大切な人を護る為、翔ける!P-3
夕方頃に話を終えた俺はひとまずエリィの部屋の隣にある部屋がもらえた。皇女の隣の部屋は問題があるのではと聞くと
「その方がエリィも落ち着く、それに問題が起きてもエルフィン殿が責任を取るのだから問題ないだろ?」
そう言ったリジット公爵にエリィが顔を赤くして背中を叩いていた
「それではエルフィン殿、何か必要な物がありましたらおっしゃって下さい。と言っても色々限られますが」
「ハハッ大丈夫です。ありがとうございます」
案内してくれたジュリアンさんも部屋を出て行ったので中にあるベッドに腰掛けてから寝そべる
「ふぅ〜〜」
さすがに魔物氾濫から帰ってそのまま直ぐにこっちに向かったから疲れが溜まっている。だが弱音を吐くわけにはいかない。エリィを無事に連れて帰るまでは
コンコンっ
「エルさん、よろしいですか?」
「ん?どうしたエリィ」
エリィは扉を開けると顔だけひょこっと出して聞いてきた。なんとも可愛らしい
「今日の夕食ご一緒してもかまいませんか?」
「もちろん!俺もエリィと一緒に食べたい」
「良かったです!では私の部屋で食べましょう」
そう言ってエリィの部屋に招待されると侍女が待っていた。
「カリンさん、よかった貴女も無事でしたか」
「はい、エルフィン様ご心配おかけしました。そして、姫様をお救い頂き誠にありがとうございます」
カリンさんは優雅にカーテシーをして御礼を言ってきた。彼女とはエリィが王国に来て半月たったくらいに皇国からの品を持って来た時から知っていた。もちろんエリィの専属侍女であることも知っているし俺とエリィの仲を応援してくれている人だ。
「当然の事をしただけです。どうか頭をあげて下さい」
「ありがとうございます。お礼という訳ではございませんが腕によりをかけて食事を用意させていただきます」
「それは楽しみです」
侍女のカリンさんの料理は美味しい。俺の中ではクイナとミアの料理が1番好きだが二人の料理を除けば王国の高級レストランに引けを取らない味だ。料理好きのクイナとは話しが合い、ミアを交えて3人で話しているのをよく見かけた。
「それからエルフィン様、姫様が嫁がれましたらついて行くのでよろしくお願いします」
「ちょ!カリン!」
「ハハッわかりました。クイナ達も喜びます」
「乳母も引き受けますのでお任せ下さい」
「カリン!気が早い!!私達まだ口づけしかしてないのに!」
「あら、口づけはされたのですね。おめでとうございます」
「ありがとう!って違う!」
身分の差があるのにこんなやり取りができるのはお互い信頼している証拠。
(カリンさんはからかって楽しんでる節もあるけど)そこはご愛嬌
「仲良いね〜」
「他のお二人も任せて下さい」
「もう!カリン!」
このような談笑をしながらカリンさんの用意した夕食を頂き夜へとなっていく。ソファーでエリィと話していたのだがその内、船を漕ぎ始め俺の肩に頭を乗せて寝てしまった。
「姫様は昨夜寝られませんでしたから」
「そうですか」
「エルフィン様のおかげでございます。ここ数日は姫様も不安な毎日を過ごされていました。この様な安心した寝顔は久しぶりでございます」
エリィの寝顔を見るカリンさんはとても優しい顔をしていた。
カリンさんにベッドの準備をしてもらいエリィを起こさないようにそっと抱き上げると静かにベッドに運び布団をかけてあげる。
「今日はいい夢が見れるといいな」
額に軽くキスをしてからカリンさんにエリィを任せ部屋を出るとそのまま夜警に向かう。リジット公爵もそうだが将校達は疲労が溜まっていたので、今日は俺に任せてしっかり寝て備えろ!と言って休ませた。俺は体力増加薬があるのである程度はどうにかなる。
前世でも完徹ゲームしてたので徹夜は慣れっ子さ。ふふふ…
と言っても検索で調べた限り夜間は手出ししてくることは無いだろう。少し離れた所に駐留しているが明らかに援軍待ちだ、国境付近にいた帝国軍が近づきつつあるのでこれを待っているのだろう。かなりの規模だが耐えるだけならどうにかなるだろう。顔見知りの護衛騎士達がいたので話しながら夜警をし朝方交代の兵士達が来たので部屋で休憩することにした。
「あと2日と半日か。ただ数が多いだけなら問題ないがどうなるか」
あっ、こんな事考えていると変な事が起こるんだっけ?
