つかの間の休息 P-3
干物2日目....もとい今日も清々しい朝が来た。
そして、いつもの様に陛下達と朝食をとっていると
ダッダッダッダ!
廊下を走る音が近づいて来る
「陛下ーーー!」
宰相さんが走り込んで来た。ものすごいデジャブ
「……アイレン様か?」
陛下も同じ事を考えていたようだ
「その…確かにアイレン様も来られているのですが」
「……も?」
「御一緒に水龍様もお越しになられております」
陛下の持っていたパンが手からコロンと落ち、しばしの沈黙の後
「なにーーーー!?」
「現在はマリアロス殿が応接室にて対応されております。水龍様からは朝食を食べた後エルフィンと共にゆるりと来いとの事です」
「そんなわけに行くか!」
2度の陛下による絶叫の後、急ぎ衣服を整え陛下と王妃様、カーマインと俺とで応接室に向かった。
「お待たせ致しました。水龍様」
部屋に入るなり水龍様に向けて敬意を込めて挨拶をする
「すまぬな、朝食中であっただろ?食べ終えてからでも良かったのだぞ」
「大丈夫で御座います。しかしお呼び頂ければこちらからお伺いしましたのに」
「気にする事はない。妾も時間があったのでな」
「本日はどのような御要件でお越しになられたのでしょうか?」
シャロンさんは持っていたコップを置くと陛下達の方を見て
「そなたの娘が無事に最終過程を終えたのでな、近日中に城への帰還となるだろう」
「娘が無事に務めを終えたようで何よりです。まさかその事のために自らお越しに?」
「もう1つ要件があってな、頼まれたのでこちらに来た」
そう言うとシャロンさんは俺の方を見て
「エルフィン、女神様よりその方の確認をお願いするとな」
「えっ?ルナさんからですか?」
「うむ、そなた死にかけた時に肉体と魂が一時的にとはいえ離された状態にあったのじゃろ。それがちゃんと戻され定着しているかの確認をして欲しいとな」
「あ、そいうことね」
「そいうことじゃ、さぁ両手を出せ」
言われるがまま両手をまえに出すとその手を掴み魔力を伸ばして調べ始めた
「………ん?」
「どうしました?」
「いや、多分気のせいじゃろう。うむ、魂はしかと定着してあるから安心するが良い」
「わざわざありがとう御座いました」
「ルナフレア様から直接頼まれたのだ、気にする事はない。お主の顔も久しぶりに見たかったしの。というか神殿にもっと顔を見せにこんか!なんのために証を渡したと思うておる」
「無茶言わんでくださいシャロン様、頻繁に行ったら信者の人に揉みくちゃにされますよ。そうだ!もうすぐうちの屋敷ができるのでそちらに来てもらってもいいですよ」
「ほほう、お主の家か?」
「えぇうちの女性陣は料理にお菓子作りも美味いですから暇つぶしにはいいと思いますよ」
「それは良さそうだのう!完成したら連絡してくれ」
「はい、分かりました」
「ではそろそろ暇としようか、マーガレットまた来るのでよろしくな」
「はい、シャロン様」
そう言ってシャロン様とアイレンさんは帰って行った。ただ陛下が納得いかない顔をしている
「マーガレット、また来るとはどういう意味なのだ?」
「シャロン様はたまに城の方にお茶会をしに来られていますのよ。ユディちゃんとエリィちゃんも一緒にね」
「余は知らんぞ?」
「シャロン様が秘密の女子会じゃと言われてましたので内緒にしておりました」
まだ朝なのに疲れ果てた陛下だった
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神殿に戻る舟の上で揺られる二人
「それでどうされたのですかシャロン様?」
「何がじゃ?」
「エルフィン様ですよ、明らかに表情が変わっていましたよ?」
「長い付き合いのそなたには分かってしまったか」
龍巫女長は静かに頷いた
