解放
小島は地下室に幽閉されていた不可触民を解放する。
タウレッド王国、首都・トレード市
ワトソン重工本社ビル・地下特別シェルター兼研究所
最下層
2025年3月某日 朝9時50分頃
小島が警備隊を滅ぼした後、頑丈な扉で守られていた幽閉の間に入った。
圧し潰れそうな凄まじい風圧に似たものを肌で感じた。
「これが不可触民か。」
小島は静かにつぶやいた。
大きな透明タンクに入った男が小島を見た。
「解放しろ、小島。」
中東系な風貌をした男の声は頭の中で響いた。
「そうするが、これから先はどうなるのか?」
「力が回復できる場所へ連れて行け、小島。」
小島はこの男に見える何かを信用していなかったが、恐ろしい本性を現したノートルダム会長よりマシだと思った。
「わかった。すぐに見つからない場所がある。」
小島は制御パネルを操作し、培養液を抜き、カテーテルが自動的に外された。
男の体に巻かれていた銀でコーティングされた鎖もすべて落ちた。
不可触民はゆっくりと体を伸ばし、拳でタンクを破壊した。
強化ガラスが散り、男は宙に浮きながら、小島の前に下りた。
この男が放つ強烈な存在感、威圧感、風格と禍々しいオーラに小島が圧倒された。
「感謝するぞ、小島。先ずは腹ごしらえだ。」
不可触民と呼ばれているこの男が一気に大きくなった両手で小島を掴み、目の前まで軽く持ち上げ、顔がX状に割れて、牙だらけの大口で首を噛んだ。
小島は信用して、失敗したと思った。今回ばかり生還する可能性がないと考えた。
噛まれたことで鋭い痛みを感じ、意識を失った。
約1分後、小島が意識を取り戻した。
体中は痛かったが、前より力強くなったと感じた。
「小島、お前を【上書き】した。これでノストラダムスと同等な能力を得られるぞ。」
「未来を見ること以外の能力ですね。」
皮肉を込めて、小島は答えた。
「そうだ。あれがノストラダムスは人間だった頃から持っていたものだ。」
「やはりそうでしたか。」
「余同様、太陽の元でも活動できるぞ。」
小島にとって、嬉しい知らせだった。転化してから夜でしか活動できずだったし、特殊日焼け止めクリームを塗らなければならなかった。
「小島、今度こそ、本当に腹ごしらえだが必要だ。」
確かにこの男は120数年幽閉されていた。
「わかった。上に餌になりそうな会長一派の戦闘員と円卓同盟の新規メンバーがいる。」
「余は共食いはせんのだ。その円卓同盟の会員とやら、余が滅ぼす。」
「私の部下がいる、ほぼ全員、説得する。あなたには戦力が必要になると思います。」
「そうだ、眷族が必要だ。円卓同盟の道化師どもではない者たちを。」
2人は幽閉の間から出て、研究室へ向かった。
更に2分後
イゴールは必死に装置の最終仕上げをやっていた。会長の期待に応えたいというより、ヴィクター・フランケンシュタイン博士のようになりたくなったと思った。
研究室の外が騒がしくなり、怒号が聞こえてきた。その時、研究室の自動扉が大きな拳で破壊され、2人の男が入ってきた。
一番大きな男性が宙に浮いており、全裸だった。もう1人はよく知っている顔だった。
「小島!!貴様!!裏切ったのか?!!そしてそれはまさか!」
イゴールは不可触民の圧倒的な存在感に恐怖した。
「余はお前の上位の存在、跪け下郎め。」
イゴールの頭に男の声が響いた。
「嫌だ!!お前は敵だ!!ノートルダム会長の敵だ!!」
背骨の曲がったイゴールは怒りの籠った表情で叫んだ。
「小僧、跪け!!」
男の声が頭の中で更に強く響いた。
「俺は絶対死なない存在になった、お前の部下でも眷族でもない!!」
「死なない存在か?面白いこと言うな、小僧。他者はお前を滅ぼすことができないが、開祖である余はそれができる。」
イゴールは顔面蒼白となり、恐怖で一歩下がった。
「嘘だ!!ノートルダム会長は俺に永遠の命を与えた。」
「元は余の力だ。」
イゴールは恐怖と怒りで変身し始めた。一気にこの小男は身長2メーター以上になった。
曲がった背骨が治り、筋肉は鎧のようになった。大きくX状に割れた牙だらけの口と顔から長い舌が垂れてきた。
「ノートルダム会長の敵を俺が滅ぼす!!」
叫びながらイゴールは突撃してきた。
不可触民は動じずに彼の動きを見ていた。
それからの出来事は小島でも目で追えることが出来なかった。
イゴールの目から光が消え、大きな音を立てながら、地面に落ちた。
