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3ー63 文句はこちら

 ギルド祭の締めくくりは、人気投票の結果発表だった。

 会場は魔法訓練場のひとつで、四角いグラウンドの片側にステージが設けられている。


 ロワメールたちは特設ステージの袖に設けられた椅子に座って、開会を待っていた。


「おおごとだな」

 集まった人の多さに、セツが呆気に取られている。会場は大勢の人で賑わい、熱気が満ちていた。


「人気企画なんですよ」

 相変わらず微妙な顔をしているセツに、リュカが苦笑する。


「ギルドの経営戦略のひとつです」

 舞台袖で待機しているフレデリクがニッコリと笑って、ちゃっかり話に入ってきた。

 布で外から目隠しされた袖には他に、アナイス、ジルとジスランもいる。


「殿下、ギルド祭は楽しめましたか?」

「ええ。対抗試合は迫力がありました。あと、お肉が美味しかったです」

「それはようございました」

 社交辞令ではない素直な賛辞に、アナイスも嬉しそうに目を細める。まるで祖母と孫のやり取りのようだ。


「ジュール、対抗試合はよく頑張ったな」

「ありがとう、姉さん」

 レオール姉弟の会話には、カイが混じる。


「ジル殿は、対抗試合にはでないんですね」

「ああ。私は司だからな」

「司はそもそも一番強い人なので、対抗試合には参加しないんです」

 カイとしては華麗に戦うジルを見たかったようで、残念そうだった。


「それと、ランス先輩みたいな属性複数持ちの人も出場しません」

「それはどうして? 複数持ちの魔法使いは強いんじゃなかったかな?」

「観客に、どの属性かわかりにくいからな」

 ジュールとジルから説明を受け、カイも納得する。


「ジスラン、起きなさい」

 レオール家の長兄は、静かだと思ったら椅子でウトウトしていた。


「今日はよく働いた。十日分くらい働いた」

「対抗試合はよくやってくれたけど、それとこれは別。もうすぐ出番よ」

「まだ時間があるだろう」

 なんとか寝ようとする弟子と、起こそうとする師匠と。


(本当、魔法使いってまとまりないな)

 たいして人数はいないのに、てんでばらばらだ。


 対抗試合では起きていたミエルも今では睡魔に負けて、ロワメールの膝の上で眠っている。そのミエルの背中を撫でながら、不覚にも、このまとまりのなさを楽しいと思ってしまうロワメールだった。






「お集まりの皆様、たいへん長らくお待たせいたしました。ただ今より、人気投票の結果発表を行います!」

 風魔法で音楽が会場に流れ、特設ステージにドレッシーな服装の司会の男女が立つ。対抗試合とは違い、どこか厳かな雰囲気だ。


「なあ、あれは魔道具か?」

 セツが、司会の持つ短い棒状の道具に目を留める。二人共、手に持ったその棒に向かい喋っている。


「そうっす。えーと、集音拡声器、だったかな? あそこに集まった声を、風魔法で拡声させてるんですよ」

「ほお。便利な世の中になったな」

 リュカの説明に、セツが感心した。三百年前にはなかったものだ。四属性対抗試合でも、実況のサミュエルが使っていた魔道具である。


「それでは、早速発表いたしましょう。第十位です」

「妹にしたい魔法使い第二位! 歌って踊れる水使い、ジュリエット! 昨年の十二位から二ランク上げてのランクインです!」

 観客席から、野太い歓声が上がった。ジュリエットに投票したファンのようだ。


「続きまして、第九位です」

「四属性対抗試合でも、優雅に舞ってくれました! 風使い、ジュヌヴィエーヴ・シス・ローズ!」


 歓声と熱気に包まれ、発表が行われていく。

 八位には土司ガエル、七位にセツを驚かせた歌い手アンリが入り、六位は歌姫セリーヌと続いた。


「ではここで、惜しくもランクインを逃した十一位から十五位を一気に発表しましょう」

「第十一位は昨年に引き続きこの方、先日の魔者討伐の功績から『拳闘士』の二つ名が与えられた、土使いリュカ」


「いやぁ、いつもあと一歩が届かない」

「余計なお世話だ!」

 男性司会者の一言に、リュカが噛みつく。男性は、袖から聞こえたリュカの声にギョッとした。


「リュ、リュリュリュリュカ先輩!? そこにいたんですか!?」

 明らかに狼狽えまくって素が漏れる司会者に、観客席が笑いに包まれる。


「コホン。失礼しました。では、続いて第十二位」

「弟にしたい魔法使い第二位、併せて妹にしたい魔法使い第一位、将来有望魔法使い第三位、秘めたるポテンシャルは計り知れない、レオール三兄弟末弟、水使いジュール・キャトル・レオール!」


「初登場で十二位、大健闘です」

「ゆくゆくは、十位圏内も狙えそうですね」


「弟にしたい、はともかく、妹にしたいってなに? しかも一位って……」

 司会者二人にベタ褒めされ固まるジュールの肩に、王子様がポンと手を置く。満面の笑顔でジュールの快挙を喜んだ。


「ようこそ。性別を超越した世界へ」

「い、いやだ〜!」

 泣き崩れるジュールをおいて、発表はどんどん続く。


 十三位風使いセレスト、十四位土使いクロヴィス、十五位が将来有望魔法使い第一位のランスとなっていた。


「さっきから言ってる、将来有望とかはなんだ?」

「魔法使い新聞で行われたアンケート結果ですね」

「……お前ら、たいへんだな」

 セツにしみじみと同情され、リュカが大きく同意する。


「まったくですよ。マスターから司に言ってやってください」

「俺は、ギルドの運営に口は出さんよ」

 素気なく断わられてしまった。


「リュカさん、魔法使い新聞に関しては広報課に、人気投票の文句はギルド祭の実行委員会に言わなきゃダメですよ?」

 意外な言葉に、一同が揃って新人水使いを見やる。


「いや、文句っつーか。それよりジュール、文句とかあるのか?」

 リュカはたいして親しくないが、それでもジュールの口から文句なんて出るとは思わなかった。


「あります! ボク、マスターに投票したいのに、毎年ダメって言われるんです!」

 筋金入りのマスターフォンは、プンプンと憤慨している。

 ギルド祭は属性対抗の色合いが濃いので、全ての属性を持つマスターは投票対象外とされているのだ。


「俺を巻き込まないでくれ」

 心の底から、この騒ぎには巻き込まれたくないと願うセツだった。

  


❖ お知らせ ❖


 読んでくださり、ありがとうございます!


 3ー64 人気投票結果発表 は2/12(水)の夜、22時30分頃に投稿を予定しています。


2025/02/12、エピソード名を変更し、本文加筆修正しました。

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