娘が帰ってこない。※母視点※
連載再開。今回二話更新します(次からは主人公視点です)。
娘が帰ってこない。
髪を切って古本を売ると言っていたが、それでも朝から出かけているので二時には帰ってくる筈だ。それなのに、帰ってこない。
だから、三時になったところで早く帰ってくるよう催促する為に、娘の携帯電話に電話をかけた。けれど、返ってきたのは『この番号は現在使われておりません』というガイダンスだけだった。
「えっ……何?」
電話番号を間違えたかと、電話帳や今までの履歴を確認する。しかし、電話番号は間違っておらず──そうなると、今のガイダンス内容だと娘の携帯電話が解約されたということになる。
「実緒……?」
もしかしたら、何か事件にでも巻き込まれたのだろうか? いや、仮に事故や誘拐だとしても電源が落ちるだけで、解約まではしないと思うのだが。
「何が……どうなって……」
どうして、娘に電話がつながらないのか。そして何故、娘はまだ帰ってこないのか。
何か事件に巻き込まれたのなら、娘の部屋に何か手がかりがあるかもしれない。そう思い、娘の部屋に向かって机や部屋の中を見ていた彼女は、ベッドの上に置かれた封筒に気がついた。
そして中を見て数千円のお金はそのままに、手紙を取り出して──その中身を読んで腹が立ち、思わず声を荒げた。
「……はぁっ!? ふざけるんじゃないわよ! 家を出る? あの子だけ、ずるい……そうよ、お父さんが紹介する予定のバイトは……家に入れるお金は、どうなるのよ!?」
咄嗟に書き置きを破り捨てようとしたが、夫に見せる前にそうすると叱られると思って何とか堪える。
この書き置きを見る限り、娘は犯罪に巻き込まれたのでなく、自分で家を出たのだと思うが──一体、どこに行ったというのか。
「友達? いや、あの子に『そんなの』はいない筈……お年玉はあるかもだけど、行くところがなかったらすぐに帰ってくるわよね」
そう、今まで娘は友達の家に行ったり一緒に出かけたりなんてしていない。そうなると、まだ寒いので野宿など出来ない以上、夜はホテルなどで泊まらないと過ごせない。だとしたら、すぐにお金が足りなくなって家に戻ってくるだろう。
「そう……そうよね。
帰ってきたら二度と、こんな妙な気を起こさないように、お父さんと一緒に実緒を叱らないと……」
そう結論づけると、彼女は書き置きと携帯代金らしいお金を娘の机の上に置き、夕飯やお風呂の支度をするために一階へと降りていった。
……娘が辛くて家に戻ってくるどころか、意気揚々とバスに乗り、すでに札幌市内を出ていることを彼女は知らない。