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2ー35 湖上の黒城4 二階 生きた伝説

 リュカと合流したレオとランスは、リュカを先頭に、真ん中をレオと救出した魔法使いマルク、しんがりをランスが務めた。

 魔獣の襲撃もリュカとランスが易々と片付け、城内攻略は順調に進む。


「リュカさん〜」

「んー」

 頭の後ろで両手を組み、レオは先輩土使いの名を呼んだ。


「さっきマスターが、橋作ったじゃないっすか? ンで、攻撃にも使えるって」

 ここに飛ばされる直前の出来事を思い出し、リュカがフンフンと頷く。

「で、攻撃に使ったンすけど、全然当たンなくて。どうしたらいいっすか?」

 魔者との戦闘を控え、戦いの手札は多いに越したことはない。レオは素直に教えを請うた。

 しかし、それに制止がかかる。


「おい、レオ」

「なンすか、ランス先輩?」

「マスターに、なんでも人に聞くなと言われただろ。まず自分で考えろ」

 ランスは普段無口なくせに、こんな時だけ先輩面して、厳しい口調で注意を促す。

「だーかーらー、考えてわかンないから、リュカさんに聞いてるンじゃないっすか」

 八つ当たりされてるとしか思えず、レオは顔をしかめた。


 魔者が現れてから、ランスはずっと臨戦態勢だ。ランスの境遇には同情するが、魔者が仇なのはランスの個人的事情であって、他人を巻き込まないでもらいたい。


「あはは、それ、オレに聞くんだ?」

 ランスとは違い、リュカは魔者出現の一報にもどっしりと構え、さすがの貫禄を見せつけていた。

 だから最初、なにを言われたのかレオはわからなかった。


「だって、リュカさん土使いだし」

 ふぅん、と振り返ったリュカの目は剣呑で、レオは狼狽える。

「レオは未だに学生気分が抜けないんだな」

「そンなことないすよ! だからこうやって、一生懸命考えてるンじゃないっすか!」

 リュカが鼻で笑った。


「ずいぶん簡単な一生懸命だな? オレが何年も修行して、ようやく得た答えを、レオはたった数時間悩んだだけで、わからないから教えてくれって? オレの長年の研鑽を横から掻っ攫おうってか?」

「そんなつもりじゃ……」

「じゃあ、どんなつもりだ?」

 凄みを帯びた声音に、レオは息を詰めた。


「あの最強の魔法使いですら、論文読んで、研鑽積んでんだってよ。なあ、意味わかるか? あのアホほど強いマスターですら、強くなる為の努力してんだよ」

 それは、レオもジュールに聞いた。けど、論文読むなんて面倒クセェのにマスタースゲーなって、そう思っただけで、その意味なんて考えもしなかった。


「なのに、尻に殻つけたヒヨッコは、センスがいいから研鑽必要ないってか。ふざけんなよ」

 ギラリ、とリュカの目が危険な光を帯びた。

「一級名乗れたからって、強いわけじゃねえ! 魔法使い、舐めてんじゃねーぞ!」

 低い恫喝は堂に入り、レオの肩がビクリと震える。


「これまで何体魔獣倒したか知らねえけどな、それで強いつもりか? 笑わせんな! これからオレ達が相手にすんのは魔者だ。遊びのつもりなら、足手纏いだからついてくんな!」

 リュカの罵倒は容赦がない。けれど、言っていることは正しいのだろう。

(正しいのかもしンないけどーー)

 レオはギリッと奥歯を噛みしめた。


「確かにオレは頭悪ぃけど」

 それでも馬鹿なりに考えて、努力して。

「オレだって、本気で魔法使いやってンだよ!」

 遊びだと、言われる筋合いはない。


「ふうん?」

 リュカがひょいと、レオの顔を下から覗き込む。

「なんだ。いい顔できるじゃん」

 イタズラっぽく笑うリュカは、タレ目な童顔と相まって少年のようだ。

「え? え……なに???」

 あまりの落差に目を白黒させるレオに、リュカは可笑しそうに笑った。


「いやぁ、だってレオ、あんまりやる気なさそうだから。気合い入れてやらなきゃ、こいつ死ぬなーって思ってさ」

 あっははーと笑うリュカに、さっきまでの威圧感はない。

「冗談キツいっすよー。マジビビったし」

「いやいや、オレが言ったことは本音。昔のオレなら、あのままシメてる」

 真面目な顔で言われ、レオの顔が再び強張った。昔のリュカは知らないが、只者でない感は十分漂っている。


「なあ、わかってるか? お前はマスターからの宿題をオレに丸投げして、せっかくの強くなれるチャンスを棒に振ろうとしたんだよ」

 リュカは、揶揄うように後輩を諭した。

「馬鹿な子だねー」

「いひゃい! いひゃいー!」

 鼻を摘まれレオが悲鳴を上げる。


「レオは人に頼りすぎ。強くなりたいなら足掻け。試行錯誤することに意味があるんだよ。自分で考えろ。脳みそ使え。楽して強くなんてなれねーぞ」


 リュカはレオから手を離すと、今度はレオの隣りにいる三級魔法使いの肩に腕を回す。

「で、おたくはいつまで、そうやってビビってるわけ?」

「ひえっ」

 これまでろくに喋らず、縮こまっていたマルクは、リュカに話しかけられてあからさまにおびえた。

 小柄なリュカよりも背が低く痩せたマルクは、眼鏡越しにオドオドとリュカを見上げる。


「オレ、学生時代、おたくに絡んだことないと思うけど?」

「僕のこと知って……」

「いや、知らんけど。オレ、弱い者イジメはしない主義なんだわ。見た感じ、一こか二こ下だろ? なら、オレを知ってるわな」

 プルプルと震えながら、マルクは二こ下です、と蚊の鳴くような声で答えたが、おびえ方が尋常ではなかった。


「リュカさん、昔なにしたンすか!?」

「リュカさんは、生きた伝説だぞ。知らないのか?」

 ランスの一言に、マルクは壊れた人形のようにコクコクと首を縦に振る。けれど残念ながら、レオの代にはリュカの武勇伝は伝わっていなかった。


「昔の話だから、いい加減ビビるのやめてくんない?」

「は、はい、す、すみませんっ」

 リュカの腕の中で顔面蒼白なマルクが、否定だか肯定だかわからない返事を返す。

「まあ、それだけオレにおびえてたら、魔者に会ってもパニクる余裕ないな」


 リュカが懸念したのは、学生気分の新人魔法使いと、異常に気の小さい(とリュカは思う)三級魔法使いの恐怖による暴走だったが、この調子ならなんとかなりそうである。

 ランスも心配だが、残念ながらどうしてやることもできない。けれど、復讐に燃えながらも後輩を思いやる男気は、リュカは嫌いではなかった。さっきもリュカの怒りに触れることがわかっていたから、レオを守ろうとしたのだ。


「よし、じゃあ、そろそろ行くか」

「行くってどこに?」

 レオは相変わらず間抜けな質問をする。手のかかる新人の背中をバシンと叩き、三度気合いを入れ直してやる。


「魔者んとこに決まってんだろ」


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