第6話 誕生日パーティー②
「う? うぁ?」
僕は部屋を出ると、きょろきょろと豪華絢爛な廊下を見る。僕は生まれてから、あまり部屋から出た記憶がなかった。その為、物珍しくて仕方がないのだ。それに兄様と一緒に行動するのが楽しい。何時も会っていたのは僕の部屋である。誕生日パーティーの会場に向かう道中だけだが、これも立派な兄様とのお出かけだ。
廊下の床は大理石が輝き、その上に赤い絨毯が敷かれている。兄様の後ろに護衛の騎士さん達とメイドさん達が歩くが、厚みがある絨毯により足音が全く響かない。更に柱には細やかな装飾の彫刻が施され、壁には鮮やかな絵画が飾られている。まるで美術館みたいだ。更に見上げると天井画が掛かれ、シャンデリアが輝いている。廊下全体が芸術作品のような造りだ。流石は王城である。
ゲーム内でも王城に入るシーンはあったが、殆どが謁見の間や大広間などのシーンばかり描かれていた。このように廊下や細かい所を見ることが出来るのが楽しい。
「如何した? シルバー」
「……うぁ」
如何やら周囲を夢中で見過ぎていたようだ。兄様に声をかけられ、顔を兄様に向ける。兄様の赤い瞳を見ると不思議と落ち着く。
「物珍しいか?」
「あい!」
忙しなく僕が周囲を見ていたことに対して、兄様が察してくれる。流石は兄様だ。更に言えば僕が夢中で周りを見ていても、落ちないようにしっかりと抱えてくれている。質問の答えと同時に、察してくれたことが嬉しく僕は声を上げた。
「……そうか」
「にぃ?」
僕の返事を聞くと、兄様が何か思案する。僕は分からず首を傾げた。
「その……少しすれば中庭の花が見頃になるそうだ……」
遠慮がちにこちらを窺うように、兄様が言葉を紡ぐ。何時もの堂々とし、毅然とした態度とは異なる。何か言い辛いことなのだろうか。僕は兄様が話し終えるのを、じっと待つ。
「だから……その、今度は散歩にでも……行くか?」
遠慮がちに兄様が提案をする。何故そんな小さな声で提案するのかはわからないが、嬉し過ぎる提案である。外に行くことも嬉しいが、何よりも兄様が一緒というのが嬉しいのだ。兄様は第一皇子として色々と忙しい。そんな中、僕の為に時間を作ってくれるのが嬉しい。だから兄様と一緒と過ごす時間が増えるというのは、大変喜ばしいことである。
「うわぁ! にぃ!」
僕は嬉しい気持ちを抑え切れず。兄様に抱き着いた。誕生日パーティーの前だが、この約束が誕生日プレゼントを貰ったようでとても嬉しいのだ。言葉一つで僕をこんなに、嬉しくしてくれるなんて矢張り兄様は凄い。
「……っ、先ずは今日の誕生日パーティーだな」
「あい!」
優しく笑う兄様に元気よく返事をした。
「その為にも……少しこの国について知っておいた方が良いだろう」
不意に兄様が足を止めた。そして身体を真横へと向きを変えると、再び歩き出す。
「シルバー。あの絵を観てみよ」
「うぅ?」
兄様に促され正面を見ると、そこは少し広いホールのような造りになっている。白亜の壁に、天井が高くステンドグラスの光で明るく照らされている空間だ。荘厳で厳粛な雰囲気で満たされている。まるで神殿のようだ。
そして正面の中央には大きな絵画が飾られている。そこには一匹の大きな白銀の竜が描かれていた。