馬鹿な事を思っていると部屋の扉が勢いよく開かれた。
「どわ!何事!?」
反射的に扉の方を見ると
「エリィ!?ってなんて格好で来てんだ!」
おそらくあの後着替えたのだろう。寝間着姿だった。
「エルさん?」
「ん?あぁそうだが、どうした」
すると急にエリィは泣き始めた
「おぅい!どうした!?」
「よかった、昨日のことは夢じゃなかったのですね」
(あぁそう言う事か…)
俺はソファーに座っている所からエリィを手招きし近寄って来たエリィの手を引っ張るとそのまま膝の上に座らせる。
「エ、エルさん!?」
「大丈夫、夢じゃなくてちゃんと俺はエリィを助ける為にここにいる」
エリィの頭を抱き寄せて優しく声をかける。するとまた泣き始め
「ごめんなさい、起きたらエルさんの姿がなかったので不安になって…」
「ハハッそんな可愛い事言ってると襲っちゃうぞ?」
「………エルさんが望まれるのでしたら私はいつでも大丈夫ですよ?」
和ませるつもりで言ったのだがエリィは目を潤ませたまま言ってきた。その顔に近づいていく。
「エルフィン様、すみませんうちの姫様こちらに来ていますか?」
カリンさんがエリィを探して部屋に入って来た。若干気まずい雰囲気が流れ
「………お邪魔でしたか?」
「いや、大丈夫。どうしましたカリンさん」
「朝食の準備が出来ましたのでお呼びしに来ました。エルフィン様の分も作ってありますのでどうぞ。姫様は先に着替えましょう」
「そ、そうねカリン」
エリィが立ち上がるのを手伝うのと同時に小声で
「エリィを襲うのはもう少しゆっくりできるようになってからだな」
エリィは驚いた顔をした後、ニコッと笑い軽くキスをしてきて
「約束ですよ?」
そう言って部屋に戻って行った。着替えが終わるとカリンさんが呼びに来たので朝食をとり軽く仮眠を取っていたらジュリアンさんが部屋に来てリジット公爵が呼んでいるので来て欲しいとの事だった。
「リジット公爵どうしました?」
「エルフィン殿、休憩している所すまない。あれについて意見を聞きたくてな」
リジット公爵が指差す方向にかなり遠い位置だが帝国軍の姿が見えていた
「あの様にかなり離れた位置に現れたのだがあの位置から動く気配がない」
「………おそらくですが砦から出さない為でしょう。公爵と皇女が包囲を突破したら今回の作戦は事実上失敗ですからね。ああやって姿を見せる事で砦から脱出しないように牽制しているのではないかと」
「ならこのまま援軍が来る前に包囲を突破したらいいのでは?」
「包囲網は二重、三重に張られています。突破する前に挟撃されて終わりですよ」
「うむ、やはりそうか…しかしエルフィン殿は軍略にも聡いようですな」
「それ程でもないですよ」
俺もまさか戦略ゲーの知識が役立つとは思わなかったよ。
「一応監視だけ強化しておきましょう。それとできたら敵の増援部隊についても調べたいですね」
「そうだな、偵察隊をいくつか出そう」
「お願いします」
とは言ったものの検索で見る限りだいたい3万位の帝国軍になるだろうか、周辺の包囲している部隊も合わせると4万近い人数の帝国軍となる。皇国軍は食糧を持ってきた事で飢えがなくなり前日の勝利で士気も高く負傷兵もほとんど治したので迎え撃つにはいいコンディションだ。
「まぁ劣勢になってきたら身体への負担が半端ないが神技を連発するしかないか」
だがその日の夕方その考えが甘かった事を思い知る。リジット公爵に呼ばれて会議室に行くと
「来られたかエルフィン殿、今し方偵察隊が戻り大変な事が分かった」
リジット公爵から焦りの色が見える
「どうしたんですか?」
「帝国軍の増援部隊に攻城戦用ゴーレムが確認された」
「ゴーレム!?」
(検索にそんな表示は……もしかして)
魔道具として調べると出てきた
