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9 王家の血

「信じられないと思いますけど……。この青い目は、どうやら普通とは違うみたいで」

 ロワメールは左目を押さえながら、自分自身ですら懐疑的な様子だった。



 だが、話を聞いたセツの返答は違う。

「いや、その目の反応、おそらく魔法だ」

「魔法?」



「ああ。その髪が、なにか変な感じで調べてみたんだが……」

 腕を組み、難しい顔で唸っている。



「え、ちょっと待って。髪? 目じゃなくて?」

 次から次へと明かされる事実に、ロワメールが目を白黒させた。



「髪だ。なにかあるんだが、それがなんなのかよくわからんでな」

 十八年前にはわからなかったが、ロワメールの話も合わせれば、見えてくるものもある。



「まあ、それで調べたら、その目には魔法の痕跡があったんだ」

 それも大昔にかけられた魔法のようで、詳しくは掠れて読み取れない。



「そんな魔法があるんですか?」

「失われた太古の魔法かもな」

 現在の魔法に、そんな魔法は存在しない。セツも知らぬ遥か昔、『海の眼』が始祖王から伝わるなら、その時代の魔法だ。



「しかもそれが現代まで受け継がれているなら、魔法をかけたのは間違いなくマスターだ」



 あまりに壮大な話だった。

 始祖王ジンが即位したのはラギ王歴元年と、『皇八島書紀』には記されている。つまり1624年前だ。

 もし始祖王からの魔法ならば、1600年以上の長きに渡り、連綿と子孫に受け継がれてきたことになる。



「そんなことが可能なんですか……?」

「その魔法がどういった魔法術式で成り立っているのかわからんが、マスターが全魔力を注ぎ込んだ、一世一代の魔法、かもしれないな」

 雲を掴むような途方もない話だった。



 ロワメールは、左目にそっと触れる。

「なんで、そんな魔法を……」

 そこまでして魔法をかける意味が、この目にあるのか。



「俺には、家族の印に思えるよ」

 それは、まるで目印のようだった。



 明確に血の繋がりを示す手段がない世の中で、例え離れ離れになっても、いつか再び出会えた時に家族であることを証明できるように。

 家族の絆を表す、ただそれだけの魔法に思えた。



「そう思えば、その髪もそうなのかもしれないな」

 ロワメールは、首の後ろで結われた銀の髪を手に取った。



「その髪には、極微量の魔力を感じるんだ」

「え!? ……痛っ」

 その一言にロワメールはガタリと立ち上がり、天井で頭をぶつける。頭を押さえながらも、我慢できずに勢い込んで身を乗り出した。



「ぼく、魔法使いになれるんですか!?」

「いや。お前に魔力はない」

 言下に否定され、ロワメールはシュンと悄気げた。



 魔力とは、魔法を使う源だ。生まれながらに魔力を持つ者だけが、魔法使いとなれる。



「なんで……? この髪に魔力があるなら、魔法使いになって、セツとずっと一緒にいられるのに……」

「その、俺の言い方が悪かった。だから、そんなに落ち込むな、な?」

 あまりの落胆ぶりに、セツの方が動揺する。



「セツ、だって今、ぼくに魔力があるって……」

「違う。お前にじゃない。その髪にだ」

 恨みがましい視線のロワメールに、セツが説明した。



「正確には、その髪にも魔力はないんだ。ないんだが……」

 言いあぐね、口元を手で覆う。



「魔力は感じる、けど、魔力はないって言うか。魔力の匂いとでも言えばいいか……」

 セツは言葉を探したが、上手く伝えられない。



 幻のように、掴もうとしても掴めない。銀の髪に感じるのは、そんな魔力だ。



 魔法使いではないロワメールには残念ながら、セツの感じていることがピンとこない。しかし代わりに、気になることがあった。



「でも、それならどうして、これまでどの魔法使いもそのことを指摘しなかったんだろう?」

 王族の外遊の護衛や結界を張るため、魔法使いは定期的に王宮にやって来る。

 接点はいくらでもあったはずだが、そのことに言及した魔法使いはこれまでいない。



 その不可解さにロワメールが首を捻ると、セツはあっさり告げた。

「俺じゃないとわからんよ」



「マスターじゃないと、ってことですか?」

「そうだな。マスターの感知能力がなければ無理だろうな」

 それほどわずかな違和感しかないのか。その上『海の眼』に関しては、調べなければ魔法の痕跡も感じ取れない。



「ま、王家の始祖が本当に月神で、魔法でもかけたのかもな。長い年月で魔力が薄れたと考えれば、しっくりくる」

「そんな夢物語……」

 どこまで本気なのか。建国神話はあくまで神話だが、セツは満更でもなさそうだ。



「……そう言えば、お前の他にも銀の髪の子どもに会ったことがある。あの子どもは、ロワメールの親戚だったか」

「直系王族ですよ?」

 過去の記憶を遡って、セツはそんなことを言い出す。



 長い年月を生きているセツなら、その人生のどこかで、王族と出会っていても不思議はなかった。



「……ロワメール」

 笑顔を絶やさぬ青年に、セツが問いかける。

「辛くはないか?」



 突然王子と言われ、騎士になるはずだった少年は、たった十三歳で一人王宮に引き取られた。

 王子として育つべきところを、騎士の長男として育てられた。

 


 そのどちらが、より青年の運命を狂わせたのか――。



 セツの所為ではない。

 わかっていても、その心を案じてしまう。



 けれどロワメールは、笑って取り合わなかった。

「大丈夫です。国王陛下も王太子殿下も良くしてくださいますし、王子宮のみんなも良い人ばかりで」

 王子宮は、広い王宮内の王子の宮、ロワメールの住まいである。そこにはカイの他にも、第二王子の側近がいる。



「そう、か」

 セツが、心配を飲み込むのがわかった。

 ロワメールが大丈夫と言い切れば、セツはそれ以上なにも言えない。



 ロワメールは手を伸ばし、名付け親の手をギュッと握った。



「セツ。本当に大丈夫」

 アイスブルーの目を覗き込み、にっこりと笑う。



「ぼくには、やりたいことがある。それは、王子でなければできないことだから、ぼくは王子として生きる」



 覚悟を決めた色違いの瞳には、強い意志が宿っていた。

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