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一人の勇者より百人の一般人(2)

「聖剣の輝きは、おそらくこれの比ではありません。一振りで、五階建ての塔の上まで浄化できたと言われています。やはり勇者の選定は必要かと」


 オルセイが今度は短剣に目を移し、何かを思い返す素振りで口にする。私が見せてもらったメモを纏める際に読んだ文献の中にでも、そんな一文があったのかもしれない。

 私も短剣を見て、次いでそこからカメオまでを目で辿った。


「今の短剣が反応を示したのは……半径二十センチくらいでしょうか。範囲は武器の大きさに関係すると思いますか?」

「関係はすると思います。祝福を受ける面積が広くなりますから。しかし、城にある一番大ぶりな剣でも、効果範囲は一メートルが限界ではないかと推測されます」

「なるほど。五十から八十センチくらいと思っておけばよさそうですね。ちなみに勇者選定までの手順はどうなっていますか?」


 もう私の頭は別の考えに移っていた。それでも念のためにと、オルセイに尋ねてみる。


「まずサキには神殿に移っていただき、そこで十日間(みそぎ)だけを――」

「では後回しで」

「えっ」


 そんな「まず」の工程で十日も進展が期待できない策なんて、最終手段だろう。先に「聖剣以外にも浄化力を付与できる」という発見を活かすべきだ。


「その前に、人海戦術を展開しましょう」


 私は今程考えていたことを、言葉にした。


「魔物化してしまった動植物は元の状態には戻らない、という話でした。なので、魔物対策に城にあるだけの武器すべてに祝福を掛けます。それから魔物化予防として、祝福を掛けた水を用意します。疑わしい動物がいれば水を飲ませ、畑や可能な範囲で自然の植物に水を遣って下さい」


 城内の武器を動かすことも、国民へのお触れも、私では無理なこと。早速、オルセイの権限をアテにさせてもらう。


「百の力を持つ誰か一人より、一の力を持つ百人で行動を起こした方が、この世界をより早く救えます。またこちらを先にやっておけば、結局勇者選定を行うことになっても、私が拘束される期間でも進捗が見込めます」


 様々なことが機械化されていた現代日本でさえ、人海戦術が物を言う場面があったのだ。ここではもっと効果的手段と思っている。それこそ、勇者一人の活躍など比ではないほどに。

 オルセイの短剣を持つ方の手を、そっと上下に手で包み込む。


「武器と水の用意、作業場の確保に皆への指示。お願いしますね、オルセイ」


 それから私は、先程の「え」の形に口を開けたままでいた彼に、にっこりと微笑んでみせた。


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