第19話 反省②
「シルバー」
「むむぅ……」
兄様が僕の名前を呼びながら、ベッドの上で丸まった僕の背中を優しく撫でる。本来ならば、兄様に呼ばれたら直ぐに返事をするのだ。しかし今は己の失態から、兄様に顔向けすることが出来ない。合わせる顔がないのだ。
「……兄に顔を見せてくれないのか?」
「うむぅ……」
少し寂しそうな声色で告げられた言葉に、僕の心が揺らぐ。決して兄様の顔を見たくないわけではない。寧ろ兄様の顔はずっと見ていたいぐらいだ。それに誕生パーティーで最後に見た兄様は怒っていた。穏やかな表情の兄様を堪能したい。兄様の顔を見ることが出来るのは嬉しいのだ。しかし今の僕は反省中であり、合わせる顔がない。それなのに、兄様の顔を見たくないのか?と言われたら僕は顔を上げてしまいそうになる。優しい兄様にしては狡い言い方だ。
「シルバーの顔が見ることが出来ないのは……寂しい」
「……う、むぅ……」
消え入るような呟きに、僕の反省モードは限界を迎えた。これ以上、兄様に寂しい思いをさせるなんて僕には出来ない。確かに数日間眠りこけて、兄様に迷惑と心配をかけた。そして守る兄様を放置して眠ってしまっていたのは事実である。だが僕が過ぎた過去を悔いている間に、兄様に寂しい思いをさせるなんて間違っているのだ。僕はおずおずと、顔を上げる。
「漸く顔を見せたな。シルバー」
「……うぅ……」
顔を上げると、優しく微笑む兄様に頭を撫でられる。兄様の顔を見ることが出来たのは嬉しい。しかし少し後ろめたい気持ちがあり、思わず視線を逸らしてしまった。こんな反応は転生してから初めてである。更に言えば、大好きな兄様に反抗的な態度を取ってしまい。そのことも重なり、より兄様と目を合わすことが出来なくなる。
「……大丈夫だ。シルバーが気にすることは何もない」
「うむぅ……」
僕は何も言っていないのに、兄様は僕を慰めてくれる。兄様は僕の反応を見て何かあると、察してくれたようだ。そういうところも大好きである。しかし僕は顔を逸らした状態のままだ。正直この状態は良くない。僕は今、優しい兄様の配慮に甘えてしまっているのだ。辛うじて、返事だけはすることが出来ているのが幸いである。
「何の鍛錬も無しに魔法を使ったのだ。幼い体には負担だったのだから気にするな」
「うぅ……」
兄様は僕の態度に怒ることもなく、優しく頭を撫で続けてくれている。本当に優しい兄様だ。誕生パーティーで僕が眠ってしまったことに関して、神聖竜からは詳しい説明がなかった。だが、多分兄様が言うように魔法を使い、疲れて眠ってしまったのだろう。それだけ神聖竜の力を行使するのには、体力が必要ということだ。流石は邪神竜を封じた神聖竜の力である。これから兄様を悪しき者たちから守るには、より体力が必要となるだろう。