不可触民の手に彼の心臓が握られていた。そしてそのまますぐに潰した。
イゴールの体は腐りはじめ、悪臭を放つ液体となった。
「余だけは死神族を滅ぼすことができる。」
男はイゴールだった液体を見て、自分の声でつぶやいた。
元は不可触民がノートルダムを死神族へ転化させ、自分を滅ぼすように命じたが、彼はそれが出来なかった。何をしても必ず生き返る上、力が増していく存在となった。それから自分を滅ぼす存在を探す長い旅に出た。
不可触民は培養液たっぷりのタンクにいた元田森首相の体を見た。
「ノストラダムスの悔しがる顔をすぐに見れないのは残念だ。」
男はタンクの強化ガラスを壊し、田森の体を取り出してから食べ始めた。
不可触民は田森の人体を食べている間、小島がもう一つの幽閉の間に行き、
ヴィクター・フランケンシュタイン博士を解放した。
頭と体が結合した博士は弱っていた。
「解放してくれたことを感謝するが、まさか、あの地下牢の男を解放して、お前も死神族になったのか?小島よ。」
ヴィクターは質問した。
「なったさ、フランケンシュタイン博士。時間がないので一緒に来るか、またここでノートルダムを待つのか?選んでくれ。」
「一緒に行くんだが、奥にいる3人も連れて行く必要がある。」
「何故ですか?フランケンシュタイン博士。」
「あの3人は一度ノストラダムスに勝っているので、ヒントを得られればと思っている。」
「精神は壊れているのではないか?」
「可能性は高いが、そうじゃないことにかけるしかありません。」
ヴィクターと小島が封印された3人、アラン・クォーターメイン、モリアーティ教授、アルセーヌ・ルパンの脳と神経が入っているタンクを担いで出ていった。
小島は移動しながら考えていた。まだ部下である牙小隊の隊員の説得が残っていたことを。
「やるしかない。」
小島はつぶやきながら研究室にいる不可触民と合流しに向かった。
同時刻
トレード市内
カーサ・デル・レイ宮殿
ノートルダムは寝室の大きな窓の前で全裸のままに立っていた。
受精の儀式が終わり、ベッドには個性は削除された王妃が寝ていた。
中性的で女性寄りの息子である国王と激しくセックスをした後、
彼をソファで寝かした。
ノートルダムは本社で起きていることは既に知っていた。
それは彼の能力のおかげであった。
その能力の名前は【選択肢時間】だった。
あらゆる可能性の未来を見せてくれる素晴らしいものだった。
「小島の裏切りは想定内だな。思ったより早かったけどな。」
軽くつぶやきながらしぼりたての血をワイングラスで飲んでいた彼が高級なルーバー・ドレッサー セットに置いていった注射器を取った。
「ワトソン、モローとグリフィンが【物】の遺伝子情報を解析し、俺の体と適合するように調整してくれたことは嬉しいな。」
注射器に入っていた赤い液体を左腕に注射した。
ノートルダムの体が震え出した。
「痛いな、すごく痛いな。体中が痛いな。。快感だ。」
ノートルダムの口がX状に割れて、その中は牙だらけで長い舌が伸びた、それから10本の触手牙も出て来た。
体は一気に2メーター半以上になったが、【物】の遺伝子の体内取り組みが終わった後、元の大きさに戻った。
「計画は順調に完了した。」
人間体形に戻った後、笑顔でつぶやき、不可触民、小島とその部下が本社から脱出するまで、もう一度国王を抱こうと思って、ソファに向けて歩きだした。
同時刻
不可触民は元田森の体を食した後、考えていた。
ノストラダムスは必ず滅ぼすが、自分を滅ぼす存在探しは止めようと思った。
この世界は面白い、永遠に存在するのならこの世界は自分のものにしたいと新しい野望が芽生えた。
ノストラダムスとその道化師仲間、闇の評議会そして自分と表裏の関係にある教会のラザロ枢機卿を滅ぼせればいいとの結論に至った。
特にラザロ枢機卿を滅ぼさねばとの思いは強かった。
同じ人物からそれぞれ違う命令を受けたからだ。
ラザロ枢機卿はあの人物の手により蘇り、あの人物の遺産である教会を守る使命を受けた。
自分はあの人物を裏切るように指示され、呪われた存在として蘇り、あの人物の遺産と全人間の命を奪う使命を授かった。
不可触民は2千年ぶりに本名を口にした。
「余はユダ、イスカリオテのユダだ。」
狂気が感じられる大きな笑い声が研究室に響いた。
日本語未修正。