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第38話 合流

 ゴルドーと共に数分ほど進むと、通路が坂道になり始めた。


 どうやら上の階層に戻れそうだ。

 そう思うと、目の前を歩く完全装備のゴルドーの姿に、ハヤトは安心感を覚えた。


 さきほど戦った怪物はDランクだったが、騎士であればひとりでもDランクの危険生物と戦えるという話である。

 ハヤトの銃の弾は尽き、ミリアの魔力も底をついたいま、ゴルドーがいなければ次に危険生物に遭遇したら対処する術がないところだった。


 ゴルドーは力強く歩みを進める。

 入り組んだ洞窟を迷いなく右へ左へと進んでいった。


 しかし、しばらく進んだところで突然立ち止まる。


 ハヤトはゴルドーの後ろでしばらく待つが、ゴルドーは一向に先へ進もうとしない。


「どうした?」


 ハヤトが問いかけると、ゴルドーは振り向き、あっさりと答えた。


「……道に迷いました」


「は?」


 予想外の返答に、ハヤトは思わず目を見開く。


「困りましたね」

 

 その割にはずいぶんと落ち着いた声だ。

 ハヤトは背中のミリアに声をかけた。

 

「ミリア、いまどこにいるか、わからないか?」


「え?」


 呼ばれたミリアは驚いた声を上げた。


「ここどこ? いつの間にこんなところに来たの?」


「おいおい、寝てたのかよ?」


 頭に地図が入っていると言っていたミリアだが、どうやら考え事をしていたらしく、道中を覚えていないようだった。

 

 ゴルドーは首をキョロキョロさせ、周囲を確認する。


「わたしが間違っていなければ、ここはポイント6のはずです」


 ゴルドーはそう主張するが、いまいる場所は見たこともない狭い小部屋だ。

 ハヤトは来た道を思い返し、どうも坂道を登りすぎたのではないかと考え始めた。

 感覚的には、いまいるのはポイント6――襲撃に遭いシアたちと分断された階層――よりさらに上の階層のように思える。

 

「ここはポイント6の上の階層だと思う」


「変ですね。空間がねじ曲がったのでしょうか?」


「どうしてそんな発想になるんだよ」


「わたしが間違っていなければ、いまはポイント6にいるはずですから」


「……おまえが間違ってるんだよ。つーか、さっき自分で道に迷ったって言ってただろ」

 

 どうも頭のネジが緩んだ騎士のようだ。

 脳に回るべき栄養がすべて筋肉に行ってしまったのだろうか。


 ハヤトは背中のミリアに尋ねた。


「ミリア、どうすべきだ? 戻るか?」


「ちょっと待って。ここがハヤトの言うとおりポイント6の上の階層だとしたら、場所の見当がつくわ。この先に下りる道があるはず。そこからなら襲撃されたあの部屋にも近いわ」


「さすがだな。よし、進もう」


 ハヤトはゴルドーに、ミリアの示す方角へ進むよう促した。

 ゴルドーはしばらく首を傾げていたが、やがて「わかりました」と言って進みだす。


 数分ほど進むと、ミリアの言うとおりに下り坂が現れた。

 どうやら彼女の見当は正しいようだ。


 坂を降りきった先は、それまでとは違い、人工的な作りになっている部屋だった。

 あの襲撃を受けた部屋に近いように思える。

 

「この部屋から向こうに進めば、最初に通ったルートに合流できるわ。でも、そうするとまた正面からあの部屋に入ることになる。シア様たちが避難した側の部屋につながるルートがあるとしたら、たぶんこっちの道よ」


 そう言ってミリアは部屋から伸びるひとつの通路を指さした。

 その先は、ハヤトの銃にかけられた魔法の光でも届かない暗闇が広がっている。


「未知のルートを通って、何かに出くわしたりしないか? それに、この先が本当にシアたちのいる部屋に通じている保証もないんだろ?」


 ハヤトとしては、安全が確認された通路を通りたいと思っていた。

 いまはゴルドーがいるが、もし複数の危険生物に遭遇したら、ゴルドーひとりで対処できるかどうか不安だったからだ。


「そうはいっても、あの部屋に正面から入って無事に隣の部屋に移動できるかしら?」


「それは……」


 ハヤトの脳裏に、銃撃で次々と倒れていった騎士たちの姿がよみがえる。

 

 あの銃撃の中で隣の部屋へ退避できたのは、単なる幸運だった。

 もし目の前に騎士がいなければ、自分も撃たれていただろう。

 あの部屋がいまどうなっているかはわからないが、もし敵がまだ残っていれば、正面からの突入は自殺行為に等しい。


「そうだな……。裏から行ける可能性があるなら、試してみたほうがいいか」


 


 ゴルドーを先頭に、ハヤトたちは未知の通路へと足を踏み入れた。

 内心びくびくしているハヤトの様子を察したのか、背中のミリアが口を開いた。


「シア様の周辺感知の結果から、この階層にはもう何もいないはずよ」


 シアの魔法で見つかった動体反応は7体。

 そのうち4体を騎士たちが片付け、残り3体はゴルドーたちが下の階層まで追いかけていった。

 だからこの階層には、理屈の上では、何もいないはずだ。

 

