暴き
怪人二十面相の正体が暴かれる。
日本国 東京都 千代田区
警視庁 特別シェルター
2025年3月某日 午後21時00分頃
アダムはゆっくり考えていた。
ノートルダムの能力は確かに完璧ではないことを信長公によって暴かれ、
円卓同盟の主催者は相当焦っていることがわかった。
でもあの男、あの黒いタートルネックを着ている見た目30代の若い眼鏡の男性が予備の計画を持っている可能性が非常に高いことを疑う余地がない。
「どうしたのですか?アダムさん。」
美しい長寿者の女性、黒岩弥生は聞いてきた。
「あのノートルダムは確実に何か仕掛けてくると思う。」
アダムは赤面していることを意識しながら答えた。
「ならばそれを暴きましょう、アダムさん。」
弥生は真剣な目でアダムを見つめた。
アダムは目のやり場に困っていた。弥生に見つめられると赤面だけじゃなく、汗も出て、
上手くしゃべれなかった。
「はい。」
やっとの思いでアダムが返事した。
彼女にはアダムが緊張していることはわかった。
弥生はアダムのことをチャーミングで知的な男性と思った。
普段仕事と鍛錬で忙しくしている彼女は男と関係を滅多に持つことがなかった
数回、新一と体の関係を持ったのだが、彼に対して恋愛感情を持つことはなかった。
新一がその感情を持っていたのは知っていたが、あえて放置していた。
だがこのアダムに対しては、最初から興味を惹かれた。
彼女のような長寿者が年下の男性に惹かれるのは珍しかった。
「アダムさんは緊張すると可愛いですね。」
弥生は思わず彼に言った。
アダムは更に慌てていた。
「え、はい、僕ですか?どこ?え?」
自分で何を言っているのがわからなくなった。
弥生は優しく微笑んだ。
「仕事に戻りましょう。あのノートルダムの次の手を暴きましょう、アダムさん。」
弥生はアダムの緊張を和らぐため、仕事の話に戻した。
「はい、弥生さん。」
アダムは少し冷静さを取り戻した。
心の中で彼は反省した。女性に対して免疫がないことは痛かった。
200年以上稼働しているが、美しいと思った女性は弥生さんが初めてだった。
「我が主の話では、あのノートルダムが言うのは明日の朝方4時までに我々はジャックに滅ぼされるとのこと。」
弥生はアダムに説明した。
「あの男が本当のことを言っていると思えないが、ジャックの行動パターンを考えると夜中に攻撃しかけてくる可能性が高い。」
アダムは弥生に伝えた。
「ならば0時から3時の間に来るかも知れない。」
弥生はつぶやいた。
「おそらくそうでしょう、弥生さん。今の時間では確実に準備している。」
アダムは弥生のつぶやきに答えた。
「今、我が系統の眷族と協力者の人間がジャックの攻撃を無力化するため、忙しく準備をしている。一度見回りし、もしも円卓同盟のために働いている者がいれば、見つけたい。」
「はい、弥生さん、行きましょう。」
2人は地下シェルターをゆっくり見回った後、警視庁へ上がった。
その間、アダムはずっと自分の能力、観察者を使っていた。
警視庁内では慌ただしく警官たちが動いていた。
吸血鬼、長寿者、新人者、人間など関係なく、
皆、忙しくしていた。
アダムの能力の利点の一つは人を見ただけ、識別できることだった。
動いている警官たちを見ていた。
「吸血鬼・長寿者、吸血鬼・新人者、人間だ。」
頭の中でつぶやきながら識別していたが、1人だけはどのグループでも所属していなかった。
「弥生さん、ちょっといいですか?」
「はい、何でしょう、アダムさん?」
「僕の能力で皆さんはどの存在であるかを識別できるが、あの奥に立っている男性は識別できない。」
目立たないように弥生さんに鑑識課の入り口の近くに立っている巡査部長を示した。
弥生はさり気なくその男を見た。
思い出した、遠藤巡査部長という名前だった。確かに最近警視庁へ転属した凄腕の捜査員。
転化人化予定者リストに名前が載っていた。
「確かですか?」
「はい。人間のようで、人間ではない。吸血鬼でもない。生きているが、人工的な存在にも見える。」
弥生は確信した。ノートルダムのような抜け目のない悪党なら敵に勝つため裏工作もするし、
工作員も送るはず。
その時混み合っている廊下にヘルムートとミナが入って来た。