(帝国兵で検索かけてたから引っかからなかったのか、クソこれは俺の落ち度だな)
「しかも報告による外見から帝国の錬金術の粋を集めた守護ゴーレムの可能性が高くそれが3体いたそうだ」
「公爵、皇国軍で対処出来そうですか?」
「……正直かなり厳しい、1体なら足止めくらいはできるが今回は防衛戦。さらに帝国兵も前回よりも倍近い数が集まっている」
「そうですか」
「エルフィン殿、今からでもエリィを連れて脱出できないか?」
「それは最後の手段でしょう。ここにはエリィの大切な人も多くいる」
「だが帝国の守護ゴーレムは大陸一の強度と言われている。いくらエルフィン殿でも難しいのでは」
「そうですね、こればっかりは試して見ないと何とも言えないですね。ただやる前から逃げるのは嫌なんですよ」
俺がもっと早い段階で確認していたらもう少しまともな対策が立てれたかもしれないが悔いてもしょうがない。今できる最大限のことをするだけだ
「とりあえずゴーレムに関しては俺に任せてもらえますか?」
「……承知した。まぁエルフィン殿がどうにも出来なければ皇国軍もどうしようもないだろう。その時はエリィを連れて脱出していただきますよ」
「そうならないように頑張りますよ」
その後、将校達も集まり作戦が立てられる。ゴーレムを倒したとしてもまだ4万近い帝国軍が残っている。神技は負担が大きいのでゴーレムに使えばそのあと使えなくなる可能性が高くなるとだけ伝えた。
「あの様な大技を何度も使って大丈夫なのですか?」
「無事ではすまないでしょうね。かと言ってリスクを負わずしてこの状況を乗り切るのは無理です」
「そうでしょうが……エルフィン殿の身に何かあれば皇女様が……」
「ですからエリィにはこの事は話さないように、特にジュリアンさん」
「む、無論です!」
「ほんとに〜?」
「信じてくださいよ!」
会議室の緊張が少し和らぐ
「俺には人を率いた経験がありません。ゴーレムを倒せば帝国軍は数にものを言わせて押し寄せてくるはずです。ゴーレムは必ず俺がぶっ壊します!ですので帝国兵の対処よろしくお願いします!」
「「おう!!」」 「「はい!!」」
「帝国兵の大半は雇われ兵と戦闘奴隷で構成されているはずです、でなければこれ程の数を集める事は不可能ですから。指揮を担う軍の中枢を排除出来れば帝国軍は敗走するでしょう」
「うむ!決戦は明日になるだろう。各々明日に備え身体を休めてくれ」
「あっ!公爵殿、皇国軍に魔物の解体ができる人いますか?」
「あぁいるがどうした?」
「今、亜竜が2体あるので英気を養う為にも皆で食べさせません?」
魔物氾濫で倒した分の奴、1体分と肉だけもらう予定の分を収納に入れといた。本来はギルドで解体してもらうつもりだったけど王都に戻ってすぐ出たからそのままある
「串焼きにすれば兵士全員にも行き渡るんじゃないですかね」
「亜竜と言えば高級食材ではないか!なぜそのようなものを?しかも2体も」
「魔物氾濫で亜竜が6体出てきてその内4つ撃ち落としたので2体貰って残りはギルドにあげました。」
会議室がシーーンと静かになる
「エルフィン殿、それはもちろん仲間とだよな?」
「いえ、俺が亜竜の頭に1発矢を放って撃ち落としました」
「ま、まぁエルフィン殿だし。うん、ありがたく頂戴して兵士にふるまおう」
リジット公爵以下将校達は無理やり納得しているようだった。なんか納得いかん。その後、解体した肉を持ってエリィの部屋を訪れる
「あら、エルフィン様どうされました?」
「カリンさんお願いがあるのですが、今日の夕食この肉を使って作れませんか?」
「これは…亜竜の肉ですか?」
「よくわかりましたね」
「はい、かなり前に使ったことがあるので」
「カリンさんの分もありますのでどうですか」
「はい承りました。今日は少し豪勢に調理しましょう。」
