第2話 考え事
「んむぅ……あぅ……」
転生したことに気付いてから月日が流れ、僕はハイハイが出来るまでに成長をした。そんな僕は柔らかいベッドの上で、寝転がりながら考え事をする。考えているのは、兄のブラック・クラインバルについてだ。兄は乙女ゲーム史上最強最悪のキャラクターではあるが、あれから何か悪役らしいことをすることはなかった。
そのことに一安心するも、ある疑問が浮かぶ。
兄のブラックは元々性格が悪い悪役なのか、それとも何かが原因で悪役になったのかは分からない。ゲーム内ではその悪役への過程や性格ことについては語られていないのだ。只、ゲーム内のブラックと現在の兄は雰囲気が違う。ゲーム内と年齢差はあるが、それを除いても兄は表情豊かだ。僕に指を握られて眉をひそめるなど、ゲーム内のブラックでは想像できない。ブラックは鉄仮面で決して表情を崩すことはなかった。まるで感情が存在しない程であったのだ。如何してゲーム内のような、残虐性で冷酷非道な性格については分からない。
だが、もしも兄が元々の悪人でないならば、悪役化を回避することが出来るのではないだろうか?
この世界が乙女ゲームの世界ならば、いずれヒロインが登場することになる。そして兄が史上最強最悪の悪役皇太子キャラクターとして、ヒロイン達と対峙することになるのだ。ゲーム経験者である僕にとって悪役は倒すべきだと思う。しかし悪役をしていないブラックを見てしまった手前、素直に戦おうとは思えない。
前世の僕には兄弟は居なかった。何時も同級生や同僚が羨ましくて仕方がなかったのだ。悪役になる可能性があるかもしれないが、折角兄が出来た。出来ることなら兄弟として仲良くしたい。それが僕の素直な気持ちである。
此処で大事なのはブラックの元々性格が悪い悪役なのか、途中から悪役に変わってしまうのかを確認しなければならない。元々の性格が悪いならば、僕はヒロインに協力をしてブラックを打ち倒す。でも元からの悪役でないならば、全力で兄の悪役化を断固阻止する。そして憧れの兄弟との生活を楽しみたい。
「むぅ……」
早速ブラックへの確認をしたいが、彼は最近僕が寝ている時にしか会いに来てくれない。そのことに僕は口を尖らせる。初対面で指を強く握り過ぎた所為かもしれない。嫌われた可能性もあるが兄は僕が寝ている時には傍に居るらしく、目を覚ますと姿を消すという謎の行動をしているらしいのだ。『らしい』というのは、僕が寝ていて状況を知らない。全て両親やメイド達が僕に話しかけてくれる情報である。ブラックが元からの悪役か否か如何かの確認をするには、直接会わなければ出来ない。つまり眠気との勝負ということになる。
「くわぁ……」
赤ちゃんは寝るのが仕事とはよく聞くが、本当にその通りである。僕は欠伸をひとつかいた。後は兄が訪れるまで寝ずに我慢をして、ブラックが元からの悪人かを確認するだけである。
「ふわぁ……」
閉じそうになりそうになる瞼と格闘しながら、更に欠伸をした。