悪夢、再び フラグP-1
誕生日パーティーをした翌日の朝
「この状態も定位置になってきたな………」
朝、目が覚めて横を見てそう呟いた。右側では俺の腕を枕にして寝るクイナが、左側には俺の腕を抱き枕にして寝るミアがいた。但し夜を過ごした後の朝なので
「人肌って暖かくて気持ちいいなぁ〜」
三人とも服は着てないから直接触れている状態にある。こんな状態にある上に男なら分かるだろう朝起きた時の現象がある訳で…
気分がムラムラです。そんな感じでいると
「ん……ふぅ……あっ…おはようございますエル様」
「…おはよう」
クイナはそう言いながら顔を俺の身体に擦り付けて来る。
そんな艶っぽい声出しながら身体を引っ付けられたら…いい匂い………うん、元気印がさらに元気になってしまった。
そして、それはすぐにクイナにバレてしまい
「あら、それでは今日も私が責任もって鎮めますね」
布団の中に潜り込んで行き
「ぁむっ、……ぺろぺろ」
「ちょっクイナ!!」
夜の主導権は俺にあるのに朝は完全にクイナに握られている気がする…というかこれ確信犯だろ!っとゴソゴソとしていると横で寝ているミアも起きるわけで
「…おはようございますエル兄様………何やってるのお姉ちゃん」
若干呆れ顔でミアがクイナへと言葉を投げかける。それに動じるどころかクイナは
「ミアちゃん、男の人は朝いつもこうなってしまって苦しいの。だからそれを治してあげてるのよ」
(いやっそうなるのはほぼクイナさんあなたが原因だから!!)
ミアは少し顔を紅くしていきなり
「ずるい!私もする!」
と言う爆弾発言をしてきた。
(マジっすか?!)
なわけで二人でナニをしだす……こっちの世界に鰻や山芋ってあったかなぁ……
そんなわけで今日も一日が始まる。
今日はワールさんに時間がある時に来てくださいと言われてたのでモーノ商会に行く事にする。いつもの様に三人で行こうとしたのだがミアが足腰にきていてクイナと一緒にお留守番ということになった。俺が回復魔法で治そうかと尋ねると拒否され理由を聞くと
「エル兄様と初めて繋がった痛みだから…」
それを聞いて思わず嬉し恥ずかしテレっテレっになってしまいそれが顔にも出ていたようでクイナとミアにクスクスと笑われてしまった。
「だ〜もう、じゃぁ俺はモーノ商会に行ってくる」
「はい!行ってらっしゃいませエル様」
「エル兄様、行ってらっしゃい!」
恥ずかしくなって逃げる様に家を出たのだった…
そのままワールさんに会う為にモーノ商会に行くと応接室に通される。
「よく来てくださいましたエルフィン殿」
「おはようございますワールさん」
軽く挨拶をかわす
「それで今日はどうしたんですか?」
「はい、以前御提案頂いた『食品を冷やして保存する箱』のテストが終わり実用化致しましたのでそのご報告を」
ワールさんの言う保存する箱は前にミアを見つけワールさんの倉庫に言った時に話した魔法具の事で大きい冷蔵付きのクーラーボックスみたいな物である
「一般向けに販売するにはまだ値段がかかるのですが現在生鮮食品を運搬するものにテストを兼ねて使ってもらった所予想通りD級の魔物の魔石で一日、C級の魔石で三日程の付与効果の持続を確認しました。」
魔法具は魔物から取れる魔石を加工して組み込み魔力供給をする事で発動する。取り込める魔力量は魔物のランクが高い魔石ほど増していく。
「交換の方も問題なく出来ました」
今回の魔法具は通常の物とは違っている。通常魔法具は加工され組み込まれた魔石に魔力を供給する事でその力を発動される。なので魔石内の魔力が無くなれば効果を無くす。その為長時間使う物には無くなる前に魔力を充填させなければならない。そこで考えたのが今回の魔法具で予め魔力を充填した魔石を用意して置いて無くなれば交換するという物、これで魔力が少ない人や魔力調整ができない人でも使えるようにした。要は乾電池式だ
「現在、運搬業だけでなく食堂やレストランからも注文が来ています。先日も王城に大型を10個納品して来ました。」
