粛清
ヴァレック卿がマーロー卿の本拠地へ連れて行かれる。
北極海の何処か。
2025年3月某日
極夜を明けた地域。
ポータルが開いた後、2人の主は大きな部屋に出て、マーローはヴァレックを引っ張って、思い切り床へ投げ飛ばした。
「ここはどこだ?」
ヴァレックはあらゆる方向を見ながら聞いてきた。
「俺の移動式要塞だ。」
「移動式要塞?」
「吸血鬼専用の大型コンテナ船だ。」
「大型コンテナ船?」
「ああ、しばらくここにいてもらう、ヴァレック卿。」
「何故だ?」
「ノートルダム会長の命令だ。」
ヴァレックは恐怖を感じた。
マーローは独自の言語で叫び、眷族を呼び出した後、部屋の中央にあった大きなソファに座った。
2人の男性眷族が現れて、ヴァレックの前に立った。
「私はマーロー卿の副官、エバン・オルソンだ。ヴァレック卿、ご同行願いますか。」
背の高い男性がヴァレックに言った。
「断る。」
ヴァレックは怒りの表情で拒否した。
「遠慮なさらず、ご同行願います。」
もう1人の眷族、ビリー・キトカと呼ばれている男性がヴァレックに声をかけた。
彼ら2人は主同様、灰色の肌、黒い目と鮫のような牙を持っていた。
「あなたは大事なゲストです、ヴァレック卿、お部屋へご案内します。」
エバンは再度ヴァレックに促した。
大きなソファに座っていたマーロー卿は皮肉のこもった笑顔でヴァレックを見ていた。
「お前は大事な客、小僧、大人しく従え。」
マーローはヴァレックより遥かに古い主のため、力の差は歴然だった。
ヴァレックは諦めて、床から立ち上がり、2人の男にガードされ、部屋を出て行こうとした。
「ヴァレックよ、お前の眷族は後何人残っているのか?」
マーローはヴァレックたちを呼び止めた。
「今はそれ関係ないだろう、マーロー卿。」
「答えろ、小僧。俺は冗談を好まない。」
ヴァレックの恐怖と不安が更に膨れ上がった。
「100人だ。」
「どこにいる?答えろ。」
「何故だ?我が眷族たちを連れてくる気か?」
「ああ、そうだ、小僧。」
「ニューメヒコ州の俺の屋敷にいる。」
「今ここに全員を連れてくる、そこで待っていろ、小僧。」
マーロー卿はまた独自の言語で眷族たちを呼び出した。
屈強な男女の眷族、20名が部屋に入った。
また独自の言語でマーロー卿は眷族たちに話して、右手を上げた後、
またポータルを開いた。
ポータルの向こうではヴァレックは見慣れた我が屋敷の大きな居間を見た。
「何故我が屋敷を知っている?」
ヴァレックはマーローに聞いた。
「ノートルダムに聞いたからだ、小僧。」
ヴァレックは感じていた不安が的中した。
「何をするつもり?答えろマーロー!!」
暴れるヴァレックを2人の男、エバンとビリーが抑えた。
この2人は強かった。主である自分よりも、とヴァレックは思った。
「ノートルダムの命令でお前を系統ごと滅ぼすさ、小僧。」
「冗談じゃない!!ふざけんな!マーロー!!!」
マーローは独自の言語で眷族に命令した。全員はロングソードと戦斧を出して、
ポータルに入った。
「やめろ、マーロー!!」
ヴァレックは叫んだ。
マーローの眷族がヴァレックの屋敷で暴れ出し、寝ていた眷族を素早く始末した。
ヴァレックは自分の系統が滅びるのを感じながら、苦しんでいた。
「最後はお前だ。」
マーローは笑いながら、ヴァレックに伝えた。
苦しみの中、ヴァレックは一つのことを思い出した。
屋敷の地下に幽閉されている反抗的な眷族のことを。
「ジャック・クロウだ。」
頭の中で考え、声を飛ばした。
「クロウ、貴様、解放してやるぞ。そこから逃げて、生き延びろ。」
銀の鎖で封印されていたクロウは目覚めた。
「何だ、この野郎め、いつかお前を滅ぼす、魔鬼・ヴァレック!!」
この男は人間だった頃には凄腕の元吸血鬼ハンターでヴァレックの宿敵だった。
