死んだフリして逃げてみた
似たような作品があったらゴメンなさい・・・
(あ・・・俺死んだわ)
火の玉、この世界ではファイヤーボールと呼ばれる魔法が俺の足を吹き飛ばし、そのまま地面に当たり爆発した。
空中で回転しているのが自分でもわかった。驚くほど長い時間、空中に放り出され、そのまま地面に落ちた。アドレナリンが出ているからか、それとももう死ぬ寸前で麻痺してしまったのか痛みはあまりなかった。
「少佐っ!」
俺を呼ぶ叫び声が何処からか聞こえる。
「少佐っ!しっかりしてください!」
誰かが近づいて来る。
「塹壕まで引っ張れ!」
誰かが俺の両腕を引っ張り塹壕に引き摺り落とした。
「少佐っ今から止血します」
「衛生兵ー!来てくれ!」
誰かが衛生兵を読んでいる、だが来ない。来るわけがない。この防衛圏はもう崩壊している、少佐が最前線で突撃してる時点でもう負け戦だ。
「もういい・・・」
俺は霞む目で周りを見てそう言った
「俺の事はもういい・・・もうじき撤退の命令が来るだろう。そしたら俺の事は置いていけ」
「そんな・・・出来ません!少佐を置いて逃げるなんて!」
「これは命令だ!」
俺は反論してきた兵に怒鳴りつけた。俺だって死にたくない。だが、この戦争は間違いなく負ける。おそらく、無条件降伏することになるだろう。そしたら、俺みたいな人間は責任を取らされどのみち死刑だろう。ならば、せめてカッコつけて死のうと思った。
「少佐・・・」
「撤退ー!撤退しろー!」
後ろから声が聞こえてくる。やっと撤退が認められたようだ。
「少佐・・・すいません」
「あぁ先に行ってる」
俺を助けようとしていた兵士たちは塹壕から飛び出してに逃げていく。それを後ろから追いかけて、魔法を打つ敵軍。
(あーぁ、ヤケクソになって飛び出さなければ生き延びられたのかな)
所詮たらればだが、そう考えずにはいられなかった。
(敵を迎え打つか)
塹壕の中で剣を握りしめてそう考える。塹壕に残ったものは逃げる味方の背中を守らなければならない。俺も撤退する時に負傷した兵に背中を守らせた事があった。絶対に生き残る事はない殿だ。
(あいつらもこんな気持ちだったのかな)
あの時はとてつもない罪悪感に襲われた。だが置いてかれる方になるとなんだか達観した気持ちになった。しかし、そこでとんでもない考えが浮かんでしまった。
(ここで死んだふりしたら逃げられるんじゃね?)
敵前逃亡は重罪だ。だが、塹壕においてかれた俺は恐らく死んだ事にされるだろう。死んだフリして上手く逃げ出せば新しい人生を歩めるんじゃないか?そんな邪な考えが浮かんできた。
(何をバカな考えを・・・いくらなんでも敵だってそこまでバカじゃないだろう。いやだが、撤退している兵に夢中で確認せずに追いかけていくかも)
そう考えると負傷した足に触れてその血を身体中に塗りたくりうつ伏せになった。5分もしない内に敵の足音が聞こえてきた。魔法を放つ音も聞こえる。俺を踏んづけて兵士達が走っていく。心臓は破裂しそうなぐらい鼓動を打っていた。そして、敵は過ぎていった。
(上手くいった?マジで?こうしちゃいられない。早く逃げないと!第二軍がくるっ)
そう思うと俺はケンケンと片足で逃げる。幸い火の玉で焼かれている為、足の血は止まっていた。泥だらけの血だらけで必死に逃げる。ケンケン歩きで走れる最高速度で走った。アドレナリンがドバドバ出ているからか痛みも疲れもあまり感じない。味方が逃げて行った方向に逃げれば、後ろから後から来た敵に追いつかれるか、最前線の的にぶつかり殺される。俺は近くを流れる川に向かってひたすら走る。近くといっても1km以上はある。そこに飛び込んで下流に泳いでいけばもしかしたら逃げられるかもしれない。そう考えて俺はひたすら川を目指した。
「ついたっ」
死ぬ気で走り何とか川に着いた。俺は来ていた軍服を脱ぎ去り、川に飛び込んだ。熱った体を川の冷たい水が冷やす。
「夏でよかった・・」
冬だったら凍死していただろう。俺は今の季節が夏である事に感謝した。そのまま、泳がず浮かぶ事を意識する。そうすれば勝手に下流に流されていく。俺は安心感からか、貧血からかそのまま意識を失った。