「値段が高いのにえらく買いましたね…」
「訓練する兵士や王城勤務の騎士が数多くいる分食糧も多くなります。そうすると必然的に痛みやすい食材は腐ってく訳でそれらの保存が出来れば経費削減にもなりますから後々の事を考えればいいことかと。それに魔石の魔力充填は兵士の訓練にもなりますし魔力の底上げにもなりますから」
「なるほどぉ」
先行投資みたいな物か。同じ様に経費削減で食堂とレストランも買い求めているんだろう。
ちなみに俺が作ってクイナ達に渡したブレスレットとカーマイン達に渡したペアネックレスは特殊な構造をしている。本来は外部から魔力を人的に充填する必要があるが俺が作った物は大気中に含まれる魔力を自動で吸収して蓄えるので半永久的に活動可能、以前お城の錬金術師に説明したけど構築するどころか理解する事も出来なかった。じいちゃんは驚いてたけど理解してたんだけどなぁ
「という訳で販売の目処がたちましたので一先ずこちらの金額をお支払いしまして現在エルフィン殿が我が商会に預けている金額はこちらになります」
そう言いながらテーブルに紙を二枚を出してくる。その内容を見て思わず目が点になりそうになった
「……ワールさん、ゼロが多くないですか?」
1つ目のクーラーボックスもどきの方はまだ分かる、現在の貯金額の数字がとんでもないことになっている
「いえ、正しい数字ですよ?」
「預けている金額が前回見たのより明らかに多くなってます」
「あぁ、それですか!加熱パイプの方が売れ行きが好調で王国だけでなく友好国の皇国、更には同盟国のライフガイア獣魔国からも注文が来ています」
「獣魔国?って言うと西にある」
「はい、獣人や亜人に魔族等が多く暮らす国です。王国とは建国以来同盟関係にあり、海に面しているので塩や海産物は全てこの国から仕入れています。代わりにあちらでは難しい物は王国から輸出しています。特に魔道具等の細かい作業が必要なものは人種の方が得意ですから」
「へぇ〜そうなんですか」
機会があったら行ってみたいな、モフモフ天国……
「にしてもこの金どうしよ?何に使おう……」
俺が膨れ上がった金額に悩んでいると
「でしたら御自宅の隣の空き家を購入されて新しく住居を建てられたらいかがです?」
「家ですか?でも今住んでんので生活できますしねぇ」
「ですが今後の事を考えると建てた方がよろしいかと」
「どうしてですか?」
茶を啜りながら聞くと
「皇女様を御迎えするならです」
「ぶぐっ」
飲んでた茶を噴き出しそうになったが既の所で耐えた
「どうしてその事を………」
「私も祝賀パーティーにいましたから、もちろんダンスも見てましたよ」
(なるほどワールさんなら1曲目でダンスをエリィと踊った意味を知っている)
「その事でなぜ家を?」
「エルフィンさんの方は問題ないかもしれませんが皇女様の方が……」
「エリィが?」
「はい、失礼ながらエルフィンさんの今の御自宅は年季が入っていて古いものになります。その様な家に嫁がされたとあっては皇女様に何か問題があったのかと噂が立つことでしょう」
「あぁなるほど一応Sランクを目指していますがそれでも一般人ですからね。見た目を良くしていい所に嫁がせたと納得させなければならないと」
「さらに言えばエーデルリア皇女はユーフォルディ皇女と並んで皇国の二大美姫として有名ですし慈善事業にも積極的に取り組んでいるので民からも絶大な支持を得ています」
「エリィを迎えるには皇国の住人が納得いく人間でないといけないわけですね」
「そうです、でないと皇国の民が反乱を起こすかもしれません」
「マジで!」
「反乱は大袈裟ですが皇国から姫を奪った男として名を残すでしょう」
「そんな事で名を残したくねぇ〜」
頭を抱えたが
「よし!エリィの為だ。ワールさん隣の土地の購入お願いしてもいいですか?」
「えぇ構いません」
「家を建てるのに今ある金額で足りますか?」
「大丈夫です。たとえ今ある分を全部使っても豪邸が建てれます。それにエルフィンさんに入るお金はまだまだこれから増えますよ」
