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やさしい魔法使いの起こしかた  作者: 青維月也
第三話 魔者の花嫁編
121/205

3ー26 ネコ好きの、ネコ好きによる、ネコ好きのための

 眠る子ネコを掌に乗せたジスランを、ロワメールは不安そうに盗み見た。ジスランが子ネコを殺そうとしたのは、ついさっきのことだ。


 まず飼い主を探すことになったのだが、肝心の子ネコをどうするか、という問題に直面した。

 相変わらず地面でくーくー寝息を立て、無防備極まりないバンザイへそ天で眠る子ネコは、熟睡である。起こすのも可哀想なので、抱いて飼い主を探すことになった。


 当然ロワメールは真っ先に名乗り出たが、王子に魔獣を持たせるわけにはいかないと、満場一致で即座に却下されてしまった。

 最終的に、なにかあっても対処できるようにと、ジスランが子ネコを抱いている。


「大丈夫ですよ。兄はああ見えて、ネコ好きですから」

 心配そうなロワメールを見かねて、ジュールが打ち明けた。

「そうなの?」

「ええ。うち、ネコ三匹いるんですけど、どのネコも兄にすごく懐いてて」

 笑顔で話す弟に、ジスランは異を唱えた。

「別に好きじゃない。アイツらが、勝手に居着いただけだ」


 シノンの別邸である。

 両親は本邸に住み、ジルはギルド本部に、ジュールが時折顔を出す他は、兄と使用人で静かに暮らしているそこに、野良ネコが住み着いた。


「そんなこと言っても、いつも一緒に寝てるじゃない」

 ソファで午睡している時、夜ベッドに入る時、ネコたちは決まってジスランのそばで寝ている。

「あれは、アイツらが潜り込んでくるんだ」

「うん。ネコだって、可愛がってくれる人に懐くよね?」

 ジスランは口を噤んで、言い返さなかった。否定しきれなかったのか、はたまたこれ以上否定するのが面倒になったのか。


 ロワメールがジスランを観察していれば、子ネコを抱く手は慣れており、時折撫でる指は優しい。

 とりあえずジスランに任せておいて大丈夫そうだった。


 そもそも怠惰なジスランは好戦的ではないし、なにより不必要な仕事を進んでやるとも思えない。


 一行は、再び月神神殿へと向かった。

 魔獣であっても子ネコは子ネコ。そう遠くからは来てないだろうと当たりをつけ、月神神殿から聞き込みを開始した。






 迷子の子ネコを拾ったので飼い主を探していると告げると、スキンヘッドに髭面の、やけにガタイのいい男性神官が奥から現れた。


 一見すると神職にもネコ好きにも見えないが、人を見た目で判断してはいけない。

「これはこれは! 可愛い子ですなあ!」

 厳つい神官はスヤスヤ眠る子ネコを見ると、デレデレと目尻を下げた。


「小生は、カヤ神殿ネコ愛好会、会長を務めておりますモハメドと申します」

 白い神官服に身を包んだゴツい男性は、丁寧にそう挨拶した。


「カヤ神殿ネコ愛好会?」

「このカヤにあります二十以上の神殿にいる、ネコ好き神官の、ネコ好き神官による、ネコ好き神官のためのネコ愛好会です」

 とりあえず、全力でネコ好きなのは伝わってきた。


「それで、この子が迷子ですな?」

 モハメドはそう言って、手元のノートをパラパラとめくった。


「うーむ……。該当する子がいませんなぁ」

 ノートにはびっしり文字と、所々に絵が書き込まれている。

「これは、当愛好会に所属する飼いネコの情報が記載されておるんですが、最近茶トラのハチワレの子ネコが生まれた記録はありませんなぁ」

 モハメドは、ボリボリと剃髪頭を掻いた。その太い腕には何本もの引っ掻き傷が走っている。


「もしよろしければ小生がその子を預かり、飼い主を探しましょうか?」

 モハメドはロワメールたちが旅行者だと察し、親切に申し出てくれた。


「せっかくカヤに来てくださったのに、飼い主探しでは、この地を堪能できませんでしょう」

 旅行者では土地勘もなく、長逗留でなければ日にちもない。

 有り難い申し出だが、子ネコとはいえ魔獣を魔法使い以外に渡すのは危険だった。


「この地を見て回りながら、飼い主を探します。お心遣い、感謝します」

 カイがそつなく礼を述べる。

「わかりました。どうぞカヤをご堪能ください。そしてもし、お帰りまでに飼い主が見つからないようでしたら、また小生をお訪ねください。その時は、小生が責任を持ってその子の飼い主を探しましょう」

 ジスランの掌で眠る子ネコの頭をそっと撫でる大きな手は、見かけとは裏腹に優しい。


「月神様のご加護があらんことを」

 つぶらな瞳にネコへの愛情が溢れたモハメドに見送られ、一行は神殿を後にした。


「うーん、どこかの神殿の飼いネコだと思ったんだけどな」

 ロワメールが天を仰ぐ。

 あてが外れてしまった。


「仕方ない。周辺の家をあたるか」

「飼い主も今頃必死に探してるはずです」

「そうですね。こんな子ネコ、行動範囲も狭いでしょうし」


 口々に話しながら皆が見つめる先で、子ネコが目を覚ました。んー、と伸びをする。

「あ、起きた」

 おはよ〜、とジュールが微笑みかけた。魔獣だとわかっていても、あどけない子ネコの寝惚けた姿は癒やされる。


 ぐっすり眠っていた子ネコは状況がわからず、自分を見下ろす三人の人間に一瞬固まり、次いでジスランの手の上だと気付くと慌てまくった。


「こら、危ない!」

 落ちたら危険だと、押さえようとするジスランの手を潜り抜け、地面にジャンプし、一目散にロワメールの足元に駆け寄る。


「痛い痛い!」

 子ネコは一心不乱にロワメールの体をよじ登った。

「ロワ様!」

「爪が刺さっただけ。たいしたことないから!」

 主の悲鳴に剣を引き抜く側近を、ロワメールが焦って制止する。


 子ネコはロワメールの胸元で両手にすっぽり収まると、小さく丸まってしまった。

「えーと……、よしよし?」

 どうもおびえているらしい子ネコの背を、優しくさする。


「大丈夫。怖くないよ」

 ロワメールに抱かれて震える子ネコは、とても魔獣には見えなかった。



 

❖ お知らせ ❖


 読んでくださり、ありがとうございます!


 3ー27 一難去ってまた一難 は 10/4(金)の夜、22時台に投稿を予定しています。

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