「彼奴、エルフィンの事じゃが少し大変な事になっておるやもしれん」
「肉体の事ですか?」
「うむ、はっきりと確証がない為戻り次第ルナフレア様に連絡を取り確認して頂く」
重い表情の水龍様と龍巫女長は急ぎ神殿に戻るのだった
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シャロン様が訪れて3日後、俺やクイナ達は陛下に呼ばれて執務室に向かっていた
コンコンッ
「陛下、エルフィンです」
「うむ、入るがよい」
「失礼します」
執務室に入ると陛下と王妃様、カーマインにユディともう1人女性が待っていた。
「あら!」
エリィが女性を見るなりそんな声をあげる
「ご無沙汰してます、エリィお姉様」
「戻られたのですね」
「はい!つい先程」
その髪色で察しはつく、銀髪に王妃様と同じ黄色とも金色とも取れる瞳
「エルフィン紹介する私の妹だ」
女性は1歩前に出るとカーテシーをしてから
「お初にお目にかかります、国王ルゲインが娘マリーゴールドでございます」
「これはご丁寧に自分はエルフィン・リッパーです。そして後ろにいるのがクイナとミアです」
クイナとミアが頭を下げて挨拶をする
「皆様の事は存じ上げております。エルフィン様遅くなりましたが兄をお救い頂いた事本当にありがとうございました」
「どうぞお気になさらずにその分陛下達には良くして頂いてますから」
王女なのに掃除屋の俺に礼儀正しくする姿を見ていたらカーマインが
「おい、エルフィン。妹が可愛いからと手を出すなよ?」
「いや、お前の妹にしてはえらく礼儀正しいと思って」
「それはそれでムカつくが妹にはすでに婚約者がいるからな」
首に腕を回され締め上げられながら言われた
「ふふっ御兄様とエルフィン様は本当に仲がよろしいのですね」
マリーゴールド姫はクスクス笑っている
「クイナ様ミア様もよろしくお願いしますね」
「はい!こちらこそよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「自己紹介も済んだな」
陛下が確かめ合ったのを確認したのを見て話を始める
「エルフィンよ、今日の朝方にグリーンウィンド皇国より手紙が届いた」
陛下が机の上に封筒を取り出す
「皇王殿より先の皇女救出並びにエア砦の防衛に関して正式に御礼がしたい為ぜひ皇都に来て欲しいとの事だ」
「はい、わかりました。いつ頃ですか?」
「出来れば半月迄にとの事だ、なので急ではあるが1週間後に出発として欲しいがどうだ?」
「俺の方は構いませんがクイナ達は?」
「おおすまん。クイナ、ミアよ、二人には両皇妃殿より招待状が来ておる」
「えっ!?私達にですか陛下!」
クイナもミアもびっくりしている。まぁなくても連れてくつもりだったけど
「クイナさんミアちゃん、あまり気にしにくて大丈夫ですよ。お母様達の事だから二人に興味を持ったから話してみたいぐらいの事ですから」
「ええ、そうね。深く考えなくて大丈夫よ」
エリィとユディが笑いながら言っている。まぁユディやエリィを見る限り最上流階級にいるにもかかわらず下の者への偏見がないのは両親、つまり皇王陛下や皇妃様達も気にしないタイプなのだろう。
「それですまないのだが皇都に向かう時にマリーゴールドも連れて行って欲しい」
陛下よりそう頼まれる
「それは構わないですけど、またどうして?」
「ユーフォルディア姫がそうであるようにマリーゴールドも行う必要があってな」
「という事は婚約者とは皇国の人で?」
「マリーさんの婚約者は私達の御兄様、つまり皇国の皇太子ですよ」
「そうなん!」
「御兄様はエルさんと同年代になると思います」
「てことは皇王陛下に皇妃様達、皇太子に会うことになるのか、にしても帰って来たのに直ぐになんて」