「なら今ある分使っちゃって下さい。足りない分はどうにかします」
「分かりました。任せて下さい。予算内に収めてみせます。それも商人の力量ですから」
「お願いします」
魔法具の事を話し合いに来たはずなのになんだかとんでもないことになってきたけどエリィを悪く言われるのは気分が悪い。ならやってやろうじゃないか!というわけで早速帰って二人に話したらめっちゃ驚いてた。まぁ金はカーマインを助けた時に貰った報酬がかなり残っているから当分生活には困らないけどね。
その後はギルドで依頼を受けつつエリィの時間がある時にお出かけ等をした。マーメイドにも行って街中を歩いても目立ちにくい服なんかを選んだりする、さすがにエリザベスのおネイ様も皇女様には変な服は着せなかった。エリィがエリザベス店長を見てもあまり驚かなかったのに逆に驚いた。
「皇国のお城にも似た様な方がいらっしゃいますから」
との事だ。実力と性格が大丈夫ならその辺は問題ないらしい。目立つ髪を隠せるように可愛らしいフード付きのコートをを買いエリィが平民が着る服に着替えたら本人の希望で普段市民が食べてる物を食べて見たいと言うのでクイナとミアを引き連れ四人で街中を見て回る。食事は前に行った大衆食堂みたいな所に行き食べた。エリィはその雰囲気に最初は戸惑ったがクイナとミアが両側に寄り添っていたので直ぐに慣れた。
「お城ではこんな風に賑やかに食事を取ることがないのでとても新鮮な気分です。お食事もとても美味しいです!」
「エリィさんここは私達もお気に入りのお店なんですよ」
「エリィお姉ちゃんも気に入ってくれたみたいで嬉しい!」
三人娘はとても楽しそうに食事をとり御満悦である。食事後は近場に知り合いの鍛冶屋があると話したら見てみたいと言うのでガラムの親方の所に行き事情を話して見学をさせてもらう。にしてもエリィの顔を見た時の親方の反応は見ものだった。あれはエリィが皇女だとバレたな。まぁ他の従業員には内緒にしてもらったので騒ぎにはならないだろう。
「へぇ〜食器ってこういう風に作るのですね」
鍛冶場でフォークやナイフを作っているのを見てエリィがそんな感想を口にしている
「面白い?」
「はい!とても!私達は既に出来上がった物しか見た事がないのでとても勉強になります。苦労して作られてるのを見ると物を大切にしようと改めて考えさせられます」
エリィは作られる工程を楽しそうに見ている。クイナ達はと言うと
「ガラムさんこの間の包丁とても使いやすくて助かってます」
「うん、あの包丁よく切れて御料理しやすい」
「おお、そうか!切れ味が悪くなったら直ぐに持ってこい。研いで元通りの切れ味に戻してやる」
「ありがとう御座います!それと底の深いお鍋ってありますか?煮込んだスープを作りたいので欲しいのですが」
「それなら隣の部屋に置いてあるぞ」
「エル様!お鍋買ってもいいですか?」
「いいぞー!俺はここでエリィに付き添ってるから選んでおいで」
「はーい、ありがとうございます!ミーちゃん一緒に見てくれる?」
「うん、いいよ!」
従業員に案内されクイナ達は隣の部屋に見に行った
「クイナさん達は御料理が上手なのですか?」
「美味しいのを作るぞ。住んでた村でも評判が良かったらしい」
「そうなんですか」
「エリィは料理とかは?」
「少しだけ、孤児院の訪問をした時などに炊き出しのお手伝いをしたりしますので。クイナさんの料理食べてみたいですね」
「じゃぁ今日の夕飯ウチで食べてくか?」
「よろしいのですか!」
「構わないぞ。クイナ達も喜ぶ」
そんな話をエリィとしているとクイナ達が鍋を選んで戻ってくる
「エル様良いのがありました!」
「それは良かった。ところでクイナ、エリィがクイナの料理を食べてみたいらしいんだけど今日の夕飯ウチで一緒に食べてもいい?」
それを聞いたクイナ達は嬉しそうな顔をして
「本当ですか!?もちろん大歓迎です!ミーちゃん頑張って美味しいのを作ろう」
「うん!いつも以上に気合を入れて作ろう!」
