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3ー56 四属性対抗試合2 第一試合

「はじめまして、ですわね」

「はい。ジュール・キャトル・レオールと申します。よろしくお願いします」

「あら、お行儀がよろしいこと」

 ペコリと頭を下げるジュールに、ジュヌヴィエーヴは扇子の陰でにっこりと微笑んだ。


「あなたのお兄様とは、何度か対戦していましてよ」

「はい。拝見しました」


 兄とは似ても似つかぬ素直な若者は、過去の試合を観戦したようだった。ならばジュヌヴィエーヴの手の内を、多少は知っているということ。

 とは言え、ジュヌヴィエーヴも予選でのジュールの戦い方を見ていた。


(兄より、真面目な姉に似た戦い方だった。きっと、この子も優等生なのでしょう)


 水の申し子と称えられる現水司以降、水使いは不作だった。天才を輩出した代償か、六年連続で対抗試合は最下位である。

 また四属性中一番数が多いのも水使いであり、質より量の水使いと揶揄される。

 不名誉なレッテルを打ち破れるか否かは、ジュールの実力にかかっていた。


 紫がかった瞳をキラリと輝かせ、ジュヌヴィエーヴはパチリと扇子を閉じる。

「では、お手並み拝見させていただきますわ!」


 試合開始の合図とともに、ジュヌヴィエーヴには白い防御壁が、ジュールには青色の防御壁が展開された。

 ガラスのように薄く透明な防御壁に包まれ、両者は短縮詠唱で魔法を発動させる。


 ジュヌヴィエーヴはすぐさま上空へ飛翔した。

 ワシのように優雅に、タカのように勇猛に、そしてハヤブサのように素早く空を飛び、地上の対戦相手を翻弄する。それが風使いだった。


(さあ、皆様、存分にご堪能くださいまし。ジュヌヴィエーヴが皆様を魅了して差し上げます!)


 しかし、攻撃に出ようと反転したジュヌヴィエーヴの体が、ギクリと強張る。


「おおーっと! これは!」

 ジュヌヴィエーヴだけでなく、会場中の全ての人々が目を奪われた。


 闘技場全体、バトルフィールドの全域に水の粒が浮いている。まるで大粒の雨が時を止めたような、幻想的な光景だった。


浮き雨(うきさめ)

 水の玉を生成する初級魔法『水玉すいぎょく』を、この試合のために、ジュールが改良したものだった。


「ジュール選手、いきなり広範囲魔法炸裂! そしてこれは、ンなんと美しい!」


 水の粒が、真夏の太陽光をキラキラと乱反射する。見たこともない光景に、観客席が興奮に包まれた。


「なに、これは……」

 ジュヌヴィエーヴが不審に呟く。綺麗だが、小さな水の粒に攻撃力があるとは思えない。


(観客へのアピール? けれどそれは、勝敗にはなんら関係ない)

 あるとすれば試合後の評価、人気に繋がるくらいか。


 ジュヌヴィエーヴはジュールの思惑を測りかね、わずかに腕を動かす。水の粒に追尾性はなく、触れても爆発するようなものではなかった。ただ触ると泡のように弾けて、防御壁がダメージを受ける。目障りだが、威力自体は大したことはない……。


(よくお勉強していること!)


 派手な攻撃を選びがちだが、この試合はいかに相手にダメージを与えるかではない。体を覆う防御壁さえ破壊すればいいのだ。


 ジュヌヴィエーヴは水の粒に構わず、両腕を広げ、羽ばたくように無数の風の刃を発生させた。

 地上のジュールめがけ、魔法を放つ。


(やはり、これだけ広範囲に魔法を展開させれば、ひとつずつは取るに足りない)

 水の粒はろくな抵抗もないまま、風の刃に蹴散らされていく。


 その様に、会場にどよめきが走った。実況のサミュエルすら言葉を失う。

「これは、なんということか……!」


 水の粒が、風の軌跡を描き出していた。不可視のはずの風が、水の粒が弾けることで姿を捉えられたのだ。

「おおおおおっ!」

 一際大きく歓声を上げる。


 防御壁へのダメージ、動きの牽制だけでなく、風魔法の速さを殺し、なおかつ知覚化させる――。

 ジュヌヴィエーヴは舌打ちした。

(一体この一手に、いくつの効果を付与しているのよ!)


 ジュヌヴィエーヴが攻撃すればするほど、水の粒は確実に彼女の防御壁を削っていく。

 ジュールは欠けた粒を補給しながら、冷静に攻撃を捌いていた。


 次第に見えてきたジュールの作戦に、ジュヌヴィエーヴは歯噛みする。

 フィールド中を埋め尽す水の粒を観客へのアピールと判断したのが、ジュヌヴィエーヴの誤算だった。


「可愛い顔をして、やっぱりあのジスランの弟ですこと!」


 ジュールは広範囲魔法を使いながらも最小限の魔力でジュヌヴィエーヴの動きを制限し、かつ防御に徹することで、自らの失点を徹底的に抑え込んだのだった。






「勝者! 水使いジュール!」

 割れんばかりの拍手と喝采が、新人魔法使いに注がれる。


 制限時間いっぱい、ほぼ防御に徹していたジュールだったが、それを感じさせない試合だった。


「完敗ですわね」

 ジュヌヴィエーヴは、ほう、と息を吐くと、ジュールに歩み寄った。

「まず、あなたを甘く見ていたことを謝らせてください。魔法学校を卒業したばかりのあなたに胸を貸す、そんなつもりでした」


「いえ、そんな……! ボクの方こそ勉強させていただきました!」

 ジュヌヴィエーヴに頭を下げられ、ジュールが焦る。

「ありがとうございました!」


「まあ! 本当に礼儀正しい良い子だこと!」

 自分より深く腰を折るジュールに、ジュヌヴィエーヴは笑みを返した。


「次の対戦を、楽しみにしています」

 惜しみなく注がれる歓声の中、差し出された手を握り、ジュールはようやく初戦の勝利を実感できた。






「ジュールらしい試合だったな」

 セツが、どことなく嬉しそうに感想を漏らす。


 立場上個人を応援できないロワメールも、素晴らしい試合への拍手に紛れ込ませてジュールの勝利を喜んだ。ミエルもわかっているのかいないのか、濃密な魔力の気配にキラキラと目を輝かせていた。


 カイだけが、やや違う反応を示している。

(まさか一勝するとは……)


 カイの入手した情報では、ジスラン、フレデリクだけでなく、ジュヌヴィエーヴもジュールより格段に強い相手だったはずだ。

(ジュールが勝つのは、到底不可能だと思ったが)


 出場さえできれば王子の側近として面目は立つので、それで十分だったのだが。


(しかも、この戦い方……実績のみならず、自身の評価を最大限上げている)

 ジスランの入れ知恵か。


(それともジル殿?)

 いや、いくら兄弟とは言え、ジスランも対戦相手であり、ジルも司の立場で肩入れはできまい。


 所詮は祭りの催し、けれど噂はキヨウにも届く。

(これは、思った以上に良い買い物をしたかもしれませんね)

 側近筆頭は人知れず、笑みを浮かべるのだった。

 



 


❖ お知らせ ❖


 読んでくださり、ありがとうございます!


 3ー57 四属性対抗試合3 そして今日も弟子は師匠の世話を焼く は1/17(金)の夜、22時30分頃に投稿を予定しています。


2025/02/03、加筆修正しました。

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