「ところでエリィは?」
するとカリンさんが扉を開き中にある1箇所を見つめる、その先にはエリィがソファーにもたれて居眠りをしていた。
「では私はこちらの調理にかかりますので姫様をお願いしますね」
「了解」
俺は静かに部屋に入るとエリィの座るソファーの向いに座る。
「美女の寝姿は絵になるなぁ」
そんな事を考えながらエリィを眺めていると
「ん……う、ん…」
まぶたが少しずつ開き
「ん?エ、エルさん!?」
「おう、おはよう」
「い、いつからそこに!?カリンは?」
目が覚めたら目の前に俺がいたので驚いている
「少し前にな、カリンさんにはいい肉があったので今日の夕食に使ってもらうことにした」
「もう!起こしてくださればいいのに!」
「いやぁーエリィの寝姿が綺麗で見惚れてた」
徐々にエリィの顔が赤く染まる
「お、乙女の寝顔を覗き見るなんて紳士的じゃないですよエルさん!!」
「愛している女性の寝顔が見れるなら悪い人でもいいかな」
「あ、愛し!?………」
ド直球に自分の気持ちを伝えたんだが効果てきめん、てかてきめん過ぎたな。エリィがちょっと放心状態になってしまった
「でもクイナさんやミアちゃんが!」
「確かにクイナやミアを愛しているがそれがエリィを愛していないなんて事にはならないだろ?こんなにも俺の事を想い支えようと思っている女性に好意を抱かないわけないじゃないか」
「あうっ!………」
エリィは直球に弱いと言うか免疫がないのか?まぁ皇女だしな
「3人が俺の事を想い支えようとしてくれているように。俺はそんな3人を愛しその心ごと守り抜く。これは俺が自分自身に立てた誓いだ」
そう言うとエリィは恥ずかしながらも顔を微笑ませ
「エルさん、近くに行ってもいいですか?」
「いいよ、おいで」
エリィは立ち上がると近づいて来て横に座るのかと思ったら今朝俺がエリィにした様に膝の上に座ってきて身体を寄せ甘えてくる。気持ちを言葉にしてちゃんと伝えたからか積極的だ。
「ふふっ、不謹慎ですけど今この時だけエルさんを独り占めしている様で嬉しいです」
「そうか」
「……明日は包囲している帝国軍との決戦になるのですね」
「そうだな、楽な戦いにはならいだろう」
「エルさん、生きて戻ってきてくださいね。あなたを待っているのは私だけではないのですよ」
「あぁクイナやミアにエリィを必ず連れて帰ってまた家族で食事をしようと約束してるしな」
「今朝、私とした約束も忘れたら嫌ですよ」
「綺麗なお姫様を襲わないといけないからな」
「あら、素敵な私の王子様はどんな風に襲って来るのでしょうね」
二人で少しふざけた言い方をしながら談笑をする。
「無事を祈ってますエルさん」
「一緒にみんなの所に帰ろうな」
そして、深く甘いキスをする。唇を離すと自然と笑が二人にこぼれた
「失礼します。もう少しで夕食の準備ができますが、姫様は起きられま…し…た」
キスをした後なので二人は密着している
「あら、またお邪魔でしたか?」
「いや気にしないで下さい」
「今度からはドアノブに逢い引き中と書いた紙をかけておきましょう。そうすれば誰にも邪魔されません」
「やめて!カリンそれは恥ずかしい!!」
カリンさんがほんとに紙に書き出したのでエリィが必死に止めている。
「では夕食の方を御用意しますね。ラフィ様にはお預かりした物をお出ししたらいいですか」
「えぇフルーツジュースを出してあげてください。てかラフィはどこに?」
探して見ると窓辺付近にあるクッションの上で寝ている
「こいつ護衛も兼ねてるのわかってるのか?」
現在ラフィはエリィの護衛を任せている。その関係でカリンさんにも事情を説明してラフィの姿がわかるようにした。最初こそ驚いていたが今は適応している。
「お~い!ラフィ起きろ」
「ウー?ア、オハヨーマスター」
