを研究してるんだって?」


「うん」


 ハヤトの問いかけに、クレアは短くうなずくだけで答えた。


「俺に話しかけるのも、そのせい?」


「……うん」


 少し間を置いてから返事をするクレア。ハヤトはその態度に、やはりそうかと納得した。


「なるほどね。でも、勇者学って何を研究するんだ?」


 興味を示すように身を乗り出すハヤト。

 クレアは一瞬目を伏せて考えるような仕草を見せ、それから言葉を選ぶように答えた。


「勇者の力や、勇者がこの世界に与えた影響など、かな」


 その答えに、ハヤトは首を傾げながら問い返す。


「勇者が世界に与えた影響?」


「歴史上、勇者は何度も召喚され、その驚異的な力を奮った。それによって、本来は滅びるはずだった国が救われたりした」


 クレアの説明を聞きながら、ハヤトはなんとなく壮大な歴史の片鱗を感じ取る。


「勇者が歴史を変えてきたってことか」


 さきほどまでとは異なり、クレアの口調には力がこもりはじめていた。

 彼女の表情も心なしか明るくなったように見える。


「それだけじゃない。勇者がもたらした知識は、私たちの世界を根本的に変えた」


 クレアの声には、どこか誇らしさすら感じられた。

 ハヤトはその言葉に興味を引かれ、身を乗り出す。


「知識?」


「たとえば、度量衡の単位は勇者がもたらしたと言われている」


 意外な話にハヤトは目を丸くする。

 単位について深く考えたことはなかったが、それが勇者と関係しているとは思いもしなかった。


「へー、そうなんだ」


 感心してうなずくハヤトを見て、クレアはさらに説明を続ける。


「ハヤトの世界も同じ単位を使ってる。だから、ハヤトは歴代の勇者と同じ世界から来てるんだと思う」


「なんで俺の世界の単位を知ってるんだ?」


 ハヤトが首を傾げると、クレアは少しだけ得意げな表情を浮かべた。


「以前、ハヤトの身長を聞いたことがあるでしょ。その数値が、私たちの単位でも全く同じだった」


 その言葉に、ハヤトはハッとする。

 たしかに身長を聞かれたとき、単位を特に気にすることなく答えていた。


 この世界では距離の単位がメートルだ。

 最初から馴染みのあるものとして受け入れていたが、魔法による翻訳で「メートル」という言葉が使われただけでは説明がつかない。

 その長さが自分の世界の「メートル」と完全に一致しているのは、よく考えると偶然とは言い難かった。


 歴代の勇者たちがこの世界に与えた影響だとすれば、たしかに興味深い話だった。

 

「なるほど。そういえば、距離の単位だけじゃなくて、温度とか時間の単位も同じだな」


 ハヤトの言葉に、クレアは少し得意げにうなずいた。

 その表情には、研究者としての自信が垣間見える。


「そんなふうに勇者がこの世界に与えた影響を研究するのが勇者学。あと、勇者召喚の魔法についても研究してる。あれは未だ謎が多い術式なの」


「謎が多い?」


 ハヤトが聞き返すと、クレアは指先で自分のメガネを軽く押し上げながら説明を続けた。

 

「作られたのは遥か昔。でも、いまの時代から見ても極めて高度な術式で、その仕組みはまだ解析できていない。術式自体は書物に残されているから使用することはできる。でも、本当はわかってないことだらけなの」


「へえ。わかってなくても使えるものなのか」


 ハヤトは感心しながら呟いた。

 原理のわかっていない魔法でも正しい手続きを踏めば発動させることができるという話は、どこか科学と似ているように感じられた。


 そこでハヤトはふとあることに気づいた。


「正しい手順を踏めば発動させられるのなら、シアの回復魔法もほかの人が使えないのか?」


 回復魔法というのは、それこそ多くの人にとって命を繋ぐ術だ。それがもし再現可能なら、この世界の医療状況は大きく変わるはずだ。


「……わからない。王家の魔法は秘匿されているから、その術式が誰にでもできるものなのか、わかってない」


「秘匿って、シアはみんなの前で使ってるじゃないか」


 シアは堂々と人々の前で魔法を使っていた。しかし、クレアは銀髪を揺らしながら首を振る。


「私たちが見てるのは、発動した結果だけ。どうやって発動させているか、その呪文も知らない」


「ああ。なんか囁くように唱えてるから、何を言っているかわからんな」


「たぶん、口に出してない術式部分もあるはず。だから、見てるだけでは解析できない」


 ハヤトはシアの姿を思い出した。祈るような所作も、魔法の術式の一環だったのかもしれない。


「回復魔法なんてものは、公開してしまったほうがいいような気がするんだがな」


 素直にそう思った。戦場でも、日常生活でも、どれだけの命がその魔法によって救われるか、想像するだけでその価値は計り知れない。


「この世界で、聖王国の王家にしか回復魔法の使い手が現れないのは、たぶん誰にでも使える魔法ではないってことなんだと思う。その一族にしか使えない魔法というのは、ほかにもあるから」


