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やさしい魔法使いの起こしかた  作者: 青維月也
第一話 野望編
39/213

Épilogue かくして無事に月は昇る

「ぼくはやっぱり、魔法使いが嫌いです」

「そうか」

 ロワメールは、もはや隠しても無意味な本心を吐き出した。セツは、短い相槌以外は黙って聞いている。



 セツ一人に重責を負わせる魔法使いが嫌いで、魔法使い殺しと恐れる身勝手さが許せない。

 叶うなら、マスターという枷から自由にしたい。

 それが無理なら、せめて辛い思いをしないように、危険な目に遭わないように。

 できるなら、ぼくが守りたい——。



「伊達に最強は名乗ってない。俺は強いよ。だから、心配するな」

 くしゃくしゃと銀の髪を撫でながら、セツは不敵に笑ってみせる。

  


「俺と対等に戦えるのは、魔主くらいだ」

「セツ……それは人間離れしすぎてる……」

 ロワメールのあんまりな感想に、セツは笑い声を上げた。



「それにな、長く生きるのも、そんなに悪いことばかりじゃない。……ロワメール、お前、婚約者がいるんだって?」

「!?」

 予想外の人物に予想外の単語を言われて、ロワメールは狼狽えた。

 


「婚約者なんていません!? ぼくはまだ結婚する気もないし、相手もいません!? それに兄上だって婚約者を決めてないのに、ぼくに婚約者がいるわけないでしょう!」

 身振り手振りを混じえて、盛大に否定する。



 わかっている。セツにいらぬことを吹き込んだのはカイだ。

あわよくばセツを味方に引き入れ、ロワメールをどこぞの令嬢と婚約させようという魂胆が見え透いている。



「違ったか? ああ、婚約者候補だったか……。王族ともなると、早く結婚しろとうるさく言われるんだろうな」

 ロワメールは力強くウンウンと頷いた。後継がどうのと言われても、そんなことはまだ考えられない。



「まあ、例えばだ。俺がこれから百年眠ったとして、お前が結婚して、子どもができて、孫ができて、百年後にお前の孫に会えれば、ああ、ロワメールは幸せに生きたんだと思えるんだよ」

 それを、あまりに控えめな幸せの感じ方だと思うのは、ロワメールの穿った見方のせいだろうか。



「ロワメールも会ったろう? 炎司のアナイス、あいつの三百年ほど前の先祖も、炎使いでな。小さかった俺の面倒をよく見てくれた」

「三百年前……」



 ロワメールは神妙な顔をする。何百年と生きているのは知っていた。マスターはだいたい百年、長くて二百年の間に一人生まれる。



(だけど、三百年……)

 それは、予想を遥かに超える長さだ。



「言っておくが、俺は見たまんまの年齢だからな」

 黙り込んでしまったロワメールになにを思ったか、セツは見当違いな念押しをする。



「なんだ、その顔は? いいか、俺は長生きだが、年寄りじゃないからな!」

 真面目な顔でなにを言い出すかと思えば。



「ぷッ」

 ロワメールは堪らず吹き出し、肩を震わせて笑う。



「そこ、気にするんだ?」

「なっ!? どうして笑う!?」

 ロワメールに派手に笑われ、セツが耳を赤くした。



「ごめんっ……でも……おかしくてっ」

 三百年も生きているのに、年齢を気にしているとは思わなかった。

 おかしすぎて笑いが止まらない。セツが不貞腐れるのがまた面白くて、更に笑いが止まらなかった。



「いい加減にしろ」

 腹を抱えて笑い転げるロワメールの額をピンと指で弾き、セツは続ける。



「俺な、しばらく起きていようと思うんだ」



 ロワメールの笑いがピタリと止まり、マジマジとセツを見つめた。

「ほ、本当に?」

 思わず、声が上擦る。驚きのあまり、それ以上言葉が出てこなかった。

 


「ああ。何十年ってわけにはいかないがな」

 言葉を失ったロワメールの髪が、いつものようにくしゃりと撫でられる。



「心配ばかりかけてるようじゃあ、名付け親失格だろ?」

 セツが、優しく笑った。



 ひょっとしたら、今回の一件で思うところがあったのかもしれないけれど。



(ひょっとして、ぼくのため……?)

 じわりと、喜びが胸に広がる。じわじわと広がったその温もりは、あっと言う間に全身を満たした。



(セツが起きてる……)



 ギルドに戻り報告を終えたら、再び氷室で眠ると思っていたのに。



(セツが起きてる!!)



 もう二度と会えないかもしれない、これが最後かもしれない、そんなことを考えずに一緒にいられる!



(セツが起きてる間、ずっと一緒にいられるんだ!!!!!)



 嬉しくて嬉しくて、嬉しくて。

 それは、なにより一番嬉しくて。

 叫ぶように、喝采を上げる。



「やぁっっ……たああああああああああーーーー!!!!!!」



 満面の笑顔からは、どんな言葉よりも、真っ直ぐに青年の気持ちが伝わってきた。



 ロワメールの喜ぶ姿が眩しくて、セツは目を細める。

(そんな顔されたら……)

 視線をそらして、頬を掻いた。



(国王や王太子を笑えないじゃないか)

 面映ゆさに困り果てる名付け親をよそに。



 ロワメールは、ただただ素直に喜びを噛みしめるのだった。








「おや、なんだか楽しそうですね」

「セツがしばらく起きてるって!」

 姿を現したカイに、ロワメールが喜びいっぱいに報告する。



「よかったですね。それなら心置きなくセツ様に王宮に来て頂いて、勲章授与式が行えますね」

 ニコニコと、カイに全く悪気はなかったのだが。



 その一言に、セツとロワメールは凍りついた。

 ロワメールは反射的に名付け親の顔色を窺うが、セツはサッと目をそらす。



「ロワメール……やっぱりさっきのなかったことに……」

「ダメダメダメ! 絶対ダメ!」

 前言をひっくり返したセツに、ロワメールは焦って取り縋る。

 そういったことを極端に面倒臭がるセツは、氷室で眠ると言い出す始末だ。



「カイの馬鹿! なんとか騙してキヨウに連れて行こうと思っていたのに!」

「おい!?」

 セツの性格を熟知したロワメールの台詞は、聞き捨てならなかった。



 しかしロワメールも、引き下がれない。

「ダメだからね! ぼく、もう起きてるって聞いたから!」

「そうだけど、勘弁してくれよ……」

「嫌だ! 起きてるって言った!」



 いつしか陽は沈み、空は藍の色に染まっていた。惜しげもなく振りまかれた砂金のごとく星が瞬き、東の空には煌々とした月が昇る。

 船が、波を切っていた。

 空高く輝く銀の月が世界を見守り、穏やかに時は進む。

 夜の帳が、優しく皇八島を包み込んでいた。



                   À suivre……


やさしい魔法使いの起こしかた、第一話旅立ち編、これにて終了です。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました! 読んでいただけて本当に嬉しく、感謝しかありません。

☆ポチッとな、ブックマークいただけましたら、小躍りして喜びます。

物語は第二話、ギルド本部編に続きます。大嫌いな魔法使い達に囲まれて、果たしてロワメールはどうするのか?

明日、引き続き投稿予定しております。そちらも是非ご覧くださいm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
青維月也 様へ 第一話、おもしろかったです!(´▽`) 第二話からも、楽しみです
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