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4ー30 王子様のお財布事情

 心配性の名付け親は、王子の脱走を快く思っていないのは明らかだった。

 返答を一つでも間違えれば、雷が落ちるであろう。

 しかし、ロワメールは怒られない自信があった。


「大丈夫! だってぼく、お金持ってないから!」

 胸を張るが、なんとも悲しい理由である。


 財布がなければスリにあう心配もないし、無駄遣いもしようがない。

 これなら怒られようがないだろう、ということらしい。

 

 かと言って、この悲しい境遇を甘んじて受け入れているわけではなかった。

 ロワメールだって、財布が欲しいとカイに訴えたのだ。


 ――財布ですか? いいですけど、必要ですか?

 ニコニコと、いつもの笑顔が逆に怖い。


 ロワメールは基本、王宮内で過ごす。王宮の外に出る時も、側近、近衛騎士を連れての外出が大前提である。


 お忍びで城下へ散策に出るとしても、それはかわらない。その際、なにか求めたとしても支払いはお付きの側近が行うわけで、つまり、ロワメール自身に財布は必要なかった。

 財布がいるとしたら、側近を撒いて王宮を抜け出す時だけである。


 ――いつ、財布がご入り用になるのでしょう? ああ、もしかして、どこかのご令嬢とデートですか? それでしたら、すぐにご用意いたします。ですが、どこのご令嬢かお教えくださいますか? こちらも色々と準備がありますから。

 ずい、と詰め寄るニコニコとした笑顔が、本当に怖い。


 ――い、いや、やっぱりいらないかな。ぼくの勘違い……。

 ロワメールはあっさり前言撤回した。


 ――そうですか。それは残念。

 カイは相変わらずニコニコと笑顔のままだ。

 財布なんて渡そうものなら、脱走を認めたも同然である。


 けれど残念ながら、ロワメールは手元不如意だろうとたいして問題なかった。何故なら、遊興に耽りたいわけでも散財したいわけでもなく、たんに一処に閉じこもっているのが性に合わないだけなのだ。

 だから手持ちがあろうとなかろうと、王宮を抜け出すのである。


「……財布、買いに行くか」

 セツは、そんなロワメールの性格をよく理解していた。


「いいの!?」

 災い転じて福となす。

 まさに危機的状況が一転、どころか財布ゲットである。


「お前は止めても城下に出るだろ。それなら、多少手持ちがあった方がいざという時に安心だ」

 それに王子様が一文無しは、可哀想である。


「店はどこだ?」

「とりあえず、商業街に行こう」


 キヨウは最奥に王宮、春分通りを隔てて貴族街があり、次いで商店が連なる商業街、そして平民の家々が並ぶ区域が下キヨウと呼ばれていた。ちなみに王宮、貴族街までが上キヨウ、商業街が中キヨウと呼ばれる。


 商業街で貴族と平民の生活圏が分離され、その商業街も貴族御用達の高級品を扱う店が集まる上商業街と、平民用の下商業街に分かれている。


「へえ、今はそんな風になってるのか」

「そう言えば、セツはキヨウはいつぶりなの?」

「何年ぶりだ? 前回も前々回もその前も来てない……百年ぶりくらいか」


 今更ながらにスケールが違いすぎて、ロワメールの笑顔がちょっと固まる。三百年生きているのを、こういう時に強く実感する。


「街並みはかわってないけど、様子はだいぶん違うな」

 周囲を見渡すアイスブルーの目には、百年前の景色も見えているのだろう。


(セツには、この国はどう見えているんだろう?)

 王族として、皇八島が少しでもよくかわっていることを願わずにはいられない。

 良くしていくことが、ロワメールの務めでもあった。


「三百年前と、この国はかわった?」

「かわったよ」

 通りを見渡し、セツは遠い目をする。


「人が増えて、物が増えて、道が整備され、建物も立派になった」

 それはラギ王家の治世が安定し、平和な証拠だった。


「ずいぶん豊かになった」

 答えてから、セツは少し笑う。

「国王にも、同じことを聞かれたよ」


「ぼくには政治はまだ難しいけど、父上は素晴らしい為政者だと思う。民のため、国のためを常に考えている。その成果が、今のこの国だよ」

 ロワメールは誇らしそうだった。


(この顔を、国王に見せてやりたいな)

 ロワメールに愛されている自信がなく、メソメソと泣いていた国王は、この顔を見たらなんというか。


「じゃあ、お前自慢の、この国の中心を見て回ろうか」






 ミエルはヒューイと店の前で待っていてもらい、ロワメールの財布を購入した。

 上商業街の紳士用品店は貴族御用達だけに、品揃えも質も良く、財布はあっさり決まった。

 上質だが、シンプルなデザインの黒い財布である。


「セツ、ありがとう!」

「無駄遣いするなよ」

 そう言って手渡された財布は、気の所為ではなく重い。不思議に思い中を覗いて見ると、何故かすでにお金が入っている。

 怖くて正確な数は数えられなかった。 


「多い多い多い!」

 小遣いにしては多すぎる。庶民の昼ごはん代は五百ファランから千ファランほどが相場だ。ざっと五百食分はあろう。


「あっても困らんだろ」

「こんなに使わないよ!」

「いいじゃないか。俺が、お前に小遣いをやりたいんだ」

 そう言って、笑顔で頭を撫でられると、強くは言えなくなってしまう。


「ぼくだって働いて、自分のお金あるのに……」

「どこにあるんだ?」

「どこって……」

 はて、どこだろう?

 思わずロワメールは首を捻ってしまった。


「たぶん……国庫……じゃなくて……、カイが管理してくれてると……」

 これまで使うことはおろか、手にしたこともないので、結構大事なことを失念していたのではないか。王族として、それなりの資産はどこかにあるはずである。そしてその資産は、誰かが保管、管理してくれているはずだった。


「セ、セツのお金はどうなってるの?」

「俺のはギルドが管理してくれている」

「だ、だよねー」

 魔法使いギルドは対価にうるさいだけあり、金融関係は非常に手堅い。


「とりあえずその金がなくなったら、またやるから、ちゃんと言えよ」

 甘い名付け親は、どこまでもどこまでもロワメールを甘やかすのだった。


 


❖ お知らせ ❖


 読んでくださり、ありがとうこざいます!


 4ー31 は、10/22(水)22:30頃に投稿を予定しています。


 急遽、一話追加しようと思い立ち、まだエピソード名が決まっていません(>_<)

 現在鋭意執筆中です!


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