4ー22『月光銀糸』の七不思議
「七不思議って、大袈裟だなぁ」
ロワメールが苦笑する。
いくらそっくりといっても違う人間なのだから、ロワメールにとっては見分けられて当然である。
「だから、それができるのが、家族以外ではロワとヒショーにぃと陛下だけなんだってば」
「にしたってさ、七不思議はさぁ」
「いやいやいや」
取り合わないロワメールに、双子が食い下がった。
「七不思議、その一」
と言って、双子が一本指を立てる。事前に打ち合わせをしていたわけではあるまいに、息ぴったりだ。
「『月光銀糸』は、直系王家にしか生まれない」
直系の王族にしか『月光銀糸』の子どもが生まれない仕組は未だ謎のまま、王家の特異性を表している。
それに関しては、ロワメールも認めざるを得なかった。
「それは、まあね。不思議だけど」
近衛騎士たちは「またなんかはじめたよ」といった顔で諦め半分に付き合い、アラン隊長は額を押さえている。双子の唐突さはいつものことだった。
「七不思議、その二」
双子が指を二本立てる。それでは合計四である。
「『月光銀糸』のカリスマ性」
「求心力ってーの? 『月光銀糸』は人を惹きつけるじゃん」
「父上と兄上はともかく。ぼくにそんなのないよ」
自覚がないのか、ロワメールは首を傾げた。
「なに言ってる?」
「カイとオーレリアンが側近だろーが!」
「あの二人を、どれだけの奴が欲しがってたか!」
二人の有能さは、ロワメールが誰よりも知っている。
そう言われると、黙るしかなかった。
「七不思議、その三」
「『月光銀糸』はみんな頭が切れるよね」
「そーそー。バカはいない」
これにはロワメールが、あっさり答えを出す。
「そりゃあそうだよ。全国から選りすぐりの教師に勉強教えてもらってるんだから」
それで知識は身につくだろうが、双子が言いたいのは知恵の方である。ロワメールもそうだが、地頭がいいのだ。でなければそもそも、優秀な教師陣の授業についていけないし、国を治めるなどできない。
頭の悪い統治者を戴く国ほど、不幸なものはない。
「七不思議、その四」
「異常な身体能力の高さ」
「異常って、ひどくない?」
ロワメールがあんまりな言われように文句をつける。
「いや、十分異常でしょーが!」
「近衛より強いってどんだけよ!?」
これには周りの近衛騎士も頷いた。全面的に同意している。
ロワメールは少々部の悪さを感じた。
「そりゃあ、ぼくは体動かすのは好きだし、ちょっと得意かもしれないけどさ、剣術は小さい頃からやってるし。あれじゃない、英才教育ってやつ!」
無理があるのか、近衛騎士たちは白い目でロワメールを見る。
ここにいる騎士のほとんどは、子どもの頃から剣術を習い、近衛騎士を目指してきた者ばかりだ。つまりロワメールと育った環境は同じである。そのうえで現在の力量差だ。
近衛騎士たちの視線が痛いのは、致し方ない。
「ロワだけじゃねーよ。ヒショー兄も陛下も、剣の腕は人並み以上だろ」
「それは……そーかも、だけど……」
父も兄も、王族の嗜みというだけでなく、いざという時の護身のために剣を使える。二人共、ロワメールのように普段から体を動かしている訳ではないが、運動神経はよかった。
「七不思議、その五」
「『月光銀糸』はみんな美形」
これにも、近衛騎士たちは大きく頷いた。
ロワメールだけでなく、ヒショー王太子もキスイ国王も、整った顔立ちをしている。
「ま、だけどこれは、王家のみならず、高位貴族あるあるだよね」
「権力と財力ある所に美女あり」
不思議でもなんでもなく、世の常である。代々の国王が美女を娶ってきたなら、自然と美形な家系になるはずだ。
「ロワの場合は、シャルル王妃譲りだけとな」
伯母に懐いていた双子は、白い歯を見せて笑う。この双子に限らず、宮廷の多くの者が、未だにロワメールに亡きシャルル王妃の姿を見ている。
「七不思議、その六」
「オレらを見分けられる」
双子が得意満面に告げるが、ロワメールは肩透かしを食らった気分だった。
「それが六なの?」
真面目に聞いていたが、どうも双子の適当であるようだ。
「そ。オレらを見分けられるのがどんだけスゴいことか、ロワはわかってね―だけ」
「この国で、オレらを間違えないのは、うちの家族と『月光銀糸』だけだよ」
「スゴくね?」
そう言われるとスゴい気がしないでもないが、単なる双子の気持ちの問題な気もする。
「そしてー、最後!」
「デュラララララ、ジャン!」
「七不思議、その七!」
擬音でのドラムロールのあと、双子は七本指を立てる。くどいようだが、それでは十四である。
「単一王家による1600年余の国家統治!」
双子は両手を広げて大々的に発表するが、ロワメールはピンとこなかった。
「えーと、なにそれ? そんなの当たり前じゃないの?」
「オレらもそー思ってた」
「でも、外の国の歴史を見ると、これが違うんだな」
双子はウンウンと頷き合う。鏡写しのようにタイミングも角度も同じだ。
「外の国って、色々統治者代わってるじゃん? それこそ王位簒奪とかさ、侵略とかさ」
「皇八島みたいな国、他にねーの」
「始祖王ジンから、ずーっとラギ王家が国を治めてるじゃん」
『皇八島書記』には、始祖王から連綿と続く王家の歴史が綴られている。過去には暗殺された国王もいたが、それでもラギ王家は途絶えず、この国を統治し続いていた。
それはこの国が外の国から攻められ難い群島国家だからかもしれないが、それでも特筆すべき事実である。
「『皇八島書記』の最初の方は嘘くさいけどさ、ラギ王家が続いてきたのは紛れもない事実じゃん」
「な? そう思うと、すごくない?」
「そう、かも?」
納得したようなしてないような、ロワメールは微妙な顔である。
「以上、オレら監修『月光銀糸』の七不思議でしたー!」
「ご清聴、ありがとーございましたー!」
聴衆の反応などお構いなしに、マルスの双子は優雅にお辞儀をしてみせた。
❖ お知らせ ❖
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4ー23 未来への一歩 は、8/27(水)22:30頃に投稿を予定しています。




