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5 セシルの初夜




 ついに迎えた、セシルとアイロスの結婚式当日。


 王都の中心部にあるリリュバリ大聖堂にて無事に式を挙げた後、夜には場所をゴベール侯爵邸に移して結婚披露パーティーが開かれた。裕福なゴベール侯爵家の跡取りと、これまた裕福なモリエール伯爵家令嬢との政略結婚とあって、多くの招待客で賑わう非常に華やかなパーティーであった。2週間前に夫婦になったばかりのベルティーユとパトリスも、もちろん出席している。二人は今夜、このままゴベール侯爵邸のゲストルームに泊まる予定だそうだ。

 披露パーティーでのセシルは、式で着たクラシックスタイルのウェディングドレスとはまた趣の違う可憐なマーメイドドレスに身を包み、招待客達から「お綺麗です」「なんと可憐な!」「まるで妖精だ」「アイロス様は本当に幸せ者ですね」「素敵ですわ~」等と口々に褒めそやされ、上機嫌で酒を飲んでいた。

 途中、新郎のアイロスに「セシル嬢、少し飲み過ぎでは?」と注意されたが「結婚したのですから、もう『セシル』でいいですよ」と返して、また飲み続けた。アイロスは少し呆れたように「”セシル”、ほどほどにね」と言った。清楚で儚げな美しさを持ち学園では「妖精令嬢」と呼ばれたセシルだが、実は酒が大好きだ。〈清楚美人あるある〉である。

 


 予定の時間を随分と過ぎて、夜遅くにようやくパーティーがお開きとなった。

 初夜を迎えるセシルは、侯爵家の侍女たちの手を借りて湯浴みを済ませた後、一人、夫婦の寝室で夫アイロスを待っていた。

 ⦅眠い……眠すぎる⦆

 ついつい酒を飲み過ぎてしまった。

 ⦅でも【唯一魅了】をしくじる訳にはいかないわ。決戦は今夜よ⦆

 本当は別の日でも良いのだ。【唯一魅了】には〈必ず初夜に掛けるべし〉と言う決まりなど無いのだから。ただ、魅了された相手が突然溺愛モードに入る為、何でもない日に掛けると周囲から不自然に思われる可能性が高い。政略結婚の場合は尚更だ。その点、初夜に魅了してしまえば周囲も”あぁ、初めて結ばれて溺れちゃったんだ。余程アッチの相性が良かったんだね”と納得してくれるらしい(母談)

 

「アデールと一緒にあんなに練習したのだもの。絶対に上手くいくわ。練習は裏切らない。練習は裏切らない。練習は裏切らないったら裏切らない」

 ぶつぶつ呟く、酔っ払いセシル。

 そう。彼女は酔っていた。

 妹のアデールから、あれほど口酸っぱく「お姉様。本番当日は浮足立たずに気を引き締めませんと」と注意されていたにもかかわらず。


「コンコン」

 寝室の扉がノックされた。

「ど、どうぞ」

 声がひっくり返ってしまった。恥ずかしっ!

 扉を開けて、部屋に入って来るアイロス。

 心なしか緊張しているように見える。

「あ、あのセシル嬢……」

 その時、セシルは突然椅子から立ち上がると、一目散にアイロスに駆け寄った。

「アイロス様! 私の目を見て下さい!」

 練習は裏切った。

 酔っているセシルは、あれほど練習した手順を全て素っ飛ばして〈いきなりバージョン〉に突入してしまったのである。妹のアデールが知ったら悔し泣きするに違いない。


「は?」

 驚いた表情のアイロスがセシルの顔を見た。しっかりと目が合う。

 今だ! 急げ!

「テクマクマヤニカシャランラ~バラヤンヤンヤン【唯一魅了】発動!」

「へ?」

 アイロスが間抜けな声を出した次の瞬間、突然、眩い光が彼の大きな身体を包み込んだ。

「眩しい!?」

 耐え切れず目を瞑るセシル。

 

 暫くして、恐る恐るセシルが目を開けると、光は消え、アイロスが呆然とした表情で突っ立っていた。

「あの、アイロス様。大丈夫ですか? お身体に異変はございませんか?」

「あ、ああ。大丈夫だ。そんなことよりセシル嬢……好きだ!」

 何という即効性! 【唯一魅了】恐るべし!!

「結婚したのですから、もう『セシル』でいいですよ」

 あれ? 確か披露パーティーの会場でも同じことを言った気がする……セシルの中に小さな違和感が芽生えた。


 だが、その違和感について思案する間もなく、セシルはアイロスに抱きかかえられ、寝台に運ばれてしまったのである。

 ⦅もうっ、アイロス様ったら。欲しがりさん!⦆

 【唯一魅了】に掛かったアイロスは、それはそれは情熱的に、けれども同時に蕩けるほど甘くセシルを愛撫した。

 ⦅あん♡『脳筋』って軽くバカにしていたけれど、やっぱり寝台の上では胸板が厚い男って良いわね。興奮しちゃう♡⦆

 心の中で勝手なことをほざくセシル。

 もちろん初めてなので、いざ行為が始まると痛みを感じたが、アイロスは華奢なセシルを気遣って、とても優しくしてくれた。そうして、やがてアイロスがセシルの中で果てた時、彼のその無防備な姿に、セシルもアイロスに対して何となくではあるが”愛しさ”を感じたのである。

 とにかく、これでセシルとアイロスは正真正銘の夫婦となった。

 夫アイロスは、生涯セシルを溺愛してくれる。きっと長く幸せな結婚生活が送れるはずだ。

 ⦅【唯一魅了】が成功して本当に良かったわ⦆

 安堵したセシルは猛烈な睡魔に襲われ、そのまま眠り込んでしまった。

 


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