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第8話 誕生日パーティー④

 

「むぅ……」


 兄様に抱えながら、長い廊下や階段を過ぎる。その間、僕は兄様が如何すれば悪役化しないか方法を考える。そもそも兄様が如何して悪役化するか分かれば、対処することが出来るのだがそれが分からないことが大問題だ。原因を探さないと如何にもならない。


「如何した? 難しい顔をして」

「む? まぅ……」


 唸り声を上げていた僕を心配した兄様が声をかけてくれる。兄様が如何したら悪役化しないで済むかを考えていましたとは言えない。僕は何も言えずに、兄様の赤い瞳を只、見詰める。


 兄様が元々からの悪役ではないことは分かった。悪役化が何をきっかけに、何時ごろに始まるのだろう。ゲームで登場するブラックは大人の姿だった。その容姿は大体二十代前半だと思われ、その年齢には『乙女ゲーム史上最強最悪の悪役皇太子キャラクター』が完成してしまう。二十代前半までに何か悪役化するきっかけが起こるのだ。性格が悪くなったり考え方が変わったりするには、大きな出来事がきっかけになるだろう。優しい兄様がブラックのように豹変するとは考え辛いが、同一人物なため完全に否定することが出来ないのだ。

 誰かに相談したいが、前世の記憶やゲームについて簡単に口にすることは出来ない。剣と魔法の世界であるから、前世の記憶についてはそこまで不思議には思われないだろう。 

 しかしゲーム内で知り得た知識については上手く説明を出来る自信はない。予知能力や特殊能力という説明をすることも出来るが、余り余計な設定を作るのは得策ではないだろう。後々にその分野に詳しい人物と遭遇した際にぼろが出る可能性があるのだ。


 更に言えば、僕は未だ碌に喋ることが出来ない。協力者を得ようにも上手く説明をすることが出来ないのだ。ヒロインやその仲間達に会いに行くことも考えるが、僕は両親と兄様の保護下にある。簡単に王城から出ることは出来ない。ヒロインが登場するまで待つことも考えるが、時間を惜しい。大切な兄様が何時に悪役化するのか分からないため、悠長に構えているわけにはいかないのだ。タイミングを逃して、大好きな兄様が悪役化することを許してしまったら自分を許すことは出来ない。


 兄様を守り悪役化を防ぐためには情報収集が必要である。良いことも悪いことも、人間関係が関わってくることは前世でも変わらない。性格や考えが変わる位の出来事ならば、兄様に関係の深い人物に理由がある可能性があるだろう。自由に情報収集が出来るようになるまで、人間関係の様子を見ることにする。


「シルバー?」

「にぃ!」


 何も言わない僕に不思議そうな顔をする兄様。僕は取り敢えずの方針が決まり、兄様に笑顔を向ける。すると兄様の表情が和らぐ。


「嗚呼! 二人共こっちだよ」

「ブラック、シルバー。こちらですよ」


 進行方向から両親の声が響く。振り向くと大きな扉の前で、一段と着飾った父様と母様が笑顔で出迎える。流石は国王様と王妃様だ。


「父上、母上。お待たせしました」

「うぁ!」


 兄様が両親の前まで歩み寄ると、挨拶を交わす。僕も考え事が纏まった為、元気に挨拶をする。


「いや、大丈夫さ。時間通りだよ。それにしても、二人共かっこいいね」

「ええ、とてもよく似合っているわ」

「ありがとうございます」


 和やかな雰囲気の両親と兄様を観察する。僕が赤ちゃんとして転生した際にも、両親は兄様に優しく接していた。今も両親と会話する兄様は穏やかな表情を浮かべている。悪役化する原因として両親との不仲は今のところ考え辛い。これから兄様が思春期を迎えたら、また違うのかもしれないが今のところは大丈夫そうだ。家族の仲が良く、家庭円満が一番である。


「良い子だね、シルバー。緊張はしていないかな?」

「うぅ!」


 父様が僕の顔を覗き込みながら、僕の頭を撫でる。多分だが父様が言っている『緊張』とは、この後の誕生日パーティーに参加することについてだろう。王族が主催する誕生日パーティーなど参加したことはないし、どんな物か想像することも出来ない。だが僕は何一つ心配も、緊張もしていないのだ。僕は横に振る。


「おお! 肝が座っているな」

「うぅ! にぃ! しょ!」


 僕の返事を聞いた父様は笑うが、その言葉に再び首を横に振る。そして兄様に抱きつく。


「シルバー?」

「にぃ!」


 突然の僕の行動に兄様が困惑した声を上げる。こういう時こそ、上手く喋ることが出来たらいいと思う。早く喋るようになって、兄様と沢山会話がしたい。


「あらあら、お兄ちゃんと一緒だから大丈夫だってことね」

「嗚呼。そのようだね」

「あい!」


 母様と父様が僕の言いたいことを代弁してくれる。僕は肯定する為に元気よく返事をした。


「……っ、私も……シルバーと一緒で……嬉しいぞ……」

「きゃあ! にぃ!」


 兄様が顔を真っ赤にさせながらも、気持ちを話してくれた。ずっと僕を抱えているのは、子どもである兄様には負担である。しかし一緒で『嬉しい』という言葉を聞くことが出来て嬉しい。僕は更に兄様に抱き着いた。


「さあ、誕生日パーティーが始まるよ」


 父様の声で前を向くと、目の前にある大きな扉がゆっくり開いた。

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