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2ー32 湖上の黒城1 三階、一階

「ロワ様……」

 目の前で主を攫われ、カイは茫然と立ち尽くす。


「殿下を探せ!」

「なんとしてもお救いするのだ!」

 魔法使いばかりか第二王子まで消え、騎士達も慌てふためいた。


「くそっ!」

 カイは、不甲斐ない己を罵倒する。

 危険なのは百も承知だったのに、魔者に出し抜かれた。忠誠を誓った主を、まんまと攫われた。

 数度深呼吸をして鼓動を落ち着かせると、カイは今にも飛び出しそうな騎士達を一喝した。

「狼狽えるな!」


 この一隊は、現在ロワメールの指揮下にある。ロワメール不在の今、指揮権はカイに移譲していた。

「殿下はご無事だ! 殿下と共に最強の魔法使いが姿を消している。なにがあろうと、彼が殿下を守ってくださる!」

 王子が魔者に攫われる非常事態に、動揺を隠せない騎士達にまず冷静さを取り戻させる。ロワメールがどんな状況に置かれているかわからない。だが、不安を煽るのは悪手だ。


「あの方は、かつて赤ん坊だった殿下を守ってくださった魔法使いだ! 今回も、絶対に殿下を守ってくださる!」

 カイは大きく断言する。グッと下腹に力を入れ、震えそうになる声は押し殺した。

「我々のなすべきことは、周辺の警戒、捜索する魔法使いへの協力、行方不明者の保護、そして殿下の奪還だ!」


 騎士はカイの命令に従い、三手に分かれる。ロワメール奪還には精鋭が選ばれ、カイの下に集まった。

 セツによれば、あの城にロワメール達がいる可能性が高い。

 ただ座して待つことはできなかった。

 城にいるのが魔者だろうと関係ない。


(力ずくで城壁を壊してでも、ロワ様は返してもらう)


 カイは、セツが作った道を城へと走った。



     ❖     ❖     ❖ 



 ロワメールは室内の豪華さに思わず目を奪われた。


 ソウワ湖畔にいたはずだが、突然足元が消失した感覚に襲われ、落ちる、と思った時にはこの部屋に立っていた。

 一級魔法使いも姿を消していたが、人の気配はなく、物音もしない。魔獣も魔者もいなかった。


 部屋には照明も窓もないが、細部まで見渡せるほど明るい。  

 ロワメールがぐるりと見渡せば、柱には重厚感ある彫刻が施され、壁も天井も華麗な装飾で意匠が凝らされている。

 前後を見れば、この部屋と同じがらんどうの部屋が果てなく続いていた。まるで合せ鏡の世界に入り込んだかのようだ。


「ここ、あの黒城、だよね?」


 どれだけ歩いても、同じような部屋が延々と続く。

 どこまでも、どこまでも、煌びやかな部屋だけが続いている。

 ロワメールはその異常さに足を止めた。

 いくら大きな城でも、一直線に歩いて突き当りに行き着かないのはおかしい。

 それに外から見た感じ、五階ほどの高さがあったのに、上にも下にも行く階段が見当たらなかった。


 ロワメールは試しに、刀で床の一箇所に刃を立ててみた。驚いたことに、スッと切れ目が入る。魔剣で斬れるということは、石に見えても魔力で作られたということだ。

 その上で部屋を行き来すれば、五つの部屋でループしてることがわかった。


「こういうのって、空間が捻れてる、って言うんだっけ……」

 ロワメールはゴクリと喉を鳴らす。

「……本当に、あの城の中ってわけだ」

 静かに、警戒心を引き上げた。

 ここは外とは異なる世界ーー魔者の領域、ということだ。


 閉鎖された空間に閉じ込められグルグルと歩き回れば、そのうち精神がすり減り、体力も摩耗してしまうだろう。

(絶対に、無事に脱出しないと)

 王子の身になにかあれば、責任者であるマスターが糾弾される。


 あの時、セツも消えかけて見えた。ならば、セツもここにいる可能性が高い。

「セツと合流しなくちゃ」


 魔者の城で、魔力を持たないロワメールは不利すぎた。いつ魔獣に襲われるとも限らない。

「『黒霧』だけが頼りだな」

 刀を握る手に力を込め、ロワメールはそこである異変に気が付いた。

「あれ? なんで……」

 これまでにはなかった変化に、目を丸くする。


 横手に、部屋があった。

 ついさっきまで、そこは壁だったはずだ。

 覗き込めば、同じような部屋が奥にも続いている。

 罠か、突破口か。


「……これは、行くしかない、よね」

 ロワメールは刀を離さず、慎重に新たな部屋に足を踏み出し

た。



     ❖     ❖     ❖



 城内を探索中、いくつ目かの部屋に差し掛かる手前で、フレデリクは足を止めた。


 部屋の中央にテーブルがあり、その上に大きな鳥籠が乗せられている。そして中には、行方不明の三級魔法使いと思しき女性が閉じ込められていた。


 あまりの悪趣味さに、眉をひそめる。

 鳥籠に閉じ込められた人間の泣き声や悲鳴を、鳥のさえずりに見立てているのか。


「三級を攫ったのは、一級をおびき出すためか」


 ここに行き着くまでに魔獣の襲撃は幾度もあったが、この周囲に魔族の気配はない。

 けれど、フレデリクは慎重に魔力感知の魔法を発動した。

(魔獣はいない。けど、あのテーブル……)

 明らかに魔力反応がおかしい。

 なにかしらの仕掛けがあるとみて間違いないだろう。発動条件は、鳥籠に近付くか、中の人間を救出するか。


(問題は、どんな罠か、だが……)

 見極めたかったが、これ以上おびえる女性を放置するのは心が痛んだ。


「無事ですか?」

「フレデリクさん!?」

 できるだけ驚かさないよう声をかけたが、次期土司候補としてフレデリクは有名である。泣き腫らして赤い目をしている女性に、フレデリクは安心させるように笑いかけた。

「今助けるから、少し離れていて」


 鳥籠は一見金属製に見えたが、実際は魔力で作られたものだ。

(それなら)

 フレデリクは無属性の魔力魔法を発動する。手こずるかと思いきや、思いの外簡単に鳥籠は破壊できた。警戒していた罠も作動しない。


「さあ、おいで」

 手を差し伸べて女性を救い出す。


 だが、それが発動条件だった。突然、テーブルがゴゴゴッと低い音を立てて動き出したのだ。

 フレデリクが女性を庇い、攻撃に備える。

(なにが来る!?)


 けれど、身構えるも罠は発動しなかった。代わりに、ズンッ! と小さく床を振動させてテーブルが床に沈み込むと、横の壁が開いて新たな部屋が現れたのである。

「……これは、罠の発動ではなく、閉鎖空間の解除装置か」


 つまり、魔獣を倒して捕らわれの三級魔法使いを救い出し、この閉じられた空間を開いて魔者へ辿り着け、とそういうことだ。

「まったく、ふざけてるな」

 フレデリクは苦々しく呟いた。


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