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20 セツ、逮捕

「上手く化けたようだが、オレの目は誤魔化せないぞ!」

 眉を吊り上げた騎士が、セツの前に立ちはだかった。



 荒々しい物言いに、港町の賑わいが一気に不穏なものにかわる。



「に、睨んでも無駄だからな! お前を隊舎に連行する!」

 意味がわからずセツが眉をひそめると、騎士は怯むも、体面に賭けて一歩も引かなかった。もう一人の騎士は、オドオドと両者を見比べる。



 周りの通行人が、何事かと遠巻きに突然の逮捕劇を見守った。



「どういうことです? 説明してください」

 カイが両者の間に割って入る。王子の名付け親にあらぬ嫌疑がかけられているなら、側近筆頭として見過ごせなかった。



「あなた方は、この男と契約をされている方ですね。詳しい話を聞きたいので、ご同行願います」

「なんの説明にもなっていませんね。同行を拒否します。セツ様も行く必要ありませんよ」

 キッパリと要求をはね除ける。

 宮廷の重臣と日々議論を交わす第二王子の側近筆頭が、若造騎士に後れを取るわけがなかった。



「理由も告げず無理矢理連行しようとは、騎士の横暴も甚だしい!」

 カイの一喝に、若い騎士は狼狽える。



「お、おい、レニー。いきなり逮捕はマズいって。まず隊舎で話を聞いて……」 

 明らかに格が違う相手に、もう一人の気弱そうな騎士が怖気付いた。



「大丈夫です! オレを信じてください、マティス先輩! こんなあからさまな証拠を身に着けた奴、現行犯で決まりです」

 目つきの悪いアイスブルーの瞳と格上のカイに腰が引けながらも、それでも若い騎士は忠実に職務を遂行する。

 


「お前を黒のローブ偽造、及び着用の現行犯で逮捕する」



 なんの前触れもなく、唐突に突然に、夏の陽光が煌めく港町でセツは逮捕されたのだった。








「この暑いのにフードを目深に被って怪しい奴だと思って見れば、首元のボタンは黒、ローブの裏地も黒。ずいぶんお粗末な偽造だな!」

 若い騎士レニー・ロテュスは、滔々とセツの罪を並べ立てる。



 銀髪の青年は、どう見てもそこらのショボい貴族ではなく、位の高い貴族だった。扱いは丁重に、そして最大限の便宜が図られ、要望通り取り調べに同席している。



 ロワメールとカイはそこで繰り広げられる荒唐無稽な尋問に、開いた口が塞がらなかった。

 お粗末なのは彼の知識である。

 この騎士は、セツを魔法使いになりすました詐欺師だと言い張ったのだ。



 ロワメールは最初、落ち着いて説明すればわかってもらえると思った。けれど、どれだけ彼は本物だと言っても、この騎士は信じないのだ。



 ——いえ、こいつは偽者ですよ。そんなの一目見ればわかります。オレは、魔法使いにはちょっと詳しいんですよ。

 自信満々に胸を張るが、どの辺りがちょっと詳しいのか教えてもらいたい。



 シノンのギルド本部から来たと説明しても、聞く耳を持たない。

 ——こいつの他にも仲間がいるんですね! まさか組織犯罪だったとは……!

 と、妄想を膨らませる。

 どうあっても、セツが偽者だと譲らなかった。



 ——騙されてお辛いでしょうが、どうか真実を受け入れる勇気を持ってください。

 挙げ句にロワメール達まで、現実を認めない臆病者扱いだ。



 ——あ、お礼なんて結構なんで! オレは、あなた方を守りたいだけです!

 熱い正義感に燃えているが、この分だとその内、自分自身に火の粉が飛んで炎上するのは間違いなかった。



「いいか、魔法使いのボタンは三級が銅色、二級が銀色、一級が金色だ。黒はない。しかもローブの裏地だって、属性によって赤、青、白、黄色と決まっていて、複数の属性を持っていても黒にはならないんだよ! そんなことも知らないで、よく魔法使いに化けようと思ったな。こんなこと、常識だぞ?」

 どの口が言うか。



「まさか、黒のローブの偽造が法律違反なのも知らなかったなんて、言い逃れするつもりじゃないだろうな?」

 騎士はギャーギャー騒ぐが、セツはどっしりと椅子に座り、とても尋問を受けているようには見えなかった。



「その調子じゃ、俺が魔法を見せても、手品だって言うんだろうな」

「よくわかってるじゃないか。お前みたいな、人を騙して金を盗み取ろうするクズは、準備だけは余念がないからな。どうせそのローブや着物の中に、しこたま手品のタネを仕込んでるんだろ!」

 お見通しだと言わんばかりに、見当違いに得意げだ。



「いいか、この際だから教えてやるが、オレは魔法使いギルド、コウサ支部長と家が近所で、子どもの頃から知り合いなんだ! だから、魔法使いには詳しいんだよ!」

 セツはやれやれと、溜め息を零す。



「なにを言っても時間の無駄だな。ギルドのコウサ支部長を呼べ」

「やけに自信満々だな。得意の口八丁で丸め込むつもりだろうが、残念だったな。イスマエルおじさん……コウサ支部長は、このコウサで一番強い魔法使いだ! お前なんかに騙されるもんか!」

 レニーは手隙の同僚にギルドへの使いを頼み、自身はセツの前に座り込んで、逃げ出さないように監視する。



「セツ様、しばしお待ちください。もうそろそろ、この茶番も終わるはずです」

 調書を取る際にカイが名乗った途端、相棒のマティスは慌てて部屋を飛び出した。カイの名が然るべき人間の耳に入れば、飛んで来るはずである。



「いいさ。俺の身分は、支部長が保証する」

 面倒臭くなったセツはテーブルに頬杖をつき、待ちの姿勢だった。



「なんとでも言え! オレは騙されないからな!」

「君のは騙されないではなく、聞く耳を持たないって言うんだよ」

 しかし、ロワメールはセツとは違う。セツを偽者と決めつけ、暴言を繰り返す騎士に付き合っていられるほど、大人ではなかった。



「ごめん。もう我慢できないや。いいよね、カイ?」

「お好きに」

 痺れを切らしたロワメールが立ち上がる。



 ロワメールがここまで沈黙を守ってきたのは、王子である彼が口を挟めばおおごとになると思ったからだ。

 けれど、それにも限界がある。



「まさか騎士も、ここまで頭が悪いとは思わなかった。この国の騎士はもっと質が高いと思っていたのに、がっかりだよ」


 刀の柄に手をかけ、ロワメールは真っ直ぐレニーに歩み寄った。

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