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2ー43 湖上の黒城12 玉座の間 命にかえても守りたいもの

 フレデリクが防御を一枚減らして攻撃に加わり、火力が格段に上がった。

 なおかつ恐怖を乗り越えたリーズとディアが、精彩を取り戻す。少女達は倒れたレオの分を取り返すように、怒涛の反撃を開始した。


 融合魔法で高火力の魔法を連発するリーズとディアに、オドレイが声援を送る。

「2人共、その調子よ! 女は度胸!」

「……愛嬌だよ」

 訂正するシモンは、綺麗さっぱり無視された。


 リュカの一撃で、魔者は明らかに苛立ちを募らせている。

 けれど反撃の機会を与えてなるものかと、魔法使い達は手数に物を言わせた。中でもシモンとオドレイは最前線で獅子奮迅の働きを見せ、阿吽の呼吸で魔者を翻弄し、隙あらば一撃を入れてやろうと躍起になっている。


「オドレイ! 本気でいけよ!」

「わかってるわよ! あたしが先に攻撃当ててやるんだから!」

「やれるもんならやってみな! オドレイがおれより先に攻撃当てたら、『初雪』でメシ奢ってやる!」


 力業で押しまくるオドレイと、搦め手で攻めるシモンの力量は拮抗していた。

 口を開けば喧嘩ばかりだが、お互いの実力は誰よりも知っている。


「みんな、聞いた!? シモンより先に攻撃当てたら、『初雪』で夕飯奢ってくれるって!」

 太っ腹な賭けに、歓声が上がった。『初雪』はシノンでも屈指の高級料亭であり、値段も高級だ。

「は!? ちょっと待て!?」

 いつ、シモン対この場にいる全員になったのか。


「シモン、ごち!」

 笑いながら、リュカが横を走り抜けていく。後衛にいたはずのリュカに追い越され、シモンが事態を掴みそこねた。

「うわぁ! リュカ先輩!? なんで!?」

 フレデリクが中衛に上がるタイミングで、体力回復の為、リュカは後衛に下がっていたはずである。

 もう体力が回復したのか。

 しかし我慢できずに前線に戻ってきただけで、完全回復にはほど遠く、リュカ得意の肉弾戦は鋭さを欠いて不発に終わる。


「クッソ!」

「リュカ! 戻る!」

 指示を無視したリュカに、フレデリクの鋭い叱責が飛ぶ。

 リュカは首を竦めた。


 フレデリクに叱られ大人しく後退するかと思いきや、戻り際シモンの肩をポンと叩き、リュカが耳元で囁いた。

「いい年なんだから、デートくらい普通に誘え?」

「………!?」

 見透かされた上に、憐憫の目を向けられる。

 シモンは先輩に反論もできず、赤面を誤魔化すように魔法を連打した。

「うおおおおお! 当たれえええええ!」


 こうなればこの勝負、シモンが勝つしかなかった。

 さりげなく、自然に、いつもと違う夕食にオドレイを誘ったつもりだったのに、何故こうなったのか。


「よし、じゃあおれも頑張ろうかな」

 フレデリクがのんびり参戦を口にする。シモンは今度こそ、本気で泣くかと思った。

「フレデリクさんは除外で」

「えー、冷たいなぁ。おれだけ仲間外れか」

「除外で」

 なんと言われようと、戦闘職の中で片手の指に入る実力者を、こんな勝負に参加させられるわけがない。


(おれはオドレイと、良い雰囲気で食事がしたかっただけなのに! そしてあわよくば、二人の関係を進展させたかっただけなのに!)

 魔者を倒した高揚感に、美味しい料理と酒。その後で、満天の星空の下、シモンの気持ちをスマートにカッコよく伝えれば、オドレイだって頷いてくれるのではないか。

 ムードもタイミングも最高。これ以上の告白シュチュエーションはないはずだ。

『嬉しい。あたしもずっと、あなたが好きだったわ、シモン』

 想像の中で、オドレイは幸せそうに頬を染めている。

(完璧な計画だったのに……!)

 ようやく、仕事上のパートナーから恋人にかわれるかもと思ったのに。

(どうしてこうなったんだ?)

 真っ向から誘う勇気がなかった己が招いた不運であるが、本人は未だ気付いていない。

 風使いシモン、優秀な成績で魔法学校は卒業したが、残念な男である。


(こんな戦闘のどさくさに紛れてとか、雰囲気とか考えなさいよ! もっと普通に誘ってくれたら、あたしだって可愛く返事するのに!)

 一方オドレイも内心プリプリと、ヘタレなシモンに憤慨していた。

 頭にきたので、現場の緩衝材に使わせてもらったのだ。


 二人はなにも、能天気に軽口を叩き合っているのではない。

 彼らとて気が緩めば、恐ろしさに震えだしてしまいそうだった。けれど彼らが怯めば、自分達より年若く経験浅い新人達が浮足立つ。

 恐怖に飲まれれば負けてしまう戦いで、彼らに課せられた使命は、前線を維持して、存分に暴れまわることだった。


「ああ、ピーチクパーチク五月蝿い雑魚共め」

 しかしそこで、魔者が我慢しかねたように身じろいだ。美しい眉を逆立て、魔法使いを睥睨する。

「手加減してやっておれば、調子に乗りおって」


 魔者が、ついに反撃にでようとしていた。

 魔法使い達の緊張が、一気に膨れ上がる。

「少し黙れ、人間共」


 薄い灰色の目が、不気味に光った。その眼光に合わせ、魔者の周囲におびただしい数の魔力の塊が浮かび上がる。

(本気の攻撃が来る……!)


 魔法使い達の全身が粟立った。

 宙に浮く数百の光球ひとつひとつに、一撃必殺の威力が込められている。

 アレを食らえばどうなるかーー。


「防御ぉぉぉぉぉ!!!」


 フレデリクが叫んだ。

 魔者の攻撃が、弾幕となって降り注ぐ。

 フレデリクは最大出力で防御魔法を強化した。フレデリクだけでなく、その場にいる全員が防御魔法を展開する。


 流星雨のように降りかかる魔者の攻撃、それを防ぐ不可視の防御壁。


 シモンもオドレイも、防御に全力を注いだ。

 破られれば、無事では済まない。

 しかし、最前線にいた彼らの防御魔法はもろに魔者の強襲を浴びる。

 何十発もの魔者の攻撃に悲鳴を上げ、防御の魔法がギシギシと軋みだす。


 その一瞬、何故そんなにもゆっくりと時間が過ぎたのか。


 防御が保たないと悟った瞬間、シモンは魔者に背を向けた。

 シモンの張った防御魔法がパリン、と硝子が割れる音を立てる。


 驚き、見開かれるオドレイの瞳ーー。


 考える前に、シモンはオドレイを抱きしめた。

 


2024/7/7 加筆修正しました。

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