二人はめちゃくちゃやる気が滲み出ている
「あのぅ私も手伝わせてもらってもいいですか?」
エリィが遠慮がちに二人に尋ねる、それを聞いた二人はニコッと笑うと
「えぇ!いいですよ!」
「エリィお姉ちゃん一緒に作ろ!」
「三人で美味しい料理を作ってエル様に食べてもらいましょう!」
「はい!よろしくお願いします。クイナさん、ミアちゃん」
キャッキャッと騒いでいる三人とは裏腹に親方がなんとも言えない顔をしている
「どうしたの親方さん?」
「どうしたってお前……そりゃなんであんな人と知り合いなのかとかそんな人がお前の家で料理をするのかとか頭がこんがらがってきてるからだ」
「そこはあまり追求しないでくれると助かります」
「……それが良さそうだな、これ以上は余計頭が混乱する」
親方が頭をゴシゴシとかきながら気持ちを入れ替えていた
「エル様〜このまま市場に行ってもいいですか?」
「んじゃ、みんなで行くか」
「「「は〜い!」」」
親方に礼を言ってそのまま市場に行き食材を買って家に戻ると三人は料理の支度に取り掛かる。今回は三人で作りたいと言うので俺は城にエリィはうちで夕飯食べて帰ると報告をしに行く。連絡なしに遅くなると心配したらいけないからと思ったんだけどカーマインはあまり遅くならず泊まりにならなければいいと言い、一緒にいたユーフォルディ皇女は「みんな仲良しねぇ」と楽しそうに笑っていた。……それでいいのか王族よ?!
まぁ報告も終えて許可ももらったし帰ろ
「お帰りなさいエル様!もう少しでできるので待ってくださいね」
「おぉ分かった。なら俺はジュースを作るか」
「ジュース?」
鍋を掻き回していたエリィが聞いてきたのをクイナ達が応えている
「エル様の作るフルーツジュースはとても美味しいですよ」
「兄様のジュースは1番なの!」
「それは飲んでみるのが楽しみですね」
傍から見たら仲のいい三姉妹に見えてくる。それぐらい楽しそうに料理を作っている。そして、俺がジュースを作り終えるのと同時に料理もできたようでみんなで料理を並べていく。
「今日の鍋早速使ってみたのか」
「はい、お肉と野菜のシチューを作ってみました」
「エリィが混ぜてたやつね」
「ほとんどクイナさんが味付けしましたから大丈夫ですよ」
「エリィお姉ちゃんも味付けしてたじゃない、味見したけど良かったよ!それにサラダはエリィお姉ちゃんがタレまで全部作ったんだよ」
「えぇエリィさんも御料理上手ですよ」
「ありがとう!クイナさんミアちゃん!」
「それでは冷めないうちに食べましょう」
この後、いつもの様にいただきますと言ったらエリィに不思議がられたので説明すると感謝の気持ちを込めるのはとてもいいですねと真似していた。
食事を終えたらみんなでエリィを王城まで送り届け、家に帰って食事の片付けをして風呂に入り三人でいつも通りに寝た。
翌日からはエリィと都合の合う時間以外はギルドの依頼を受けたり魔法具の開発をしたりした。後はクイナとミアを連れてじいちゃんと住んでいた家にも様子を見に行った。荒らされないように固有能力の防犯能力で保護してあるが掃除を兼ねて見に行く。さすがに1日泊まる事になるからエリィは連れて来れなかったがクイナとミアをじいちゃん達に紹介したくて連れて行く。獣人なので体力もあるから問題なく家までたどり着くことが出来た。
「ここがエル様がお爺様と暮らしていたところなんですね」
「すごく自然豊かなところだねエル兄様」
「魔物は出るけどな」
ここに来るまでにも魔物に襲われたが問題なく処理出来た。ちなみにギルドには王都から離れないでと言われたが墓参りで1泊2日で戻ると言ったら許可が出た。どうやら俺に王都にいて欲しい件はまだ調査中のようだ。
「結構草が生えてるなぁ」
家に着くなり真っ先にじいちゃん達の墓のある所に行く。
「クイナ、ミア、墓の周りだけ手で草を抜くのを手伝ってくれ。他は風魔法で刈り取るがここだけは手抜きをしたくない」
「もちろんですエル様!」
「うん!任せてエル兄様」
