第21話 反省④
「あのままでは……私は……」
「うぅ! にぃ!」
モロバ侯爵に言われていたことを思い出したのだろう。寂しげな声と共に、兄様の撫でる手が止まった。僕は咄嗟に兄様の腕へと飛びつく。
「……っ?! シルバー?」
「にぃ! むぅ!」
僕の突然の行動に、兄様は戸惑いの声を上げた。それでも僕は兄様にしがみつくことを止めない。何という事だろう。僕は自分のことで精一杯になっていた。そして一番に気遣わなくてはいけない兄様を疎かにしていたのだ。意地を張ったり、兄弟の経験がないことを理由にしたりと逃げていた。だが今は兄様の心のケアが最優先だ。兄様以上に優先することはない。必死に兄様の意識を僕に向かせる。
誕生日パーティーで、もしもモロバ侯爵の言葉が続いた場合のことは考えさせてはいけない。あれは悪しき者たちが邪神竜を復活させる為に、兄様を協力させる為に起こした行動だ。防ぐことが出来たとはいえ、兄様の精神面に悪影響なのは確かである。なるべく悪い出来事は思い出して欲しくない。兄様には笑顔で元気に過ごして欲しいのだ。
こういう時にちゃんと喋ることが出来れば、兄様の心を癒すことが出来る。早く大きくなりたい。
「……大丈夫だ。シルバー」
「うぅ?」
兄様の言葉に顔を上げると、穏やかな表情の兄様と目が合う。ほんの少し顔を見なかっただけなのに、長く兄様の顔を見ていなかったような錯覚を覚えた。兄様は僕がしがみついている腕とは反対の手で、僕の頭を撫でる。
「私を助けてくれてありがとう」
「……う……あぃ……」
柔和な笑みを浮かべた兄様が礼を告げた。その笑顔に色々と考えていたことが、四散する。何を悩んでいたのだろう。兄様は僕が寝込んでいたことを怒らず、逆に心配をしてくれていた。寝不足になっても僕が目を覚ますのを待っていてくれたのだ。矢張り兄様は優しい。色々と理由をつけて兄様から顔を逸らしていたのが、酷く幼稚な行動であったと反省をする。急に恥ずかしくなり、兄様の腕で顔を隠す。
「如何した? 眠いのか? 寝るか?」
「……うぅ? ……あぃ! にぃ! ね! ね!」
僕が兄様の腕を掴み俯いていることから、如何やら僕が眠くなっていると思ったようだ。気遣ってくれるのは嬉しいが、特段眠たいわけではない。恥ずかしいだけである。そして不意に兄様の隈のことを思い出す。僕は兄様の意見に同意をする。色々と反省をすることがあったが、先ずは兄様の体調を守ることだ。睡眠時間を確保する為に、僕は兄様に昼寝を勧める。片方の手で兄様の腕を掴み、空いている方の手でベッドを叩く。
「私もか?」
「あぃ!」
腕を引く僕に、兄様は不思議そうに首を傾げた。これは兄様の睡眠時間を確保する為のお昼寝タイムだ。僕は元気良く返事をする。
「……そうだな。少し横になろう」
「きゃう!」
兄様は僕の頭を撫でた。僕は兄様の腕を離してベッドに寝転ぶ。
「ふふっ……昼寝とは、何時ぶりだろうな」
「うぅ、にぃ」
僕の隣に兄様が寝転ぶと、楽しそうに笑い声を上げた。兄様はまだ子どもなのに、第一皇子として日々多忙である。昼寝をする時間もないようだ。兄様を寝かしつけようと、僕は兄様へと手を伸ばす。
「大丈夫だ。私が付いている」
「うぁ……むぅ……」
兄様が僕を抱えると、背中を優しく撫でる。僕は兄様に眠って欲しいのだが、規則的な振動が眠気を誘う。僕の考えとは逆に寝かしつけられそうになる。
「矢張り疲れが溜まっているようだな……」
「……うむぅ……にぃ……」
眠気に抗おうとするが、瞼が下がってしまう。優しい兄様の声も安心感を与え、身体から力が抜けるのを感じる。
「何時も、シルバーは私のことを救ってくれる……ゆっくりお休み」
「くわぁ……むぅ……にぃ……」
再び欠伸をすると、兄様の声を聞きながら意識を手放した。




