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第32話 侵入

 突入から20分が経過し、やや緊張が解けたころ。

 ミリアと並んで石に腰掛けて待機していると、ゲートの入口から騎士がひとり駆け出てきた。

 

 騎士はゼノンの前まで来ると高らかに報告を行う。


「先発部隊、予定通りポイント3までの経路を確保しました! ポイント3までに7体のランクD生物に遭遇し、これを排除。現在、先発隊はポイント3にて本隊の到着待ちです」


 その報告に、ゼノンは「うむ」と頷き、労いの言葉をかけた。


 いよいよ本隊の突入のときだ。


 それまで思い思いの場所に立っていた騎士たちが、シアとゼノンの前に整列し始める。

 石に腰かけていたハヤトとミリアも立ち上がった。

 

 ハヤトは、無意識に手を銃に伸ばし、新しいマガジンがしっかりとセットされているかを確認した。

 遠征参加決定後に、クレアから手渡された最後のマガジンだ。


 クレアは「無事に帰ってこれるから大丈夫」と言っていた。

 何の心配もしていない、確信に満ちた物言いだった。

 クレアは、騎士団やミリアの力を信じているのだろう。


 ハヤトたちは、シアから少し離れて佇むナズリーの傍に並んだ。

 

 シアによく似た青みがかった黒の長髪を持つナズリー。その視線はシアに注がれている。

 ナズリーは唯一生き残っている近衛だ。それだけに、シアを護る重い責務が、彼女の肩にのしかかっているのだろう。


 ナズリーは隣に来たハヤトに一瞬だけ冷たい視線を向けたが、「はあ」と深いため息をつくと、再び視線を元の方向に戻した。


「いまため息つかれたよな?」

「そう?」


 ハヤトはミリアに耳打ちするが、彼女はきょとんとした顔をした。

 どうやらまったく気づいていなかったようだ。


 ミリアは顎に手をあて、何かを考えている。


「どうかしたのか?」


 彼女はうーんと唸り、一拍置いてから口を開いた。


「シア様の魔法で感知された数は20弱だった。ポイント3はシア様の検知魔法の限界距離に位置するから、そこまでに20体ほどの何かがいたはずなのよ。でも報告では遭遇したのは7体だけ。残りはどこにいったのかしら……」


「先発隊が近づいたから、さらに奥に潜ったとか?」


 フルプレートをまとった騎士たちは隠密行動には向いておらず、接近すれば相手は容易に気づいただろう。

 だが、ミリアは首を振った。


「前回の調査で遭遇したこの洞窟内の危険生物は三種で、いずれもDランク。どれも好戦的で、知能は高くない。つまり、こちらに気づけば積極的に向かってくるような相手なのよ」


 ミリアは何かを思い出すように地面を見つめた。


「前回、最深部の『装置』に到達するまでに、シア様の周辺感知で検知された数は100弱。そのうち、50ほどを排除した。残りの50は、たまたま遭遇しなかっただけと思っていたけれど、もしかするとあたしたちから逃げていた……?」


「そうだとすると、どうなるんだ?」


「この洞窟内に、未確認生物が存在する可能性があるということよ」

 

 未確認生物。まだ確認されていない生物。

 それは、Aランクの可能性もゼロではない。

 

 全戦力を併せても勝ち目がないという絶望的な存在。それがこの地下に潜んでいるのか?


 ハヤトの顔が青ざめるのを見て、ミリアはぷっと笑った。


「なーんて、心配するほどのことでもないわ」


「え、そうなのか?」

 

「未確認生物はいるかもしれないけれど、あたしたちから逃げ回るような相手なら、たいしたことはないわよ」


 言われてみると、そんな気もしてきた。

 なんだ、驚かせやがってとホッとしていると、シアから声がかかった。


「ハヤトさん、いまから洞窟に突入します。こちらへ来てください」


■ 

 殿兼荷物番の騎士を5人残し、ハヤトを含む本隊は洞窟へと足を踏み入れた。


 隊形はシア、ナズ、ハヤト、ミリアを前後から騎士たちが挟む形である。

 洞窟内は、騎士三人が並んで戦えるほどの広さがあったため、騎士たちは三列に並んで進んでいる。

 

 中央にはシアとナズが並び、その後ろをハヤトとミリアが続く。

 そして、その後方にも騎士たちが三列で隊形を組んでいた。


 騎士の何人かは松明を灯し、ミリアとナズもそれぞれ杖と剣の先に灯りの魔法をかけている。


 洞窟内は一本道ではなく、無数の横道が存在していたが、一行は迷うことなく進んでいった。

 先発隊が危険生物を排除していたこともあり、10分とかからず、先発隊が待機しているポイント3までたどり着くことができた。


 そこは20メートル四方の広さを持つ、部屋のような空間だった。

 ハヤトたちが入ってきた入口のほか、壁には3つの穴が空いている。


 先発隊は部屋の中央で、それらの穴を警戒するように立っていた。

 

 シアはさらなる進撃に備え、再び周辺感知の魔法を使う。


「ここより下層30メートル以内の動体を検出、その数およそ20」


 地上で感知した数値と同じだ。

 暗闇の中で何かがうごめく姿を想像し、ハヤトは無意識に唾を飲み込んだ。


「第二部隊、ポイント6まで先行せよ。本隊はこのままここで待機する」


 ゼノンの命を受け、本隊から別れた第二部隊10名が壁の穴のひとつへ入っていく。

 このように、本隊から分かれた部隊が先行して敵を排除するのであれば、ハヤトたち本隊が戦闘に加わることはなさそうだ。


 再び、しばらく何もせず待つ時間が続く。

 