 だが、それにもかかわらず、ハヤトたちはあの部屋で奇襲を受けた。

 シアの魔法で見つからない何かが、まだこの先に潜んでいるのではないか――そんな疑念が頭をよぎる。


「あの部屋で銃撃してきたやつは、なんでシアの魔法で見つけられなかったんだ?」


 ハヤトが問いかけると、ミリアは少し考えてから答えた。


「シア様の周辺感知は、動いているものしか捉えられないから、じっとあの部屋で静止していたんじゃないかしら。でも複数回の感知魔法で検知できなかったなんて……」

 

 暗闇に身動きもせず、じっとしていた存在。


 ハヤトには察しがついていた。アンドロイドだ。

 あの部屋の扉を破壊したことが引き金となり、待機状態にあったアンドロイドが動き出したのだろう。


「……この扉、開かない」


 ふと気がつくと、ゴルドーが前方で金属扉の取っ手をガタガタと揺すっていた。


 嫌な予感が走る。

 

 だが、ハヤトが止める間もなく、ゴルドーは腰の剣を抜くと、一気に扉を真っ二つに叩き割った。


「何やってんだ!」


 ハヤトは叫びながら慌てて扉の前から飛び退いた。

 しかし、あまりにも急いだため、バランスを崩して前のめりに転倒し、背中のミリアが短い悲鳴を上げた。

 

「なにをやっているんですか?」


 ゴルドーが怪訝そうに声をかけてきた。

 ハヤトが首を起こして扉の方を見ると、割れた扉の先にはただ通路が続いているだけで、何も襲ってくる気配はなかった。

 ゴルドーはもつれ合って床に転がっているハヤトとミリアを見下ろし、冷めた声を浴びせる。


「こんなときに破廉恥なことをするのはどうかと思います」

 

 ハヤトは慌てて起き上がり、「いまのは転んだだけだ」と釈明するが、ゴルドーは「何もないところでどうやって転ぶんでしょうかね」と疑いの色を崩さない。

 ハヤトはさらに言い返そうとしたが、ゴルドーが先に進んでしまったため、しかたなく後を追う。


 通路を進みながら、ハヤトはため息をついた。

 

 ゴルドーの体格や声の感じから、小憎らしい少年騎士アレンと同じくらいの歳に見える。

 そんな子供が小バカしてくるとは、騎士というのはつくづく腹立たしい連中だ。


 そんなことを考えていると、前方の通路の先に明かりが見えてきた。


「あそこにみなさんいるんでしょうか?」


 ゴルドーが言うと同時に、灯りに向かって駆け出した。

 ハヤトもそのあとを追い、小走りで進んだ。



 


 明かりが灯された部屋に駆け込むと、大勢の騎士たちが何かを囲むように立っていた。

 

 騎士たちの囲みの中には、血を流して床に横たわっている複数の騎士がいた。

 その傍らで、黄金色の髪の女性がひざまずき、騎士の胸に手をあてて祈っているように見える。

 

 その女性は神々しい姿をしていた。

 きれいな金色の髪は、まるでそれ自体がほのかに光を放っているかのように見える。


 ハヤトはその女性の顔を見て驚いた。


「あれは……シアなのか?」


「そうよ」


 ハヤトのつぶやきに背中のミリアが答えた。


「回復魔法を使うときだけ髪の色が変わるの。あの姿、まさに聖女でしょ」


 ハヤトは返す言葉もなく、ただ見とれていた。


 薄暗い部屋の中で、シアは淡く光を放っているように見える。

 その姿は信仰心がないものにも畏敬の念を抱かせるほどで、ハヤトは騎士たちがシアに忠義を尽くす気持ちが少しだけ理解できたような気がした。

 

 しばらくして、横にいたゴルドーが集団に向かって声を上げた。


「ゴルドー、ただいま戻りました!」


 シアを囲んでいた騎士たちが一斉にこちらに顔を向けたが、すぐにシアの方へと視線を戻した。


「…………」


 誰にも返事をもらえず、言葉もなく立ち尽くすゴルドー。


「もう降ろしてくれる?」

 

 ミリアがハヤトに小声で言った。

 ハヤトが適当なスペースに彼女を降ろすと、ミリアはそのままそこに座り込んだ。


「大丈夫そうか?」


「うん……たぶん」


 ミリアは足をさすりながら答えた。

 その返答に安心して顔を上げるハヤトの視線の先で、ようやくひとりの騎士がゴルドーに近づいてくる。


「ご苦労だったな、ゴルドー。シア様は無事だ。少し休んでいいぞ」

 

「はい。……あの、なにがあったのでしょうか?」


 声の感じから、どうやらゴルドーに護衛を命じた騎士のようだった。

 その騎士はひとつ頷くと、状況の説明を始める。

 

