第34話 分断
銃撃の爆音と、金属や岩に当たる銃弾の衝撃音が、空間を支配していた。
無数の銃弾が、崩れた扉の向こうの暗闇から飛来し、扉の前にあったものすべてをなぎ倒していく。
断続的な爆音と衝撃音の合間には、怒声や悲鳴が飛び交っていた。
ハヤトは右手でミリアの体を抱えながら、床を這っていた。
床に倒れ込んだ金属鎧を纏った騎士たちが、防壁の役割を果たし、ふたりを銃の射線から守っていた。
――チュン!
少しずつ床を這うハヤトの目の前で、地面が火花を散らした。
どこからか跳弾が着弾したのだ。あと少し進んでいたら被弾していたかもしれない。
しかし、ここでいつまでも伏せているわけにはいかない。
跳弾にあたらないよう祈りながら、隣の部屋へ向かってミリアを抱えたまま這い続ける。
鳴り止まぬ銃撃の中、ようやくハヤトは隣接する部屋にたどり着いた。
そこにはすでに何人かの騎士が避難しており、彼らは続く銃撃に目を奪われ呆然としていた。
ハヤトはミリアから手を離し、床から半身を起こして入口付近の壁に背中を預け、元の部屋の様子をうかがった。
騎士が叩き切った扉から放射状に、多くの騎士たちが血を流して倒れていた。
倒れた仲間を抱え起こそうとしている騎士も、銃撃にさらされていた。
数秒間は銃撃に耐えていたものの、やがて抱えた騎士と共に床に崩れ落ちた。
その騎士は倒れたまま、必死に地面を這おうとしている。
しかし、その力は残されておらず、ただ床の上でもがくにとどまっていた。
そんな光景が部屋のあちこちで繰り広げられていた。
倒れたものを助けようとした騎士たちは、次々と撃たれていった。
同じ部屋に逃げ込んでいた騎士のひとりが、救出のため元の部屋に戻ろうとする。
しかし、別の騎士がそれを止めた。
「無理だ! 行くな!」
「姫殿下は!? シア姫の安否はどうなっている!?」
「大丈夫だ! 我々とは逆方向の部屋に避難するのが見えた!」
ハヤトは確認できていなかったが、どうやらシアも無事のようだ。
しかし、銃撃は依然として止まず、完全に二手に分断された状態だった。
そのとき、ハヤトの背中に壁から振動が伝わってきた。
初めは微かだった振動はしだいに強くなり、やがて立っている騎士たちも気づくほど大きくなった。
「なんだ!? この揺れは!?」
奇妙な浮遊感を覚えた直後、逃げ出してきたばかりの銃撃が続いている部屋が上に動いていった。
――いや、逆だった。
ハヤトたちのいる部屋が下に沈み始めたのだ。
あっという間に部屋は沈み込み、隣の部屋との接続は断たれる。
そこにはただ壁が残るだけだった。
「部屋が沈んだ!? トラップか!」
騎士たちは壁を叩いて悔しがったが、部屋は元に戻る気配はなかった。
騎士のひとりが手に持っていた松明で部屋を照らす。
ハヤトたちがいるのは、3メートル四方の小さな部屋だった。
部屋からは二本の通路が伸びており、その先は暗闇に包まれ、松明の光も届いていない。
「急いで姫殿下に合流せねば……」
騎士の声には焦りが滲んでいた。
ハヤトの隣で床に座り込んでいたミリアが、背中の小さなバッグを下ろし、中をあさって一枚の紙切れを取り出す。
彼女はその紙に顔を近づけたが、光を灯していた杖を失ったいま、暗くて見えないのか、小声で呪文を唱えて天井に光の玉を作り出した。
部屋の中が、まるで電気をつけたかのように明るくなる。
「前回の調査時に作成した地図があるわ。
――さっきまでいたところは未調査の領域だけど、たぶんこの辺りね。
そこから下に降りたなら、いまいる場所はこの辺りかしら。
向こうの方に上へ行くルートがあるはずよ」
ミリアが地図を見ながら言うと、騎士たちはすぐに彼女のところにやってきて地図をひったくった。
「こいつを借りるぞ!」
「あ……」
騎士のひとりが地図に素早く目を通すと、「こっちだ!」と叫び、ほかの騎士を引き連れて通路のひとつに走っていった。
「お、おい! 待てよ! 置いていくな!」
ハヤトは追いかけようとしたが、視界の端でミリアが床に座ったまま動かないのが見えたため、振り返って立ち止まった。
「ミリア、どうした?」
「足を……痛めたみたいなの」
ミリアは右足をさすりながら、申し訳なさそうに言った。
この部屋に逃げ込んだときに痛めたのだろう。
ハヤトがミリアを押し倒したとき、彼女は悲鳴を上げていた。
そのときに負傷したのなら、自分に責任があるかもしれないとハヤトは思った。
「……大丈夫か? 立てるか?」
ハヤトはミリアのそばまで行き、右手を差し出す。
ミリアがその手を握り返すと、ハヤトは彼女を一気に引き起こした。
「…………なんとか、歩ける……と思う」
ミリアは確かめるように歩きだした。
歩くことはできるようだが、その様子から走るのは無理そうだった。
ハヤトは騎士たちが走り去った通路に目をやる。
すでに騎士たちの姿は闇の中に消え去り、遠ざかっていく金属の足音だけが聞こえていた。
「行こう。あまり離されると道がわからなくなるかもしれない」
ふたりは、小さくなりつつある騎士たちの足音を追って歩き始めた。




