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悪夢、再び フラグP-6

「こうも簡単に倒されると亜竜(ワイバーン)への認識が変わりそうだよ」


アルフィードさんは半分呆れ顔で言ってきた。


「アルフィードさん亜竜(ワイバーン)1体は丸ごと貰っていいですか?鱗は(やじり)に使えるし骨や革もアイテム鞄作るのに使えるから。そして何より肉が美味い!」


「3体ともエルフィン君の好きにしていいよ。君が仕留めたんだからね。まぁ1体はギルドに入れてくれると助かるかな」


「だったら1体は丸ごと貰ってもう1体は肉だけくれたら素材は好きにしていいですよ」


「それは助かるよ。解体費用はこちらが持たせてもらうね」


亜竜(ワイバーン)の分配の事を話していると


「エル様、カリアさんの所が少し押されているような」


アルフィードさんと一緒にそちらを見る。アルフィードさんが


「ガドラン君も気づいて応援に行くみたいだから大丈夫だよ」


アルフィードさんがそう言ったのでガドランの方を見る。そこにはガドランから死角になる位置に熊の魔物がいる事に気づき咄嗟に大声をかける


「ガドラン!!!亜竜(ワイバーン)の影に魔物がいるぞ!!」


声をかけるのが遅かった。魔物の爪はガドランを襲い武器を砕いてガドランの身体を抉っていた


「クソっ遅かった!」


直ぐに他の前衛部隊が間に入り相手をし大怪我を負ったガドランは仲間に担がれ下げられている。回復薬をかけられているが効きが良くないらしい


「あのドジが!だから出発の時に変なフラグを立てるなって言ったんだ!」


そう言って形の変わった矢を取り出す。それはガラムの親方に作って貰った特別製の矢、それを()()()()()()()()放つ。矢はガドランの胸へと刺さった


「エルフィン君!何を!?」


「大丈夫です。アルフィードさん」


矢が刺さったガドランの身体から淡い光が出始める。それと同時にガドランが負った傷がみるみる治っていく。そして、ガドランも意識が戻ってきた


「うっ!ぐうぅ…あぁん?確か熊野郎にやられたはず」


「あ、兄貴ーーー!!!」


傷が塞がると矢に付いていた魔石が粉々に割れ矢が落ちる。


「エルフィンの兄貴が兄貴に矢を打ち付けた時はトドメを刺すのかと思いましたよ」


「あん?これエルフィンのヤツがやったのか?」


(やじり)の部分が砕けた矢を見て聞いていた。ちょうどその時


キュポンッ!!


なんか間抜けな音が聞こえた。音がした方を見ると


「おめぇ頭に矢が刺さってるが大丈夫か?」


「何がっすか?」


話していたパーティーの弟分の兜に矢が刺さっていた。


「ぎゃああああ!マジっす!矢がって…これ引っ付いてるだけっす」


兜を取り確認する。


「あっ!なんか一緒に来てる。アイテムポーチと手紙スっね」


ガドランは渡された手紙を読む


『このドジ!だから出発の時に変なフラグを立てるなって言ったんだ!ポーチの中に増血薬と代わりの武器を入れてるから使え!』


「ドジは余計なお世話だっつうの!」


アイテムポーチから増血薬を取り出し一気に飲み干す。そして、こちらを見ているエルフィンに向かって手を振っておいた。


「あ、そうだ!兄貴、カリア姐さんの所が苦戦してるッス」


「おう!そうだった。直ぐに向かうぞ」


急いでカリアの援護に向かう。その途中でポーチに入っていた大剣を取り出す


「こりゃまたゴツイのを渡しやがって」


バスターソードをさらにゴツくした大剣が出てくる


「兄貴、それ振れるんですか?」


「見た目ほど重くはない、問題は鉄亀(アイアンタートル)に効くかだ」


「?兄貴、剣に何か付いてます」


言われて見ると大剣に紙が引っ付いている。ガドランはそれを読むと


「とんでもない事が起こるんじゃないだろうな」


「なんて書いてあったんですか?」


「ほれ!」


紙には『魔力を込めてぶった斬れ』とだけ書かれていた。


「カリア!」


「ガドラン?!ちょうどいい、代わっとくれ!コイツは相性悪過ぎる」


鉄亀(アイアンタートル)と相対しながら周りの他の魔物とも対峙していた


「わかった!!そのまましゃがめ!」


合図とともにカリアがしゃがみその上をガドランの大剣が通り過ぎる


「新しい剣の斬れ味、試させてもらうぜ!」


大剣に魔力を込め打ち付けた時の反動に備えて手首に力を入れる。たが刃は熱したナイフをバターに入れるかの如く抵抗なく入っていき鉄亀(アイアンタートル)を横一文字に両断する


