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4ー20 近衛騎士隊の禁句

 王家直属の近衛騎士隊は、エリート集団である。

 貴族階級出身であることが絶対条件であり、実力重視の狭き門をくぐり抜けた者のみが赤い隊服に袖を通すことを許される。


 国王一家守護の任に就く彼らは、貴族、庶民問わず、憧れの的だった。

 煌びやかな隊服に身を包んで衆目を集める彼らだが、平和な皇八島で活躍の機会は少なく、お飾りの部隊などと一部の騎士からは皮肉られる。しかし、その腕前は本物だ。


 ノアとノエも、その剣技の鋭さは他の追随を許さない。二人が連携すれば強さは跳ね上がり、この国最強の騎士アランに迫る。


 ノアとノエは訓練場の中央で、開始の合図を待っていた。

 対するセツは、いつもとかわらず。気負いなく立ち、双子を眺める。そこに緊張はなかった。


 にわかに始まった近衛騎士隊屈指の強者マルスの双子対最強の魔法使いの好カードに、近衛騎士たちは興奮を隠せない。訓練場の端に寄って手合わせを観戦する姿勢で、今か今かと開始を待った。


 アラン隊長が中央に進み出、両者の間に立つ。向かって左手にセツが、右手に双子が距離を取って剣を構えていた。


 秋晴れの空のもと、濃い影が地面に落ちる。

 ミエルがなにかを感じ取ったのか、ロワメールの腕の中に戻ってきた。


「はじめ!」


 アラン隊長の掛け声とともに、双子が素早く飛び出す。この二人に作戦は不要だった。

 息の合った動きで大きく一步を踏み出す。


 剣の切っ先は、すでにセツに狙いを定めていた。その俊足で魔法使いに迫り、左右から同時に、剣を振り下ろす――。

(魔法使いなんて、詠唱中は無防備。楽勝!)


 双子が勝利を確信し、駆け出した足を地面に降ろしたその刹那、ドンッ!! と空気が揺れた。

「どわぁッ!?」


 双子はおろか、審判役のアラン隊長も観戦していた近衛騎士たちも目を瞠る。

 空気を震わす振動とともに、練兵場が氷柱に埋め尽くされていた。


 剣山のように先の尖った氷柱が、通り抜ける隙間もなく地面から伸びて双子の身動きを封じる。のみならず、氷柱から垂直に伸びた斧のような刃先が、双子の喉元に突きつけてられていた。


 言葉もなく、冷たい汗が額を流れる。

 双子は、ゴクリと息を飲み込んだ。もし一歩でも踏み込んでいれば、鋭利な氷斧が彼らの首を切断していただろう。


 一瞬の出来事に、観ている騎士たちも声を失う。

 吹き抜ける風が氷柱の冷気を運び、騎士たちの背筋をゾクリと冷やした。


「そ、そこまで! 勝者、マスター・セツ!」

 静寂を破り、我に返ったアラン隊長が勝利を宣言する。すると、氷柱はみるみる溶けて消えていき、地面には水たまりすら残らなかった。


「え!? なんで!? へんじゃん!?」

「呪文唱えなかったじゃん!」

 自由を取り戻した双子は、目を白黒せさる。


「俺に、詠唱は必要ない」

 セツは一歩も動かなかったどころか、指一本動かしていなかった。


 魔法使いと戦うなら、勝機は呪文の詠唱中。中、長距離戦闘の魔法使いに近付き、無防備な詠唱中に攻撃する。圧倒的戦力ながら近接戦が苦手な魔法使いには、騎士の間合いで戦えば勝てる、そのはずだったというのに。

 双子の目算は、脆くも崩れ去った。


 呪文を唱えることなく、これだけの魔法を発動させる――。

 自分たちが手も足も出ないとわかった瞬間、双子は興奮を隠さなかった。

「「スッゲエェェェッ!!!」」


 魔法使い唯一の攻略法すら、マスターには通用しない。

 それは、弱点がない、ということだ。


 再戦をするまでもなく、明確になった実力差。どう足掻いても自分たちは敵わない。

 完全無欠の、最強の魔法使い。 


「「カッケエェェェッ!!!」」


 戦う前に、勝敗が決する。

 あまりにカッコいいではないか。


「呪文必要ないからマスターなわけ!?」

「どんな魔法も、呪文なし!?」

 ノアとノエは、一瞬でセツに夢中になった。

 セツに駆け寄り、子どものように目をキラキラと輝かせる。


「マスターっていうのは、四属性の魔力を持つ魔法使いのことだよ」

 答えたのはロワメールである。肩にはちょこんとミエルが乗っている。魔獣だけに、魔力に反応して、文字通り高みの見物をしていたのだ。


「四属性ってことは……」

「火、水、風、土、使えるってことですか?」

 双子だけでなく、マスターの一撃に魅了された騎士たちがセツを取り囲む。


「そうだよ。一級以上が使える無属性の魔力魔法もね。だから、マスターのローブの裏地は、全ての色を表して黒なんだ」

 指でちょいちょいと子ネコを撫でながらロワメールが説明すれば、双子はさらに顔を輝かせた。


「なにそれ!」

「カッコよすぎだろ!」

 近衛騎士たちだけでなくリアムやヒューイですら、羨望の眼差しをセツに注いでいる。


「ロワの名付け親、カッコよすぎ!」

 この言葉は、ロワメールにとってなにより嬉しいものだった。


「そうでしょ? ぼくの名付け親、一番強くてカッコいい魔法使いなんだ!」

 傍目にも明らかに、ロワメールは上機嫌になる。


 子どものように素直に自慢する姿は無邪気で、名付け親への純粋な思慕に溢れていた。

 セツは頬を指で掻きながら、苦笑している。


「こんなけ名付け親が強かったら、オレら形無しじゃん」

「形無しどころか、用無し?」

 これほど完全無敵な魔法使いがそばにいるなら、近衛騎士の出番はない。

 ノアとノエが大袈裟に肩を落とした。


「ですが、ロワメール殿下の場合、そもそもおれたちより強いですから」

 カミーユがボソリと漏らした一言が、追い打ちをかける。その真実は、傍若無人な双子すら黙らせる威力があった。


「カミーユ、それ言うなぁ!」

「言っちゃダメなやつぅぅぅ!」

 双子以外からも非難轟々である。


「あああああ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 心の声がつい口から出て!」

 カミーユがみるみる小さくなるが、先程の発言は、近衛騎士隊にとっては禁句である。


❖ お知らせ ❖


 読んでくださり、ありがとうこざいます!


 お盆休みということで、今週は週二投稿いたします。

 4ー21 やっぱりマスターは非常識だったりする  は、8/15(金)21:30頃に投稿を予定しています。

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