移動
ダ・ヴィンチの遺産を盗まれた後、ブラウン神父、メリン神父と彼らと同じ班にいるもう1人の若い神父、バチカンへ戻る。
イタリア共和国、ロンバルディア州、
州都・ミラノ市・ドゥオーモの地下
2025年3月某日 朝方5時50分頃
ブラウン神父、ノスフェラトゥ卿、彩美とコンラートはドゥオーモに入った。
地下にあった特別保管庫の重い扉が開いていた。
中に入ると灰と3枚のキャソックが床に落ちていた。
警備していた3名の守護神鬼族の残がいだった。
「一瞬でやられている。襲ってきた者は相当強い。」
ブラウン神父はしゃがんで灰と服を見て、皆に伝えた。
「ブラウン神父、何故3名だけが警備していたのですか?」
彩美が質問した。
「三位一体にちなんで、我々、守護神鬼族は誕生して以来、ずっと3人組で行動している。」
「でも神父はいつも1人で行動しているように見える。」
彩美が鋭い指摘をした。
「実は今私を含む3人は同時世界各地で活動しているよ。」
ブラウン神父は答えた。
「3人で一緒に動くわけじゃないですね。」
彩美は真顔で言った。
「その通り、彩美さん、理屈っぽいかも知れないが、我が一族は3に強いこだわりがある。」
「彩美よ、ブラウン神父を困らせるでない。」
ノスフェラトゥ卿は彼女を優しく叱った。
「失礼しました、ブラウン神父どの、我が主。」
彩美が少し恥ずかしそうに謝罪した。
「ダ・ヴィンチの遺産を盗まれた今、急いでバチカンへ戻らねばならない。今各地で動いている他の2人も。これは一大事。」
ブラウン神父は心配そうにつぶやいた。
「ああ、あれを使えば、吸血鬼、守護神鬼族など一瞬で灰にされる。」
ノスフェラトゥ卿も神父同様、事態を重く見ていた。
「ノスフェラトゥ卿、是非ご同行を。円卓同盟は総攻撃をかける前に戦力を集結する必要がある。」
「その通り、ブラウン神父。では我々は同行しょう。」
神父のスマートフォンがなった。
「メリン神父からだ。我々は同じ班で動いている。」
ブラウン神父は皆に知らせた後、電話に出た。
「ブラウンだ。どうしたのですか?メリン神父。」
「ドリアン・グレイを救出した。今からバチカンに戻る。」
「そうか、グレイは我々側に寝返った?」
「はい。かなりやられていましたが、今は幸いにも回復している。」
「そうか、では私はノスフェラトゥ卿ご一行とともに戻る。」
「ダ・ヴィンチの遺産は円卓同盟に奪われてしまった。」
「まさか!、すぐにデミアンを呼び戻します。」
「頼みます、メリン神父。」
ブラウン神父は電話を切った。
「円卓同盟のドリアン・グレイは我々側に寝返った。」
ブラウンは皆に知らせた。
「あの手の者を信頼して良いか?」
ノスフェラトゥ卿は質問した。
「はい、全てアダム・フランケンシュタインが用意及び手配をしていた。」
「なるほど。ならば問題ないのだ。」
ノスフェラトゥ卿は安堵の表情を浮かべた。
「我が主、ブラウン神父どの、彩美さん、移動手段が上で待機している。」
コンラートは【瞬間移動】で現れた後、報告した。
近くに住んでいたノスフェラトゥ卿の人間の協力者は移動用の対太陽光の大型トレーラーを用意したので、全員、それに乗って、バチカン市国へ向かった。
同時刻
フランス共和国・オート=ピレネー県・タルブ市近辺
ランカスター・メリン神父は電話を切った後、グレイに話しかけた。
「ここまでくれば安心だと思う、ミスター・グレイ。」
「安心できないな、相手はあのノートルダムだ。」
「ここに小型ジェット機を待機させています。それで急いでバチカン市国に戻ります。」