「おはよう、って護衛はどうした?」
「ダイジョウブ、ワルイケハイシタラ、カゼガオシエテクレル」
「ほー!さすが風の精霊」
「ラフィさん、そろそろ食事ですから起きてくださいな」
「ハーイ、エリィ」
こうしてエリィと一緒にカリンさんの作った亜竜料理フルコースを食べた。元々美味しい肉がカリンさんの料理でとてつもなく昇華されて頬っぺが落ちそうだった。美味しい料理を堪能しお腹を満たしたので明日に備えて早めに就寝する。そして、朝日が昇る前に会議室に向かう。
「おはようエルフィン殿、眠れたかな?」
「おはようございますリジット公爵、ぼちぼちですかね。」
「今日が山場ですからな、私もそんなもんのです。でも、昨日提供して頂いた亜竜の肉で兵士たちも気分が落ち着いているようです。まさかこんな戦時に高級食材が食べれるとは誰も思いませんから」
「喜んで貰えてるなら幸いです」
会議室内で位置確認をしている将校達を横目に公爵と緊張を解すように会話をする
「…エルフィン殿、昨日も話したがゴーレムがどうしようもない時は姫様を連れて逃げるように」
「今から弱気じゃダメですよ?それよりもゴーレムを破壊した後は頼みますよ」
「これでも名の知れた軍人だ。任せてくれ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
公爵や将校達と一緒に防壁に移動する。それぞれの位置を確認しながら作戦の確認も済ませていく
「いつ頃が開戦になりますかね?」
「今頃、帝国軍に増援部隊が合流した頃だろう。そう考えれば後2時間と言ったところか」
リジット公爵の読み通り2時間後に遠くに帝国軍が姿を現す、その巨大な物体と共に
「……デカイな」
巨大な3つの物体がゆっくりと動いている。さながら風の谷の巨〇兵みたいだ。
「『なぎ払えーー!』とか言って火吹いたりしないよな」
「え?さすがに聞いたことないです。そもそも火を吹くような部分もないですし、あの物量で押し潰しに来るのですから」
俺の馬鹿な発言にジュリアンさんが真面目に答えてくれた。
「ごめん、ちょっと言ってみただけ」
「しかし、エルフィン殿あれ本当にどうにかなりますか?」
そう言ったジュリアンさんだがその顔にはさすがに恐怖の色が見える。まぁ目の前にあんな巨大物体があればなぁ
「やれる事はしますよ。ジュリアンさんもそのあとは頼みますよ?」
「はい!エルフィン殿に負けないように頑張ります!」
それぞれが配置に付く中
「エルさん!」
「エリィ!?」
エリィが近寄って来た
「何してる!?ここは危ない、部屋に戻れ」
「ですがあのゴーレムは………」
ゴーレムの事を予め言わなかったのがいけなかった。
しょうがない…
「とりあえず、初めに先制攻撃をしますか」
「な、始まるのか?!」
「わざわざ帝国軍が配置に着くのを待つ必要ないでしょ、向こうは侵略者なんですから」
俺は手始めに『星屑の流星群』をゴーレムに向けて放つ、が………
「……硬いな」
土煙が消えた後、ゴーレムは上部を少し削っただけで立っている。その状況に帝国軍からは歓声が上がっている。逆に皇国軍からは落胆の気配がする
「エルフィン殿の攻撃でもダメか、やはり姫と共に……」
「やっぱ、威力分散してちゃダメだな、一点集中で行くか」
リジット公爵が何か言っていたがエルフィンは弓を両手で持ち
「『星の女神』星天形態」
そう唱えると漆黒の弓は元の大きさに戻るが本体の厚みが倍ぐらいになる
“旅ゆく星 光指す旅路にて 一筋の光とならん”
弦を引くと1本の光の矢が形成される、そして空に浮かんでいた無数の小さな光が神句を唱えると同時に矢に集まっていく
「『星明かりの彗星』」
放たれた矢はまばゆい光を放ちながら光線の様に軌跡を残しゴーレムに向かっていき
バシュッ!!
