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3ー41 ミエル、初めての馬車の旅

 翌朝、名残惜しそうなブレロー伯爵と、肩の荷が下りてホッとしているシュエットゥ子爵に見送られ、ロワメールたちはカヤを出発した。ランスは姉の家に残り、新たにミエルを加えた五人と一匹は、一路ロロ温泉へと向かう。


 そびえる山々の合間を馬車でおよそ半日、街道を南に下る。

 普段は皇八島一の大都市、王都キヨウに暮らすロワメールは、渓流に沿って進む自然豊かな景色に心が躍った。

 ロワメールに感化されてか、ミエルも馬車の旅を楽しんでいる。


 しかし最初は、大きなウマや動く乗り物が怖かったようだ。

 なんにゃこれは!? 

 と、言わんばかりに緑の目をクリンクリンにさせたミエルの顔は、ずいぶんと可愛かった。


 ウマの体重は、ネコの百倍以上ある。

 そんな動物を始めて見た日には、それは魔獣でなくともビックリだろう。おまけにミエルは生まれたばかりの子ネコ、見るものすべてが目新しく、好奇心を刺激した。

 ロワメールの手の中から、興味津々に辺りを眺めている。


「ネコって、案外表情豊かなんだね」

「そうですね。耳やしっぽから感情を読み取れるって言いますけど、ボクは目に表情が出ると思います」

 まだミエルと出会っておよそ一日だけれど、ロワメールは子ネコの可愛さに夢中だった。


 だがそれはロワメールだけではなく、セツやカイも、目を細めて子ネコを見守っている。

 子ネコの可愛さは、種族の壁なんて簡単に取り払うようだ。


 対するミエルも人見知りはしないタイプのようで、カイやジュールことは『王さま』の配下と認識して、どうも仲間意識を覚えており、抜群にネコの扱いが上手いジスランにはなす術なく撫で倒されている。


 ただ、セツに対してのみ、他の者と違う反応を見せた。

「魔獣だからな。俺の魔力が怖いんだろう」

 子ネコは、ロワメールの手の中に隠れてしまったのである。


「この人はセツ。ぼくの命の恩人で名付け親で、お、お父さんで。あ、お父さんって言っても、ぼくには三人の父がいてね。本当の父上と、育ててくれた父さんもいるんだ。でも、セツもお、お父さんだから!」


 恥ずかしいならわざわざ「お父さん」と紹介しなければいいものを、そこは言いたいらしい。

 なにやら複雑な家庭環境を子ネコが理解したかは別として。

「とにかくぼくの、お、お父さんで最強の魔法使いだから、言うことを聞くようにね」


 幼さ故の順応力か、はたまた豪胆なのかはわからないが、子ネコは王さまに言い含められると、普通にセツにもじゃれついた。


(もっと、魔法使い対魔族みたいな感じになるかと思ったけど)

 最初こそジスランが子ネコを殺そうとしたが、無害とわかれば、セツだけでなく兄弟もミエルを受け入れてくれている。


 ミエルだけでなく、千草に関しても兄弟は我関せずを貫き、ジスランは「人に害はないとマスターが判断したなら、厄介事に首を突っ込む気はない」とにべもなく、ジュールは「ボクはロワサマとマスターに従います」の模範解答をした。


 魔族というだけで目の敵にされなくてよかった、とロワメールは思う。

 この兄弟が特殊な可能性はおおいにあったが、二人が見て見ぬフリを決め込むのは、なにもジスランが怠惰で、ジュールが従順だからではないようだった。


「人間が手当たり次第に魔族を殺せば、同族意識の薄い魔族も人間に報復するはずだからです」


 これまで人間に無関心だった魔族の憎しみをわざわざ買う必要はないとジュールに説明され、ロワメールは納得した。

 その言葉通り、ミエルに対しても、もはや普通の子ネコとかわらず構っている。


「それにこんな可愛い子ネコ、退治しないでいいなら、退治なんてしたくありませんから」

 ジュールは目を細めながら、ミエルを撫でた。


 魔族に対しての考え方は人それぞれなのかもしれないが、ジュールとジスランが子ネコを受け入れてくれてよかったと、ロワメールは心の底から思った。


 ミエルは四人の足の上をウロチョロ歩き回り、それぞれに撫でられたり遊んでもらったりしながら、ロワメールの膝の上を特等席と定め、遊び疲れてぐっすりと眠った。






「ねえ、セツ。セツはどうして、千草が敵じゃないってわかったの?」

 眠るミエルを撫でながら、ロワメールがずっと気になっていたことを質問した。


「セツは初めから、千草を警戒してなかったよね。それはどうして?」

 ソウワ湖に魔者の城が出現した時と、セツの反応は明らかに違った。


 ランスとリュカから話を聞いた時から、セツには警戒心があまりなかったようにロワメールは思う。

 だからこそ、ロワメールがカヤに残ることをあっさり許したのでないのか。


「そうだな……」

 顎に手を当て考えるセツに、ロワメールとジュールだけでなく、頬杖をついたままジスランも目を向ける。


「まず第一に、ファイエットが千草と呼んでいたこと。千草、は魔者の名前だ。これによって、ファイエットは千草が魔者だと知っていた可能性があった。そして第二に、ランスの両親を襲ったとみられる魔獣の魔宝珠、これが黒宝珠だったことから、千草がその魔獣に襲わせた線はなくなった」


 ロワメールとジュールが「あ!」と顔を見合わせた。


「湖の黒城で襲ってきた魔獣は、みんな白宝珠だったろ?」

「そうだ。どの魔獣も黒宝珠じゃなかった」

「体毛も、黒くありませんでした」


 ソウワ湖上の城でロワメールたちを襲った魔獣に正気を失った凶暴さはなく、倒した後に残っていたのはセツの言う通り、真っ白な白宝珠だった。


「魔者が魔獣を使役する時、正気をなくした魔獣をわざわざ使わないからな」

 セツの言葉に、ロワメールたちは納得するしかなかった。


「その二つから、セツは千草が敵じゃないって推察したわけか」

「そんな大したもんじゃない。確証があったわけじゃないしな。その可能性があると思っただけだ」


 魔族は敵との大前提にとらわれず、たった二つの手がかりで真実を見抜く――ジュールはますます、マスターに向ける尊敬の念を高めるのだった。


❖ お知らせ ❖


 読んでくださり、ありがとうございます!


 3ー42 魔法学校ってどんなとこ? は11/27(水)の夜、22時台に投稿を予定しています。

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