第22話 異世界の銃
「こんなものかしらね」
ミリアが杖を振ると、宙に浮いていた机と椅子、そして本や書類が部屋の片隅へきれいに積み重なった。
「これくらいのスペースがあれば十分でしょ?」
「ああ」
ミリアの部屋は、ハヤトが使っている部屋よりもずっと広いものだった。
長辺10メートル強、短辺5メートル弱の細長い部屋で、射撃テストをするには好都合な形状だ。
部屋にはベッドや3つの机、いくつかの本棚と木箱が置かれていた。
最初は部屋の中央にあった机も、いまは彼女の魔法で隅に移動されている。
ハヤトは、部屋が散らかっているだろうと勝手に思い込んでいたが、意外にも非常に整理整頓されていた。
壁にはいくつかの服が掛けられ、棚にはきれいに畳まれた服が並んでいる。
どうやらミリアは几帳面らしい。
そんなことに感心していると、いきなりミリアに耳を引っ張られた。
「ジロジロ見ない。いい?」
「イタタ……!」
ハヤトは涙目になりながら銃を構え、銃身を壁に向けた。
「念のために確認するが、この壁の向こうはどうなってる?」
「ただの岩壁よ」
ハヤトは頷き、トリガーに指をかける。
すると、銃からピピッと電子的な音が聞こえてきた。
それはどこか肯定的な響きを持った音だった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
気を取り直して再度トリガーに指をかける。今度は音がしなかった。
ハヤトは壁に狙いを定め、トリガーを引いた。
しかし、カチッという金属音がするだけで、弾は出なかった。
「まあ、そうだろうな」
「もしかして、その銃も壊れているの?」
心配そうにミリアが寄ってくる。
「たぶん、この銃には安全装置がついていて、それを外さないと撃てないんだ」
「なるほど……。クロスボウにもそういう仕組みがあるわね」
興味深そうに覗きこむミリア。
ハヤトはグリップ部分にあるレバーを見つけ、それを下ろす。
これで、銃が撃てるようになったはずだ。
「たぶん、これで撃てる。下がってろ」
ミリアは頷くと、ユーリとクレアのそばまで下がった。
ハヤトはそれを確認し、銃を構えた。ずしりとした重みが手に伝わる。
銃を撃った経験はないが、おそらく強い反動があるはずだ。
腰を少し落とし、反動に備える。
一度深呼吸をし、トリガーを引いた。
ダダダダダダッ!
銃身が火を噴き、激しい音が部屋に響き渡る。
弾丸は次々と壁に打ち込まれていった。
ハヤトはその激しい反動に驚きながらも、なんとか銃を制御し続けた。
撃ち終え、銃を下ろし、振り返ってミリアたちに言う。
「まあ、こんなもんだ」
内心は初めての銃撃に戸惑いながらも、ハヤトは努めて平静を装った。
三人はしばらく唖然とした様子で彼を見つめていたが、やがて口々に称賛の声を上げた。
「すごいじゃない!」
「ハヤト、想像以上」
「見直しましたわ」
三人は興奮した様子でハヤトを囲む。
「この武器、ほんとうにすごい。ここの壁って相当硬いんだけど、あんなに穴が開くなんて……」
ミリアが壁と銃を交互に見ながら感心の声を漏らす。
「これを騎士に持たせれば、戦力を大幅に向上可能」
「そうだけど、騎士の方々は飛び道具をあまり好まないのよね」
クレアとユーリも、銃に大いに興味を示していた。
「どうでもいいが、弾には限りがあるぞ。いま結構撃ったからな」
「あとどれくらい残ってるの?」
ミリアの問いに、ハヤトはマガジンを抜いてその重さを確かめた。
さきほどの射撃テストで20発程度撃ったが、まだ半分以上の弾が残っているようだ。
「わからないが、あと数十発は撃てると思う。でも、撃ち尽くしたらそれで終わりだぞ。銃弾なんてこの世界じゃ製造できないだろ?」
「それなら、もう一度ゲートに行って取ってくればいいんでしょ? いまは次のゲート攻略の準備中だけど、この武器が手に入るなら、もう一度、前のゲートに行く価値はあるわ」
ミリアの提案に、クレアが賛成する。
「それ、いい。すぐに上申書を出そう」
なるほど、ゲートにはまだ銃やマガジンが残っているかもしれない。
もし、銃が数丁と十分な弾薬が手に入れば、この軍団の戦闘力はかなり向上するはずだ。
メルヴィアは騎士団が軍団の戦力の中心だと言っていたが、いくら騎士でも銃には敵わないだろう。
ミリアたちはゲート攻略のスケジュール変更について議論を始めた。
ハヤトは手持ち無沙汰になり、銃のセーフティをかけて机の上に置くと、銃弾を打ち込んだ壁に近づいて破壊痕を確認した。
壁は銃弾で深くえぐられていた。ハヤトはその破壊痕にそっと手を触れる。
あの銃は恐ろしいほどの威力だ。硬い岩をここまで削り取るのだ。普通の生物がこの威力に対抗できるとは思えない。
「だが……」
あの銃を見つけたゲートは、すでに陥落していたという話だ。
ならば、あの銃ですら敵わない何かが、この大陸には存在するということだ。
もし、その「何か」に出会ったら、軍団は対抗できるのだろうか……?
後ろではしゃぐ三人とは対照的に、ハヤトは心の中に重くのしかかる不安を感じていた。




