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3ー53 難攻不落

「セツは、王宮来たことある?」

 おやつの時間、世間話を装って、ロワメールがセツに探りを入れる。


「ないな。王宮上空には飛行制限もあるから、俺も遠目に見たことあるくらいだ」

 セツはいつものように、ロワメールが淹れたお茶をゆっくり味わっていた。


 キヨウ王宮はこの国の中枢機関として、リヨウから遷都して以来、およそ800年以上の歴史を誇る。皇八島屈指の歴史的建造物だった。


「じゃあ、セツが来た時は、ぼくがちゃんと案内するからね」

 ロワメールが笑顔で請け負うと、セツが首を傾げる。


「王宮は広いんだろ? ロワメールは迷子にならないのか?」

「ならないよ!」

「子どもの頃、迷子にならなかったっけ?」

「一回だけだし! それにもう大人だし! 別に方向音痴じゃないよ! ……って、また誤魔化す!」

「ははは」

 どさくさに紛れて言質を取ろうとしたが、セツは手強かった。


 勲章授与式が嫌で、王宮行きを頑なに拒むセツは、なかなか首を縦に振ってくれない。


「キヨウだよ! お茶所だよ! 美味しいお茶が飲み放題だよ!」

「美味いお茶かぁ。……あ、そういえば、この間の水羊羹、まだ残ってたな。食べるか?」

「食べるー!」

 と、甘言を弄しても、スルリと躱されてしまう。

 難なくはぐらかされてしまった。


 カイには「セツ様には私がなにか言うより、ロワ様が頼んだ方が効果的です」と言われて、説得を丸投げされている。


 しかし、ロワメールには分が悪いのだ。なんと言っても相手は名付け親。こちらの性格を踏まえている。

 なのにロワメールがまんまとはぐらかされると、カイはこれ見よがしに呆れたような溜め息を吐くのだ。


(カイのことだから、裏でなにか画策しているんだろうけど、ちょっとは手伝ってくれてもいいのに)


 実のところ、ロワメールは勲章授与式はどうでもよかった。どうせセツは勲章なんて受け取らない。

 本人が望むならともかく、セツには爵位なんて不要である。

 爵位がなくとも、セツは最強で、一番カッコいい魔法使いなのだ。


 とは言え勲章授与は、王子を救った功績を讃えるもの。ロワメールも命を助けてもらい、名前を授けてもらったことは感謝している。

(もちろん、いつかきちんとお礼をするつもりだけど……)


 けれどそれは、地位とか名誉とか財産とかではないはずだった。

 なにかこう、親孝行的なものだ。どうすればセツが喜んでくれるかはまだわからないから、具体的なことは現在考え中である。


(親孝行するためにも、やっぱり一緒にいるべきだよね。うん。その方がいいはずだ)


 だが、一度キヨウに帰れば簡単にはシノンに戻れない。王宮に戻れば、ロワメールも多忙の身だった。


(きっと、休みなんてあってないような感じになるよね……)

 乾いた笑いを漏らす。


 裏切り者の魔法使いを法の下に裁く、ギルドの了承を得られた今、この法案は本格的に動き出し、これまで以上の忙しさになる。併せて、ギルドの協力を得て、魔法使いと騎士との連携も進めたいし、魔族の研究機関も必要だと思う。

 難航している魔法使いを捕縛する魔道具作りもあった。


 そのどれも、最高責任者はロワメールだ。実際に動いているのは彼の側近だが、ロワメールとてただ座しているわけではない。

(これ、過労で倒れてるんじゃない?)

 自分で言い出したことながら、無茶が過ぎる仕事量である。


 セツに会いに気軽にシノンに行くなど、到底無理な話だった。

 だから、どうしてもセツにキヨウに来てもらいたいのに、これが最大の難関なのだ。


(このままじゃ、本当に会えなくなる)

 ロワメールは唇を引き結ぶ。

(絶対諦めるもんか)


 しかし、なんの進展もないまま、祭りの日だけがどんどん近付き、ロワメールは恥を掻き捨て、ついにカイに泣きついた。


「カイ! お願い! なんとかして!」

「だから、言ってるじゃないですか。セツ様には、私がなにか言うよりロワ様の方が効果的だって」

「それがダメだから、お願いしてるんじゃないかー!」


 やれやれと、カイは食後の晩酌でセツに酒を注ぎながら、やんわりと話を持ちかけた。

「セツ様、一度くらい、王宮にいらしたらどうですか?」

「行かんよ」

 素気なく断られるのも、想定内だ。


「では、城下はどうです? 王都観光人気ですよ。最先端の文化を体感できますし、外の国の書物なんかも手に入るかもしれません」

「城下か……」

「ロワ様がお好きな、外の国の料理を提供する料理屋もたくさんありますよ」

「ほお」


 セツの心が揺れ動いたのを見逃さず、更なる誘惑を囁く。


「それに、可愛いロワ様がどんな所に住んでいるか、気になるでしょう?」

「それは、まあ、な」

「それに、ロワ様の側近は私だけではありませんし、いい機会です、他の者にも一度会ってみませんか?」

「ふむ。そうだな……」


 いけそう、とロワメールが期待を込めて見守るが、そこで、セツの危機回避能力が発動した。

「危ない危ない! 口車に乗せれて王宮に行ったが最後、授与式をさせられるとこだった!」


 セツに断られ、カイはチッと舌打ち、なんて真似はしなかった。

「おや、残念」

 あっさり諦めたのである。


(いや!? いやいやいや! おかしくない!? なんでそこで終わり!? いつものカイならあの手この手で丸め込むのに!)


 カイは最初から、セツを説得する気がないのだ。

 これからロワメールは、様々な公務をこなす。その中には対外交渉も、もちろん含まれている。

 どう言えば相手をその気にさせ、どう話せば望む答えが得られるか。


(なにも、こんな時に、実地研修させなくても……)

 カイなりの王子教育だとわかっていても、ロワメールは途方に暮れる。


(こうなったら、カイは絶対手伝ってくれない)

 一向に色良い返事はもらえないまま、ギルド祭は目前に迫っていた。 

❖ お知らせ ❖


 読んでくださり、ありがとうございます!


 3ー54 いざギルド祭へ は1/8(水)の夜、22時台に投稿を予定しています。

 

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