誘い
ヴァレックがバーローを円卓同盟への参加説得のため、彼の本拠地に着く。
合衆国 北部 メイネ州
セイラムズ・ロット町
2025年3月某日 夜22時頃
ヴァレックは1時間ほど前にこの町に着いた。
住民全員が吸血鬼であることを除いて、何もない普通の田舎町に見えた。
周辺の町からゴースト・タウンと思われていたが、実際夜になると活気に溢れるところだった。
彼とその護衛4名は保安官事務所内で椅子に座って、待っていた。
「我が主、私はここの連中が信用できない。」
ヴァレックの護衛の1人、トニー・モントーヤが言い出した。
「私もそう思います、我が主。」
もう1人、女性の護衛のカトリーナが更に付け加えた。
「いい、心配するな。私はあの主と話を付けるだけ。」
他の2人の男女護衛、不安そうに周りを見ていた。
ヴァレックは緊張していた。自分より数百年存在しているカート・バーロー卿が怖かった。
残忍で情け容赦なく、貪欲との評判だった。
1人、マット・バークと名乗る初老の男性吸血鬼が事務所に入ってきた。
「ヴァレック卿、大変お待たせして、申し訳ございません、我が主がマーステン館でお待ちしています。ご案内します。」
「わかった。」
ヴァレックは素っ気なく答えた。
保安官事務所の外に大きな黒いリムジンが止まった。
「皆様、どうぞ、お乗りくださいませ。」
バークが更に伝えた。
5人が乗った後、バークは前に乗った。
「ティビッツ、出発だ。」
「はい、先生。」
若い男性吸血鬼が返事した。
5分後、町を見下ろす山の上にある館に着いた。
「皆様、こちらです。」
バークは館内に案内した。
館に大きな居間があり、そこに置いてあったソファに、バーロー卿が座っていた。
5人が居間に入った時、彼が立ち上がった。
「ようこそ、ヴァレック卿。」
笑顔を浮かべて、親しみやすい声でバーローは挨拶した。
「会う機会を作っていただいて、感謝する、バーロー卿。」
ヴァレックは答えた。
バーローの後ろに3人の護衛がいた。
1人は金髪の若い男性、見た目は30代前半で知的な顔をしていた。
もう1人は少年の外見をしていた、14か15歳にしか見えなかった。
最後の1人は見た目50歳前半の身長の高い男性だった。
「どうぞ、お座りくださいませ。」
バーロー卿は5人を座るように促した後、また自分のソファに座った。
「では早速聞きますが、今回の訪問はどんな目的ですかね?」
笑顔で質問したが、バーロー卿の目が笑っていなかった。
ヴァレックの不安は的中だった。
「実はある提案がありまして。是非バーロー卿に聞かせたいと思い、はるばるニューメヒコ州から参りました。」
「なるほどね。声でも、電話でも、ヴァーチャル会議でも良かったのでは?」
バーロー卿は真っ直ぐヴァレックを見ていた。
「直接伝えなきゃと思って。どうでしょうか。」
「当ててみましょうか?」
ソファから身を取り出したバーロー卿が威厳のある声で聞いた。
「バーロー卿が思っていることよりずっといいお話しですよ。」
ヴァレックはやはりここに来なきゃ良かったと思いはじめた。
「ノートルダムの円卓同盟への加入だろう。悪いが興味がない、ヴァレック卿。」
流石1500年以上存在している主であるとヴァレックは思った。
「はい、ですがそれだけじゃないので、是非話聞いていただきたい。」
「小僧、興味がないのだ。君主気取りのノートルダムにこのバーローがいつか首を取ることを帰って伝えろ。」
バーロー卿が覇者のオーラを全開にしながら、ヴァレックに警告した。
「ノートルダムの話が我々の利益になる。忌々し評議会が滅びれば、後は我々の天下になる。」
「我々の?ノートルダムとその下僕どものだろう、彼の考える世界の支配は我々の理念への冒とくだ。」
「評議会は機能してない。円卓同盟は我々に自由を与えてくれるぞ、家畜である人間が狩り放題になる。あなただってそれがほしいだろう、深紅のバーロー卿!!」
「ヴァレック、お前は勘違いしている。」
「何を勘違いしていると言うんだ、老い耄れバーロー卿!」
ヴァレックは攻撃的に挑発した。
「私は無駄な殺生を好まないのだ。必要とあれば、するが、不要ならせんのだ。」
「怖いのか?いずれにせよ、世界はノートルダムによって動かされることになる。」
「怖くないが、その世界は闇の評議会が目指しているものではない。」
「老い耄れめ、後悔することになるぞ!!」
バーロー卿は怒りの表情を浮かべた。
「小僧、私の館で私を脅迫するのはいい度胸じゃないか。」
「ああ。滅ぼすぞ、老い耄れ!!」
