間話5
エア砦の最終防衛戦から数日がたったある日。
皇国の皇城にある一室には数名の男女が集まっていた
「砦との連絡はどうなっている?」
「以前としてまだ繋がらない状態です。連邦の設置した通信妨害の魔法具を破壊して行ってはいるのですが………」
「王国からの援軍は?」
「直ぐに軍を編成され王太子殿下自ら指揮をとって向かわれたそうです。ですが………」
上司と思しき男性に報告していた男性が口を濁す
「……間に合わない可能性が高いか」
「すでに連絡が伝わった時点で砦が襲われてから5日経過しておりますので、そこから軍を編成し強行軍で進んだとしてもさらに5日はかかるかと」
その言葉に傍のソファーに座っていた女性が泣き始める
「あぁ、エリィ……」
「しっかりして、アンリ。まだ決まったわけではないわ!」
「クリス、あの子に何かあったら私どうしたら……」
震えるアンリと言われた女性をクリスと呼ばれた女性が励ましている。
「皇王陛下、こちらからも兵を派遣すべきでは?」
「宰相、連邦軍がまだ国境付近にいる中でしかも通信妨害の魔法具のせいで砦までの情勢も分からない状況だ。それはお主もわかっておろう?」
そう部屋にいるのは皇国の皇王と宰相そしてエリィとユディの母親達である
「今は先に砦に向かった王国軍の情報に頼るしかない。砦にはすでに到着しているはず、どの様な状態でもリジットを信じるしかない」
重い空気が漂う部屋に突如として扉が開かれる
「失礼します!陛下」
執事と思わしき男性が訪れる
「通信魔法具より入伝、王国の援軍が間に合いエア砦の死守に成功!リジット公爵様、エーデルリア皇女様共にご健在です!」
「それは真か!?」
「はい!リジット公爵様御本人から連絡が入っております!」
「良かったエリィ!」
「無事なのね!」
皇女と公爵共に無事の報告に重たかった空気が一気に晴れ渡る
「それから陛下、リジット公爵様が陛下と直接お話がしたいと。出来れば皇妃様方もと」
「わかった、行こう。クリス、アンリ行けるか?」
「はい、大丈夫です。あの子の声が聞きたいです」
「無事な事を確認したいです」
皇王と皇妃達は通信魔法具が置かれている部屋に向かった。そして、
「リジット公爵、無事だったか!」
「御心配をおかけし申し訳ございません陛下、援軍が間に合い九死に一生を得ました。」
「よくぞ無事に生き延びた!帝国の襲撃の報を聞いた時はどうなるかと思うたが」
「はい、王国の援軍がなければ確実に落とされていました」
「そうか、しかし王国軍はよく間に合ったな」
皇王と公爵が無事を確かめていると
「リジット様!エリィは?エリィの声を聞かせて下さい!」
「その声はアンリねぇ……アンジェリカ皇妃様?……その、申し訳ありません今、皇女様は手が離せなくて…」
「どうして!?まさか!怪我でも!?」
「いえ、皇女様に怪我はありません。……陛下、少しよろしいですか?」
その言葉に皇王は部屋の中にいた宰相と騎士達に外に出るように指示をした
「セアン今は私と皇妃のみだ」
「それよりなんでエリィは来れないの!!」
「そうよ!無事なら連れて来なさい!!」
「アンリ義姉さん、クリス義姉さんも落ち着いて!ちゃんと順を追って話すから」
かなり砕けた喋りに変わる中、話は進む
「兄上、今回の襲撃に対する王国軍の援軍は間に合っていません」
「なに!では4倍近い帝国軍をどうしたのだ!?」
「兄上、これからお話することは全て本当にあった事と認識ください」
「それはどういう意味だ?」
リジット公爵は少し笑った後
「エリィの想い人については兄上にも報告が来ていますよね?」
「エリィ自身と騎士達、王国の国王陛下殿から報告は受けている。ユディ共々盗賊と魔物から護った掃除屋の男だったな。だがなぜその男の話が出てくる?」
「実はその男が単身で[暴魔の大森林]を抜けてエリィを助けに来ました」
「な!1人であの森を抜けたと言うのか!」
「彼はあくまでエリィを助けに来ただけと言っていましたが結局の所、彼一人によって劣勢だった状況がひっくり返りました」
「軍同士の戦局を1人の力で変えられるわけなかろう!」
「それが実際に変わったのです。砦にいる全ての騎士や兵士達が証人です」