 ゴルドーはうんうんと頷いて聞いていたが、銃での奇襲で大勢の騎士が負傷したと聞き、驚きを隠せない様子だった。


「――そして、忌々しいあの『銃』を持った敵がまだ奥の部屋に潜んでいてな。何名かの騎士が隣の部屋に倒れたまま、回収できていないのだ」


「まだ負傷者を救出していないのですか!?」


「ああ……。隣の部屋に入ると奥の部屋から撃ってきてな。何度か突入を試みたが、入口から遠くにいる5名はまだ助け出せてない」


「騎士たるもの、決して仲間を見捨てたりしないのではないでしょうか!」


 ゴルドーは両拳を握りしめ、反論する。だがその騎士は首を横に振った。


「無理に突入すれば、さらに犠牲者が増えるだけだ。――我々もこの部屋に入るために隣の部屋を通ったが、その際に6名がやられた。5名はここに運び込めたが、最後のひとりは取り残されたままだ」

 

 ゴルドーは絶句する。

 もし一緒に行動していたら、自分も倒れているひとりだったかもしれない――そう思ったのかもしれない。


「これ以上負傷者が増えれば、シア様の回復魔法でも命を救いきれない。いまも順番に回復魔法をかけて、なんとか命をつないでいる状態だ」


 騎士は負傷者を治療するシアを横目で見ながら、小さくため息をつく。

 そして、ふいにこちらを振り向いて声をかけてきた。


「参謀殿に勇者殿。部屋の入口付近は危険なので、中央に来るといい」

 

「――わかった」


 言われてみればたしかにその通りだ。

 この階層には動くものはいないらしいが、ほかの階層から移動してくる可能性がある。

 入り口から離れていたほうが安全だろう。


 忠告してくれたこの騎士は、ほかの騎士たちと比べて気が利くようだとハヤトは感心する。


 足元のミリアを見下ろすと、彼女は床に体育座りの姿勢で痛めた足を確認していた。

 

 まだ歩くのは難しそうだ。そこで、ハヤトは彼女を運んでやることに決めた。


 ミリアの背中に手を回し、もう片方の手を彼女の膝の下に差し入れると、一気に持ち上げた。


「え?」


 ミリアが驚いた声を上げる。


「入り口は危ないから、中央にいろってさ」


「じ、自分で歩けるから!」


 ミリアが降りようと手足をばたつかせる。


「運んだほうが早いだろ」


 ハヤトは無視して彼女を抱えたまま、ゴルドーと騎士のいるところまで運んでいった。


「なかなかやるね、勇者殿」


「まあ、これくらいは」


 日々の雑用で鍛えられているだけあって、女性ひとり運ぶぐらいのことはできる。

 いつの間にか静かになったミリアに目を向けると、彼女は顔を両手で覆い隠していた。


「どうした? どこかにぶつけたか?」


 返事がないまま彼女を床に降ろすと、ミリアは膝を抱えて顔を伏せてしまった。


「大丈夫か?」


 ハヤトもミリアの隣に腰掛けてそう声をかけてみたが、やはり返事はなかった。

 顔を伏せているためよくわからないが、ミリアの耳は真っ赤になっていた。


 どうやら運ばれたことが恥ずかしかったらしい。

 この部屋まで背負ってきたのだから、いまさら恥ずかしがることではないと思うのだが。


 ハヤトは周りの騎士たちの様子をうかがったが、誰もこちらを気にしていないようだった。

 ゴルドーも背を向けており、ハヤトたちに関心を持っていないようだ。


「みんな気にしてないし、大丈夫だぞ」


「――――放っておいて!」


 ミリアは顔を伏せたまま短く叫ぶ。

 

 その後、ハヤトが何度か声をかけてみたが、返事はなかった。

 しばらく見守ってみたものの、ミリアが顔を上げる気配はなかった。

 


 

「「――シア様?」」


 ざわつく騎士たちの声にハヤトが顔を向けると、シアが治療の手を止めてこちらに近づいてきていた。

 金色に輝いていた髪は、一歩ごとに色を失っていく。


「シア様、どうされましたか?」


 ゴルドーの隣にいた騎士が声をかけるが、シアはそのまま彼の横を通り過ぎ、ミリアと並んで座り込んでいるハヤトの前まで来る。

 すでに彼女の髪は元の青黒い色に戻っていた。


 シアはハヤトと目線を合わせるように身をかがめる。


「ハヤトさん。隣の部屋でいまだ倒れている騎士たちを救うために、ご協力いただけますか?」


「え、協力……?」


 凄惨な状況と、癒やしの魔法を使い続けた疲労のためか、血の気の引いた顔でそう問うシアに、ハヤトは間の抜けた返事をしてしまった。

 自分が何かの役に立つとは、とても思えなかったのだ。


「いや、でももう弾もないし……」

 

「ナズ」


 シアは後ろを振り返り、部屋の片隅で立っていたナズリーに声をかける。

 ナズリーはハヤトの前まで来ると、何かを目の前に置いた。

 

 目を向けると、それは銃のマガジンだった。


 シアはハヤトの目をまっすぐ見つめ、静かに言う。


「ハヤトさん。扉の向こうの襲撃者を倒してください」

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