ヴァレックとその護衛たちが立ち上がり、サバイバルナイフを抜き、構えた。
バーロー卿は慌てずに、護衛たちに目をやった。
「ストレイカー、あの4人の護衛を相手しろ。」
見た目は50代前半の男性吸血鬼が前に出た。
「承知いたしました、我が主。」
ストレイカーはゆっくりとサーベルを抜き、4人の前に構えた。
「老い耄れめ、我が眷族を舐めるな!!お前たち、あの護衛を滅ぼせ!!」
怒り狂ったヴァレックは怒鳴った。
4人の護衛は一気にストレイカーに切りかかった。
彼は優雅に護衛たちの攻撃をかわした後、攻撃に転じた。
まず一人めの男性護衛の頭を綺麗に切断し、滅ぼした。
次に女性の護衛のナイフさばきをかわし、心臓を一刺しで滅ぼした。
カトリーナと呼ばれた女性護衛の両手を切り落とした後、心臓を刺した。
最後に護衛隊長のトニー・モントーヤが反応する前に頭を輪切りにした。
ヴァレックの眷族たちは3分以内に滅ぼされた。護衛たちの体が燃えて、灰となった。
「ストレイカー、もう良い、戻れ。」
「承知しました、我が主。」
ストレイカーは下がり、またバーロー卿の後ろへ移動した。
「おのれ、老い耄れめ!」
ヴァレックは恐怖を感じた。バーロー卿の眷族の強さは桁違いだった。
「ミアーズ、ペトリー、ヴァレック卿を丁寧に保安官事務所の留置場へご案内しろ。」
若い金髪の男性と少年が前に出た。
「承知いたしました、我が主。」
彼らは同時に答えた。
「貴様ら、滅ぼすぞ!!俺は魔鬼・ヴァレックだぞ!!」
ヴァレックは怒り狂ったように怒鳴り出した。
バーロー卿の眷族たちは不思議そうに見た。
「抵抗しない方がいいと思います、ヴァレック卿。」
ミアーズと呼ばれた金髪の若い男性が警告した。
「僕たちは主とストレイカー師匠から指南を受けて、とても強いのです。」
ペトリーと呼ばれた見た目少年の吸血鬼が付け加えた。
ヴァレックは絶望を感じた。彼は手に持ってた短剣を捨てた。
その時だった、ヴァレックの後ろに眩しく、大きなポータルのようなものが開いた。
1人の男性が現れた。
「お久しぶりですね、バーロー卿、ヴァレック卿。」
灰色の肌、黒く染まった目、鮫のような鋭い牙を持った中年男性だった。
「マーロー卿か?」
バーロー卿はつぶやいた。
突然の出来事でヴァレックは驚いていた。
「円卓同盟へ加入して、我が同胞であるヴァレック卿を救出に来た。」
マーローは牙だらけの口で恐ろしい笑顔を作りながら伝えた。
「お前も評議会を裏切るのか、マーロー?」
バーロー卿が問いだした。
「ああ。古臭い伝統と縛り、自由に家畜を食べさせない評議会にうんざりだ、我が古き友よ。」
「残念だ、我が古き友よ、今度会った時、滅ぼすようにする。」
バーローは残念そうな顔でマーローに伝えた。
マーローはヴァレックを引っ張って、ポータル内に入れた後、自分も入って、ポータルを閉じた。
そのポータルはマーロー卿の究極能力、【天門】だった。
「ストレイカー、今すぐアーカード卿、信長公とノスフェラトゥ卿に連絡取れ、これからあの3人と協力しなければ、世界が滅ぶことになる。」
「承知いたしました、我が主。」
ストレイカーが急いで居間を出た。
「マーロー卿の裏切りは予想外でした、我が主。」
ミアーズが話した。
「ああ、残念だ、ミアーズ、本当に残念だ。」
バーローはソファに座り、マーローとの出会いを思い出した。
ほぼ同時期にヨーロッパ大陸で転生し、2人とも最古の4人の1人、女性の主、コリントのフィリノンより力の制御、利点、弱点を学んだ中だった。
「何故だ、我が古き友よ。」
バーローは悲しそうにつぶやいた。
しばらくして、ソファから立ち上がり、居間の大きな窓の前に立った。
セイラムズ・ロット全体を見渡した。バーロー卿にとって、ここが我が家だった。
数世紀前、この土地を初めて訪れた際、先住民と入植者より暖かい歓迎を受け、
舞い戻ることを誓った。
1979年に再び訪れた時に水質汚染を見抜き、町民が死の宣告を受けたことを知った。
人間の組織、通称:”ザ・ショップ”と呼ばれていた機関が超能力者を大量に発生させるため、水源を薬物で汚染した。
超能力者は発生しなかったものの、治療不可能な病、気付かれ難い死の病を発生させた。
怒り狂った彼が、組織のメンバー全員を殺した後、セイラムズ・ロットの住民を半ば無理やり転化した。賢いやり方ではなかったが、時間との戦いだった。
「我が家、我が眷族、我が家族を守らねば。」
町を見ながら、バーロー卿は決意表明の言葉を口にした。