「……………は?」


あまりの出来事にガドランは状況を飲み込めずにいる。そして、改めて両断された鉄亀(アイアンタートル)を見て


「な、なんじゃこりゃゃぁぁぁあ!!!!」


ガドランが絶叫している一方エルフィン達は


「今のは矢の効果かい?」


「えぇそうです」


特別製の矢を取り出す


「見せてもらっても?」


「どうぞ」


アルフィードさんに矢を渡したら珍しそうに観察している


「一見普通の矢に見えるけど先端の(やじり)の部分がこれは五芒星になっていて中央の核は魔石かな?」


「さすが見ただけで分かりますか、五芒星の魔法陣に封印の印を刻印して魔石に回復魔法を封じ込めてます。矢が刺さることで封印を解放する仕組みですね」


「なかなか複雑な仕組みだね」


「てか他の場所は大丈夫ですか?」


西側のルドルフさんの方を見ると上手く羽を傷つけて地上戦にして戦っている、こちらはもうすぐ終わりそうだ。皇国側は2体いたはず


「ちょっと押されてるか?」


よく見ると1体はだいぶ追い詰めているがもう1体は暴れ回っている。あの暴れている辺はライカ達がいる辺じゃなかったっけ。検索能力で調べるとまさに戦っているとこだった。というかヤバそう


「しょうがない、助けてやるか」


特別製の矢を取り出し暴れている亜竜(ワイバーン)に狙いを定める。そして、今度は風魔法を使い狙撃する。


「上手く行けよ!」


放たれた矢は真っ直ぐに飛び見事に亜竜(ワイバーン)のこめかみ部分に刺さり仕留める。


「よし!」


「その矢は攻撃もできるのかい?」


「封じ込めた魔法で多種多様に使えます」


「スゴいね」


「えぇこれ性能はとてもいいんですよ、性能は……」


「と言うと?」


「この矢は知り合いの腕のいい鍛冶師に頼んで作って貰ったんですがとにかく作るのが手間なんです。(やじり)にはミスリルが使われていて魔石はCクラスの魔物の魔石を加工して埋め込みそれを支える棒の部分、矢柄(やがら)にもそれに耐えられる素材を使用。魔石はこの間の街道の駆除で取ったのを持ち込みでやりましたが1本あたり最低でも金貨5枚はかかっています」