神殿から帰って1週間で皇都になんて急だなと思っていると
「まぁ本来はひと月後の予定だったのだがエルフィンが行くなら一緒に行く方が良いだろうという事になってな」
顔に出てたのか、カーマインが説明してくれた
「ここの所、物騒な事が続いているのでな。ならばお前達が皇都に向かうなら一緒に行くのが安全だろうと言う話になった」
「安全とは限らないだろう?」
「もちろん護衛は着く、国境までは王国の騎士団が、その先は皇国から護衛が来る。引き継ぎ等からジュリアン殿と数名の護衛騎士がここ王都から皇都まで着いてくれる」
「なら大丈夫だろ?」
「ユディとエリィが賊に襲われた件もある。念には念をだ。何よりエルフィンがいれば何があっても平気だろ?」
「いやそれって騎士団の人達の面目が立たんだろう?」
国に仕える騎士達よりたった1人の掃除屋の方に信頼を向けるのはなぁ
「いわば万が一の保険のようなものだ。だから基本的には道中の事は騎士団に任せていい」
「それでいいのかよ」
「お前が心配している様な事は大丈夫だ、王国から出るのはキースの騎士団で皇国からは報告に戻っていたジュリアン殿の部隊の者が皇都の騎士団を連れて来るのでその辺は上手くやるだろう」
「そっちがそれでいいなら別にいいけどよぉ」
後のことはカーマインに任せるか
「今カーマインが全部説明してしまったがそういう事だ。すまぬが頼めるか?」
「俺としては構いませんよ。エリィ達もいいよな」
俺の問いに了承するように頷く
「申し訳ありませんエルフィン様、どうかよろしくお願いします」
マリーゴールド姫からも頼まれたのを快く返事をして部屋を出た
「あっそうだ、カーマイン」
「なんだ?エルフィン」
同じく部屋から出たカーマインに声をかける。
「ちょっと今度さぁ――――」
カーマインと少し離れた所で話をする
「――まぁそれぐらいならどうにかなるだろう。決まったら連絡してくれ」
「りょーかい」
そして、待っていたクイナ達の元に戻った
「どうしたのですかエル様?」
「ふっふっふ、内緒、まぁ楽しみにしてな」
「はぁ、わかりました」
クイナ達は首を傾げながらもそれ以上聞いてこなかった。
皇都に行く準備を進めて数日たったある日のお昼前
「いよいよあと三日か、準備の方は大丈夫か?」
「はい御兄様、ユディ姉様とエリィ姉様が手伝ってくれましたので」
「これぐらいの事ならいつでも言ってくださいね」
「私もエルさん次第ですがしばらくは皇都にいるつもりですので困ったら言ってくださいね」
「はい、ありがとう御座います」
カーマインにマリーゴールド姫、皇女2人が仲良く通路を通っているとある部屋の前で立ち尽くしているカリンを見つけた
「あら、カリン。どうしたの」
「あ、姫様。それに皆様方」
「ここはエルフィン達の部屋だろ?」
「はい、エルフィン様宛に手紙が届きましたのでお持ちしたのですが」
「なら入って渡せばいいだろ?扉の前に立ってどうした」
「それがそのー」
カーマイン達が扉の前に近づいた時
「絶対に嫌です!!」
「だけどなぁ」
「い・や・で・す!!」
部屋から口喧嘩する様な声が聞こえてきた
「これはエルフィンとクイナか?珍しいな、あの二人が争っているなんて、しかもクイナがここまで拒否するような大きい声を出すとは」
「私が来た時にはすでにこの調子で入っていいものか悩んでいた所です」
「クイナさんどうしたのでしょう?」
エリィは心配そうに扉を見つめる
「多方エルフィンが何かしたんだろう」
するとカーマインは扉をノックしたと思ったら返事を待たずに扉を開ける
そこには頭を抱えるエルフィンにそっぽを向くクイナ、二人に挟まれて呆れるような顔のミアがいた
「おい、お前ら外まで聞こえてるぞ?どうした」
