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14 眠れる夜に

「セツ、少しいいですか?」

 ノックをして顔を覗かせたロワメールは、そこで動きを止める。

 ジーッと室内を見た。



「なんでいるわけ?」



「いえ、ちょっと眠れなくて? セツ様にお相手願ってたんです」

 じっとりと半眼を向けてくる主に、カイはいつものようにニコニコと笑顔を返す。



「ふうん?」

 カイは椅子に座り、セツはベッドの上で壁にもたれている。どこで見つけてきたのか、手には酒の入った杯が握られていた。



「どうした?」

 いつから飲んでいたのか。セツの目は、少しトロンとしている。



「お前も眠れないクチか?」

 船内では体も動かさず、どうしてもなかなか寝付けない。



「それもありますけど……。今後の確認をと思ったんですが、明日でも」

「別にたいした話はしてないから、かまわんさ」

 促され、セツの隣に座る。彼に見習い、ロワメールも壁にもたれた。



「コウサに着いたら、すぐに裏切り者を追うんですか?」

 船は出航したばかり。今日でなくても構わない話だ。眠れないロワメールが捻り出した口実である。



「ふむ。まあ、そうだが……」

「なにか問題でも?」

 セツの歯切れが悪さに、カイも気が付く。



「……お前たち、今回の事件の詳細は知っているか?」

 ロワメールとカイは顔を見合わせ、頷いた。



 事の起こりは半年前、始月まで遡る。

 アロン男爵の嫡男であるコウサ領の財務役人アシル・シス・アロンが殺されたのである。腹部をナイフで刺されて死亡。物取りの犯行として処理されたが、犯人は捕まらず。



 その四ヶ月後、藤月にジョス・サンク・フラモン子爵とパトリスが首を斬られて殺害される。二人は共に、アロン卿と同じ財務役人だった。



 犯行の手口は異なるものの、同じ職場に勤める三人が相次いで殺され、関連を調べたところ、新たな事実が発覚した。



 フラモン子爵とパトリスによる公金横領である。そしてアシル・シス・アロンは、二人を告発しようと準備を進めていた。



 家宅捜索でパトリス宅から血のついた着物が発見され、アシル・シス・アロン殺害は、犯行の露見を恐れたフラモン子爵とパトリスによる犯行と断定される。



 そしてそこで、第四の事件が起きた。

 領主殺人未遂である。



「領主アルマン・キャトル・ウルソン伯爵は一命を取り留めるも、犯行の手口はフラモン子爵とパトリスを殺したものと全く同じ。抵抗する間もなく、正面から首を斬られたと聞いています」

 ロワメールは、淡々と語り終えた。



 ウルソン伯爵はこの事件によりアシル殺害と横領の関与を疑われているが、本人は否認している。また事件当日のアリバイもしっかりしていた。



「そうだ。そして、その領主のその傷口から魔力反応がでている」

 セツの表情は険しい。



 魔法を私闘に使用せず

 魔法使いの三大タブーのひとつであるこの掟は、魔法で人を傷付けることを禁止するものだ。ましてや命を奪うなど、言語道断である。



「ギルドはもう、犯人がわかっているんですよね?」

 カイも自ずと表情を引き締めた。

 ロワメールとカイが王都を発つ段階では、犯人までは特定されていなかった。



「ああ。魔力反応から犯人を特定した。第一の被害者アシル・シス・アロンの婚約者、一級魔法使い、三色のレナエルだ」

「婚約者を殺された復讐か……」

 ロワメールも唸る。



「セツは、この事件のなにが引っかかっているの?」

 レナエルには、動機も犯行手段もあった。現在行方をくらませていることも犯行を裏付けている。



「領主殺害未遂が、どうもな」

 ロワメールに促され、セツは言葉を濁しながら続ける。

 


「今回の事件、婚約者を殺された復讐、そんな単純なものとは思えないんだ」

 腕を組み、低く唸った。



「実は、ぼくたちはウルソン伯と面識があります。彼が、横領や殺人に関わる人物とは思えないんです」

 ロワメールも、違和感を訴える。



 第一の被害者アシル・シス・アロンと個人的なトラブルがあったなら別だが、領主であり伯爵家当主が横領をするとも思えない。



「ふむ。襲われた理由も謎か」

「セツは、なにが気になるんですか?」

「殺されなかったこと、だ」



 ロワメールは首を傾げる。

「伯が逃げて、事なきを得たからでは?」

「戦闘職の一級魔法使いが、みすみす逃がすとは思えん」

 すでに二人殺しているのに、躊躇ったわけではあるまい。



「あれ? 言われてみれば、確かにおかしいね」

「魔法使いなら、背を向けて逃げる相手にとどめを刺すくらい、簡単にできそうなものですが……」 

 セツに指摘され浮上した不審さは、一度認識すると、とてつもなく不自然に感じられた。



「まさか、わざと見逃した?」

「なんでそんなこと……」

「時間をかけて、嬲り殺すためでしょうか?」

「カイ! 発想が怖いよ!」 



 一人目二人目と同じ手口で襲い、恐怖を植え付けるためというなら、効果は抜群だろう。しかし、果たしてそれが目的か。



「理由はわからん。だが、殺さなかったことには、意味がある気がする」

 セツは杯を口に運びながら、難しい顔をする。



 裏切り者の一級魔法使い、三色のレナエルは、ギルドの掟を裏切り、自らの命を賭けてまで、なにかを企んでいるというのか。



 セツの表情は険しく曇った。

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