Épilogue いやだぁああああああああああーー!!
その後、司とカイは事後処理に追われ大忙しであったが、反対にロワメールとセツはのんびりとした日々を過ごしていた。
とくにロワメールは上機嫌で、ぼくセツの息子〜とかなんとか、訳のわからない歌を歌いながら、終始ご機嫌である。
司の使いのジュールにも、用もないのにやって来るフレデリクにも、嫌な顔ひとつ見せず余裕の対応をしている。
(だってぼく、セツの息子だから!)
満面の笑顔で出迎えられ、肝を冷やしたジュールが、カイにコソコソ尋ねたものだ。
「ロワサマ、どうされたんですか?」
「セツ様に息子と思ってるって言われて、浮かれまくってるんです」
カイは溜め息混じりだ。
ああ、と納得しながらも、ジュールも苦笑する。
「本当、ロワサマ、マスター大っ好き! ですよね」
「いや、好きすぎでしょう?」
側近としては頭が痛い。
あんなに浮かれていては、キヨウに連れて帰れなかった。
こんな状態でキヨウに帰ればどうなるか。
見たこともないような上機嫌の理由は、口が裂けても国王には言えない。
しかしロワメールはなにも、国王を嫌っているわけではなかった。父として、王として、尊敬している。
宮廷で、ロワメールはある質問をされたことがあった。
ーー殿下の尊敬される方はどなたですか?
諸侯が集まる場で、そんなことを聞いた貴族がいた。国王と王太子の第二王子への溺愛っぷりは知れ渡っていたので、ロワメールがどう答えるか。
ーー国王陛下です。
反第二王子派がいなければ、宮廷は至って平和なものである。ロワメールにどちらがより好かれるかを親子で競い合っているのを知る貴族達は、密かにそれぞれを応援し、宮廷内では呑気な派閥争いが起きている。
ーーでは、憧れる方は?
ーー王太子殿下です。
その場にいた父と兄の顔を立て、ロワメールはそつなく返した。
二人共に花を持たされ、そこでやめておけばいいのに、いらんことを聞いた輩がいたのだ。
ーーでは、カッコいいとお思いなのは?
果たしてその貴族がどちらの派閥だったのかは知る由もないが。
ーーぼくの命の恩人です!
悩むことなく、自らの名付け親と答えた時のいい笑顔ったら。
そんな阿呆な質問をした貴族は、国王と王太子に不機嫌に睨みつけられ、そそくさと退散した。
二人共、最大のライバルは互いではなく名付け親だと認識したであろう。
(まだしばらく協議に時間がかかるだろうから、大丈夫でしょうけど)
いくらなんでも協議が終わる頃には、沈静化しているはずである。
カイの心痛をよそに、ロワメールはいまにも踊りださんばかりに、楽しげに毎日を過ごしていた。
(だって、ぼくはセツの息子だから〜)
完全に舞い上がっているロワメールは、だから最初、意味がわからなかった。
久しぶりの協議で炎司から告げられた言葉を、厳密には、脳が理解することを拒否した。
「私共魔法使いギルドは、ロワメール殿下に従います」
「………………………え?」
ロワメールの笑顔が、ピシリッと音を立てて固まる。
彫像と化す王子に、アナイスはにこやかに続ける。
「私共は、殿下のお言葉にたいへん感動致しました」
アナイスだけでなく、後の三人の司も大きく頷く。
ーー魔法使いもマスターも含めて、この皇八島に住む全ての人を守るのが王族だ!
ーー国王陛下の名の下に、皇八島全国民が平等に法の庇護を受ける。ならば王子であるぼくが、国民を守るのは当然だ。
王子にあそこまで言ってもらい、心動かない者はいなかった。
(言ったよ。言ったけど……)
ロワメールは茫然と、アナイスの言葉を聞く。
「これほど魔法使いにお心を砕いてくださる王家の方が、これまでいらっしゃったでしょうか」
王子のお心にお応えしたい。
あの言葉を聞いて、魔法使いの為にとの申し出を拒むことはできなかった。
(確かにそう言ったけれども!)
それは、あくまでセツに対して言ったつもりの言葉で。
だから。
「一緒に、戦うことができる。あれほど誇らしく、心強い言葉が他にありましょうか」
(ちょっと、待って)
「助け合い、手を取り合い……私共が夢にも思わなかった理想の関係を、殿下は示してくださいました」
セツを説得するために口走ってしまった騎士との共闘は、ロワメールが胸で温めていた絵空事にすぎない。
(あれは、こうなったらいいなって、ぼくの願望で……)
あの時は緊急事態で、あれが最善手だと思ったから騎士隊を動かしたけれど。
「ギルドのこれからを左右することです。もっとゆっくり話し合っていただいて結構ですよ?」
強張った笑顔を貼り付かせたまま、ロワメールは焦る。
ロワメールがシノンに滞在する理由は、司との協議のため。
つまり、この話し合いが終われば、セツの家に居座る理由がなくなるということで。
つまり。
「お心遣い、感謝致します。けれど私共は、満場一致でこの結論に達しました」
(ぼく、そんなつもりで言ったんじゃ……!)
協議が合意に達したのは嬉しい。
セツを救うために、この法案は絶対に認めさせたい。
けど、けど……!
「無理強いはしたくありません。時間をかけてもいい。これからの両者の関係の為に、心から納得してもらいたいのです」
本来なら喜ばしいはずの司の言葉に動揺しまくっているロワメールを、セツとカイが両隣から見ている。
「殿下は本当にお優しい。これは私共ギルドの総意」
(い、いやだ……)
この話し合いが終われば、ロワメールはキヨウに戻らねばならない。
ぼくはまだ、セツと一緒にいたい。
キヨウに帰りたくない。
(いやだいやだいやだ……!)
セツと、離れなければならない。
だから。
協議はずっと続いていいのだ。むしろ続いてください。お願いします!
なのにーー。
司は無情にも、ロワメールに頭を垂れた。
「私共魔法使いギルドは、ロワメール殿下に従います」
(いやだぁああああああああああーー!!)
皇八島史においても歴史的その瞬間。
ロワメールの心の中で、絶叫が響き渡った。
À suivre……
やさしい魔法使いの起こしかた、第ニ話ギルド本部編、これにて終了です。
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物語は第三話、魔者の花嫁 編に続きます。
協議が合意に達し、王都に帰ることになったロワメールですが、セツにはまだ勲章授与式を拒否されています。
このまま二人は離れ離れになってしまうのでしょうか?
明日の夜、第三話Prologue ラギ王暦1617年菜の花月ユフ島 の投稿を予定しておりますが、前回のお知らせ通り、第三話から週ニ投稿とさせていただきます。
誠に申し訳ありません。
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