「ありがとう」
みんなで二人の墓の周りを綺麗にしていく。草を抜き墓石を綺麗にして花を供える。
「エル様その花はもしかして……」
「国王陛下からじいちゃん達の墓に供えてくれと頼まれた。国の紋章にもある花で水龍様の魔力を浴びて育った水花だ」
花と言うが全体的に水色のクリスタルで出来た芸術品のようなユリの花だ。本来は特別な記念日だけ取ることを許されるが陛下が直々に水龍神殿に頼み取らせてもらったらしい。
「後はじいちゃんが好きだった物とばあちゃんが生前好きだった物、それとこれだな」
「エル兄様それなぁに?」
銀で出来た筒状の物を置く
「これか?これの中にはフルーツジュースを入れてある、じいちゃんも好きだったからな。親方の所で銀食器を作ってる人に作ってもらった」
じいちゃん達の墓にお供えするとクイナとミアに両脇に来るように手招きをする。そして……
「じいちゃん、ばあちゃん、俺の新しい家族だ。本当はもう1人いるんだけど今日はまずこの二人を紹介したくて連れて来た」
墓前に向かってそう言葉をなげかける。それを聞いていたクイナとミアは
「初めましてミハエル様ラーアイラ様、エル様と暮らして居ます。クイナです、よろしくお願いします」
「初めまして、エル兄様と暮らして居ますミアです。よろしくお願いします」
二人が目を瞑り墓石に頭を下げている
「よし!じいちゃんばあちゃんに紹介したし早速掃除をしよう。俺は家の周りの草なんかを取るから二人は家の中を頼めるかい?」
「はい!任せて下さい」
「頑張って綺麗にする!」
こうして分担して掃除を始める。家自体の劣化は付与魔法をかけてあるがホコリは溜まるので窓を開けて綺麗にする。外は初夏のような暑さになってきてるからか草が結構あるので風魔法で刈り取っていく。夕方が近づくと
「エル様、そろそろ夕食の準備をしようと思うのですが台所を使ってもいいですか?」
「あぁいいぞー、置いてる魔法具は古いから俺も手伝おう」
三人で夕食を作り食べた後、寝る所の準備をする。準備をしたら水で身体を拭きクイナとミアには俺が寝てた寝台を使ってもらい俺はじいちゃんの寝台で寝た。さすがにじいちゃんの家でしたりしませんからね?
よく朝、朝食をとり少しゆったり過ごした後、家に損傷はないか確認して再度じいちゃん達の墓に行き
「それじゃじいちゃん達、俺達はそろそろ帰るよ。またちょくちょく様子を見に来るから、今度はもう1人も紹介するね」
お墓に黙祷を三人でしてじいちゃんと暮らした家を出発した。
そして、王都に帰るとギルドに戻ってきた事を報告してから王城に行き国王陛下に無事に墓前に水花を供えた事を伝えたのちにエリィに会ったんだけど
「……………」
エリィが拗ねていました。
「あのぅエリィ?」
「クイナさんとミアちゃんだけずるいです!私もエルさんのご実家に行きたかったです!」
プンスコって言葉が似合う感じで頬を膨らませている
「距離的に日帰りは難しいから1泊2日になってしまう。今はまだ皇女が男と1泊2日で出かけるのはまずいだろう?」
「わかってますけど、やっぱり行きたかったです!」
クイナとミアは困ったように笑っている
「連れて行っても大丈夫になったら必ずみんな一緒に連れて行くから約束する」
「……本当ですか?」
「あぁじいちゃん達の墓に次はエリィを紹介すると言ってきたしな」
「約束ですよ!」
「あぁ約束だ」
ようやくエリィの機嫌が治った。というかエリィは俺たちといる時はかなり性格が変わるというかこっちが素なんだろうな。それだけ俺達に気を許してくれてるからなんだろう、嬉しい限りだ。
その後もみんなでみはらしの丘に行ったりもしたし、また家で食事もしたりした。まぁハプニングとしてちょうどエリィが来てる時にガドランが家に遊びに来て色々バレちゃったけどこいつならいいやって思い説明した。その後はキサラさんと子供も連れてきてみんなで一緒に食事をして親交を深めた。
信頼できる人がいれば色々相談できるしね。