普通の矢は金貨1枚あれば百本は買える、つまり特別製の矢は普通の矢五百本分の費用がかかっている



「それはずいぶん費用がかかっているね」


「そう無茶苦茶費用かかっている割にこれ1回限りの使い捨てなんですよ」


おそらくこれでもガラムさんの知り合い価格でやってもらってるだろうから本来はもっと高いはず、正直ガラムさんの腕で作ってもらった物としては安い方なのかも


「矢は通常使い捨てだけどこの値段を使い捨ては堪えるね」


「だから普段使いにはとても出来ません」


矢について話しているとガドランの叫びが聞こえた。大剣を使って驚いた声だな


「ガドランに渡した剣も大丈夫そうだな。亜竜(ワイバーン)も大丈夫そうだしサクサク魔物を制圧しますか!」


1番の脅威だった亜竜(ワイバーン)が討伐された事で部隊の士気も上がりどうにか第3波も乗り越えることができた。


「おい!エルフィン!この大剣なんなんだよ!!」


「何が?」


あらかた魔物を倒したガドランが戻って来た


「何がじゃねぇよ!どういう斬れ味してんだよ!」


「あぁそれな刃の部分がもの凄く細く高速で振動してんだよ。それによって斬れ味が増すんだ」


「はぁ?振動するとなんで斬れ味が上がるんだよ」


「いや、仕組みを言ってガドラン理解出来るか?かなり専門的な話になるぞ?」


「う!それは……とりあえずこれが終わったら返すからな」


「別にいいよ、元々お前にやる為に作ろうとした剣の試作品だ」


「えっ?俺の?」


エルフィンは少し恥ずかしそうに


「本当はそれとなく使わせて感想を聞いて仕上げるつもりだったんだよ。ガドランには色々世話になってるからその礼にな」


「マジか!こんないい剣を俺にか」


「ああそうだよ!それで使った感想はどうなんだよ!」


言ってて恥ずかしくなり言葉が少し乱暴になってしまった。だがガドランは嬉しかったのか気にしてない様子だ


「言った通りそれはまだ試作品だ」


「いや、これでも十分いい大剣だぞ」


「いい大剣じゃダメなんだよ。お前に合わせたお前だけの大剣を作りたいんだ」


ガドランは嬉しくて感動したのか顔がニヤついている


「エルフィン……ありがとう!そうだな…しいて言うなら重さはまだあっていい、軽すぎると逆に重心が取りにくいんだ。あとこの斬れ味は常にこんななのか?」


「いや、魔力を通した時だけ振動する様になっている。通常状態で付与してあるのは斬撃強化と耐久性強化がかかっている。魔力を通したら刃の部分が振動して柄の部分には振動無効が発動する」


「なんで柄にそんな付与を?」


「してなかったら刃が振動する時、手元も振動して大変なことになるぞ」


ガドランはその様子を想像し思わず噴き出した。


「それは確かにやばいな」


「まぁとりあえず使って王都に帰ったら教えてくれ、そこで完成させる」


「あぁ分かった!」


「ところで魔物氾濫(スタンピード)はこれで落ち着くのか?」


「今、魔洞の監視部隊が確認中だよ」


俺の問いにアルフィードさんが答えてくれた


「なぁに!さすがにこれだけ魔物出せば魔洞も落ち着くだろ!これで帰れるぜ!」


「………なぁガドラン、そんな事言ってるとまた何か起こるぞ?」


「Aクラスの魔物まで出たんだ。そりゃねぇだろう」


その時監視部隊から報告が入る


「報告入りました!魔法具による数値は減少、魔物の生産がされなくなったとの事です」


「ほらな!」


「ただ……」


「ただ?」


「魔法具は下がっているのですが魔力感知をおこなっている者が魔洞の中の1箇所に魔力が集まっている様な感じがすると」


「1箇所に集まる?」


アルフィードさんが考えた後、ハッとした顔になり


「直ぐに監視部隊にその場を離れるように伝えて下さい!急いで!」


「は、はい!」


連絡員が直ぐに伝達を始める


「どうしたんですアルフィードさん?」


「私の予想が合っていればおそらく………」


その瞬間、遠くで爆発音が聞こえた


「な、なんだ」


突然の爆発音にガドランを始め他の者達も慌て出す


「報告!魔洞が急遽爆発!」


「監視部隊は?!」


「事前に離れるように言われていたので皆、軽症です。そして、砂塵で正確には確認出来ませんでしたが魔洞があった場所から亜竜(ワイバーン)の3倍はありそうな巨体の影が見えたと」