そのままゴーレムを貫通する。後には胸の部分に大きな穴の空いたゴーレムだけが残った。胸の部分に核となる魔石があるのは知っていたので狙ったが上手くいったようだ。ゴーレムは力を無くし音を立てて崩れていく。今度は皇国軍から歓声が上がっている
「見たろエリィ?大丈夫だから部屋で良い子にしてろよ?」
「……わかりました。エルさんお気を付けて」
「あぁ!ラフィ護衛任せたぞ」
「ハーイ、マスター」
エリィは若干不安そうにしてはいたが大人しく部屋に戻って行きその後をカリンさんとラフィがついて行く。
「……つぅ」
「エルフィン殿!?」
エリィが建物に入り見えなくなるとエルフィンはよろめく。その様子を見たジュリアンさんが駆け寄る
「大丈夫ですか?!」
「大丈夫です。この技は威力がある分、反動が強いんです」
試撃ちの時みたいに加減している状況じゃないから本来の威力で放ったが、かなりキツい。額には汗が出ており関節が軋んでいた。
「本当に大丈夫なんですか!?」
「大丈夫ですって、残り2体も破壊しましょう」
不安そうなジュリアンさんを横目に2体目のゴーレムに向けて『星明かりの彗星』を放ち同じ様に破壊するが放った瞬間、全身に激痛が走り唐突に嘔吐感を感じ片膝をついてしまう
「エルフィン殿!!」
その様子にジュリアンさんだけでなくリジット公爵も急いでやって来る。そして、嘔吐感を感じ口元をおおっていた手を離すと手のひらに血が付いていた
「エルフィン殿、無茶されるな!これ以上はエルフィン殿の身体が持たない!」
「そうです!あとは我々が引き継ぎます!」
血を見たジュリアンさんとリジット公爵が必死に止めてくる。
「俺以外にあれを破壊できるのがいますか?」
「そ、それは……」
「俺がやるしかないんです!」
ふらつきながらもどうにか立ち上がる。全身に激痛が残るが耐えて再度位置につく。帝国軍は二発目を放って間があったからかこれ以上撃てないと踏んで前進をし始めている。
「悪いけど最後の1体も壊させてもらう」
弓を持ち弦を引くが狙いが定まらない
「エルフィン殿!やはりその状態ではあなたが危険だ!」
「意地でも撃ちます!集中するので黙って!」
心配してくれるジュリアンさんに酷い言い方になってしまったがあのゴーレムは破壊しないと確実に皇国軍は負ける。そうなるとエリィは……それだけはさせん!!
「グッ!」
口元から血を流しながらも弓を構え狙いをつける。その時少しだけ身体が軽くなる。
「ウゥゥッ!!」
なにかに耐えるようなうめき声が聞こえ、見ると
「ラフィ!!何してる!?」
ラフィが俺に向けて回復魔法をかけていた
「マスター、クルシンデル、カンジタ!タスケル!」
「離れるんだ!近くにいるとお前が危ない!」
今、俺の周りには弓から発せられる神気と俺自身の魔力が渦巻いている。その中にラフィは入り込んでいる
「ヤダ!!」
「命令だ!離れろ!そのままいたらラフィの身体が消えるぞ!」
既にラフィの身体は神気と魔力により削られてきている。このままいたら確実にラフィの身体が消えてなくなる。だがラフィは言う事を聞かずに回復魔法をかけ続けている。今、技を止めると次を撃てるか分からない。
「ラフィ!!止めるんだ!」
「イヤダ!!ボクガ、マスターヲタスケルンダァァァ!!」
ラフィが叫んだ瞬間、発していた神気と魔力の一部がラフィに流れるのを感じた。そして、ラフィの身体が光りだしたと思ったらその身体が大きくなり等身大の女性へと変わっていく。
「ラフィ…お前……」
ショートカットだった髪は長いロングヘアになりそのグリーンカラーが輝いている。見た感じは清楚なお嬢さん的な感じだがその背中には純白の翼が拡がっており神々しさをかもし出している。そして、手を全面に出すとエルフィンの身体を優しい翠の光が包む
「主様、ボクが全力で支えます。頑張って!」
優しい声と共に身体が軽くなり痛みが引いて行く。これなら!