「あぁすまん。クイナがちょっとな」
「私は悪くありません!エル様が酷いんです!」
「あーはいはい、とりあえず説明しろ」
埒が明かないのでカーマインは説明を要求して来た
「皇都に行って皇王陛下に皇妃様と面会するからその前に奴隷契約を解除しようと言ったんだが」
「私はこのままでいいんです!」
「さすがに一国の王に会うのに奴隷身分だと何言われるかわからんだろ?クイナやミアに何かあったらと思うと」
「分かりますけど嫌なものは嫌なんです!」
「とまぁこんな感じだ」
現在進行形の状態を説明した。半ば呆れつつも
「エルフィン、皇王陛下と皇妃様達は身分には寛大だ。しかも今回は皇妃様達による招待を受けているんだ。下手に手出しするのはいないだろう」
カーマインはエルフィンの方を向いて話した後、次にクイナの方を向く
「それからクイナ、エルフィンがお前達を心配しての事だ。ただ念には念を入れて人目の着くところでは奴隷の輪はスカーフか何かで一応隠しとけ」
「……わかりました殿下」
「すまんなカーマイン、気を使わせて」
「まったくだ。ただクイナにミア、奴隷の輪に執着するのもわからんでもないがいつかは外す事になると思うぞ。お前達の両親なり家族が見つかった時、自分の子が奴隷になっているの知ると悲しむからな」
「それは!……そうですけど」
「まぁ頭の片隅に置いておけ。それよりエルフィンお前になにか来てるらしいぞ」
すると後ろにいたカリンが前に出てきて2通の封筒を渡した
「こっちは頼んでたやつだな………カーマイン明日の夕方から大丈夫か?」
「例のやつか?あぁ大丈夫だ」
「じゃぁよろしく、もう一通は……」
封筒の裏面を見ると見知った名前が書かれていた。内容を確認する
「……クイナ、ミア。どうやら見つかったらしいぞ」
「えっ?何がですか」
「ライカとリンカちゃんからでお前達の村に住んでたらしい住人を見つけたらしい」
「!、本当ですか!?」
「あぁ」
そう言ってクイナに手紙を渡す
「まだ詳しい事までは分からいないからこの手紙を出した後、確認しに行くってさ」
まだ事実確認ができてないのにクイナもミアも涙目になっている。
「とりあえず近いうちに皇都に行くって事だけ伝えて置こう。そして代金はこちらが払うからその人達に皇都まで来れないかその辺も頼んでみよう」
「ではその辺は私の方で手配しておきますね」
「お願いしますカリンさん、それと午後からワールさんの所に行くので時間とれますか?屋敷で働く人の選別が出来たらしいんで」
「かしこまりました」
カリンさんは一礼すると部屋の外に出て行く。
「エル様私達もご一緒してもいいですか?」
「いいけど大丈夫か?」
奴隷に落ちて辛い事が多かったのに心配で聞くが
「大丈夫です。これから一緒に暮らす事になる人達ですし私達がいれば奴隷の身分でも酷い事はされてないのがわかってもらえるでしょうから」
ミアも後ろでうんうんと首を振っている
「わかった、なら一緒に行こう」
「なら私も」
「あら、エリィはダメよ?マリーさんの準備の手伝いをするのでしょう」
「エリィ姉様こちらは気にしなくてもいいですよ」
ユディの指摘に王女様がやんわりと声をかける
「そうでした!ごめんなさいマリーさん約束は守ります。エルさんすみませんやっぱりマリーさんの手伝いをします」
「大丈夫、気にしなくていいよ。確認に行くだけだから直ぐに戻るし」
その後、少し談笑したあとお昼の食事をして少し残念そうな顔のエリィに見送られながらワールさんの商会に向かった
「ようこそお越しくださいましたエルフィン殿」
「いつもお世話になってますワールさん」
いつもの如く笑顔で迎えてくれるワールさんと挨拶をする。そして、一緒にもう一人
「ご無沙汰してますエルフィン様」
「あ!レインお姉ちゃん!」