「にわかに信じ難いが……それではなぜエリィはその場に来れないのだ?」
「その者はエルフィンと言う名なのですがカーマイン王太子殿下が到着された時に力尽き倒れられまして」
リジット公爵はその時の状況を思い出す
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「いやぁぁぁぁぁあ!!」
エーデルリア皇女の悲鳴が砦にこだます。その声を聞いたリジット公爵やジュリアンが駆けつける
「どうした!!エリィ、何が………」
「姫様!」
駆けつけた公爵とジュリアンが見たのは倒れているエルフィンから血が流れておりその傍らで全身を血に染めている皇女の姿だった。
「ラファエル様一体何が!?」
「主様の身体が崩れかけてる!息と心臓が止まった!」
必死に回復魔法かけ蘇生させようとしている様子にただ事でないことを認識する。
「治したところから直ぐにまた壊れ始めて回復が追いつかない!!」
精霊による治癒が追いつかない状況にどうしようもない空気が流れ出す
「……あぁ…そうだ………追いかけなきゃ………」
うつろな瞳となった皇女はペンダント型のアイテムボックスから御守りの短剣を取り出しその切っ先を自分の心臓へと向ける
「何をしているかエリィ!?」
「姫様ダメです!!」
「離して叔父様!ジュリアン!」
胸を貫こうとした皇女の腕を咄嗟に二人がつかみ止める
「やめろエリィ!そんな事をしてもエルフィンは喜ばないぞ!」
カーマインが皇女の握っていた短剣を奪う。そこへ騒ぎを聞きつけたカリンがやってきた
「姫様!大丈夫ですか!?」
皇女はカリンを見上げると
「……カリン…エルさんが死んじゃう………死んじゃうよぉぉ」
カリンにしがみつきその胸に顔を押し付けて泣き始める。血を流しているエルフィンと血塗れになっている皇女を見てカリンは抱きしめることしか出来なかった
「殿下!!」
「キース!それにレミーア!」
キースとレミーア、治療部隊が到着する。そして、傍らで回復魔法をかけているラファエルに驚いている
「今は詳しい事は後だ!レミーア」
「は、はい!」
レミーアと言われた女医は直ぐにエルフィンの横に行きラファエルに問いかける
「どういう状態ですか!?」
「身体の中が至る所で引き裂かれ始めている。回復をしてもしても直ぐに別の場所が裂ける。今し方、息と心臓が止まった!」
「わかりました!あなた達こちらに来てエルフィンさんに回復魔法を!」
レミーアは連れて来た治療部隊に指示を出す
「精霊様、エルフィンさんの頭と心臓周りをお願いできますか?」
「どうするの?」
「とにかく心臓を先に動かさないと肉体が死んでしまいます」
レミーアはアイテムカバンから変わった形の魔法具を取り出す
「レミーアなんだそれは?」
「以前エルフィンさんとの知識交換をした際の事を参考に作ったもので心臓に弱めた雷撃魔法を放つ事で再鼓動させるものです。まさかエルフィンさんに使う事になるとは思いませんでしたが」
レミーアは話しながら準備を進めていき魔法具に魔力を流すと
「いきます!」
心臓の上に魔法具を置き雷撃魔法を放つ。その瞬間エルフィンの身体は衝撃で跳ねる。しかし、心臓は動かない
「威力を上げてもう一度……いきます!」
その様子をカリンに抱きついたまま皇女は見ている。
「もう一度!最大にしていきます!」
今まで以上に身体が跳ねる。
「エルさん!戻って来て!!」
皇女が叫んだその時
「…………かはっ」
エルフィンに呼吸が戻るが意識は戻らない
「エルさん!!」
「油断したらダメ!!身体の崩壊が止まらない!」
ラファエルとレミーア率いる治療部隊が懸命に回復魔法をかけるが止まらない。
このままだとまた心臓が止まる!ラファエルがそう思った時、とてつもない存在感がラファエルを襲う
「!!?」
『聞こえますか?風の精霊よ』
「誰!?」
「どうしました?!ラファエル様」
急に声を上げたラファエルに周りのもの達が驚く
『その者の心臓が動いた事で繋がりが戻りました。今から私達の力を貴女を媒介にその者に流します。貴女は上手く調整し治しなさい』
(主様を治してくれるの?)
『それには貴女の協力が不可欠です』
(主様を治せるなら!)
