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乙女ゲーム史上最強最悪の悪役皇太子の弟に転生したので、兄様の悪役化を断固阻止します!  作者: 星雷はやと@書籍化作業中


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第7話 誕生日パーティー③

 

「あうぅ!」


 大きな絵画に描かれた白銀の竜にはゲーム内で見た覚えがある。ゲーム内ではこの国の歴史に深く関わりがあるとかで、この絵はヒロインが説明を受けるシーンで見た気がする。前世のうろ覚えな記憶だが、僕は思わず声を上げた。


「シルバー。お前にも神聖竜様がわかるのか。そうだ、この絵は邪神竜を封じ世界に平和をもたらした神聖竜様を描いた絵だ」


 兄様が頷くと絵について、僕にでも分かりやすいように簡単に説明をしてくれる。確かヒロインが受けた説明では、大昔に邪神竜が世界を闇で覆おうとした。その際に神聖竜の力を借りた一人の男が、邪神竜を封じたというものだ。その男性が初代クラインバル帝国皇帝になり以後、神聖竜を祀ることになったのである。


「……あうぅ?」


 描かれた銀色の竜が神聖竜だということは分かるが、一つ疑問が浮かぶ。ゲーム内では悪役皇太子として立ちはだかるブラックと戦うのだが、確かブラックは邪神竜を復活させようとしていた。それをヒロインが仲間達と共にブラックを止める為に戦うのだ。

 だがその際に神聖竜が力を貸すとか、加護を渡すなどのイベントは発生しなかった。邪神竜を封じることが出来る力を持つ神聖竜が力を貸してくれれば、ブラックを倒すことは簡単だっただろう。ヒロイン達がゾンビ大作戦を実行することもなく勝つことが出来、ブラックも『乙女ゲーム史上最強最悪の悪役皇太子キャラクター』などと呼ばれることも無かっただろう。

 クラインバル帝国にとって神聖竜は建国に関係し大切な存在なのだ。皇太子殿下が邪神竜を復活させようとしているという国の一大事に、神聖竜が何も動かないのは少し不思議である。一応、兄様も僕も初代クラインバル帝国皇帝の血を継いでいる子孫なのだ。嘗て力を貸した人物の子孫が間違いを犯しそうになったのならば、何かのアクションがあってもおかしくはないだろう。しかしそれが起こらなかったということは、もしかすると神聖竜も何か行動をすることが出来ない理由があったのかもしれない。


「シルバー? 如何した?」


 長考していると身動きしない僕を不思議に思った兄様が声をかける。僕は兄様を見上げると、赤い瞳と目が合う。ゲーム内のブラックと兄様は違うのは理解している。どちらもブラック・クラインバルであることには変わりないが、兄様は悪役皇太子ではない。優しい僕の兄様だ。

 しかし何故、ゲーム内のブラックは邪神竜を復活させようとしていたのだろう。ブラックもこの国に生まれ育ったのならば、神聖竜のことは知っている筈である。敵ながら頭脳明晰で文武両道のブラックが、自国の祖先の功績に泥を塗るような振る舞いをするなど考えられない。加えて邪神竜が復活すれば、世界は闇に覆われてしまうのだ。動植物が生きることが出来ない世界を作り出して、彼は何がしたかったのだろう。ブラックが邪神竜を復活させる必要性と理由が分からない。


「あうっ……」


 ゲーム内で悪役皇太子のブラックを倒したが、兄様とは戦いたくない。悪役化し邪神竜を復活させようとなければ、兄様と戦う必要はないのだ。ヒロイン達とも対峙する必要もない。ブラックがどんな理由があって邪神竜を復活させようとしたかは分からないが、兄様は絶対に僕が守る。その意味を込めて兄様に抱きつく。


「如何した? 神聖竜様は怖くないぞ?」

「うぅ……むぅ……にぃ」


 僕が怖がっていると思った、兄様が優しく背中を撫でる。その声色と動作が優しくて、眠気を誘う。僕は睡魔に抗う為に、おでこを兄様の肩に擦り付ける。


「分かった、分かった。父上と母上の元に行こう」

「うむぅ……」


 兄様は僕の頭を撫でると、体の向きを変えると歩きだす。兄様の気遣いは大変嬉しいのだが、僕は別に神聖竜を怖がったわけではない。確かに大きな白銀の竜の絵は迫力があるが、不思議と恐怖は抱いていないのだ。

 寧ろ銀色の身体からは神秘的な印象を受け、大空を連想させるような瞳に安心感を覚える。加えてご先祖様に力を貸し、邪神竜を封じたのならば兄様を守るのに力を貸して欲しい。直接僕に力を貸してくれなくとも、兄様が悪役化しないように見守って欲しいのだ。兄様を守るのは僕の仕事だが、見守ってくれていると思えば一人じゃないという安心感がある。勇気が湧く気がするのだ。

 僕が怖いのは、兄様が悪役化して対峙することだ。優しい兄様がゲーム内のブラックのような残虐で冷酷非道な振る舞いをしたら、僕は絶対に止めないといけない。しかし正直に言えば対峙したくないのだ。大好きな兄様に冷めた瞳で見られたら確実に泣くだろう。僕は楽しく兄様と暮らしたい。その為の努力は何でもするつもりだ。だが僕一人に出来ることの限界はあるし、如何にもならないこともあるだろう。


 だから神聖竜が居るならば僕が兄様を悪役化から守れるように、見守っていて欲しい。


「……う?」


 そんなことを考えながら、兄様が部屋の角を曲がる。その一瞬の際に、兄の肩越しに見た新聖竜の青い瞳と目が合った気がした。


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