すぐさまミアが反応する
「こんにちはレインさん」
「こんにちは、クイナさんミアちゃん」
清楚な感じの女性が挨拶をする
「久しぶりですねレインさん」
この女性はワールさんの娘で俺より2つ上の人で商会に来た時などにワールさんと話し込んでいる時にクイナ達と仲良くしている女性だ
「ようこそお越しくださいました。この度の人材に関しては私の方で見繕わせて頂きました」
「そうなんですか?」
「はい、エルフィン殿の屋敷には女性の方が多いので男である私よりも娘の方がいいと思いまして」
「なるほど、わかりました。それと紹介します、こちら俺の屋敷でメイド長をしてもらう予定のカリンさんになります」
「初めましてカリンと申します」
ワールさんとレインさん二人に自己紹介をしたら早速奴隷を確認することに。場所は商会がある所から若干奥に行った所に専用の建物があった
「それでは連れてまいりますので少々お待ちください」
そう言うとレインさんは部屋を出ていく
「エルフィン殿、今回は娘に任せましたが人選には問題は無いと思います。親バカと言われるかもしれませんがレインはなかなかの才能があると思っております」
「俺から見てもテキパキと仕事をこなしていて人当たりも良く気立てのいい女性だと思いますよ」
「そうでしょう、そうでしょう!」
ワールさんの娘自慢が始まった。ワールさんはレインさんの事をそれは可愛がっていてちょくちょく自慢をする。そうこうしているうちに
「おまたせしました」
レインさんが数人の男女を連れて戻って来た
「今回紹介させて頂きますのはこちらの者達になります」
年配の男性2人に年齢幅のある女性が7人いる
「こちらの者達はいずれも貴族の屋敷での働き経験があり人格等も問題ないよう精査しております」
「ではお願いします」
俺があっさりそう返したからかレインさんが少し驚いている
「レインさんの事信頼してますので改めて確認する必要はないでしょう、なぁみんな?」
クイナとミアは頷き
「エルフィン様がそうおっしゃるのなら私の方も構いません」
カリンさんも問題ないようだ
「ありがとう御座います」
レインさんは少しテレながらそう返してきた。
「人数的にはもう少しいてもいいかな?」
カリンさんに聞くと
「そうですね、経験者がこれだけいるのならある程度素人でも教育すれば問題ないかもしれません」
「でしたら直接ご覧になりますか?」
ワールさんがそう提案したので奴隷が居るスペースに行く事になった。ある程度見た所で気になる場所を見つける
「ワールさんあっちはなんですか?」
「そちらは親子や兄弟姉妹と言った者達です。それぞれ事情があり引き離すのは可哀想でして家族ごとの購入のみにしている者達です」
ワールさんと話しながらそちらを見ると怯えながらこちらを見ているのも何人かいる。人族だけでなく獣人の姉妹なんかもいる
「カリンさんどう思う?」
「そうですね、先程レインさんより紹介頂いた者達の下に付けて補佐をさせながら育成すれば問題ないかと」
「ワールさんこの人達特に問題がある訳ではないんですよね?」
「はい、ここの者達はどちらかと言えば身内の不手際に巻き込めまれた様なものですので」
「なら全員うちで引き取ります」
その言葉が聞こえていた奴隷達に戸惑いが走る。
「と言う訳でさっきの人達と一緒に言っとく事があるので集めてもらえます?」
レインさん推薦の奴隷と合わせて20人程になった奴隷達が集まった。
突然集められた奴隷達は何が起こるのか不安がり幼い子の中には泣きそうになっている者もいる
「この方がお前達の新しい主人となる御方だ」
ワールさんがそう紹介した後
「エルフィンです、よろしく。さて君達には今作っている俺の屋敷で働いてもらう事になるけどその前に言って置くことがある」