「なるほど。では行きましょう。」
グレイは疲れていた、そして落ち込んでいたが、ノートルダムに対する怒りは
彼を動かした。
メリン神父は赤いディアボロを小さな飛行場の駐車場に止めた。
「では行きましょう。ラザロ枢機卿はバチカン市国でお待ちです。」
「はい。付いて行く、メリン神父。」
ドリアン・グレイはメリン神父が用意したキャソックを着ながら、答えた。
操縦士は待機していた。人間の神父だった。
メリン神父は小型ジェット機に乗る前、もう一度電話した。
「デミアン、バチカン市国で集合、ダ・ヴィンチの遺産は盗まれた。」
「そんな。大変なことになった。」
電話の向こうで若いギリシア系合衆国人神父が言い出した。
「喚くのは後にしろ、デミアン・カラス神父、今すぐに戻れ。」
「喚いてません、驚いただけです、メリン神父。今ヒースロー空港にいます。これから飛行機に乗って戻ります。」
「わかった、ではまた後ほど。」
メリン神父はこの若い守護神鬼族の戦闘員の教育係だった。
「まさか神父になって、守護神鬼族になって、子守にもなるとは。」
笑顔を浮かべながら、小型ジェット機に乗った。
同時刻
英国・ロンドン市・ヒースロー空港
デミアン・カラス神父は電話を切って、待合室の席に座った。
先ほどルスヴン卿と会って、休戦の約束を交わし、味方に付けた。
ワトソン重工の裏にいるあの円卓同盟は恐るべき敵だが、
教会と闇の評議会が手を組めば、彼らを止められると思った。
念のためロンドンに3人の手慣れた女性の守護神鬼族を残すことを忘れなかった。
カラス神父はメリンやブラウンより後、守護神鬼族へ転化したものの、
異例の速さで最高位の三位一体・第一組への加入が認められた理由はこの用心深さにあった。
「備えがあれば困ることはない。」
1人でつぶやいた後、手慣れのリーダー格に電話した。
「シスター・リーガン、確実ではないが、高い確率で円卓同盟がルスヴン卿を襲うと思う、
待機し、万が一敵が現れた場合、援護しろ。」
「承知致しました、カラス神父。」
「それと気を付けて、リトル・レディー。」
デミアンは彼女に優しく言った。
「もう子どもではありませんので、安心してください。あなたとメリン神父の教え子ですもの。」
シスター・リーガンは勇ましく答えた。
「頼んだぞ、リーガン。」
「任せて、デミアン神父。」
デミアンは笑顔を浮かべながら、電話を切った。
彼は思い出した、70年代でリーガンに対して悪魔祓いを行い、
今となっては珍しい、憑依した悪魔を追っ払った。
普段は悪魔や天使はこの世には無関心だと知っていたので異例中の異例の事態だった。
「円卓同盟の悪行に比べれば、悪魔はまだいい方だな。」
デミアンはため息を吐き、つぶやいた。
待合室にローマ行きのフライト搭乗のアナウンスが響いた。
同時
バチカン市国
サン・ピエトロ広場地下深く
バチカン市国情報局・超自然的存在対策本部
ラザロ枢機卿は書斎にて、考え事していた。
ダ・ヴィンチの遺産を失い、敵は常に一歩進んでいたため、心配の種が増える一方だった。
それでも行方不明だったあの男の居場所がわかった。
「2千年待った。これであの方より授かった存在理由、使命が果たせる。」
ラザロ枢機卿は1人でつぶやいた。
不安だったが、期待も同時にしていた。
ヴェントレスカ神父は自分の部屋、スマートフォン画面越しで枢機卿の書斎を覗いていた。
超小型カメラとマイクは小島に渡されて以来、ずっと監視とスパイ行為をしていた。
「後少しで私は最年少の教皇になる。」
狂気が滲む笑顔で独り言をつぶやいた。