最後の戦いでぎりぎりのところで負けて、無理やり転化させられ、封印された。
「どうやら、それはかなわぬ夢になりそうだ、クロウよ。」
ヴァレックは悲しみの滲む声でクロウに伝えた。
銀の鎖が地面に落ちて、クロウは自由になった。
その時、彼は幽閉されている地下室にマーローの眷族の男女2人が入ってきた。
眷族の男が戦斧で襲いかかった。
クロウは素早く、落ちている銀の鎖を手で掴み、回し、男の顔目掛けに投げた。
顔に鎖が当たり、一瞬動きが鈍くなった男にクロウは腹部に蹴りを入れ、
しゃがんだところで戦斧を奪って、頭を刎ねた。
男はあっという間に燃えて、灰になった。
女性眷族が怒りの叫びを上げて、ロングソードで切りかかってきた。
クロウは戦斧の刃で彼女のロングソードを受け止めた後、拳に巻かれた銀の鎖で彼女の顔を殴った。
「痛いだろう?」
クロウは彼女に言い放った。
ロングソードが手から滑り、後ろへ倒れた女性眷族が銀で顔を焼かれ、悲鳴を上げていた。
クロウは彼女の胸を踏んで、両腕を切り落とした後、戦斧で頭を真っ二つに切った。
女性眷族が燃えて、灰となった。
「クロウよ、駐車場に太陽光対策したリムジンがある。それに乗って、遠くへ逃げろ。」
「おい、てめえ、ヴァレック、何を言っているんだ!!」
クロウは叫んだ。
「早く逃げろ、我が宿敵にして我が友よ。」
「何ふざけたことを抜かしているんだ、答えろ、ヴァレック。」
「逃げろ、クロウよ。バーロー卿のところへ行け。あそこなら安全だ。」
クロウは文句を言うと思ったが、上が騒がしかったのは気付いた。
「わかった。」
戦斧とロングソードを握り、地下室から出て行った。
「バーロー卿に悪かったと伝えろ、クロウよ。」
「何を寝ぼけたこと言っている、ヴァレック、てめえで言えよ。」
「お前にも悪いことをした。すまなかった、クロウよ。」
「謝るガラじゃねえだろうが、てめえはよ。」
クロウは駐車場に着く前に更に1人のマーローの男性眷族を滅ぼし、ヴァレックの眷族がほとんど
寝ている間に滅ぼされたことに気づいた。
「汚ねえよ、てめえら!!」
「かまうな、逃げろクロウよ、お前だけでも生き残れ。」
クロウはリムジンに乗って、門を突き破り、猛スピードで立ち去った。
「何があった、答えろ、ヴァレック!!」
リムジンを運転しながら、クロウは質問した。
「敵に騙された、我が友よ。」
ヴァレックらしからぬ友情のこもった声でクロウに伝えた。
マーローが眷族を呼び戻しているのを気付いて、ヴァレックはクロウに声を送るのを一旦やめた。
マーローは眷族を呼び戻し、ポータルを閉めた。
20人のうち、3人が滅ぼされたことに気づいた。
「お前の眷族は弱いと思った、小僧。我が親衛隊の3人を滅ぼす力のある者がいるとは驚いたぞ。」
「そいつは俺の眷族では桁外れの強さを誇る。お前の眷族じゃ勝ってない。」
強い眷族2人に抑えられながら、ヴァレックは笑顔を浮かべて、マーローを見た。
「舐めるな、小僧。お前はすぐに滅ぼされる。」
「知っている。一気に滅ぼすがよい、マーローよ、そしてノートルダムを信じるな。」
「使い捨てのお前は何もわかってないな、小僧。」
「ああ、確かにわかってなかった。今ならわかる。」
マーローは鮫のような牙でヴァレックの首元を噛んだ後、頭を引き抜いた。
滅ぼされる寸前、ヴァレックは最後の声は唯一の眷族の生き残りである
クロウにメッセージを送った。
「生きろ、我が友よ。」
ヴァレックの体が激しく燃え上がり、灰になった。
主による、主殺しが数百年ぶりに行われた。
同時刻
ニュー・メヒコ州の砂漠のどこかで
ヴァレックから最後の声が届いた後、リムジンを運転していたクロウは説明ができない孤独感に襲われた。何か断ち切られたことを強く感じた。
「こんな感じなんだ、辛いな。我が宿敵であり、我が友、ヴァレックよ、敵とってやる。」
クロウは断絶系統となった。