全員を見渡し
「まず一般的な平民達と同等の衣食住は保証する」
言った途端、聞き間違いかと言った様な戸惑いが流れる
「それと働きに応じた給金も支給する。それから各自に自分がいくらで買われたのか金額を教えるからお金を貯めて自分を自分で買い戻して自由になっても構わない」
奴隷達は理解が追いついていない様だ
「ぶっちゃけ奴隷だからと言って過剰労働させる気は無いってこと。自分を買い戻した後も働いてお金を貯めてやりたい事をしても良いしそのままうちで働いてもらってもいい。反故にされる心配をしてるなら今ここでワールさんに念書を書いてもいい」
さらに混乱させてしまったようだ
「エル様よろしいですか?」
クイナがそう言ってきたので頷き返す
「皆さん戸惑いでしょうがこちらを見てください」
そう言うとクイナは首のスカーフを取り除く
「私も皆さんと同じ奴隷になりますが基本的に自由な行動を許されています。食事も同じ物を頂き衣服も清潔な物を着させて頂いています」
クイナの奴隷の輪を見て健康状態の良い佇まいに皆注視している
「皆さんは一般的な奴隷の扱いを懸念しているのでしょうがその心配はありません。エル様はかなり変わった御方ですので」
「クイナさん酷くない?」
「あら、褒めているんですよ?」
不満を言ったら笑顔で返された。だがこのやり取りが安心を与えたようで恐怖心はだいぶ和らいだようだ。
「主人は俺になるけど直属の上司は彼女になるから顔を覚えておく様に」
「カリンです。エルフィン様に恥を欠かせないように指導しますのでそのつもりで」
「厳しい言い方してるけどとっても優しい女性だから分からない事あったらちゃんと聞きな」
「エルフィン様!せっかく気を引き締めている所なのに!」
奴隷達に笑顔が浮かび上がる
「君達を正式に引取りに来るのは屋敷が完成する頃になると思う。ただワールさん、もしかしたらひと月ぐらい王国を空けることになるかも」
「構いませんが何かあったのですか?」
「皇王陛下から招待を受けてて近々行く事になってるんです」
「おや、そうなんですか」
皇王陛下からの招待と聞いて奴隷達が飛び跳ねそうな程驚いている
「多分それくらいかかると思うんで屋敷の事よろしくお願いします」
「はい、かしこまりました」
驚いている奴隷達のところにカリンさんが近づき
「本人に自覚が薄いのですがどういう人物か分かってください。言ったでしょう?恥を欠かせないようにすると」
大商会の会長ワールさんと気軽に話し皇王陛下から招待を受けているという目の前の事実に呆然としている奴隷達だった
「では皇都に訪問している間に屋敷の管理等を教育しておきますね」
「お願いしますレインさん」
ワールさんレインさんとの話が終わり奴隷達の方を向く
「何か聞きたい事とかあるかい?」
そう言うと1人の少女が震えながら手を挙げた、見た感じまだ10代前半だろうか隣には妹らしき子が姉の服を掴んでいる
「何かな?」
前に出たとこで気が付く。後ろにいたうえ長袖の服で気が付かなかったがこの子片腕がない
「わ、私はご覧の通り片腕がありません!それでも一生懸命働きます!ですから妹だけには、妹だけは!」
振り絞るように声を震えながら幼い妹を残された腕で抱きしめている
「私の身体でしたらお好きな様になさって構いません!お願いします!」
膝をつき頭を下げて懇願している。王国では法によって犯罪奴隷以外の奴隷は守られている。これによって不当な暴力行為、強制的な夜の相手等を受けなくていい。だが本人が了承した場合その限りではない、ましてワールさん見たいな商人の前で言ったら取り消しができない。
「……ほほう」
ニヤッとした顔を向ける。少女の身体が強ばるのが見れた。次の瞬間後頭部に衝撃が走った
「痛いです。クイナさん」
