第33話 閃光
ポイント6は、さらに30メートルほど潜った場所にあった。
ポイント3よりは少し狭いが、部屋のような空間で、そこに先行していた第二部隊が待機していた。
ポイント6は地上からの深さで言うと地下60メートルほど。
ベースキャンプで言えば5階層ほどの深さに相当する。
このゲートがベースキャンプと同じぐらいの深さを持つとすれば、最深部までの道のりはまだまだ遠い。
しかし、探索はここで横方向に進むことになった。
今回の目的はゲートの攻略ではなく、銃を始めとした戦略物資の収集である。
どうやらこの階層に物資があるようだ。
「この階層には7体の動体反応があります……。こちらの方角、距離80に4体、あちらには距離100に3体。3体のほうはこちらから遠ざかる動きをしています」
シアが周辺感知の魔法による計測結果を告げる。
その報告を受け、ゼノンはすぐに作戦を立てた。
「第一部隊は4体を速やかに排除せよ。第三部隊は3体を追跡し、これを殲滅せよ」
ふたつの部隊、合わせて20名の騎士が本隊を離れていく。
これにより本隊に残された騎士は10名。
そこに、シア、ナズ、ゼノン、ミリア、そしてハヤトを合わせた15名が本隊のすべてである。
本隊の人数が半分以下に減ったことに、ハヤトは少し不安を覚えた。
しばらくして、遠くからかすかに剣戟の音が聞こえてきた。
その音はすぐに静まり、その数分後、10名の騎士が戻ってきた。
「第一部隊、殲滅任務完了しました」
彼らが出発してからまだ10分も経過していない。
騎士たちにとって、ここの危険生物は物の数ではないようだ。
この様子ではもう一方の分隊もすぐに戻ってくるだろうとハヤトは思ったが、しばらく待っても戻ってくる気配はなかった。
ゼノンに頼まれ、シアが再度周辺感知の魔法を使った結果、彼らは逃げた相手を追って、いつの間にか下の階層に向かっていたことがわかった。
「捕捉できぬのなら、戻ってくれば良いものを……」
ゼノンが苦々しく呟いた。
あらかじめ十分な指示を与えていなかったのだが、彼らの責任にしたようだ。
「いずれ戻ってくるでしょう。もうこの階層に動体反応はありません。探索を続行しましょう」
シアは探索の再開を指示した。
予定では今日中に探索を終え、ここで一泊したのち帰還することになっている。
まだ時間は十分にあるはずだが、未踏破領域の広さも不明であるため、できるだけ探索を進めたいのだろう。
探索が再開される。
まずは前回の調査で銃を発見した場所へ向かうことになった。
前回の調査時に作成された地図を頼りに数分進むと、洞窟のつくりが変化してきた。
ベースキャンプ内と同様、いや、それ以上に人工的な造形が見られる。
通路は正確に四角く成形され、続く部屋の壁も見事な長方形を保っていた。
ハヤトたちの歩く音も、硬質な響きへと変わっていく。
「この洞窟内でも、この階層が一番丁寧に手が加えられているようね。かつてここにいたものたちは、ここを居住区にしていたのかしら」
ハヤトの隣を歩くミリアが、誰に言うともなく語り出した。
「どんな人たちが住んでいたのかしら?」
その言葉にハヤトは歩きながら、かつての住人に思いを馳せた。
どんな人たちか。そう、ここには人が住んでいたはずである。
アンドロイドだけがいたとは考えにくい。自分のいた世界と同じように、科学技術を持った人々がここにいたはずだ。
だが、襲撃を受けて陥落した。住人はそのときに逃げ延びたのか、それとも全滅したのだろうか。
それは、ハヤトには知る由もないことだった。
いずれにせよ、ここに残されているのはアンドロイドの残骸だけなのだ。
やがて、一行は貯蔵庫と思われる場所にたどり着いた。
壁にはいくつかの銃器がかけられており、床には朽ちかけた木箱がいくつも置かれている。
「ミリア、ここにあるのが『銃』ですね?」
シアに声をかけられたミリアが前に進み出る。
「はい、シア様。前回の調査で持ち帰った『銃』は、ここにあったもののひとつです。『銃』の弾、弓でいうところの矢に相当するものは、そこの木箱の中から取り出しました。また、持ち帰った『人形』もここで回収しております」