俺は直ぐさま狙いをつけゴーレムを神技で射抜く。それによりゴーレムは3体全て破壊される。それを見届けると尻もちを着くように座り込む。
「エルフィン殿!」
すぐにジュリアンさんとリジット公爵が来て声をかける
「大丈夫ですか?」
「えぇどうにか、まぁ彼女のおかげですね」
見上げる先には美しい女性へと変貌したラフィが浮いていた。
「主様大丈夫ですか?」
「あぁラフィのおかげでな」
その様子にジュリアンさんやリジット公爵だけでなく皇国軍はもとより帝国軍にも動揺が走る。
「あ、あれは!」
「おぉぉぉ風の乙女さま!」
「奇跡だ!」
特に皇国軍からは感涙の声が聞こえる。中には手を合わせ祈りを捧げている者までいる。国の紋章にまでなってるからそうなるよな。強すぎる存在感からかその場にいる全員に姿がわかるようだ。
「これは一体?!本当にラファエル殿なのか?」
「はい、主様に仕えるラフィです」
おそらくだが神気と俺の魔力を吸収することにより上位精霊に昇華したのだろう。口では簡単に言うけどとんでもないことなのはわかる。でも今は
「リジット公爵!ゴーレムは破壊しました。帝国兵の方はお願いしますよ」
帝国軍はゴーレムを壊されても数の優位を活かして攻め立ててきている。
「確かに今は論議をしている時ではないな、ジュリアン!!」
リジット公爵はジュリアンさんに声をかけたあと
「全軍に告ぐ!ゴーレムは破壊された!エルフィン殿は役目を果たしてくれた、次は我々が自分達の役目を果たす番だ!!」
「「うぉぉぉぉおお!!!」」
皇国兵士たちから歓声が上がり士気は最高潮に上がる、これなら行ける!帝国軍はゴーレムを破壊された事で士気は下がっている。だが退くことが出来ない帝国軍は攻めるしかないので、もはや数頼りの攻城戦を仕掛けることしか出来ない。
「主様大丈夫ですか?」
心配したラフィが再度確認してきた。
「あぁ俺は大丈夫。ラフィ、砦にくる矢と魔法を風で防げるか?」
「はい、お任せ下さい。主様」
ラフィは砦全面に風の膜を展開させて飛んでくる矢と魔法を弾いている
「すげぇなラフィ、防御は任せた」
「はい!」
ラフィのおかげで幾分かマシになったとは言え以前身体は悲鳴を上げている。
(カーマイン達が来るまで1日ちょっとか……)
俺はアイテムポーチから体力増加薬を2本取りだし飲み干す。それから
「まさかこれを俺自身が飲むことになるとはな…」
それは痛覚麻痺薬、本来は大怪我をした人が痛みでショック死しないように作ったんだけど
「こんな事に役立つとは」
それを飲んだ事で身体の痛みが無くなる。正確には感じなくなる。
「これで矢を撃つだけならできそうだなあ」
最初に万能回復をしてみたがかなり効きが悪い。神気による負荷だからだろう。痛みはなくても身体が限界になったら動かなくなる、なので回復魔法を常時かけ続ける事にした。魔力を常に消費していくが魔力回復薬で補う。
「最後までもてよ俺の身体……」
丸一日をかけたエルフィンと皇国軍の生き残る為の戦いが始まる
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪
「殿下!あの森の端と山の麓の間を抜けたらエア砦が見えてきます!」
「分かった!よし、全軍急ぐぞ!」
美しい馬『イルド』に乗ったカーマインは大軍を率いてエア砦に向かっていた。
「予想より早く着きそうですね!」
「あぁ!だが楽観はできん。包囲している帝国軍が少な過ぎる。援軍を妨害する隊がここまでいないという事はエア砦に兵を集中しているか、もしくは……」
キース団長からの言葉に返事を返していたカーマイン、最悪の場合エア砦が落ちていると言う言葉はさすがに飲み込んだ。
「あいつが簡単に死ぬわけない!」
カーマインは必死に軍を走らせる。
「………静かすぎる」
援軍を待って戦っているはずの砦方面から戦いの音が聞こえない事にカーマインからは焦りの色が見える。キース団長も一向に戦闘の音が聞こえない事に苦悶の表情をし始める。
(エルフィン!エリィ!)