でも、こういう楽しい事は時間が経つのも早くとうとうエリィが皇国に帰る日が来てしまった。今日はエリィを見送るために王城にクイナとミアを連れてきている。皇国からエリィの護衛として100人近く来ている、もちろんジュリアン隊長も一緒だ。
「陛下、王妃様お世話になりました」
「また、いつでも来なさい」
「エリィちゃんまたね」
「はい」
エリィが王族に帰りの挨拶をしている
「カーマイン様、ユディ姉様仲良くしてくださいね」
「当然だ」
「エリィも気をつけて帰るのよ。私達も御父様の説得手伝うから頑張って」
「はい!また会いましょう」
エリィが挨拶を終え護衛の騎士達がいる馬車に歩き出す。俺達に気づくと近づいて来た。俺はとりあえず皇国の騎士達がいるので礼儀正しく挨拶をする
「皇女様、どうぞお気をつけて」
と言い頭を下げて無事を祈る
「………………」
「?」
エリィからの返事がないのでゆっくり顔をあげると
「…………」
ムスーっとしてこっちを見ていた
「えっと、皇女様?」
「…………」
まだムスッとしてる
「エリィ」
「はい!」
愛称で呼ぶと笑顔になり機嫌が治った。俺がエリィを愛称で呼んだのを不敬と感じたのか何人かの騎士がこちらに来ようとしたのをジュリアン隊長が制止している。来ようとしたのは新しく護衛で来た騎士で元々滞在していた騎士達はある程度事情を知っているのでにこやかなもんだ。そして、その様子を王妃とユーフォルディア皇女がクスクスと笑っている
「この方々は私の大切な人達です。粗相のないように」
「はっ!」
エリィの指示に護衛の騎士達が一斉に敬礼をして承諾の意志をする。
「エルさん、クイナさんミアちゃん、本当に名残惜しいですがこれも先の為必ず御父様達を説得してみせます」
「俺も頑張ってSランクを目指すよ」
「エリィさんまた一緒に料理作りましょう」
「エリィお姉ちゃん絶対また会おうね」
「えぇ必ず!」
俺達は再会の約束をする
「エリィ俺からこれをプレゼントする」
「これはペンダントですか?」
「あぁ一応アイテム鞄の様に物を収納できるようになっている。容量は大体馬車に積んでるあの箱三つ分くらいかな」
「えっ!この小さいペンダントがですか?」
エリィがペンダントをまじまじと見ながらそう言葉を発する
「エリィさん私からはこちらを」
「あっ!これクイナさんの手作りハンカチですね!」
「エリィさんが持ってる物より数段劣りますが」
「とんでもない!とても嬉しいです!」
エリィはハンカチを胸元にギューッと抱きしめている
「エリィお姉ちゃん私はこれ髪留めの帯を作ってみたの」
「わぁ!綺麗!ありがとうミアちゃん」
ミアを抱きしめて喜びを表現している。そして、エリィは少し考えて俺の方に向き直ると
「エルさんもう1つおねだりしていいですか?」
「?いいけど何か欲しいのがあるのか?」
「えっと、その、エルさんの使っている短剣を御守り代わりにしたいなと、ダメでしょうか?」
「短剣?そんなのでいいのか?」
「はい!私にはやっぱりあの助けて頂いた光景が何より勇気が出ますので」
「分かった」
俺は収納から1番状態のいい物を取り出す。
「あっ!いけね。いつも抜身でしまってるから鞘がなかった。どうしようかな」
考え込んだ時エリィの持つ物が目に入り
「そうだ!エリィそのハンカチと帯を使っていい?」
「ええっと……」
エリィがクイナとミアの方を見ている
「どうぞ、エリィさんの思うままに」
「うん!私もいいよ」
「ではエルさんお使い下さい」
エリィからハンカチと帯を受け取ると
「まずはハンカチと帯に耐久性強化と劣化防止、後は防汚も付けとくか」
その場で直ぐに付与をかける
「短剣の刃の部分をクイナのハンカチで包んでミアの帯で綺麗に結び付けてからエリィ以外に使えないように封印をかけて盗まれないように防犯能力も付与しちゃえ」
短剣に付与を重ね掛けしていく
「これで短剣、ハンカチ、帯で1つの御守り、これで俺達はエリィといつも一緒だ!エリィ以外触れないし、使うことはないと思うけどハンカチと帯を取ることができるのもエリィだけだから」
