年下の幼馴染が弟じゃなく男に見えるのは、慣れない浴衣と夏祭りのせい
六歳下の幼馴染とは、彼が赤ん坊の頃からの付き合いだ。
妹と同い年の、お隣の男の子。
彼が中学に上がるまでは母親たちが子供を預け合っていたし、近くの公園に行けば会うから、私もよく彼と遊んでやっていた。
私を『りつねえちゃん』と呼んでいた小さな男の子は、いつからか『律さん』と呼ぶようになって。
声変わりして、背も伸びた。
弟として可愛がってきたのに、高校に上がってからの彼は、たまに男の顔をするから困る。
「早かったね、律さん」
浴衣に着替えて玄関に行くと、甚平姿の悠真が待っていた。
普段と違う姿や目立つ鎖骨に動揺したけれど、ごまかすように「男は着替えが早くていいな」と軽口で返した。
彼が私のカメラに目を向ける。
「何その大きなレンズ。野鳥でも撮る気?」
「朝陽の初デートを見守りに行くんだろう? 超望遠レンズにした」
妹の朝陽が好きな男を夏祭りに誘えたと聞いたのはついさっき。
様子を見に行くなら変装のために浴衣を着ろと言われて着替えたところだ。
距離を考えると普通の望遠レンズでは心もとなく、超望遠レンズをカメラに取り付けた。
「それ隠し撮りだから。没収。そっと見守るだけね」
「あっ」
悠真が私からカメラを取り上げる。取り戻そうとしたが、私の手首をつかむ彼の力が強くて叶わなかった。
悔しい。昔は楽に抱っこしていたのに。
一体いつの間にこんなに育ったんだろう。
悠真が私の手に自分の指を絡めてくる。
恋人繋ぎでぐいと引かれ、脈が強く打った。
「手を繋ぐ必要はあるのか?」
「うん。夏祭り会場にとけ込むために恋人のふりをしよう」
絡めた指が、重ねた手のひらが熱い。
でも私ばかり動揺させられてたまるかと、こちらから腕を組んで、胸を寄せる。
「このほうが恋人っぽいぞ?」
「……っ」
悠真の瞳に動揺の色が走ったが、それはほんの一瞬のこと。
すぐに彼はニィと笑って、私の耳元に唇を寄せた。
「積極的だね。このままキスしちゃおうか?」
「――っ!」
吐息がかかり、心臓が暴れ始める。熱が頭のてっぺんまで上ってきた。
「調子に乗るな」
悠真の鼻をぐいとつかんでから、体を離す。
赤くなった顔を見られたくなくて早足になった。
残念そうな「ちぇ」という声は、聞かなかったことにする。
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※お姉さんに振り向いて欲しくて頑張る男の子の話はこちらです。
「大好きなお姉さんを夏祭りに誘うためなら、小狡い手だって使うよね」
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