無関心
バチカン市国の厳重な地下牢でラザロ枢機卿は唯一この世界を訪れた悪魔、パズスと面会する。
バチカン市国
サン・ピエトロ広場地下深く
バチカン市国情報局・超自然的存在対策本部
特別警戒地下牢
2025年3月末日 時間不明
ラザロ枢機卿は特別厳重警備された牢屋に入った。
そこにはこの世に唯一解き放たれた悪魔が収監されていた。
圧倒的な圧迫感と緊張感が漂っていた。
牢屋の中に美しい女性の守護神鬼がソファに優雅に座り、香ばしいホットコーヒーを飲んでいた。香からするとブラズィル産だとわかった。
「お久しぶりですね、ラザロ枢機卿。」
女性は顔を上げて、漫勉な笑顔でラザロ枢機卿に挨拶した。
「お久しぶりです、クリスさん。」
ラザロ枢機卿は答えた。
彼女の名はクリス・マクニール、元女優だった。70年代で絶大な人気を誇っていたし、ハリウッド映画の代表格だった。そしてシスター・リーガンの母親でもあった。
「もしかして、私の中にいる彼に用事かな?」
「はい、聞きたいことがあってね。いるかな?」
「私たちを見ていると思うのですが、呼んできます。」
「ああ、頼む。」
女性の顔が一瞬歪み、目が白くなった。
「聞いているぞ、何が聞きたいか?答えてやるよ、拝み屋。」
乾いた男性の声で女性がしゃべった。
「パズスよ。何故この世に来たのか?いい加減に教えろ。」
「人にものを聞く態度じゃねえな、拝み屋。」
「人?悪魔の分際で神のしもべである私を逆らうのはいい度胸じゃないか。」
「相変わらず、何もわかってねえな、石頭め。」
ラザロ枢機卿は焦っていたが、この気まぐれな悪魔には答えてもらわないと困ると思ったので
トーンダウンすることにした。
「悪いが、パズスよ。知りたいのだ。何故お前以外の悪魔たち、神の敵がこの世界には来ないんだ。教えてくれ。」
「本当に知りたいのか?俺の話している内容を信じるか?拝み屋。」
「真実を知りたい。何故、お前たちはあの方が誕生して以来、この世界に来ない?」
「耳が痛むぞ、ラザロよ。」
「かまわん、答えてくれ、パズスよ。頼む。」
女性は歪んだ笑顔を浮かべたが、すぐに少し悲しみを漂う表情になった。
「元々、この世界に関心ないのだ、ラザロよ。」
「関心ないだと?」
「最初からね。この世界がどうなろうか、我々は無関心だった。」
「有り得ない、あの方が誕生する前によく暴れていたのではないか。」
「頼まれてね。我々は神に頼まれて、暴れていただけだ。」
「そんなバカな。」
「嘘ではないぞ。我らの王、ルシファー様はこの世界に興味、関心、憎しみすらないのだ。」
「では、何故お前が来た?」
「俺たちの世界は退屈なんだ。」
「地獄は退屈なのか?」
「地獄かどうか、見方次第だ。」
「簡単に渡れないのもあるだろうな。」
「それが違うぞ、通じる道がいくつかある。ただ俺以外の連中がこの世界に対して無関心なんだ。」
「無関心?」
「あんたが拝める神の頼みを聞いて、ちょっかい出していたが。元々この世界に来ても、何のメリットもないのだ。」
ラザロ枢機卿は衝撃を受けた。今までこの悪魔の言うことを信じなかったが、ここ最近の出来事を見ると嘘を付いていると思えなかった。
「神が我々を騙している。。」
思わずラザロ枢機卿はつぶやいた。
パズスは哀れみのある視線でラザロを見た。
「そうなるな。」
「奇人、吸血鬼、亜人が暴れるのは?」
「神が誘導しているとしか思わない。我々、悪魔が自分たちの世界から絶対に出ない、神に頼まれたら、もしくは神の力の欠片を使って呼ばれたらは別だが。」
「パズスよ。お前を開放する。我が眷族であるクリス・マクニールの体から出ろ。」
女性の目に色が戻った。
「ラザロ枢機卿、申し訳ございません、止めてください。」
クリス・マクニールの声だった。
「何故だ?悪魔を閉じ込める必要がなくなる、自由に戻れる。」
「今、私の体内から出たら、彼は強制的に自分の世界に戻される。」
「どういうこと?」
「退屈な世界から逃げた罰らしいです。」
「罰?」
「私に憑依するしかない。彼は自分の世界に戻りたくない。」
「でもそうなったら、君を永遠にここに閉じ込めなきゃならなくなる。」
「それでいいんです。半世紀彼を体内に住まわせて、彼を理解し、彼を愛した。」
「何?悪魔を愛したのか?」
「はい。守護神鬼の体になってから特に彼の心境を理解し、その本音を知った。」
彼女の目がまた白くなった。
「ラザロ枢機卿、俺も彼女を愛してしまった。ここの牢屋から出たら、他の者に憑依する前に強制的に戻される。」
「関心がないのは嘘なのか?」
「違う。この世界に関心を持ってしまった者を滅ぼさなければならない掟だ。」
「お前の王は決めた掟なのか?」
「違う。神が決めた掟。」
「お前たちは神の敵のはずだ、従うはずない。」
「普通はそう思うだろうが、我々の世界や神のいる世界はあまり違わないところか、同場所、同時に存在する異なる2つの世界である。」
ラザロ枢機卿の信じていてたものが崩れ去ったと感じた。
「わかった。」
ラザロ枢機卿はため息をついた。
「感謝する、ラザロ枢機卿。」
パズスがそれを言った後、クリスに体を返した。
「ラザロ枢機卿、感謝します。私のことは気にしないでください。」
「こんな状態で置いていけない、対策法を考える。もう少し、辛抱してくれ、クリスさん。」
「はい。ありがとうございます。」
ラザロ枢機卿は急いで特別牢屋から出た。
一時休戦した闇の評議会のメンバーと話さねばならないと強く思った。
同時刻
特別牢獄監視室
他の監視員を追い払た後、監視画面を見ていたヴェントレスカ神父は全ての会話を聞いた。
神だろうが、悪魔だろうが、ノートルダムだろが、自分さえ教皇になれば、関係ないと思った。
莫大の資産と権力、力が欲しかった。
小島からの注射器をポケットから取り出して、首に打った。
「後数時間に死神族に転化する。傲慢なラザロを滅ぼす。」
ヴェントレスカ神父は1人で狂気が感じられる大きな声を上げて、笑いだした。
日本語未修正。