『いきますよ』
その瞬間、膨大な力が流れ込んでくる。
「うっ!くっ!」
「ラファエル様!?大丈夫ですか!」
「だい……じょう…ぶ」
ラファエルは背中の翼を空に向けて広げる。すると両翼は光だし始め片方はライトグリーンにもう片方は薄いピンク色の光を発し始めた
「主様は………ボクが助ける!!」
ひときわ強い光がエルフィンを中心に輝か出した。
「傷は塞がったけど血が足りない!」
「私!エルさんからもらった造血薬持ってます!」
エリィはペンダント型アイテムボックスから造血薬を取り出す
「だが意識がない状態でどう飲ます?」
するとエリィは躊躇することなく造血薬を口に含みそのままエルフィンの口に持っていく
(お願い!エルさん飲んで)
………ゴクンッ
「飲みました!」
「よし!」
その後、容態の落ち着いたエルフィンを部屋に運び入れるのだった
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「それでその者は大丈夫なのか?」
「あ、あぁ…王国の治療部隊のおかげでどうにか」
あの時の事を思い出していた公爵
(ラファエル様のことに関しては私の方から話さない方がいいな)
エルフィンとの約束を考えラファエルのことを隠して皇王と皇妃に説明した
「ひとまず持ち直したのだが依然として意識が戻らずまだ気の抜けない状態でな、エリィは付きっきりでエルフィン殿の看病をしている」
「そう…あの子は後を追おうと思うほどその方を愛しているのね。なら声が聞けなくてもしょうがないわね」
「エルフィンさん…とおっしゃいましたか?その方は肉体の限界を超えてまでエリィを護ったのですね」
皇妃達は皇女の心情そしてエルフィンへの最大の感謝を思っていた
「兄上、もうあの二人を引き離す事は無理だぞ」
「うむ、だがその者は他にも女性がいると報告があるがその辺はどうだ?」
「エリィの話だと問題ないと思う、何よりエリィ自身がそれを認めているしすでにその女性達とは仲がいいそうだ」
「エリィを蔑しろにするという事は?」
「絶対にないと断言する。そもそも軽い考えなら死地と化した砦に1人で来やしない。かと言って他の女性を蔑ろにする事もない。そんな安い器ではないことは会って確信した。」
「そうか」
「言うまでもないと思うが私は二人の仲を応援する」
「お前にそこまで言わせる男か…」
皇王は何か思案する様に考え込む
「セアン、その方を皇都に連れてくる事は出来ますか?私が直接治療をします」
「アンリ義姉さん自らですか!?」
アンジェリカ皇妃は皇国の誰もが認めるトップクラスの回復術士である
「娘を救ってくれた方、何より娘の想い人をこのままにしてはおけません!」
「そうですね、意識が戻らないとエリィが悲しみます」
皇妃の二人が皇都での治療を進言する
「そうだな、セアンその者を連れて来れそうか?」
「……正直、今は動かさない方がいい。容態が落ち着いたとはいえ安心はできないし無理に動かして急変したら今度こそどうなるかわからん」
「そうか、わかった。動かせる様になったら連絡をしてくれ。いつでも受け入れできるようにしておく」
「わかった兄上」
「連邦軍が落ち着いたら増員を送る。今しばらく苦労をかけるが頑張ってくれセアン」
「最大の山場は超えましたし王国軍もいますから大丈夫です」
「声が聞けて嬉しかったぞセアン、次の通信の時にはエリィの声も聞かせてくれ」
「えぇわかりました」
そして、通信は切れた。
「どうします?カティ」
「エリィの為にここまでしてくれた男性ですよ?あなた」
皇妃の二人が皇王に笑いかけながら話している
「セアンがあそこまで認める者だ、その人格に問題はないだろう。しかし、大事な娘の相手だこの目でちゃんと確認したい」
「ではここに御招待しないとね」
「そうね、私も娘の選んだ男性見てみたいわ」
「無事に意識が戻ったら国賓として招こう。ついでに他の女性達も招くか?」
「良いですね!あの子も認める娘達なら会ってみたい」
「話してみるのが楽しみね!」
皇妃二人も国賓として招く事に賛成する
「それにしても報告ではかなり外堀から埋めているがユディも絡んでいるな」
「おそらくマールもですよ」
「確かにあの子ならやりかねないわね」
「昔から変わらずという事か」
三人は過去を思い出し笑うのだった




