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<二度目のループ>
ハッと意識が戻ると、私は『また』この場所にいた。
上質な衣服に身を包む紳士淑女たちが、グラスを片手に談笑している。そんな立食形式のパーティー会場には、彼らの歓談の声と、オーケストラの控えめでありながらも上品な生演奏が、豪奢なシャンデリアの下でBGMとして流れている。
給仕係が忙しく料理や飲み物を数多あるテーブルに運んできては、空になった皿やグラス、そしてワインボトルを厨房へと持ち帰っていた。
……何? どういう、こと、なの、です、か?
これではまるで、三日前に見た光景だ。
そう思った瞬間、食道から何かがせり上がってくる感覚に、思わず私はその場で崩れ落ちる。
「大丈夫ですか?」
周りの人が心配して、声をかけてくれる。でも、それで余計に私の嘔吐感は酷くなった。
……全部、知っています。全部、同じ、ですわっ!
あの、悪夢の様なパーティー会場と、全く同じだ。
来場者も、食べ物も、飲み物も、オーケストラが奏でる曲が、この国の建国の父、ケルジェント・ジールワルが作曲した国歌、『おお、我が愛しきクルーリアよ』なのも、何もかも。
何もかも、見覚えがあり、聞き覚えがあるものばかり。
アーチデール城で幽閉されている間、ずっと夢だと、こんな悪夢早く覚めて欲しいと、全く祈ったことのない神に祈っていた、あの悪夢の光景だ。
「イレイラ! イレイラ・ヴィルムガルドはいないか?」
ハッとして、私は螺旋階段を見上げる。そこには玉座に座るオキグリアン国王と、グークハール王子、そして薄く笑うフィレバの姿が見えた。
……同じ。やっぱり、同じなんですのねっ!
だとしたら、これから起こる事も、きっと同じだろう。この場でまた、あの見る人によっては喜劇にしか見えない断罪劇が繰り広げられるのだ。
……に、逃げなくては。逃げなくては、殺されてしまいますのっ!
思うよりも早く、私はその場から駆け出していた。片方のハイヒールが脱げて転びそうになるが、そんなものに構ってはいられない。このままでは、国家反逆罪で殺されてしまう。
だが小娘一人が、この国の国王たるオキグリアン国王陛下が居を構えるアーチデール城の守護する近衛兵たちから、逃れられるわけがない。
早々につかまり、逃げ出したのは後ろ暗い事があるからだと、思いつきも聞いたこともなかったグークハール王子とフィレバの暗殺計画の首謀者として祭り上げられ。
そしてまた国家反逆罪として、私は首を吊られ、死んだ。