「私があの男を捕まえるので、ヘルムート殿とミナ殿にも伝えてください。」
弥生はアダムに伝えた。
「はい。そうします。」
アダムがヘルムートたちを呼び、笑顔を振る舞いながら、
遠藤巡査部長に悟らせないように状況を説明した。
弥生は素早く動き、笑顔で遠藤巡査部長の肩を叩いた。
「遠藤巡査部長?あなたは転化予定リストに入っている方ですね?」
「これは、これは、黒岩警視正!」
遠藤は声をかけられ、驚いていた。
「あなたの武勇伝は素晴らしい。早く転化人になってほしいね。」
「光栄です、黒岩警視正、私頑張ります。この日本のために。」
遠藤は笑顔を浮かべながら返答した。
弥生は笑顔を崩さないまま素早く遠藤の首を右手で掴み、持ち上げた。
彼女の笑顔が怒りの表情に変わった。
「貴様、何者だ?」
大きな犬歯を見せながら、遠藤巡査部長と名乗っている男性に質問した。
彼は笑顔を浮かべた。
「ばれた?」
首を絞められているにも関わらず、余裕の笑顔だった。
「ああ。お前はノートルダムの工作員だね。」
男は両手を上げ、顔を剥がした。その下はのっぺらぼうのよう顔だった。
目、鼻の代わりの2つの穴、歯ぐきむき出しの口だった。
「ご名答、流石黒岩警視正殿。」
「本物の遠藤巡査部長は?」
「ずっと昔に殺した。彼の身分を得るためさ。」
男は笑っていた。表情のない顔で。
「貴様、ここで何をした?」
弥生は質問した。
「仕事さ、我が唯一無二の絶対的な君主のために。」
弥生は空いていた左手で男の体を思い切り殴った。
「答えろ、貴様。」
男はまた笑いだした。
その時、1人の警部補が前に出た。
「黒岩警視正、恐れ入ります、私はあの男を知っている。遠藤平吉です、別名、怪人二十面相です。」
明智小五郎警部補だった。
「確かか?明智警部補?」
「はい。あの男の地声を忘れるわけないです。私の天敵だった男です。遠の昔に死んでいると思っていたのですが。」
遠藤平吉または怪人二十面相は驚いた顔で明智を見た。
「明智、おのれ、いつも私の邪魔をしやがって。」
男は表情のない顔で激高した。
「正体はわかったので後は何をしたか教えてもらおうか。」
弥生は更に右手に力を入れ、男の腹部を殴った。
「女、お前になんか教えるものか。」
首が絞められ、息が苦しいはずのに男は平然とした声で弥生を怒鳴った。
「貴様はやはり人造人間か?」
弥生は問い詰めたが、男はまた笑った。
「違うさ、俺は機械化人間の試作品。」
「何?」
男は弥生の顔を蹴った、彼女が後ろへ飛ばされたものの、首から手を放さなかった。
男には予想外のことだった。自分の蹴りで前へ引っ張られた。
「放せ、女!!」
言い終わったところで弥生に体を蹴られ、彼女の右手でパンチの連打をくらった。
弥生は男を持ちあげた後、思い切り床に叩き落とした。
明智警部補は男の頭を掴んだ。
「【捜索】発動。」
これは明智警部補の個人の能力だった。
「黒岩警視正、彼が何をしたのはわかった。今すぐ仕掛けられた爆弾を解除します。」
明智は報告した。
「行け、明智警部補!」
弥生は命令した。
明智は急いでその場を離れた。彼の後、金田一警部補、銭形警部補が付いて行った。
「ちくしょう!!明智め、邪魔しやがって!!」
男は怒鳴った。
男の手に小さなリモコンが握られていた。
「今すぐ皆、死ね!!!」
男は笑いながら、リモコンのボタンを押そうとした瞬間、ヘルムートは能力の【瞬間移動】で突然現れ、ロングソードで彼の右手を素早く切った。
「思った通り、ノートルダムの下僕め。」
ヘルムートは軽蔑の目と口調で男に対して言った。
男の切られた腕は生身のものではなかった。
アダムとミナも男の前に来た。
「脳、目、神経系と消化器以外は全て人工物です。僕の能力で識別できなかったわけ。」
アダムは男を見ていた。
「ノートルダムの計画を教えてもらおうか?」
ミナは男の顔を見ながら問いだした。
弥生は男の腹部に膝を押し込んだ。男は痛みを感じたらしい。
「洗いざらい教えてもらおうか、怪人二十面相さん。」
弥生は冷たい目で更に度男に質問した。
「女どもになんか教えてたまるか!!」
怪人二十面相は叫んだ。そして残った左手で胸を強く押した。
「ジャックが来る前に、てめえら皆、死ね!!!!」
