欺瞞
警視庁の地下シェルターで予期せぬ対談が出現する。
日本国 東京都 千代田区
警視庁 特別シェルター
最下層・特別実験場
2025年3月某日 午後19時30分頃
信長が強化ガラスの窓越しで集められた6つの鞄を見ていた。
無差別攻撃で爆発する前に回収できたのは本当に幸いだった。
その無差別攻撃を仕掛けようとしたワトソン重工の役員、
全員が滅ぼされたことは喜ばしい出来事であったが、どうも不安を感じていた。
「成利、俺が中に入って、あの忌々し荷物を燃やす。」
信長は真剣な表情で森警視監に伝えた。
「おやめください、お館様。危険過ぎます。」
「いや、俺が燃やす。そしてこんな攻撃を命令した輩も必ず燃やす。」
「信長様、お願いです、おやめください。」
護衛で愛人のゼンフィラもお願いした。
「ゼンフィラ、愛しい人よ、心配するな。」
信長は上半身裸になり、実験場の扉の前に立った。
「成利、開けろ。」
信長は声で森に命令した。
管理室に残っていた森がボタンを押した、そして大きな扉を開いた。
「扉を閉めろ、成利。」
「承知しましたお館様、シールドで管理室の窓を保護します、カメラで動きを監視します。」
「頼む、成利。」
大きな扉が閉まり、密閉した実験場の中で信長が6つの鞄の前に立った。
管理室でゼンフィラと森が心配そうにモニター画面を見ていた。
その時、黒い鞄が勝手に開いた。
中には血清のボンベではなく、映像機のようなものが入っていた。
ホログラム映像機だった。自動的に電源が入り、三次元映像が映り出された。
映っていたのは黒いタートルネックの30代前半の若い男性だった。
「信長公、初めまして、私はワトソン重工の会長、マイケル・アラン・ド・ノートルダムです、元を明かすとミシェル・ノストラダムスである。」
「知っている。」
「裏切り者のアダム君から私の計画の一部を聞いたと思うが。」
「聞いた。」
信長は怒りを抑えていた。
「それでね、一つだけ伝えようと思って、こんな面倒くさい方法を使った。」
「面倒くさい方法とは?」
「似非の無差別攻撃の話ですよ。」
「嘘だったのか?」
「協力者が多い日本を崩壊させるわけにはいかない。」
「即席・転化人血清がないと?」
「最初からこの6つの鞄には入ってない。その血清は存在するけどね。」
「じゃ、何で?」
「信長公、あなたと2人で話したかった。」
「貴様、私を愚弄するのは許さん。」
「馬鹿にしていません、逆です、高く評価している。」
「回りくどいことして、何が目的だ?」
「勧誘です、信長公、あなたを我が円卓同盟へ勧誘したい。」
「貴様!!」
「実はこんな素晴らしい存在を滅ぼすのはもったいなくてね、味方にできたら最高だと思ったのだが、どうですか、信長公?」
「断るに決まっている、貴様は我が逆鱗に触れたのだ。」
「やはりそう来るか、勿体ないな。」
「何が勿体ないのだ?貴様!!」
「お前たちじゃ、私の手駒中、最高の攻撃用武器、ジャックには勝てないから。」
「愚弄するな、ノストラダムスめ!」
「私、未来が見えるんだよ、信長公。明日未明4時までにお前とお前の系統、仲間、全員が灰になるんだよ。わかる?消えるんだよ。」
ノートルダムの映像は少し乱れた、原因は本人が激しく笑いだしたからだった。
「ノストラダムス、貴様、日本を、私を、我が系統と仲間を舐めすぎているぞ!!」
「舐めている?違う、違う、確定された未来を親切に教えてやっているんだよ、この猿め!!」
ノートルダムの歪んだ笑顔が怒りに変わった。
「本性が出たよな、ノストラダムス。」
「ああ、お前たち、闇の評議会が後数日で滅びるんだよ。」
「滅びないさ、権力欲、支配欲の権化である貴様には負けない。」
「馬鹿な猿たちが絶滅するだけさ、助けてあげようと思った私が馬鹿だった。」
ノートルダムは軽蔑混じりな笑い方をした。
「最初から勧誘する気がなかったようだな、ノストラダムス。」
「あれ?ばれた?猿にして少しは脳があるみたいだね。」
信長は怒りより、呆れていたが、このノートルダムという男には危険な誇大妄想が潜んでいた。
「怖いからこんな手込んだ芝居したのか?ノストラダムス。」
「ノートルダムと呼べ、猿公。」
「我々の団結力が怖いとみた、だから分裂させようとしている。」
「黙れ猿。」
信長はこれで確信した。この男は確かに未来が見えるものの、確定した未来ではないとわかった。
「お前は評議会を恐れている。そしてお前はあの男の存在をもっと恐れている。」
「猿の分際で生意気だ、信長よ。」
「ノストラダムスよ、お前とお前の円卓同盟を我が闇の評議会が滅ぼす。」
「無理だよ、猿、無理。最後のチャンスだぞ、円卓同盟へ来い、猿。」
「断る。そして覚悟しておけ、眷族、従者、仲間を手駒と呼び、お粗末に扱う貴様のような輩には我々は絶対に負けないのだ。」
「馬鹿な猿め、明日の朝4時にお前の灰が空に舞い上がる。」
「望むところだ、全力で来い、貴様のおもちゃを燃やしてやる。」
ホログラム映像が突然消えた。6つの鞄が光始めた、おそらく焼夷弾だったと信長は思った。
信長が素早く、自分の究極能力、【劫火】を発動し、焼夷弾が爆発する前に燃やした。
「成利よ、扉を開けろ。」
信長は声で森に命令した。
「はい、お館様!」
「成利、ゼンフィラよ、お前たちも見た。あの男は相当焦っている。我々には好機だ!!」
「はい!!信長様!!」
2人は同時に答えた。
同時刻
遠藤巡査部長は警視庁に入った。
本来は明日より勤務に戻る予定だったが、急遽呼ばれた。
彼は慌ただしく動いている同僚を見ていた。
可能性のある未来を確実性のある未来に変えるため、これから数時間を工作せねばと考えていた。
全て、恩人であるノートルダム会長のためであった。
「怪人二十面相、本領発揮だな。」
頭の中で思いながら、早速サボタージュ活動を始めた。