第17話 白銀の竜⑤
『……力を貸すとは言っても、既に私は力を貸しているのだがな?』
「んぅ?」
神聖竜から正式に力を貸して貰えることに喜んでいると、不思議なことを告げられる。その内容に思い当たる節がなく、僕は首を傾げた。
『覚えていないか? 誕生パーティーに訪れた、モロバ侯爵の時のことだ』
「うぅ? んぅ? ……あぅ!」
誕生パーティーと言われ、思い出すと色々と不思議なことがあった。神聖竜が言っているのはモロバ侯爵が苦手だと感じたこと、その後の光の件についてだろう。
『モロバ侯爵は悪しき者たちの仲間ではなく、邪悪な力に操られていたようだ』
「おぉ? ……むぅ」
神聖竜の発言に納得する。始めは居心地が悪いと感じたのもモロバ侯爵だけだったが、光が収まった後には嫌な感じはしなかった。つまり悪しき者たちは、人を操る魔法を持っているのだ。そしてモロバ侯爵を操り、兄様に酷いことを言ったのである。人を使って悪いことをするなんて、なんて酷いことをするのだ。僕は頬を膨らませる。
『邪神竜は封印されてはいるが、封印前に配下の者たちに力を授けている。愛し子は、その力の片鱗をモロバ侯爵から感じたのだろう』
「……んぅ?」
なんと邪神竜には配下が居て、その人たちに悪い力を分け与えているらしい。きっとそれが悪しき者たちだろう。封印される前に自身を復活させる者たちを用意し、保険をかけているというのは用意周到である。先程、僕は神聖竜の力を行使出来る『愛し子』であるという説明を受けた。だから邪神竜の力を感じて、操られているモロバ侯爵に違和感を覚えたのだろう。
『私は愛し子の強い思いを受けて、力を貸したのだ』
「うぁ! あぁ!」
僕はこの世界での魔法の使い方は分からない。誕生パーティーの際には、兄様を傷付ける言葉をそれ以上口にしないで欲しかった。モロバ侯爵の言葉から、兄様を守るのに無我夢中だった。如何やらその僕の必死な気持ちに、神聖竜が応えて力を貸してくれたようだ。僕は神聖竜に感謝を伝える。
あれ以上モロバ侯爵の言葉が続けば、兄様は確実に魔力を解放しただろう。そうすればパーティー会場は大変なことになり、兄様の心を傷付ける事態になったと思われる。わざと悪い言葉を重ねていたことからも、もしかすると悪しき者たちは兄様の心を乱すことが目的だったのかもしれない。嫌な予想が浮かぶ。
パーティー会場で兄様にわざと人を傷付けさせて、その自責の念に苛まれる心に付け入ろうとしていた可能性がある。神聖竜の説明によれば悪しき者たちは、邪神竜を復活させる為の術者として兄様を必要としているからだ。兄様は魔力が強いから、モロバ侯爵のように簡単に操ることが出来ないのだろう。だからと言ってモロバ侯爵を操り、兄様に人を傷つけさせるように仕向けるとは凶悪である。
『さて……そろそろ、目覚めないといけないな』
「んぅ?」
不意に神聖竜は見上げた。そういえば此処は夢の中だということだが、僕はどれだけ眠っているのだろう。
『今は、愛し子を通してしか力を貸すことが出来ない。しかし私は何時でも愛し子のことを見守っている。必要ならば私を呼べ。愛し子の身も意思も守ると誓おう』
「おぉ! うぃ! あぃ!」
神聖竜は僕に顔を近付けると、手の甲に口付けをした。神聖竜という心強い仲間を得ることが出来て嬉しい。告げられた言葉に頷くと、目の前にある神聖竜の顔に抱きついた。絶対に兄様を守る。
『さあ、目覚めよ……』
「ふぁ……」
優しい声に体から力が抜ける。夢の中から目覚めるというのに、再びやって来た眠気に瞼を閉じた。