「怖がらせてどおするんですか!まったくもう!」
クイナによって叩かれたのだ。その行動に奴隷達は驚いている。
なぜ奴隷達が驚いたか、それは奴隷であるクイナが主人であるエルフィンに危害を加えれたからだ。奴隷の輪を付けている以上主人に危害を与えようとした場合、強制的に奴隷の輪が止めるからだ。
何となくその考えを読み取れ
「ああ、クイナの場合俺の事を思ってやってるから作用しないんだ。それと君、覚悟は分かったけど気負う必要ないから。他にも傷なり後遺症なり抱えている者はいるか古いやつでも申告してくれ」
そう言うと商会で確認しているものも合わせて症状を診る。魔物の爪でえぐられた痕や噛まれたもの、鞭で打たれた痕なんかもあるがとりあえず片腕を無くした少女が1番重そうだ
「ワールさんとりあえずやっちゃっていいですか?」
「えぇどうぞ」
そう言うと指を鳴らす。その瞬間、魔法陣が部屋全体に展開される。
突然の出来事に戸惑う奴隷達だが直ぐにその効果が発動する
「お姉ちゃんこれ!」
先程の少女の妹が声を上げる。無くした腕の部分に光が集まり一際発光した次の瞬間には
「嘘?これ…私の腕?」
無くしたはずの腕が再生してる。他の奴隷達も無くなった傷に驚いている
「相変わらずと言いますか、以前より凄くなってないですか?」
「さすがにこれは…」
ワールさんとレインさんに呆れるような顔で言われる。
「これで全員治ったかな?」
「エルフィン殿一応聞きますが大丈夫ですか?これ程回復魔法を使って」
「全然大丈夫!ココ最近調子良くて。やっぱり1度死にかけて生き返るとパワーアップするってやつですかね!ハハッ」
俺としては冗談混じりで言ったつもりだったんだが言った次の瞬間には部屋の全員に悪寒を感じさせる。発生源はというと
「エル様…まだ反省してないようですね?」
笑顔のクイナが静かに声に出す。
「いや!今のは冗談だから!?反省してますから」
「冗談として出すという事はやっぱり反省してないようですね」
あかん、クイナさんかなりおかんむりです。救いを求めて辺りを見渡したがミアは知らないとそっぽを向き、カリンさんは自業自得という感じでため息をついている。ワールさんとレインさんも無理です、と早々に白旗を上げている。奴隷達にいたっては恐怖で下を向いていた。
「クイナ落ち着いて!ちゃんと反省してるから許して」
「どうしましょうかね?」
(あぁ誰か助けて)
そう心に思っていると
「会長大変です」
商会の従業員が慌てた様子で入ってきた
「今はお得意様の来客中だぞ!失礼だろう」
「申し訳ございません!ですが奴隷達が!」
「奴隷達がどうした?」
その従業員も混乱しているようでかなり慌ている
「ここにいる奴隷全員の傷や病等が突如として全員完治しました!」
「………あぁ」
普通なら驚く所なのだろうがワールさんもレインさんも心当たりがある、というかあり過ぎた
「えっとエルフィン殿」
「すんません、いや本当に」
「うちとしては得はあっても損は無いのですが、ひとまずエルフィン殿が皇都に行かれている間の奴隷の生活費教育費は私の方で出させていただきます」
「……ありがとうございます」
ここで遠慮するとさらに拗れそうなので素直に甘えることにした。そしてエリザベス店長の所でメイド服なんかを作ってるので今度採寸等の手配をして今日はお開きとなった。ただ帰る時に
「エル様は今日の夜じっくり話しましょうね」
「………はい」
拒否権のない話し合いが約束された
エルフィン達が帰った後
「相変わらず規格外の御方だな」
商会長ワールは笑う
「お前に対するエルフィン殿の印象は良いようだ。今回の件で信用もされているのがわかった。上手くやれるか?」
「お父さんの娘として上手くやってみせますわ」