最後の丘を越えてカーマインが見たものは
「な、なんだこれは………」
辺り一面に帝国軍だった者達、そして、遠目に見える岩山が3つ確認される。地面は元の地形をなくし無数のクレーターが作られている。その中を注意しながら王国軍はエア砦に向かっていく。
「殿下!この岩山もしかして帝国の守護ゴーレムではないですか!」
カーマインに同行している将校のひとりが岩山を見て叫んでいる
「帝国の最高戦力と言われる守護ゴーレムをここまで破壊するとはどうやって……」
「………そんなのアイツ以外ありえないだろ」
カーマインは砦の正門の上の所に腕を組んで立っている男を見て言った。カーマインはそのままイルドを正門の前に進めて止まる。
「遅かったなカーマイン!早く来ないから帝国軍逃げていったぞ!」
「うるさいぞ!これでも予定より早く来たんだ文句言うな!」
「次、会ったら文句言ってくれと言ったのはカーマインだろ?」
「………そうだった」
「ハハッ」
二人は顔を見合わせ
「無事で何よりだエルフィン」
「あぁ約束通り来てくれてありがとうカーマイン」
笑顔を見せる
「早速だけどカーマイン、さすがに疲れ…たから、あと頼ん……だ」
そう言葉を残しエルフィンは後ろ向きに倒れ込む。
「エルフィン!!」
カーマインは砦の中に入ると急いでエルフィンがいた防壁の上に上がって行く。そこでカーマインが見た光景は……
「エルさん………」
エルフィンの頭を自身の膝の上に乗せてその顔を愛おしそうに触れているエーデルリア皇女の姿だった。
「エリィ、君も無事でよかった」
「はい、エルさんが助けて下さいました」
エルフィンの顔を見たままエーデルリア皇女は応えた。その顔に安堵する。
「エルフィンは魔物氾濫から直ぐにこちらに向かったからさすがにこいつも体力の限界だろう。今は休ませてやろう。」
「はい!」
笑顔でカーマインに返事を返すエーデルリア皇女。
「……ゴフッ」
「えっ?」
皇女は咳のような音と共に手になにか液体が付くのを感じた。その音の方を見るとエルフィンの口から血が流れ手にも赤い液体が付いていた。
「エルさん!?」
「おい!エルフィン!!」
手に付いた物がエルフィンの血であると気づく
「エルさん!しっかりして」
エーデルリア皇女は必死にエルフィンに呼びかけるが反応がなく口からは血が止めどなく流れる
「エリィ!身体を横向きにしろ!このままだと血で窒息してしまう!」
「は、はい!」
エリィとカーマインはエルフィンの身体を横向きにする。するとさらに口から血が大量に流れ出てきて皇女のドレスを赤く染める
「キース!治療部隊を連れてこい!急げ!!」
「はい!すぐに!」
「エルさんしっかりして!」
「エリィ!」
そこに上空から天使の姿をした風の精霊が舞い降りる。その姿にカーマインは驚いている
「ラフィさん!エルさんが!!」
「主様はボクが診るからエリィは呼びかけて!」
そう言いラフィはエルフィンの身体に回復魔法をかけながら身体の状態を調べる。だがエルフィンの身体を調べる内にラフィの顔が険しくなる。
「ラフィさん、エルさんはどうしたの!」
「……酷い、身体の中が至る所で引き裂かれてる」
「そんな!」
懸命に回復魔法をかけるラフィだが次第にエルフィンの呼吸が徐々に静かになっていき止まる。
「エルさん、ダメ!!」
エーデルリア皇女はすぐさまエルフィンの口に自身の口を合わせ息を吹き込む。手や口が血で汚れるのを厭わずに息を吹き込む。
「戻って来て!お願い!」
エーデルリア皇女は涙を流しながら人工呼吸を続ける。ラフィも回復魔法をかけ続けるが血は口だけでなく鼻や耳からも出血をし始める。
エーデルリア皇女はドレスに染み込んでくる血の生温かい感触と手から伝わるエルフィンの体温が失われていく感覚に平常心を失っていく
「エルさんお願い!目を覚まして!約束守ってよ!!」
「くそ!キースはまだか!」
懸命な蘇生が続けられる。しかし、皇女の手に感じられていた心臓の鼓動も弱まっていき
「エルさん生きて!私を置いていかないで!」
「エルフィン!起きろ!お前はクイナやミア、エリィを残していくのか!」
「主様!お願い動いて!」
エーデルリア皇女とカーマイン、そして、ラファエルが呼びかけるもその心臓の鼓動が止まる。
「…あ……あぁ…」
エーデルリア皇女は絶望するように顔を両手で挟み込み
「いやぁぁぁぁぁあ!!」
砦にはエーデルリア皇女の悲痛な声だけがこだましていた……