シアは頷くと、騎士たちに銃器の回収を命じた。
騎士たちは銃を壁から取り外し、持ってきたバックパックに詰め込んでいく。
銃弾については、その数があまりにも多かったため、詰め込めるだけ詰め込み、残りは置いておくことにしたようだ。
足りなくなればまた取りに来ればよい。
木箱の中には銃弾を収めたマガジンのほかにも、金属製の板や装置らしきものが入っていた。
それらについてハヤトは見解を求められたが、まったく見当がつかなかった。
本来、ハヤトが同行する名目は、ハヤトにしかわからないものの識別だった。
しかし、まったく役に立てない結果に終わり、ハヤトはひっそりと落胆した。
結局、用途のわからないものは放置され、銃と弾薬のみを持ち帰ることになった。
「第三部隊はまだ戻ってきませんな。彼らが戻ってくれば、もっと運び出せるのですが」
ゼノンがため息交じりにシアに言った。
シアは再度周辺感知の魔法で、彼らがまだ追跡中であることを確認すると、さらなる物資収集のため未踏破領域の調査を指示した。
地図を頼りにこの階層のさらに奥深くへ進むにつれ、洞窟内に変化が見られた。
錬成された壁に銃痕や切り傷が散見され、激しい戦闘がここで繰り広げられたことを物語っている。
やがて、一行はひとつの部屋に行き着いた。
左右の壁には隣接する部屋へ続く通路があり、正面には金属製の大きな扉が構えている。
その扉は何か大きな力で叩きつけられたように歪んでおり、この歪み方では扉を開けるのは難しいように見えた。
「この洞窟内で扉を見るのは初めてですな。この奥には何か重要なものがあるやもしれません。ここを開けさせましょう」
ゼノンは騎士たちに扉をこじ開けるよう指示を出した。
騎士たちの何人かが扉を押したり引いたり、叩いたりしていたが、やがて彼らは首を横に振った。
ハヤトはミリアと共に、その様子を少し離れた場所から見守っていた。
騎士たちがいくら力を持っていても、あの扉をどうにかするのは難しいのではないかと考えていると、ひとりの騎士が剣を抜いた。
「壁でも掘るつもりか?」
その扉は金属製で、しかも相当分厚そうに見える。
剣でどうにかできるとは思えず、むしろ岩の壁を掘るほうが現実的に思えた。
「騎士たちなら、あれくらいの扉なら切れると思うわよ」
「まじかよ」
ミリアの言葉にハヤトは驚く。
この世界の騎士たちは尋常ではない力を持っているようだ。
剣を抜いた騎士は扉の前で構えた。
何かに集中しているようだったが、おそらく剣に魔力を込めているのだろう。
見た目にはまったくわからなかったが。
周囲の全員がその騎士に注目していた。扉を中心に扇状に広がり、静かに見守っている。
騎士が気合とともに剣を振り下ろす。
甲高い金属音とともに、剣は扉にめり込み、そのまま引き抜かれた。
金属製の扉には、剣が通った部分だけ直線的な穴が開いていた。
騎士はさらに何度か追撃を加える。
やがて扉は音を立てて崩れ、見守っていた騎士たちから歓声が上がった。
「たいしたもんだな」
ハヤトがそう感想を述べた瞬間だった。
突如、扉の向こうの暗黒空間から閃光が放たれ、重い金属音が立て続けに鳴り響いた。
それは一瞬の出来事だった。
扉の向こうから放たれた銃弾が、剣を握っていた騎士に降り注いだ。
さらに、その背後に広がっていた騎士たちをもまとめてハチの巣にしていく。
銃弾が金属鎧にめり込む音が響き渡り、次々と騎士たちをなぎ倒していった。
ハヤトは何が起こったのか、とっさに理解できなかった。
しかし、目の前の騎士が崩れ落ちた瞬間、体が反射的に動いていた。
隣にいたミリアを押し倒し、自らも床に倒れ込む。
ミリアは手に持っていた杖を落とし、床に体を打ちつけられて悲鳴を上げた。
床に這いつくばったまま、ハヤトはミリアを引っ張り、隣の部屋に向かって這い進んでいく。
頭上ではなおも銃弾が飛び交っていた。
騎士たちの鎧を貫く金属音と、絶叫が部屋中に響き渡る。
それはまさに地獄絵図だった。