怪人二十面相が押したのは胸に隠れていた自爆スイッチだった。
「しまった!!」
弥生は一瞬焦ったが、ヘルムートに目を向けた。
彼はすぐに理解した。
「こっちへ投げて、弥生殿!!」
ヘルムートが叫んだ。
弥生は急に光り出した怪人二十面相の体をヘルムートのところへ投げた。
ヘルムートは円を描きながら両手を動かした。
「【移動穴】発動。」
ヘルムート個人の能力だった。
黒い大きな穴が開き、怪人二十面相の体がそこへ投げ込まれた。
同時期
太平洋上空1万3千メーター。
空路線外地域
大きな黒い穴が現れ、そこから怪人二十面相の体が投げ出された。
突如空の上に投げ出され、海上へと向かって落ちていく男は叫んだ。
「そんな!!!ちくしょう!!」
怪人二十面相の体が更に光り出し、大きな音とともに爆発し、消滅した。
同時期
警視庁内
ヘルムートは久々に個人の能力を使った。
基本的に自分が移動できない上、一方通行でいつも一箇所しか行けないものだった。
何故その能力を使うようになったのかは謎だが、この手の敵や爆弾には持って来いの
能力だった。
「助かりました、ヘルムート殿。」
弥生はヘルムートに感謝した。
「私はそんな能力があると聞いてないけど?」
ミナは嘘の怒った顔をした。
「80年以上使ってないからな。」
ヘルムートはミナの頭を見ながら答えた。
「じゃ、許してあげるね。」
いたずらっぽい笑顔でミナはヘルムートを見た。
「アダムさん、あなたのおかげで工作員を始末できた。」
弥生はアダムを見て伝えた。
「そんな、皆様の力になりたいだけです。私が亡命したせいで日本は攻撃されているのは良心が痛む
のですが。」
「悩まないでください、あの南米人の主が入国した時点で、ノートルダムの日本への攻撃は既に開始していた。」
弥生はアダムの肩に左手を置き、右手で顔を撫でた。
アダムは赤面していた。
「はい。すみません。」
アダムは答えた。
特殊部隊の斎藤一警部が前に出た。
「黒岩警視正、明智警部補からの報告です、工作員が設置した爆弾が無事見つかり、解除された。」
「ありがとう、斎藤警部。」
弥生は安堵の表情を浮かべた。
アダムの弟で殺戮用機械のジャックの攻撃まで後7時間を切った。
同時刻
江東区ヴィーナスフォート跡地地下
ジャックのセンサーが反応した。
遠い地域で自爆装置が爆発した。
この信号は裏工作を行う予定だった怪人二十面相と呼ばれていた個体。
何故あんな中途半端な改造で、脳を残すのかジャックが理解できなかった。
人間の脳の容量が少なく、瞬時に物事を記録できないため、
ジャックの大容量の脳に比べれたら原始的なものに見えた。
「何故遠い太平洋上空で爆発したのかは特定できない。更に情報が必要。」
ジャックは体に埋め込まれている電話機能で電話した。
「はい、サカキバラです。」
「サカキバラ君、警視庁へ潜入し、情報探って来い。」
「わかりました。」
ジャックは電話を切った。
サカキバラと名乗った若い個体はもう1人のバックアップ要員で工作員だった。
彼の本名をジャックは知っていたが、人間にしてジャック同様、
名前に対して愛着も必要性もなかった。
この男も怪人二十面相同様、機械化人間で仮の身分は警視庁に出入りしている週刊誌記者だった。
ミラノ市付近
午前6時00分頃
畠田の再生が完了した。
裸でいる彼の前に1人の禿げた小柄な肥満体のフランス人男性が立っていた。
空は明るくなっていたので専用の日焼け止めを塗っていた。
男は吸血鬼だった。
「お前は誰だ?」
畠田がぶっきらぼうに聞いた。
「私はアンリ・デジレ・ランドリューと申します、我が主、ジル・ド・レ卿に命じられて、あなたを迎えに上がりました、ムッシュ・コウギ・ハタダ。」
「ジル・ド・レ卿?吸血鬼の?」
「はい、その通りでございます。ムッシュ・ハタダの素晴らしい能力を是非、我が主の系統へ加入していただけると更に強化されることでしょう。」
「そうか、わかった。ならば俺を連れて行けよ。」
気を大きくした畠田が上目線で答えた。
「俺はついに転化人になるんだろうな。」
「我が主はあなたを転化させるつもりです、ムッシュ・ハタダ。」
フランス人は畠田に新しい服を渡した後、止まっていた黒いリムジンに乗せた。