 ハヤトがシアに目をやると、彼女は騎士に囲まれて佇んでいた。

 さすがに地下まで椅子は持ち込んでいないようだ。


 手持無沙汰で待機していると、ミリアが部屋の片隅の暗がりに向かって歩き出した。

 彼女の持つ杖に灯された光が、歩くたびに暗がりを照らし出し、土壁の前に何かがあるのが見えてきた。


「ハヤト、ちょっと来てくれる?」


 ミリアは土壁の前に転がっているその何かの前で振り向き、ハヤトを呼んだ。


 急いでミリアの元へ向かう。

 そこに転がっていたのは、首のない上半身だけの人形――アンドロイドだった。

 

 首はねじ切られたような跡があり、切断面からは金属質の背骨のようなものが覗いている。

 ベースキャンプに持ち帰ったものと比べると、全体に汚れが目立ち、かなり長い間ここに放置されていたようだった。

 

「アンドロイドの残骸……だな」


「この間持ち帰ったものと同じものかしら?」


「同じといえば同じだが、こいつは男型のようだ。胸板が分厚いし、腕も太い」


「そうね。大男の人形だったみたいね」


 上半身だけのアンドロイドは、硬質で滑らかな素材のスーツに包まれていた。

 デザインからは、バトルスーツのような印象を受ける。

 

 戦闘用アンドロイドだろう。

 上半身の大きさから推測すると、完全体は2メートルほどはありそうだ。

 

 ハヤトのいた世界には、こんなものはまだ存在していなかった。

 その戦闘力がどれほどのものかはわからないが、目の前にあるこの金属質の巨体が完全な姿であったなら、生身の人間が立ち向かうのは無謀に思える。


「下層にはこんなのがもっと転がっているのよね。ほとんど男型だったと思う。女型は持ち帰ったあれだけじゃなかったかしら」


 複数の戦闘用アンドロイドが支配していたゲート。

 それを蹂躙し、陥落させた何者かが存在する。

 明らかに、その存在は危険だ。

 

「このアンドロイドを破壊できる生物の危険度はどれくらいになる?」


「そうねえ……」


 ミリアは杖の光をアンドロイドに近づけ、じっくりと見てから答えた。


「Cランク以上ってところかしらね」


 Cランクでこれほどの金属の塊をねじ切れるとは、この大陸の危険生物も恐ろしいものだ。だが――。


「じゃあ、こいつが銃を持っていたとしたら?」


 ミリアは、ハヤトが首から下げているサブマシンガンに目を向けてから答えた。


「Bランクになるかもね」


「そうだろ? ここに長居するのはやばくないか?」


 いくら騎士団が強いといっても、銃を装備した複数の戦闘用アンドロイドを蹂躙できるような存在と戦えるとは思えなかった。

 もし、その存在がまだここに潜んでいたら、事態は深刻になるだろう。


「大丈夫よ。戦いは数なのよ。ここにあった人形は下層のものも合わせて数体程度。それくらいなら、たとえ全個体が『銃』を持っていたとしても、いまの戦力なら戦えるはずよ」


「剣じゃ銃に勝てないぞ」


 歴史的にも、プレートアーマーは銃の登場によって廃れている。いくら装甲を厚くしても、銃の威力にはかなわなかったのだ。

 ましてや、ここにある銃はハヤトの世界の銃よりも強力そうに見える。

 フルプレートを着込んだ騎士たちでも、この銃に撃たれたらひとたまりもないだろう。


 だが、ミリアは首を横に振った。


「ハヤトのいた世界ではどうだったか知らないけどね、ここでは魔力がすべてなのよ。この世界の戦士たちは、武器や防具に己の魔力を通す。そうすると、その威力や防御力は飛躍的に上昇するの。その銃、たしかにすごい威力だけど、短時間なら騎士たちは耐えることができるはずよ」


「まじかよ……」


 本当にこの銃に耐えられるというのなら、騎士たちも相当な存在である。


「そんなに騎士が強いなら、別に銃はいらないんじゃないか?」


「騎士たちは攻撃力も防御力も強いけど、接近戦にはリスクがあるのよ。近づくと危険な相手もいるし、万が一命を落としたら戦力は確実に減ってしまい、補充もできない。『銃』があれば、遠距離から攻撃できるから、それだけリスクを減らせるのよ」


 そう言って一旦言葉を区切り、自虐的な笑みを浮かべた。


「本来、遠距離攻撃は魔術師団の役目なんだけどね。魔術師はみんな基礎体力が低くて、遠征には向いていないから……」

 

 たしかに、ミリアの基礎体力は低いようだった。

 しかし、魔術師団には男もいる。

 参謀長のマドールもそのひとりだ。

 彼も特に体力があるようには見えなかったが、それでもハヤトと同程度はあるように思えた。


 その疑問を口にすると、ミリアは苦笑を浮かべて答えた。


「男の魔術師だって、体力はあたしと大差ないわよ。むしろ、あたしのほうがこうして遠征に参加してるぶん、体力があるかもしれないわ」

 

 そのとき、先行していた第二部隊のひとりが戻ってきた。どうやら無事に経路を確保できたようだ。


 ハヤトは出発のために壁際を離れ、隊列に戻ろうとした。

 その背中に、ミリアは小さく声をかけた。


「今回の遠征は、ハヤトがいてくれたから助かってるわ」


 ハヤトは振り返らず、片手をあげて応えた。

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