「3倍だ?!」


「やはりそうですか」


「アルフィードさん、心当たりが?」


「昔の文献に似たような現象があった事が記載されていました。その時も発生前に魔力の収縮が確認されたと、そしてそこから………」


「中間地点より報告!巨大な(ドラゴン)を確認したとの事です!」


(ドラゴン)だと!」


「特徴を教えてください」


「二股に分かれた角が一対、赤い瞳に赤黒い身体をしているそうです!」


狂暴竜(クレイジードラゴン)だ…」


アルフィードさんがため息と共に正体を教えてくれる


「どんな(ドラゴン)なんですか?」


(ドラゴン)は本来知能が高い魔物なんだが狂暴竜(クレイジードラゴン)は本能のまま動き生き物を襲う。(ドラゴン)の中でもタチの悪い部類に入る」


「ほら見ろガドランが変な事言うから変なの出てきた」


「俺のせいなのか?!」


「エルフィン君、何か考えはあるかい?」


「ここはガドランに責任も取ってもらうため(ドラゴン)の餌になってもらいましょう」


「嘘だろ?!」


「キサラには立派な最期だったと伝えてやるよ」


その時、カリアさんも戻って来た


「何を言ってるカリア!」


「尊い犠牲だった」


キャルシアさんも話に参加してきた


「キャルシアまで!?てか過去形!?」


「てかアルフィードさん、亜竜(ワイバーン)の時より余裕ありません?」


「これでも結構焦っているんだけど彼女たちを見ていると私が取り乱すわけにはいかないだろ」


アルフィードさんはそう言うとクイナ達の方を見ていた。クイナ達は怖がる事も焦る事もしないで普通にしている


「エル様が守ってくれると信じてますから」


「うん!兄様なら安心!」


ここまで信用されると笑うしかない


「なら期待に応えますか」


「何か作戦でも?」


「とりあえずガドランには餌になってもらいます」


「なんで!!」


「餌っていうか囮な」


「はぁ?」


ガドランはなんのこっちゃてな顔をしている


「ガドランは着いてきてくれる奴を集めて竜の方向を限定して欲しいんだ。あっちこっち動かれるとめんど……狙いが定まらん」


「今、めんどくさいって言おうとしたろ?」


「…なんの事だ?アルフィードさん竜って事は弱点は逆鱗ですか?」


「そうだよ。逆鱗の後ろに魔力を操る神経が集まっている。顎の下、喉の部分にある」


「わかりました。キャルシアさんお願いがあります」


「ん?」


「竜が来た時、顎を下からかち上げて逆鱗が見えるようにして欲しいんです」


「ん!任せて」


両手を前に出しガッツポーズみたいな事をする


「あたしは何すればいい?」


カリアさんが聞いてきた


「カリアさんとルドルフさんには俺達に邪魔が入らないように魔物を近づけないで欲しいです」


「任せときな!ルドルフにも伝えておこう」


「あとは竜が吐息(ブレス)を放ってきた時だけど誰か防げる人いる?じゃないとガドランが“こんがり美味しく焼けました”状態になるんだが」


「嫌な例えだな、おい!」


「それなら私が精霊魔法で防ごう」


「じゃぁお願いします。アルフィードさん」


作戦が決まった事で各自が場所へと移動する。ガドラン達は俺から見て真正面の位置に陣取る、その少し後ろにキャルシアさんとアルフィードさんが立って魔法の準備を始めている。


「俺も何時でもいけるように準備するか」


足を軽く開き体勢を安定させ弓を持ち魔力を練り込む。すると今までミアの頭の上で二人を守っていたラフィが近づいて来て


「マスター、ボクモ、テツダウ?」


「そうだな、それじゃ手伝ってもらおうか」


「ウン!」


ラフィへとこれからやる事を思念として伝える


「ウン、ワカッタ!()()()()!」


そして、狂暴竜(クレイジードラゴン)がついに接近して来る。アルフィードさんとキャルシアさんが魔法でこちらに誘導している。竜はそれにかかりこちらへと向かって来た。


「頼むぜぇエルフィン!」


ガドランをはじめとした囮メンバーは狂暴竜(クレイジードラゴン)の巨体に冷や汗をながしている。接近して来た竜は一旦上空に止まったと思うと首を持ち上げる


息吹(ブレス)が来ます!」


アルフィードさんはそう言うと水の精霊魔法を発動させて水の膜を作りだす。その直後、竜は火焔を吐き出しきた。炎を防いでいるのを見ながらその時を待つ。弓を構え特別製の矢を取り出し矢の末端の(はず)の部分を(つる)へと交じわせ()()、そして風魔法を付与していく。ラフィもその工程を補佐してくれる


「エルフィン君!直に息吹(ブレス)が終わります」


「了解です!」


竜の息吹(ブレス)()むとすかさずキャルシアさんが石弾を作り出し下から顎を打ち付ける。その瞬間、逆鱗が現れる


「喰らえ!!」


俺の手から放たれた矢は捻ったことにより高速回転を始める、さらに風魔法を付与したことにより矢は一筋の光を残し音速の速さで逆鱗へと向かって行く。しかし、ここで予想外の事が起こる。矢は逆鱗へと刺さるのではなくその周辺を削り取るが如く進み首に穴を空けて行った。