「一族にしか使えない魔法か。血が関係してるのかな。だんだん薄くなってきそうだけど」


「うん。だからシア様は百年以上振りの回復魔法の使い手なの。シア様が使えるようになるまでは、ほかの多くの伝説と同じように、空想上のものだと思われていた」


 百年ぶりの使い手――その言葉の重みを感じながら、ハヤトはシアの力の特異性を改めて思った。


「ふーん。なるほどな。そう簡単にはいかないわけか」


 どうやらシアは伝説級の魔法の使い手ということらしい。

 回復の魔法のほかにも、周辺感知や絶対防壁の魔法などがシア独自のものだという話も聞いたことがある。

 その事実にも、いまなら納得がいった。


 ハヤトは目を閉じて、シアの特異な力についてしばらく考えた。

 自分にそんな力があればどう活用するだろうか――そんなことをぼんやりと思い浮かべる。

 そしてふと、隣にいるクレアの研究対象である「勇者の力」について疑問が湧いてきた。


「そういえばさ、クレア。『勇者の力』も研究してると言ってたけど、それはどんなものなんだ? 俺にもその力があるのかな?」


 ハヤトの問いに、クレアは少しだけ考える素振りを見せてから答えた。


「勇者は、召喚者の望みを叶える力を持っているとされるから、一概にこうだとは言えない」


 彼女は何かを思い巡らせるように、遠くに視線を向ける。

 ひと呼吸を置いて、静かに続けた。


「でも、すべての勇者に共通する力がある。それは、言語の自動変換能力と契約の強制執行能力だとされてる」


「契約の強制執行?」


 言語の自動変換能力はわかる。こうして異世界の住人であるクレアたちと不自由なく会話できているのがその能力だろう。

 だが、契約の強制執行能力というのは何のことだかわからなかった。


「召喚された勇者は、たいてい困難な問題の解決を求められる。でも、その見返りとして報酬を約束したとしても、すべてが終わったあとに約束を反故されるかもしれない」


 クレアはハヤトの方に顔を向ける。その動きに合わせて銀髪がさらりと揺れ、メガネのレンズが一瞬だけ光を反射した。

 

「そうさせないために、勇者には約束した内容を強制する能力があるんじゃないかって推測されてる」


「なるほど……。じゃあ、俺がシアに帰還を約束されてるのは、反故にされることはないってことか」


「たぶんそう。とくに召喚直後の約束だから、強い強制力が働くと思う」


 それはいいことを聞いた。

 メルヴィアが「帰るのを辞退したら助かる」なんて冗談めかして言っていたこともあり、ちょっと心配していたのだ。


「それを聞けて安心したよ。これでゲートを攻略できれば、帰れるな」


「ハヤトは、帰らないと思う」


 クレアはそうポツリとつぶやいた。


「え? 帰らないで欲しいってこと?」


 クレアはしばらく黙ったままだったが、やがて口を開いた。


「そんな気がするだけ」


 クレアの言葉は曖昧だったが、その声音にはどこか確信めいたものを感じた。

 ハヤトは返すべき言葉が見つからず、黙ってしまう。


 やがて、クレアは視線をそらし、メガネを外してバッグにしまった。

 「さて」と小さく呟くと、立ち上がり、くつろいでいる熊に近づいてその頭をなでる。

 熊は気持ちよさそうな表情を見せ、クレアの手の動きに応じて目を細めた。


 クレアと熊の穏やかなやり取りをぼんやり眺めていたハヤトは、ふとラグラスの帰りが遅いことに気づいた。

 周囲を見渡すと、遠くから彼がこちらに向かって歩いてくるのが目に入った。


「遅かったな、ラグラス」


 戻ってきたラグラスに声をかける。


「ハハ。ちょっとお腹を壊しましてな」


 そう言いながら、彼はお腹を叩いて笑ってみせた。


 ハヤトはラグラスの言葉を聞きながら、その笑みの裏に何かを感じ取った。

 もしかすると、彼は気を利かせて戻ってくるのを遅らせたのかもしれない。

 あえてふたりきりの時間を作ろうとしたのだとすれば――意外と気遣いができる人なのかもしれない、とハヤトは密かに思った。



 




 昼食休憩が終わり、午後の作業の準備を始める。


「クレア、午後もサポートよろしく頼むよ」


「うん。任せて」


 ハヤトたちはクレアと別れ、リノ、ラダン、アレンと合流し、再び狩りに向かう。


 途中、ゴルドーの前を通りかかると、彼女はまだ食事を続けていた。

 ラダンが何か言いたそうな顔を見せるが、結局何も言わずに横を通り過ぎた。

 

 ゴルドーは芋をかじりながらハヤトに手のひらをヒラヒラと振ってくる。


「そんなに食うと太るぞ」


 通り過ぎざまにボソッと言ったハヤトの言葉に、ゴルドーがピタリと動きを止めた。

 振り返ることなく歩き続けながらも、背中越しに沈黙の気配が漂うのを感じる。


 やがて、背後から「もうお腹いっぱいかな」と聞こえてきた。

 しかし、直後に「でも、もったいないかな」と小さな呟きが続いた。


 その声に、ハヤトは思わず顔をほころばせる。


 ――結局、ゴルドーは全部食べるのだろう、と。

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