「うわぁ!ありがとうございますエルさん!」
喜ぶエリィとにこやかにしているクイナとミア。それとはうらはらに陛下とカーマインは大きくため息をつき、王妃とユーフォルディア皇女はあらあらという顔。護衛で来ている騎士達は口があんぐりといった感じで驚いている
エリィはミアの前に行くと
「ミアちゃん帯をありがとう、また一緒にお話しましょう」
ミアを抱きしめながらそう言葉をかけその耳元に小声で
「ミアちゃんに女として先を越されちゃったけど私も頑張るからね」
「?!」
ミアの顔がみるみる赤くなり
「もう!もうもう!エリィお姉ちゃん!」
「ふふっまたね」
「うぅーー」
次にクイナの前に行き
「クイナさん貴女との約束を守る為にも説得してみせますからその時はまた料理を一緒に作って下さいますか?」
「もちろんです!一緒に作りましょう!」
二人は両手で固く握手を交わす。そして、
「エルさん貴方の傍にいられるように頑張ってきます」
「俺もその為にランクアップを頑張るよ」
そう言うとエリィはモジモジとして下を向きチラッチラッと見てくる
(ったく、可愛いやつだな)
ゆっくりと両手を広げるとエリィは嬉しそうな顔をして飛び込んで来る。その頭を優しく撫でながら
「エリィいいのか?護衛の騎士達目が点になってるぞ」
「構いません!既に御父様御母様達には意中の男性を見つけたと伝えてますので」
強請るようにエリィは顔を見上げてくるのでその額に軽くキスをしてやる
「今はこれで我慢してくれ」
「ふふっ、今日はこれで満足しておきます。でも次は……」
そう言ってエリィは自分の唇を指でトントンと叩く
「考えておこう」
「あら?意地悪ですね」
エリィはにこやかに笑い出す。
「何か不安なことがあったらこの御守りを見て勇気を貰いますね」
御守りを握りしめ俺達三人を見渡す
「エリィが危なくなったら直ぐに駆けつけてやるからな!」
「はい!期待してます」
エリィにペンダントの使い方を教えると直ぐに御守りをしまっていた。
そして、姿勢を正すと皇女としての顔となり
「皆様お世話になりました。またお会いしましょう御機嫌よう」
優雅にカーテシーをするとそのまま馬車に乗り込み、こちらに笑顔を向けた後王城を出発して行った。
「エリィさん最後カッコよかったですね」
「そうだな、あれが皇女としてのエリィの顔なんだろう。でもやっぱり素の方のエリィがいいかな」
「また会えるよね、エル兄様」
「もちろん!また四人で一緒にな」
「うん!」「はい!」
クイナとミアは力強く頷いた
そして、エリィが王城を出発して数日後朝市に買い物をしに行って家に帰ると王城の兵士が手紙を届けてくれた
「エリィさんからですか?」
「そうみたいだ」
フルーツジュース用の果物が入った紙袋を手にクイナが尋ねてくる。手紙の封をとり内容を読む
「今は2つ目の都市に来ていてこれから次の街に訪問した後、以前言っていた叔父が指揮している砦に行くそうだ」
「協力者になってくれる人ですか」
「正確には協力者になってくれる様に頼みに行くかな」
ドンッドンッドンッ
そんな話をしていると急に玄関の扉を叩く音が響く
「エルフィン!いるか!」
「その声はガドランか?鍵開いてるから入っていいぞ」
するとガドランが汗をかいた状態で入ってくる
「どうしたんだそんな汗だくで?」
「エルフィンお前に頼みたい事がある」
「ガドランの頼みなら聞いてもいいぞ、でっどうした?」
するとガドランはクイナとミアの方を見て黙り込む
「2人がいると話しにくいことか?」
「いやそういう訳じゃいんだが……」
「なら言ってくれ、二人に隠し事はしたくない」
ガドランは考え込むが意を決して
「前にエルフィンが討伐した北東の街道、その奥の森を抜けた山の麓に魔力の満ちた魔洞が見つかった」
「魔洞?」
「あぁおそらく十日以内に魔物氾濫が起こる」
「…………え…」
横で聞いていたクイナが持っていた紙袋を落とし床に果物が散らばっていく