「…………わお!」


予想以上の貫通力に驚いた。多分ラフィの補佐によるものだと思う


「マスター、ダメダッタ?」


「ラフィが凄くて驚いただけだよ。良くやった!」


ラフィの頭を撫でてやる。ラフィは嬉しそうな顔をしていた。肝心の竜は逆鱗の裏の魔力伝達神経を破壊された事で落下を始める


「ガドラン!!トドメは任したぞ!」


ガドランは竜の落下地点へと走っていた


「お前は人使いが荒いなぁぁ!」


落下地点に到着したガドランは大剣に魔力を通し下段に構える。そして、竜が落ちてくるのに合わせて大剣を振り上げて首を狙い飛び上がる


「うおおぉぉおりゃあーー!!」


ガドランの大剣は見事に竜の首を捉え両断する。意志を無くしたその巨体は地面に大きな音を立てながら落ちていった。その光景を見ていた掃除屋(スイーパー)達から歓声が上がる


「「「ウアァァァーーー!!」」」


無事に狂暴竜(クレイジードラゴン)を討伐した俺達は再び集まりお互いの無事を確認し合っていた


「ガハッハハ!まさかSクラスの魔物まで倒すとわな!」


「エルフィン君、今放った矢はもしかして…」


「はい、じいちゃんの技【螺旋(らせん)】です」


この技はじいちゃんの最期の試験で放った技、矢を()じることで回転力を加え貫通性を上げ風魔法を付与する事で物体に当たるまでの風の抵抗を無くす。抵抗の無くなった矢は純粋な威力と貫通力で目標に向かっていく。まぁラフィの力が加わるとさらに凄いことになってたが……


「昔、1度だけ見た事があったけどやっぱりエルフィン君もその技を受け継いでいたんだね」


アルフィードさんはとても嬉しそうな顔をしている。


「さて、この件で狂暴竜(クレイジードラゴン)討伐に貢献した主要人物には竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の称号を受けることが出来るが」


アルフィードさんがそんな話を切り出すと


「いい、……ダメ、不足」


キャルシアさんが単語だけの会話を話し出す。その意味はどっちなの?アルフィードさんを始めその場の人間が困っているとキャルシアさんのパーティーメンバーが


「キャルが言うには称号はいらない。魔法での牽制と顎への一撃しかしてないからだって」


キャルシアさんが『うん、うん』と頷いている。ほんと君たちなんでわかるの?


「それならあたし達ももらう訳にはいかないね」


「そうだな!」


ちょうどカリアさんとルドルフさんが戻って来た


「俺達は邪魔が入らないようにしただけだろ、その権利すらない」


ルドルフさんが笑いながら言っている


「俺もいいかな」


ガドランも辞退を申し出ている


「竜はエルフィンの攻撃でほぼ倒せていた。それにエルフィンの作ったこの大剣がなければ傷すらついたかどうか」


「みんな辞退するなら俺も………」


みんなが辞退する中、1人もらうのもっと思っているとガドランが


「お前は受け取っておけ」


そう言いながら背中を押された


「今回の魔物氾濫(スタンピード)はエルフィンいなければもっと被害が出ていたし最悪全滅も有り得た。これだけの状況でこれ程少ない被害で済んだのは奇跡に近い」


ガドランの言葉に周りにいた他の掃除屋(スイーパー)も大きく頷いている。アルフィードさんも


「竜の討伐に最も貢献したのは誰が見てもエルフィン君、(きみ)だよ。それにエルフィン君の目指すSランクを認可してもらうには十分な材料になる、今回の件でAランクは確実だしね」


