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3ー61 人に歴史あり

「はあー! 凄かったね! 想像以上だった!」

「でしょう?」 

 興奮するロワメールに、リュカは自慢げに笑ってみせる。


「なかなかだったな」

 セツも満足そうだ。


「全魔法使い参加じゃないですけど、試合出場の四人がトップクラスの実力者なのは間違いないですよ」

 今日の結果は、ジュール、ジュヌヴィエーヴ、フレデリクが一勝二敗、ジスランが三勝無敗で圧勝を収めていた。


「にしてもジスランの奴、ヤバかったなぁ。なんなんだ、あの強さ。やっとヤル気出したって感じか」

 頭の後ろで手を組み、リュカが感想を漏らす。今日の対抗試合、なんと言ってもジスランの強さが目を引いた。


「ジスランなら、あれくらい普通だぞ」

「マジっすか!? あいつ、今まで手ェ抜いてやがったな」

 セツが意外そうに言えば、かー、気に食わねー、とリュカは正直に顔をしかめる。


 四人は人混みの中を流れに乗って進んでいた。対抗試合が終わり、人気投票結果発表までが一番賑わう時間だ。

 人出も多く、半分夢見心地のミエルは、安全のためにロワメールの手の中である。


「あの黒いケープって、もしかして?」

 ごった返すメインストリートで、やけに目に付くのは十代の少年少女たちだ。黒いケープを着た彼らをロワメールは目で追った。


「魔法学校の生徒です。明日から新学期が始まるんで、一日早くシノンに戻って――」

 唐突に、リュカの言葉が途切れた。それを合図にしたかのように、一連の出来事は起こる。


 リュカが飛び出す直前、セツがトン、と爪先を打ち鳴らす。すると突然、四人の目の前で男の悲鳴が上がった。

「うわあああああ! なんだこれ!?」


「うおっ……とっと!」

 まさにその男に掴みかかろうとしていたリュカが、たたらを踏む。いきなり地面から伸びた土の柱に、男が首元まで埋まっていた。


「カイ、確保」

 それと同時に、ロワメールに命じられたカイが、通行人の中から若い男の腕を掴んだ。男が捕まったと見るや、その場を離れようとした男の腕を後ろ手に捻り上げる。


「痛っ! 痛いだろ! なにすんだ、離せ!」

「なんだこの土! どうなってんだ、おい!」

 瞬く間に、周囲が騒然となる。


「マスター、気付いたんすか。若様も」

「まあな」

「だってぼく、騎士隊とよく一緒に剣の稽古してるから」

 セツとリュカが反応したのがスリの実行犯、カイが捕まえたのがスッた財布を受け渡される仲間だった。


「リュカも速かったね」

「マスターいますけど、オレも一応若様の護衛役っすからね。不審な動きしてる奴は見逃しませんよ」

 とは言っても、リュカの出る幕はなかった。マスターはともかく、王子様にまで不審者確保に協力されては警備も形なしである。


「さて、お前ら、よくもギルド本部でふざけたマネしてくれたな。いい度胸じゃねぇか」

 リュカがバキバキと拳を鳴らし、捕らえたスリに凄む。硬い拳は、見るからに人を殴り慣れていた。


「魔法使いを敵に回すとどうなるか、わかってねぇみてぇだな」

 年季の入った恫喝は明らかに場慣れしており、男たちは己の愚かさを知ったが、後の祭りだった。


「ひえー!」

「ぼ、暴力反対!」

 青ざめ、ビビり散らす。


 そこに騒ぎを聞きつけた警ら中の魔法使いが駆けつけるが、彼らもまた、リュカを見るなり悲鳴を上げた。

「ひえっ! リュ、リュカさん!? お疲れ様です!」

「遅い!」

「すみません!!」

 リュカに一喝され、直立不動の姿勢となる。おびえる魔法使いたちを見れば、リュカの立場は一目瞭然だった。


「お前ら、なにやってんだ! こんな奴ら野放しにしてたら、せっかく祭りに来てくれたお客さんが、安心して楽しめないだろーが!」

「はい! すみません!」


「クロヴィス、しっかりやれ!」

 リュカに叱られ、リーダー格らしい魔法使いは目に見えて落ち込んだ。

 ずいぶん綺麗な面差しの眼鏡をかけた土使いは、二級三級魔法使いの中で一人だけ、一級の金バッチをつけている。


「にしても、これ、いいっすねー」

 リュカはセツに向き直ると、ポンポンと土柱を叩いた。中のスリの威勢は、とっくに吹き消えている。

「だろ? 無傷で身動きを封じるには、これが最適なんだ」


 こちらを盗み見てはソワソワしていた警備の魔法使いたちは、初級中の初級魔法でマスターがスリを捕まえた聞くと、我慢の限界に達してドッとセツに群がった。


「あの! おれ水使いです! 水魔法なら、どういったものが捕縛に有効でしょうか!」

「風魔法でもいいのありますか!?」

「水魔法なら……」


「だー! もう! マスター、ここで授業始めない! お前らも質問すな! 仕事しろ仕事!」

 リュカに叱られるが、二級魔法使いも食い下がった。

「でも、こんな機会でもないと、二級はマスターと話しもできないんですよ!」

「このチャンスを逃してなるもんか!」

「通行の邪魔になるだろーが!」

 結局リュカに蹴散らされる。


「クロヴィス、とっとと引き上げさせろ」

「はい。ご協力感謝します。殿――グッ」

 スリを引き渡すカイとロワメールに頭を下げるクロヴィスの後頭部に、リュカのゲンコツが飛んだ。


「若様、な」

 人だかりのど真ん中で殿下と呼びかけようとは、なんと阿呆な後輩か。頭が痛む。


「あの人たちどうするの?」

 リュカに倣い、ロワメールも連行されるスリを見送った。

「悪さしようなんて二度と思わないよう、うちの司にこってり絞られてから、騎士隊に引き渡しますよ」


 魔法使いに逮捕の権限はない。法的には、あくまで善意の協力者である。

 警備に捕らえられた者たちは、強面土司にたんまりとお灸を据えられるようだ。


「で、さっきの人は、リュカの弟子?」

「後輩……っつーか、弟分みたいなもんです」


 意味ありげな視線に、リュカは警戒も露わに身構えた。

「なんすか?」

「リュカのこと、恩人って言ってた。他にもリュカに助けられた人はいっぱいいるって」

「なっ……いつの間にそんな話をっ」

 リュカは不機嫌を装ってそっぽを向く。


「あいつは大袈裟なんですよ」

「悪い奴に狙われた孤児院、助けてくれたって。大勢相手にリュカ一人で立向かって」

「あーあーあー! 聞こえなーい!」

 耳を塞いで、完全にしらを切った。

 人助けという、いかにもリュカらしい武勇伝だった。



❖ お知らせ ❖


 読んでくださり、ありがとうございます!


 3ー62 カルチャーショック は2/5(水)の夜、22時30分頃に投稿を予定しています。


2025/02/03、加筆修正しました。

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