新たなAランクの出現に掃除屋(スイーパー)達も盛り上がる。


「分かりました。その称号、有難く受けさせて頂きます」


「それで狂暴竜(クレイジードラゴン)の素材なんだけどどうする?最も貢献したエルフィンに優先的に受け取る権利があるけど」


「そうですね、では角と太い牙を2本づつ、それと(やじり)に使う為の鱗が欲しいですね」


「魔石もエルフィンに所有権があるけどどうする?」


どうしようか考えているとキャルシアさんに服を掴まれた


「お願い、………譲って」


キャルシアさんはじ〜ーと見ながら頼んできた。魔法士であるキャルシアがSクラスの魔石を欲しがるのはわかる。その魔石を使った魔杖を作れば最高の逸品が出来るからだ。


「んーーでしたらキャルシアさんが倒したCクラスの魔石とかと交換でどうです?」


俺としては特別製の矢を作る為の魔石の方が需要がある。Sクラスの魔石も魅力だが現状使い道が思い浮かばない、ならここらで譲って借りを作った方が良いだろう


「ほんと!全部あげる」


キャルシアさんがとても嬉しそうな顔をしている。ここまで表情がハッキリわかるのを初めて見た


「という事でアルフィードさん残りは皆で分けて下さい」


「わかりました。とりあえず分配は少し待って下さい。竜の素材は血の一滴まで無駄に出来ないので」


「はい、…………あっ!!」


「どうした?急に大きい声上げて」


声を上げたことでガドランがビックリしている


「肝心なことを忘れていた」


「な、何!それはなんだ!」


「………狂暴竜(クレイジードラゴン)の肉って美味いのかな」


「これ以上脅かすんじゃない!」


ガドランに頭をペシッと叩かれ周りにいた人たちに爆笑されてしまった。追加で肉も貰えることになった。何はともあれこれにより魔物氾濫(スタンピード)も無事に鎮圧する事となった。魔洞自体が爆発して跡形もなくなったことで魔物の生成が止まり残りは残党のみとなった。しばらくしてアイルズさんもこちらに集まりお互いの無事を確認しこれからの事が話し合われた。


「あとの事はガドラン君に任せ私はギルドの方に戻るよ。ギルドマスターが長い事離れている訳にも行かないからね」


「おう!了解だ」


「戻り次第追加の物資を送るよ。素材の加工とかもあるし運搬の手配もしないと今回は思った以上に激戦になってしまったからね。」


「あぁ確かに亜竜(ワイバーン)が出るし果てにはSクラスの狂暴竜(クレイジードラゴン)まで出てきたらな」


「そういえばライカ達は大丈夫ですか?」


アイルズさんにライカ達の様子を尋ねる


「怪我を負っちゃぁいるが治せる範囲だ。アイツらが感謝してたぞ、亜竜(ワイバーン)の頭に矢を放ったのお前だろ?」


「やっぱりあの辺はライカ達の持ち場だったんですね。押されていたので援護して良かった」


「あぁ、あの攻撃がなかったらリンカの奴が喰われていたかもしれない。本当に助かった」


(ヤバそうに見えたがほんとにヤバかったのか)


「皇国の人達はこれからどうするかい?王国のギルドマスターである私には決定権がないからね」


「ひとまず怪我人の治療をして今回の戦利品を回収、それから運搬の馬車が到着次第随時怪我人から帰していく。俺を含めてまだ動ける奴はしばらく残り落ち着いたのを見計らって帰る予定だ。それまでは何かあったら言ってもらって構わない」


「じゃぁ俺が倒した亜竜(ワイバーン)は好きにしていいですよ」


「本当か?それは助かる、それなりに死者が出たからなその遺族に生活に困らない程度の金は渡しておきたいからな」


アイルズさんやっぱり良い人だ。亡くなった人の家族の事まで心配している。


「エルフィンはどうするんだ?」


ガドランがこの後の事を聞いていた。俺代わりにアルフィードさんが応える


「エルフィン君には明日、私と王国に戻ってもらうよ。彼に一緒に来てもらえれば帰りの護衛は少なくて済む。こちらに残せる人数も多くなるからね。それに彼女たちも早めに帰して上げたほうが良いだろう」


「お気遣いありがとうございますアルフィードさん」


「まぁ魔洞自体がないんだからもう何も無いだろ」


「だからそんな事言ってるから変な事が起こるんだぞ?」


「もうこれ以上はいらねぇよ!色々ありすぎて腹いっぱいだ!」


ガドランが両手を上げて降参の合図を出している。その様子に笑いがこだます。その後、負傷者の治療を行なったりし1泊した後の次の日の朝、王都への帰路に発つこととなる。不測の事態はあったが魔物氾濫(スタンピード)も鎮圧しクイナとミアにも怪我ひとつなしで無事に帰ることが出来る事への達成感が身体を覆っていた。しかし、王都に帰った俺を待っていたのは絶望を感じる最悪な状況だった。

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